ケンカップルなカイトとメイコ/PV編  
 
青い爪を持つ長い指が、緑の爪に彩られた細い指に絡む。  
たおやかなそれを大きな手のひらに包み込み、引き寄せると出会う青い髪の男と緑の髪の可憐な少女。  
額を合わせて、二人は幸せそうに微笑みを交わしながら身体を寄せ合う。二人は仲睦まじく、実にお似合いだった。  
互いへの愛を語る言葉は何処までも甘い。男と少女の閉ざされた世界には誰も踏み込めは出来なかった。  
メイコは離れた場所で薄茶の瞳にその光景を映し、そっと溜息をつく。胸を覆うやり場のない思いに眉を顰めた。  
少女の傍で笑う男は紛れもなく、自分の良く知るあの男。  
 
しかしだ。  
 
このどこぞの王子様のような笑顔を振り撒くカイトは、一体ドコのカイトなのよ。  
 
「キモい」  
 
そう思いながらメイコは鳥肌の立つ腕を擦った。  
 
 
「何してんの?」  
TV画面を砂を噛んだような顔で凝視してソファーに座るメイコを、いつの間に帰宅したのか後ろからカイトが外出着のまま覗き込んでいた。  
「……あんたのPV流れてた」  
「あー、この間のヤツ? もう流れてんだ」  
暇潰しに見ていた音楽チャンネルで流れていたそのPVををうっかり目にしてしまい、メイコは被弾した気分だ。  
カイトの新作のPV。マスターの知人の所有ボカロ、初音ミクちゃんと我が家のカイトとのコラボ作品だった。カイトと共演した初音ちゃんはメイコとも既知で、見た目も中身も文句なく可愛い。しかし、この男は……。  
当の本人といえば、上着を無造作にソファーの背にかけひじ掛けの横で屈むと、メイコがつまんでいたお摘まみを勝手に手を伸ばし始める。  
「帰ってきたなら、ただいまぐらい言いなさいよ」  
「へいへい、ただいま〜……これもくれ」  
「ちょっとソレ、秋限定のチューハイ!」  
「いいじゃんちょっとくらい。ケチケチすんなよ」  
今まで『ちょっと』で済んだことなどない。案の定、カイトが口をつけたチューハイは一口でほぼ空となった。楽しみにしてて、まだ殆ど呑んでなかったのに……。  
「打ち合わせでの食事じゃ全然食べた気にならないんだよね。他になんかない?」  
「ないわよ! あんた夕食要らないって出かけに言ったよね?」  
ものすごく不満気にメイコを見返す面が気に障る。  
何でこの傍若無人で意地悪野郎が、あのPVの甘ったるい笑顔で愛を高らかに唄うカイトと同一人物なんだ!  
「……メイコ、気が利かないと男受け悪いよ」  
「いいもん悪くて」  
「主に僕受けが悪いというか」  
「尚更悪くていい! つか、どーしてあんたに気を利かせなくちゃいけないのよっ?」  
睨み付けたら、メイコは分かってないとカイトは重苦しい溜め息をついた。やけに芝居かかった仕草にメイコはイラっとさせられる。  
「男が可愛い方とそうじゃない方、どっちに惹かれると思う? メイコも初音ちゃんを見習いなよ。素直だったよー」  
どうにも上から目線の意見に、メイコのイライラ指数も垂直に近い急上昇だ。あんたもね。と言い返したい所だが、あいにくカイトはメイコ以外の女の子には優しく接している。  
しかもそれなりに人気があって、日々ケンカしているメイコにしてみれば納得がいかない。  
こんなに性格が悪いのにカイトの本性に気付く女の子は誰一人としていなく、外面が良いカイトの性格を正しく伝えたところで、誰もメイコの言うことなど信じないだろう。  
確かに黙っていれば顔の造りだって整ってて、ちょっとはカッコイイかもだけど、実際はヘンタイで鬼畜でおっぱい星人の遅漏なのに!  
「あんな風に女の子に優しく出来るんだったら、私にも優しくしたってバチは当たらないと思うんだけど? 大体『KAITO』って、基本優しいんじゃないの?」  
『KAITO』は一般的に優しく穏やかな性格の個体が多いのだが、メイコと暮らすカイトは違う。ヘンタイで鬼畜でおっ(ry だ。  
「ヨソはヨソ、ウチはウチ。つか、優しくしたらその分つけ上がるだろ、メイコは」  
「自分は優しくしないけど、私には素直になれってどーいう理屈よ?」  
「……なに? 妬いてんの? 僕が初音ちゃんと仲良くしててさ」  
「無いわ。ナイナイ。PVで笑顔振り撒くあんたがキモかっただけで。何なのあのウソ臭さ全開の笑顔は。普段のカイト知ってるだけに空寒かった」  
真顔で否定したメイコにカイトの右眉が角度を上げた。それに気付かずメイコは続ける。  
「別にカイトに可愛いだなんて思われなくていいし! ありのままの私を好きになってくれるヒトがいるもん」  
ツンと横を向きつつ、自分でも無いなーとメイコは考えた。素直な部分など、メイコ自身ですら見つけられないのだ。男は素直で可愛い方が好きだろう。しかし、今更退けない。  
「いるわけないじゃん。現実見なよ。メイコの性格知ってて傍に居られるのなんて僕ぐら……」  
「もうっ! ウルサイ黙れー!」  
あっさり否定され頭にきたメイコは、カイトの台詞を最後まで訊かず黙らせるために実力行使に出た。つまり、暴力に。  
 
