リーマンなカイトとOLなメイコ
疲れた身体を引きずって、帰宅ラッシュの電車になんとか乗り込んだ。
身体をねじ揉ませて、扉の近くの手すりを掴み座席の所になんとか自分のスペースを確保する。動き出した電車の揺れに、ヒールの踵に力を入れて踏ん張った。
この路線のこの時間って、結構混んでいるんだな……とひっそり溜息をついた。
スーツ、皺にならなきゃいいけど……。
私は咲音メイコ。とある企業で働いている。
今日から一週間、私は仕事の都合で取引先の会社に通わなければならない。
この路線を使って通勤するのも初めてだった。完全アウェーの職場で気を使いまくり、心身共にぐったり疲れているところに、電車は追い打ちをかけるような混み具合だ。
今日が週の初めの月曜日ってのも憂鬱の一因。ああ、週末が遠い。
取引先に通勤する間は帰りもこの時間になりそうだった。更に疲れが倍増する。
最近全くツイてない。この仕事は同僚の失敗の尻ぬぐいのようなものだし、そのせいで取引先では頭が上がらないし、おまけに付き合っていた男に先週フラれた。
笑っちゃうぐらいツイてない。やってらんない。非常に面白くない。
この積もり積もったストレスを、ちょっとでもいいから軽くすることできないかしら? そうじゃないと、ピロリ菌に負けて入院してしまいそうよ。
はぁ。とずっしり重たい溜息を再びついた時、電車が駅に停車した。ここは大きな乗り換えターミナルで、人の乗り降りが激しい。
私が陣取るドアとは反対側が開いて、どっと人が流れた。それに巻き込まれないよう手すりにしがみ付いていると、今度は電車に乗り込む人の波が押し寄せて押し潰されそうになった。
ちょ、降りる人より乗る人間の方が絶対多いわ!
手はとうに手すりから離れ、身体が新たな乗客にもみくちゃにされた状態になった。
カバンを必死で手繰る。いつも使ってる路線よりこの路線の方がラッシュがキツイ。
も……ほんと、ツイてない。お気に入りのスーツが台無しになりそう。
情けない気分になって、何度目かの溜息をついた。
……ん?
身体に感じた違和感に内心首を傾げた。
正面に立つ男の様子がおかしい。……身動ぎしている?
男はどうにかして私から離れようとしているみたいだった。しかし、混雑故それは叶わずその動きが私に伝わるだけ。むずむずするんだけど……。
そっと視線を上げる。青みかかった髪の男が困ったように私を見ていた。
正確には、私の胸元を。
……あー。
私たちは正面から向かい合う形で密着している。私の胸が、男に当たっていた。しかも膨らみの形が変わるほどの強さで。
男は私より少し年下のようで、私と同じくスーツ姿だった。
整った顔の造形。背が高くて、人が良さそうな顔付き……というか、ちょっと気弱そう。
髪と同じく少し青い光彩を持つ瞳が、私の視線に気が付いて逸らされる。
私がスーツの下に着ているブラウスは開襟で、押し潰された胸が襟元を崩し谷間が覗いてしまっていた。
そっか、コレが気になってるのか。ふーん。
がたん、と車体が揺れ身体に圧力がかかる。カーブに差し掛かったらしい。
私は更に男へと押し付けられる。男の努力も虚しく、さっきよりも密着度が上がった。
男が瞳を逸らしたまま伏せる。耳元がほんのり赤い。
その反応に、つい口元が緩んでしまった。
なんか、かわいいかも……。
私の頭に、ちょっとしたイタズラが浮かんだ。重たいストレスをちょっとでも発散するための憂さ晴らし。
私のおっぱいでイイ思いしてんだから、協力してもらうわよ?
