静かな 静かな 秋の夜
二人の想いが 今 ひとつになる
幾刻前からも月は変わらず、誰も居ない縁側を照らし続ける。
庭中を満たす虫の音に混じって、微かな水音が、障子の開け放たれた部屋から響いていた。
「ん…っ…んぅ…」
敷かれた布団の上で、二つの影が重なる。少し離れては、また近づく。何度も、何度も。
「…はっ…あ……」
角度を変え、口付けられる度に、小さな声が漏れる。
今自分はどんな顔をしているんだろう、と酸素の足りない頭で、そんなことを他人事のようにぼんやり考えていると、突然後頭部を手で支えられた。
「な……んううっ…!」
微かに感じる酒の香りと苦味と共に、熱を持った舌が入れられる。
身体の芯まで溶かされるような感覚に、頭が熱で弾けてしまいそうになった。
先程より大きな水音が小さな和室に響き、僅かに残った羞恥心をより一層掻き立てる。
恥ずかしい。
でも このままでいい、このままがいいと願う自分がいる。
ずっと このまま…
「っはぁ…はぁ…」
長い間塞がれていた唇を解放され、ルカは呼吸を整えようとする。二人を繋ぐ銀の糸が、はっきりと見える程に光っていた。
「あ…」
それを見たルカが顔を赤くすると、がくぽはルカをそっと抱きしめ、その濡れた唇に再び口付けた。
そのまま、横たえられるように身体がゆっくりと倒されていく。
顔が離れると、初めて彼の表情がはっきりと見て取れた。
整った大人の男の顔付きに、長い間探していた物をやっと見つけた子供のような表情が見られて、ルカは愛しさを覚えずにはいられなかった。
「ルカ…」
名前を呼ばれるだけで、涙が出そうになる程に嬉しさが込み上げてくる。
がくぽはそっとルカの着ている薄着に手を伸ばすと、ボタンを一つ一つ外していった。
やはり洋物の服は慣れていないのか、外すのに若干戸惑っているのがわかる。
そのぎこちなさにルカが心の中で苦笑すると、がくぽの手に自らの手を重ね、促すように服を脱がせていった。
少々驚いた表情の後に、嬉しさと申し訳なさの混じった目を向けられる。それにルカは、顔を赤らめながら、表情で求めた。
−いいから…早く…
それを読み取ったがくぽが下着をそっと外すと、ルカの白く輝く素肌が月下に晒された。
他人と比べると大振りの、ふたつの胸。その頂点は既に固く上を向いており、早く触れて欲しいと誘っているようだ。
手を軽く当て、そのままゆっくり揉み上げると、ルカが息を漏らした。
「んっ…はぁ…」
その声に堪らなくなり、顔を近づけ舌先で頂点を転がすと、小さな悲鳴がルカの口から零れる。
「ああ!あ…」
「ルカ……ん…」
吸い上げたり、甘く噛んだりする度に、ルカが身をよじって声を上げた。
揉み上げる手はそのままに、舌を胸元から鎖骨、首筋へと滑らせ、所々に小さな花を咲かせていく。
「んっ…や…そんなとこに…」
「申したであろう?ルカの全てが欲しい、と。ルカを自分の…自分だけのものにしたい…と」
普段の彼からは想像のつかない独占欲の強さを見せつけられ、ルカはそれに少し驚きながらも、自分が彼の特別である事の喜びを感じていた。
どうか、これが自惚れでないように、と願いながら。
「あっ…あん…んあ…っ」
今ははしたない声も抑える気にならない。じわじわと来る快楽に溺れるルカの耳に、がくぽの低い声が届く。
「そろそろ、頃合か…」
胸を刺激していた手を止め、腰の方へと滑らせていく。
腰から足の付根へと手が下りていくと、思わず腰が引けた。
「ま…やだ…そこは…」
ルカが声を上げ、慌てて脚を閉じようとするが、両脚の間に彼の身体が有って、それを妨げている。
がくぽはそのまま、ルカの両脚を持ち上げ、左右に大きく開いた。
「ああっ!いやあ…!」
思わず両手で顔を覆う。今はいくら下着で覆われているといっても、やはりその部分が見られていることに恥ずかしさを感じずにはいられなかった。
「…此処が、ルカの…」
閉じぬよう脚を押さえつつ、ルカの秘部を下着の上から指で軽く擦る。