「ご……ごめ……大丈夫……?」  
「……」  
ベッドに身体を丸めながら横たわるカイトの腰を、メイコはずっと謝りながら撫で続けていた。  
カイトからの返事はない。  
メイコが暴力に訴えようと拳を振り上げた時、ソファーの横に立っていたカイトは避けよう身を退いたのだが、間に合わなかった。  
腹を狙っていた拳は、カイトが動いたせいか狙いが逸れ……下腹部に見事にヒット。ダメージは半端なかった。  
声にならない断末魔の悲鳴を上げ動けなくなったたカイトは、青ざめたメイコに介抱されながら自室に運ばれた。  
金的パンチに膝から崩れ落ちたカイトに驚いてうろたえたのは、メイコだった。  
殴ろうが蹴ろうが直ぐに復活して舌鋒を奮うカイトが、股間を押さえたまま蹲って動かないのだから。自分のしでかしたことに恐怖を感じたようだった。  
半泣きでボカロの研究所の緊急修理部に電話をしようとするメイコを、カイトは必死に宥め阻止した。  
同居の女性ボカロと口論の末、下腹部を殴られ搬送されたなんて知られたら、いい笑いモノだ。カイトはこの先、生死を彷徨うことになっても研究所に行けなくなってしまう。  
メイコをからかいすぎた報いは、多大なる痛みでカイトを罰した。  
カッコ悪すぎる。泣きたい。  
「ごめんねカイト……」  
心配そうな声が、涙混じりになってちょっと湿っぽい。今は痛みも引いたのだが、事故とはいえ男のデリケートな部分を乱暴に扱った反省はしてもらいたかったので、カイトは痛む芝居を続けていた。  
「あんまり手荒に扱うなよ……壊れるだろ」  
「! こっ、壊れ?! カイト!」  
「うわ、揺するな!」  
メイコは自分に背を向けていたカイトの顔を見ようと引っ張り、声を荒げられるとぱっと手を離した。  
「ゴメン……」  
「……使い物にならなくなったら、どーすんだよ……」  
はあ、とカイトは溜息をつく。メイコに手を上げさせたのは自分のせいだけど、ちょっとくらい文句言ったって罰は当たらないだろうと不機嫌に返した。罰、もう当たってるし。  
「ど……どうしたらいい? 私に、何か出来ることある……?」  
何時にない殊勝なメイコの態度に、カイトにちょっとした遊び心が疼いた。  
痛い目みたんだし、少しぐらいいいよな。この男、全く懲りていない。  
「あのさー」  
「うん! なになに?」  
自分に出来ることがあると嬉しそうにカイトを覗き込み笑顔を見せるメイコに、カイトは崩れそうになる顔の筋肉を引き締め、沈痛な表情を浮かべた。  
「さっきの暴力で、もしかしたら不能になったかも……」  
「ふの……えぇ?!」  
メイコの表情が固まる。マジで信じた? カイトは笑い出しそうになるのを堪える。こういう所は素直なメイコだ。  
「ふ、ふ、ふのーって、やっぱり研究所に!」  
慌てて電話しに行こうとするメイコの手首を捕まえる。  
「や、待って、それカンベンして。……だからさ、一人で調べることも出来ないことはないけど、やっぱ目の前に生身の異性がいることだし」  
「?」  
きょとんとした瞳がじーっとカイトを見ている。その視線を受けて、カイトは出来るだけメイコの罪悪感に付け込むように言った。  
 