そっぽを向いている男を見上げ、私は密かににんまり笑った。
私は身体を電車の揺れに乗じて男へと傾ける。
おっぱいも男の胸板と周りの圧力に、ぎゅっと押し付けられた。
私のおっぱいは自分で言うのもなんだけど標準より大分大きい。
今まで付き合った男はコレを喜んでいたヤツもいたし、コレのせいで痴漢の標的になったことも少なくない。……後者はきっちり鉄道警察に突き出してやったが。
男が身体を固くし、咄嗟に私を見た。困惑した表情が面白い。
私は笑いを堪え、素知らぬ顔で男にくっついた。きっとこの人女慣れしれないんだ。
鼻先を甘い匂いが掠める。この人の匂い? なんか甘ったるい……バニラみたいな匂い。
……あれ? なんか……。
お腹というか、下腹部にさっきまで無かった硬い感触が。それは段々形を成してくる。恥じらう処女じゃあるまいし、私は理解した。
……勃ってきたんだ。
それを知覚した途端、身体が急に熱くなった。だって服越しとはいえ男の人のアレを感じるのは久しぶりで、彼氏と別れる前からセックス自体ご無沙汰だった。
私、発情してる……。
見上げると、視線を逸らしたままさっきよりも頬を染めている。
硬直する男の身体に、柔らかな自分の身体を擦り寄せた。電車の揺れを利用して下腹部を刺激するように身体で擦れば、顕著に膨れるアノ部分。
どうしようもないみたいで、男は申し訳なさそうな表情をしてしまってる。
気付いてないだろうけど君のせいじゃないの。私が当ててんの。私を感じててよ。
電車が駅について何度か離れるチャンスがあっても、私は彼から離れてあげなかった。
ぴったりくっついて、胸を押し付けて反応を窺う。彼も、嫌がっては無さそうだった。
これじゃ、まるで私が痴漢……というか、痴女そのものだ。でもいちいち返ってくる初心な反応が、私の嗜虐心を擽ってしょうがない。
自分の降りる駅に着くまで、私は男で遊んでたっぷり楽しんだ。
それから毎日、帰宅ラッシュの車内が私の遊び場になった。
標的は勿論あの青い髪のスーツの男。気弱な顔つきは性格そのままだったようで、私が身体を寄せても赤くなって困った顔をするだけ。
自分から触ってきたり、文句を言ってくることもない。嫌がりもしなかった。
その証拠に、私が乗る時間の電車に彼は必ず姿を見せる。私はどんどん増長した。
乗降の人の流れを利用し、巧みに彼を扉に追いやって身体を押し付けた。
乗っていた電車が快速だったから、駅を飛ばして電車が疾走する間は人は動けない。私は好き放題彼に触れた。
こっそり彼の上着のボタンを解き、手を差し入れシャツ越しに身体を触った。
自分の上着のボタンを予め外しておいて、胸の柔らかさが分かるよう彼に押し付けた。
腿で彼の脚を挟んだり、胸元のブラウスのボタンを一つ余計に開けて谷間をチラつかせた。
偶然に見せかけて、勃ち上がったアレに触れてみた。大きくってぞくぞくした。
彼の見せる表情と身体の変化が楽しい。困惑しながらされるがままの彼が可愛い。
私がからかう度にいちいち見せる反応が会社で抱えるストレスを霧散させ、女としての自分も満たしてくれるのだ。
私の一挙一動に、彼は男としての生理で応えてくれるんだから。
一人暮らしの部屋に帰れば、就寝前にベッドの中で彼の表情を思い出し自分を慰めるのも日課になった。
バニラに似た甘い匂いと、触れるうちにどんどん上がる彼の体温。胸を気にする視線。次第に硬くなる股間……。
じゅん。と、脚の間が潤って指を滑らす。本当は電車でだってこうなっているのだ。
彼を電車で見た途端、興奮して乳首もきゅっと硬くなる。
ああもう私、本当に痴女だ。名も知らぬ年下の男性に触って、こんなに濡らして指で弄り耽っている。
「あっ……あ……」
快感が身体を蝕む。日常はいつの間にか非日常になり、私の中の忘れていた「女」が爛々と瞳を輝かせている。
彼も、私を思い出して自慰をしているのだろうか。
思えば思うほど、身体が感じて仕方が無かった。
「う〜ん……」
フタをした便座の上に座って、私は唸っていた。別に用を足しているわけじゃなく、考え込んでいた。ここは駅のトイレの個室(洋式)。最近の駅のトイレは綺麗でいいよね。
取引先へ出勤するのも今日が最後の日。この路線を使うのもいつもの電車に乗るのも今日が最後。
つまり、彼で遊ぶのも今日で最後の日。
私が悩んでいるのは、昨日のコトが引っ掛かっているからだ。
なんと、昨日青味かかった髪の彼がいつもの電車に現れなかったのだ。
正直、毎日の密かな楽しみにしてたから、すっごくがっかりした。
この電車に乗るのも残り僅かだというのに。
イヤがられた? その可能性もあるかなぁ? 触りまくったもんね。
拒絶っぽい感じはしてなかったんだけどなー?