「んんっ…!」
「…外からでも分かるな、もうここまで…」
「やだぁ…いわない…で…っ」
顔を真っ赤にして首を振るルカの姿が、がくぽの男としての本能に火をつける。
「…見たい…ルカの、全てが…」
「やああ!!だめ…っ!!」
下着の紐が解かれ、今まで隠されていた部分が露になる。
そこは、月明かりの下で、既に蜜で潤っている様子がはっきりと見てとれた。
「ばか…みないでぇ…」
ルカの弱々しい声が聞こえてくる。
指をそっと挿し入れると、くちゅ、と甘い音が響いた。
「ああっ!んあっ…」
指を挿し抜きする度蜜が溢れ、零れ落ちて布に染みを作る。
ルカが、己で、感じてくれている。その嬉しさに、がくぽは完全に酔っていた。
わざと大きな音をたてるように動かすと、余程恥ずかしいのか、駄目、嫌と力の入らない声で叫ぶ。
指先にたっぷりと蜜を絡ませ、もうすっかり膨れ上がった突起を撫でると、ルカが一際大きな声をあげた。
「ああああっ!!」
「…やはり、此処が弱いか」
「…っ!」
笑うように呟くがくぽの声にさえ、身体が反応してしまう。悔しさを感じる余裕は今のルカには無かった。
ただ、今は、これから来るであろう大きな波に、飲まれそうになっている自分がいることだけが分かる。
「やっ、んあ…そこ、ばっか、いじらな…でえぇ…あ、あああっ!」
イきたい。イってしまいたい。
頭にはそんな願望しかなくて、しかし、それを僅かな羞恥心が止める。
恥ずかしい、でも、でも…
そんなルカの心情を読み取ったのか、がくぽが耳元で囁いてきた。
「我慢せずとも…気をやってよいのだぞ?」
「いやぁ…っ、やだ…」
「達せ、ルカ」
その声に促されるように、ぱちん、と何かがルカの中で弾けて、消えた。
「やだ…だ、だめ、いや、あっ…あああああ!!」
身体を大きく反らし、絶頂を迎える。そこはがくぽの指をきゅうきゅうと締め付け、はしたなく更に蜜を溢れさせた。
「は…っ…は……っ……はっ、あ…」
だらしなく開いた口から唾液が零れ落ち、身体全体で激しい呼吸を繰り返す。
ぼんやりと霞む視界に、がくぽの顔があった。
嬉しそうに笑っている。達した瞬間を見られた事に、今更ながら耳が熱くなった。
「もう…ばかっ…」
薄い掛布団で顔を隠すと、彼に背中を向ける。
「そこまで恥じる必要は無い」
「うるさい…だって…」
「拙者も…もう、斯様に…」
「…っっ…!」
後ろから抱きつかれ、腿に腰を擦り付けられて、ルカは身体を硬直させる。
恐る恐る後ろに手を伸ばしてそこに触れると、下帯越しに熱と硬さが伝わってきた。
その形を確かめるように布の上から擦ると、がくぽが嘆息をついたのがわかった。それを聞いたルカの心に、僅かな優越感が生まれる。
身体の向きを変えて上体を起こし、彼の腰に抱きつくような形で近づいていく。
「る、ルカ…ルカ殿!?」
「私も…してあげる、から…」
下帯に手を掛け、あっという間にそれを取り去ると、雄の匂いに包まれ、硬く熱を持った自身を、ルカは両手で包み込んだ。
不思議と、不快感が無い。それは、きっと、貴方のだから。
「こうすると、気持ちいいの?」
「…ッ!!」
裏筋をルカの細い指がつ…となぞる。そのまま自身を軽く握り、手を上下に動かすと、がくぽが大きく息を吐いた。
「可愛い…」
目をぎゅっとつむり、荒い呼吸を繰り返している姿を見ると、彼への愛しさでいっぱいになる。
涙ぐむように溢れてくる液ごとルカが先端を咥えようとすると、がくぽの震える手がやんわりとそれを止めた。
「どうして…」
「…このまま、口でされれば…達して…しま…」
「…イっていいのに」
「初めて、は…ルカの…中、で…」
それを聞いた途端に、身体が激しい熱を取り戻した。
欲しい 欲しい ホシイ
がくぽのそれをまた軽く両手で握ると、掌の中で波打つ脈が、まるで自分の鼓動とシンクロしているような感覚を覚えた。
今なら…自分に 素直になれる。
ひとつに なりたい
貴方と なりたい
貴方が…