「僕が不能になったかどうか、メイコが確かめてくれない?」  
 
「た、確かめるの? どうやって」  
やることなど一つだが、混乱で理解できないメイコに、カイトは行為そのまま伝えた。  
「フェラしてよ」  
「――――!」  
かあっとメイコの頬が赤く染まった。ああ、この反応が楽し過ぎる。何にも知らない処女じゃないくせに、狼狽するメイコが可愛い。むしろ処女だってこの程度の知識、知ってるだろう。  
メイコにしてみれば、自分のせいでカイトの身体に不具合が生じてさせてしまったかもしれないという負い目がある。無下に断るのは躊躇われた。  
「えっと、あの、口で……?」  
「うん。興奮したり刺激を与えても勃たなかったら、不能になったって分かるじゃん」  
「こうふん……」  
メイコは俯いて考え始めてしまった。その様子を観察しながら、どんな反応が返ってくるかワクワクする。  
カイトはこの時、本気で行為に持ち込もうと思っていた訳ではない。  
からかいの延長だった。逆ギレする様を見て楽しんで、それで復讐を終えるつもりだった。だが――。  
「メイコ?」  
考え込んでいたメイコが唐突に自分の服に手をかけ、するする脱いでいく。  
呆気に取られ、あんぐり口を開けたままカイトは眺めるしか出来ない。下着姿になってからは動きが鈍ったが、えいや! っと勢いよく、色気もなく下着をベッドの下に投げ捨てた。  
「コレでどうよ!」  
ペタンとベッドに座り込んでカイトと向き合うメイコは真っ赤だが、身体を隠そうとしなかった。  
脱ぎっぷりはあまりにも男らしかったが、身体は別だ。大きく形良い美乳と括れた腰と色白の肌。抜群のスタイルはカイトをそそるけど。  
「フェラしてって言ったのに、どうしてハダカ?」  
「もっと興奮すると思って」  
メイコはどこまでもカイトの予想の斜め上をいく。自らドツボに飛び込んでいくメイコに、カイトはある意味感動した。  
背中に枕を当て上半身を起こしたカイトの腰元に、メイコの手が伸びる。  
屈んだメイコがベルトを外してボトムの前を開こうとする動きに、下向きなった乳房が乳首と一緒に小さく揺れた。  
細い指が半勃ちの下半身に触れ、カイトは思わず震える。  
下を見れば、メイコは親の仇を見るような目でカイトのアレを睨みつけている。おい大丈夫か? とカイトが不安になった時、ぱくっとメイコがアレに食いついた。  
 