それで、最後の日は、もう弾けちゃおう! と前々から思ってたので、ちょっとした趣向を考えていたんけど……彼が現われなかったらそれも無意味に終わる。
周りにバレたらちょっと危険だしね。
ううん、どうしよう。電車の時間は迫って来てる。もし彼が来たら……でも来なかったら。
うんうん唸ってても、時間は刻々と近づいてくる。よし! 私は腹を括った。
来ても来なくてもいいや。来なかったらカバンで人に当たらないようガードすればい
い。
私はスーツの上着に手をかけた。
電車がスピードを落とし、重力がかかった。滑らかにホームへ滑り込む。
彼が乗り込んでくるのを確認する。良かった。来てくれた……!
今日の彼は、スーツの上に前を開けて薄手の長いコートを羽織っていた。
私はいつものように彼へと向かう。ドアと手すりの隙間に彼を追い込もうとした……のに、今日は何故か私がその位置になってしまった。あれ?
ま、いいか。
さっそくスーツのボタンを外してやろうと、コートの下にそおっと手を伸ばして……そのまま固まった。え……?
目を見開いてそれを見る。私の手首は彼に掴まれていた。こんなこと今まで一度も無かったのに。
驚きに凍りついていると、そのまま身体を反転させられ後ろから密着された。
後方から乗り込む人の圧力と共に、ドアのガラスの部分に押し付けられる。
甘いあの香りが背後から漂う。混乱してどうすればいいか分からなかった。
これじゃあ、私から彼に触れない。
音を立て電車が走り出す。首だけ回し彼を見上げると、静かな青い光彩が私を見据えていた。
一昨日までの困惑や気弱な感じが一切払拭された、大人の男の人の顔だ。
気圧されてしまう。
……や……。
初めてこの人が怖いと思った。怒ったの? そりゃ、怒って当然のことしてたけど、今までそんな素振り見せなかったじゃない。
身体を寄せられじっと息を潜めていると、彼の手が私を囲うようにドアに手を付く。
直ぐ傍で意を決したように息を呑む音がした。彼だ。なに……?
「……!」
危うく声が出そうになって慌てて飲み込んだ。
彼の大きな手のひらが私の胸を鷲掴んだんだもの。スーツの中の手に、驚きと羞恥で身体が震える。
シャツの上から二、三度強く揉まれ、彼は手を止めた。低く柔らかな声が耳元で囁いた。
「……付けてないの?」
かかる吐息にぞくっとした。初めて聴く彼の声。
何を、だなんて愚問だった。私はさっきトイレで下着を外したのだ。
最後だから変わったことしたくて、彼をもっと困らせてやりたかった。
ノーブラの胸を押し付けて、恥ずかしそうにしてるのに、きっちり『雄』を示す可愛い彼を見たくって。
手の動きが再開され、乳房を揉まれた。大きさを確かめるよう強弱をつけて揉み、たゆんと揺れる様を肩口から覗かれている。
わざと開けたブラウスの隙間からブラをしていない膨らみが見え隠れしていた。
どうしよう。もう乳首勃ってる。擦れてソコがじんじんする。
手は完全に死角で、周りからは多分見えてない。見られたとしても、恋人同士の戯れかそういうプレイぐらいにしか思えないだろう。
男に触れられるのは久しぶりだった。忘れていた官能が呼び起されていく。
抵抗できない……。
布越しに乳首を抓まれて肩が跳ねた。慌てて口元を押さえる。声なんて、出せない。
抓んだままくりくりと捻られ、反応する身体を全力で押さえつけた。
ダメ。ソコ弱いの。ダメ……。
乳房を寄せ上げられる。不自然に盛り上がるそれの頂点が、開かれたブラウスから顔を出しそうになった。
頭を振って「やめて」と意思表示すると、乳輪だけがちらりと見えて服の中に戻る。
散々揉んで気が済んだのか、手が離れた。ほっと息をつく。
が、それもつかの間、今度は身体の線を伝って手が下へ降りてくる。
より身体を押しつけながら……。
お尻をタイトスカート越しに撫で回される。裾とストッキングの境目を辿る指に、恐怖に近い感情が襲った。
首を捩じって重なる身体を見ると、前を開いた彼のコートが私の背中を覆うように隠している。これじゃ、外から何をされているかも分からない。
まさか、このためにコートを着てきたの?