「がくぽが…欲しい…っ」
ルカの口から言葉が漏れた瞬間、再び上半身を倒される。荒い呼吸と共に、がくぽの泣きそうな声が耳に届いた。
「ルカ…ルカ…!」
「がく…っ…ああっ…!」
秘部に押し付けられる、熱い塊。窮屈なその中へとそのままぐっと押し進めれば、ルカが短く悲鳴を上げる。
辛うじて動きを止めると、ルカが両手を背中に回してきた。
「大丈夫、だから…はやく…」
「…っ…済まぬ…」
「きてっ……っぁああっ!」
苦痛をなるべく長く感じさせぬようにと、一気に奥まで突き上げる。背中に食い込む爪が、その痛みを表しているようだった。
強く閉じていた目をそっと開くと、涙で潤んだルカの目と視線が合う。
仕方の無い事だと分かっていても、やはり痛い思いをさせた事に胸が苦しくなる。
謝ろうとするがくぽの言葉を、ルカは途中で遮った。
「…っちがうの…痛いけど、違うの…」
「え…」
「うれしい、の…やっと…繋がれた…あなたと…」
蒼い瞳からぽろぽろと流れ落ちるそれは、月の下できらきらと輝いた。
あまりにもそれが綺麗で、思わず頬に口付け、雫を飲み干していく。
「あ…」
「ルカ…拙者も、嬉しい…とても…」
最後に目元の涙を指でそっと拭うと、再び手をルカの下半身に持っていく。
結合部を指の腹で撫で上げると、小さな声と共に蜜が再び隙間から溢れてきた。
「…動いて、良いか?」
ルカが強く頷いたのを確認して、止めていた腰をゆっくりと動かし始める。
「…っあ、あっ、あっ…!」
最初は痛みを堪えているようだったが、次第に、その声は熱を帯びたものへと変わっていった。
「あんっ…あっ…ああっ…んっ…」
突き上げられる気持ち良さと、想い人に抱かれているという喜びを強く感じながら、快楽に身を委ねる。
もっと、もっと、もっと…
「あっ、あっ…んああっ…き、気持ち…い…っ」
「ルカっ…」
腰の動きをそのままに、ルカに夢中で口付ける。
舌と舌が激しく絡み合い、どちらの物とも分からない唾液が顎を伝って、下に落ちていく。
上からのも下からのも、水音が激しさを増し、それが余計に興奮を掻き立てた。
「はあ、っ…はあ…あ…」
唇を離すと、再び動きを速めるように、奥へ奥へと突いてくる。
「あっ…あっ、ああっ!」
「ルカの、中…熱く…て…溶けそう、だ…」
余裕の無い彼の声も、自分の喘ぎも、今は互いの興奮材料でしか無い。
限界が近くなり、動くスピードが上がると、もう何も考えられずに、ただ、感じる。それだけだった。
「ルカ、ルカ、ルカ…っ!」
「が、がく…っ…ぁあっ、あっ、ああっ…!」
互いの長い髪が乱れ、二つの色が混じる。どちらがどちらの身体か分からなくなる程に、強く抱き合いながら、快楽の絶頂へと上り詰めていく。
素直になれなかったが故に、ずっと言えなかった言葉を言いながら、ずっと伝えたかった言葉を伝えながら。
ごめんなさい
ありがとう
貴方が、貴方の事が―
「…う…っっ…!」
「ああああああぁ…!」
呻くような声の後に、中に熱が放たれる。
ルカはそれを受けとめながら、全身を震わせて、新しい絶頂を迎えた。
幸せを、全身で噛み締めながら−
僅かに流れてくる風が、心地良い。
動かしている手をそのままに、がくぽは、目だけを夜空に向けた。
開いた障子から見える月が先刻より眩しく見えて、思わず目を細める。
視線を隣に戻すと、口元が再び緩んだ。
庭から響いてくる虫の音に混じって、ルカの寝息が聞こえてくる。
あの後、ぐったりと横たわる彼女の隣に寄り添うようにして、頭を撫でているうちに、眠ってしまったようだ。
そっと、撫でていた手を離すと、今はルカが身に纏っている、自分が着ていた着流しの合わせ目を直してやり、布団を掛け直した。
大事な宝物を、秘密の場所に仕舞い込むように。
「ルカ…」
目覚めさせぬように、軽く、頬に唇を落とす。
「…月が 綺麗だな」
闇夜に浮かぶは 皎々たる、望月
今宵 月下に結んだ、契り
いつまでも 途切れぬようにと 月に願う―
完