タイトスカートを手が捲りあげ、私は前を押さえた。ダメ、ダメなの。やめて。
後ろが持ち上げられるほど、前も捲り上がる。必死で押さえて前は辛うじて隠せたけど、後ろは半分ぐらい持ち上げられてしまった。
お尻に触れる手が探している。全く無いことに気が付いて、戸惑う気配がした。
……さっきブラと一緒に、下も……脱いでしまっていたから……。
こんなことになるとは思わなかった。ただ、雰囲気を出すために……後で、自分でする時に思い出して興奮できるように、それだけだったの。
私、ストッキングはガーターベルトを愛用しているから、ショーツの上にストッキングを穿く訳じゃない。
ショーツは脱ぎ着がしやすかったからその場の勢いもあって、あの時脱いでいた。
お尻の肌触りを確かめるような手の動きに背中が反る。程なく双丘の間に指を感じ、お尻と内股に力を入れた。
やめて。俯いて首を振り懇願する。
だけど無理だった。残酷に、指が。
秘裂を割り溢れていた粘膜に長い指を絡め、潤滑油にし入り口をまさぐられた。
口を押さえる力が強くなる。声を殺すのに必死だった。
襞の隙間や粘膜の入り口を指が性感を残しながら余すところなく触れていく。
震える身体も上がる吐息も押し殺し、ただ一本の指が施す快感に耐えるしかなく――そして指は敏感なクリトリスを捕えてしまった。
他の部分とは段違いの気持ち良さが私を突き抜ける。我慢できるか分からない。
首を振って制止を乞うが、彼の笑う気配がするだけで一向に止めてくれなかった。
どんどん溢れる粘膜。自分で触るのとは違い、少し痛いぐらいにクリトリスを擦られてるのに、気持ち良くてお尻がモジモジしてしまう。
これは調子に乗ってやりすぎた罰なの?
快感が押し上げられ、もう少しで弾けそう。熱い息や喘ぎも噛み殺せるかしら?
がたんと電車が大きく揺れた。いつものカーブに差しかかったからだ。
勢いで背中に彼の重みを感じた。あの甘い匂いが濃く薫る。
指が滑り、強くクリトリスを押し潰され身体が戦慄いて……私は達した。
息を整える私を周囲から隠すよう、彼が腕と身体で囲ってくる。
熱い身体と猛る下半身を背後に感じ、私は匂いに包まれながら目を閉じた。
電車が見知らぬ駅にたどり着き、私はそこで彼に支えられながら降ろされた。
この駅は私は立ち寄ったことが無い。感じすぎてふらつく身体を、腰を抱かれながらホームの隅に立つ。
流れる人をやり過ごしながら、私は男に凭れかかっていた。脚ががくがくして言うことを聞いてくれなかった。
「そんなによかったの?」
降ってくる声はあんなことをした後だと思えないほど穏やかで、からかいの色が混じっている。私はまだ熱の残る顔を上げ、目だけで睨む。
……悔しい。指先だけでいいように扱われ、挙句にイかされた。あんなところで。
最初の頃の、あの純情ぶりは一体何だったのよ!
「……ヘンタイ」
「酷いな。ノーブラノーパンで電車乗る女の人に言われたくないよ」
くすくす笑われ、押し黙った。傍から見たら私の行動はヘンタイと言われても反論できない。
「ところで、君は一人で気持ち良くなっちゃったけど僕はまだなんだよね?」
またお尻に手が伸びた。やめてよ。まだホームには人が……。
「ちょっと……!」
「イヤって言ったら、ここでスカート腰まで捲っちゃうよ?」
言い方は柔らかいけど内容は脅迫じゃないの!
見た目は大人しそうな草食男子なのに、とんだ腹黒野郎だわコイツ。
まあ、仕方ないか……最初に仕掛けたのは私だし、この男をその気にさせちゃったのも私。
本来なら付き合ってもいない男に成り行きで身を任せるなんてこと、ありえない。
今更痴漢でこの人を駅員に突き出しても、私のしたこと言われてしまう。
下腹部に感じる男の股間はまだ力を失っていない。胸が締め付けられた。
ホント、ずっと男日照りだったのよ……。
一回ぐらい、いいか。どうせ今日が最後の日だもんね。
月曜からはこの路線使わないし。この男と会うことは二度とない。
だから今日だけ特別。
落ち着いた私の手を男が引く。
繋いだ手に私の秘裂を嬲る指先を思い出して、内股を雫が伝うのを感じた。
おしまい