苦しい。  
口の中に入れた肉棒は、あっという間に質量が増し口腔を埋めた。  
メイコは口での奉仕が苦手だった。頼まれてもなんだかんだ文句をつけて避けていた行為だ。だって口でしている時はヘンな顔になるし、息がし辛いし、顎がつかれるし、出されると苦い。  
イヤだけど、「不能になったかも」なんて言われたら……しかも原因に、多大にメイコが関わっているのだったら、断れない。  
股間に拳の直撃を受け、悶絶したカイトの姿がちらりとよぎる。あの時は本当にびっくりした。座り込んで動かないカイトが壊れたんじゃないか、まさか機能停止? と、メイコも泣きたくなった。心配したのだ。  
憎まれ口しか利かないし、意地悪だし、滅茶苦茶性格も悪いし、一人で暮らしていた方がどう考えたって心の平穏が保てるのに、カイトが居なくなるのは絶対イヤだった。  
「ん……っ」  
鈴口を舌の腹で舐めると、ぬるりとしたモノが舌先に乗った。しょっぱい。  
手を添え、ゆっくり上下に動かしながら勃起状態の形を確かめる。……大丈夫、だよね? これだけ硬ければ、不能とか……ないよね。  
カチカチに硬くなった太い肉棒は、セックスする時と変わらないような気がする。  
実際その通りなのだが、男の身体にメイコは詳しくない。  
カイトとは頻繁にしてるけどカイト以外は一人しか知らないし、その人とは短い期間で終わった。  
舌の奥を狭めるとカイトの反応が良い。頭上に降ってくる乱れた息がそれを如実に物語っていた。頭を動かして唇を使うとちゅぱちゅぱ卑猥な音が鳴り、鼓膜を焼く。  
不意にカイトの手が動いて、屈んで下がるメイコの乳房の頂点を擽った。身体が竦みメイコは肉棒から口を離してカイトを見上げた。  
「止めてよ……集中できなくなっちゃう」  
「せっかく裸なのに見えないから、せめて触って確かめようと思って」  
薄く笑みを浮かべながら、くりくりと乳首を転がされた。  
「メイコも気持ちいい方が、ずっと興奮するしねー」  
「ばか……っ」  
またカイトに舌を絡めてねっとり吸い上げる。カイトは反応を返すけど、乳首を弄る手は離してくれない。感じてアソコが濡れちゃう……。  
反りかえる肉棒の括れの部分とか、血管の浮く竿とか、濃青の陰毛に埋もれた袋とかを舐めたり吸ったり扱いたり、つい夢中で愛撫していたら頭を小突かれて離せと言われた。  
「ん……なによぉ」  
「一生懸命しゃぶってくれるのは嬉しいけど、ストップな」  
「ダメだった?」  
不能。という言葉が頭を掠める。  
「いや、気持ち良くて出しそうだった」  
じゃあどうして……とメイコが開こうとした口は、カイトの行動で止められた。  
両脇に手を差し込まれ、ぐいっと引き上げられる。カイトの膝の上に横抱きにされる格好になって、面食らった。顔が近い。  
 
「口に出されるの、前イヤがってたじゃんか」  
額と目元にカイトの唇が触れる。背中を支える腕が脇から胸へ伸び、手が膨らみを捕えた。乳房全体を手のひらで包み込んでむにむに揉まれ、メイコに快感がむずむず身体を這いまわる。  
「あ……も、違う……」  
「何が?」  
「わ、私が、するんでしょ! ってか、すごく硬くなってたから、大丈夫、じゃないのっ」  
カイトの腕から逃れようと身体を捩るも、長い脚の間にお尻をすっぽり落としているため身動きが取れなかった。  
「そうだなー。でも、まだ最後の確認してないしさ」  
「確認、て」  
「勃つことは勃ったけど、射精出来るか分かんないし。最後まで付き合ってよ」  
にこ。と笑うカイトはあのPVの王子様然とした笑顔と同じものなのに、なぜこんなに邪悪に感じるんだろう?  
「あ、あんた……騙して、ない?」  
「んー?」  
生返事にイヤな予感が募る。コイツ、コイツまさか。  
「騙してない。痛かったのは本当だしね。でも」  
青い瞳が近づき、メイコの瞳とぶつかった。面白がってる光を宿らせて。  
「お願いしたらホントにしてくれるとはねー」  
「――――っ! ばか! 万年発情期! ヘンタ……あ、やっ!」  
下腹部に差し入れた指に、メイコの声が跳ね上がる。抱き寄せられ、乳房を揉みしだく手が硬くなった乳首を押し潰した。  
秘処はもう潤い、そこで動くカイトの指を助けてまた新たな体液を呼んだ。割れ目の形に合わせ、ぬるぬる前後に動く指に悔しいけど身体が反応してしまう。  
くちゅくちゅ鳴り始めた下半身の音に顔を背け、カイトの胸に思いっきり顔を押しつけた。  
「ん、あっ、んん……っ」  
「いいの?」  
「……う、ん」  
背中の腕に力が入り、メイコの身体がぐっと持ち上がった。カイトの顔前で乳房が揺れて、桃色の突起を軽く齧る。メイコの身体が快感に震えるのにも構わず、カイトはそこを啄ばんだ。  
「あ、あ……っ」  
しなやかな肢体を委ね始めたメイコに、カイトはやれやれと抱える腕に力をこめた。  
疲れて帰って来て、気分転換にメイコをからかって遊ぼうと楽しみにしてたのに、労作だった自分のPVを不機嫌に見ていたメイコ。  
あんまりにも機嫌が悪いから、珍しく妬いてるのかーと思ったら真顔で否定され、挙句にとんでもない所に暴力をふるわれた。  
「……腹が立つ」  
「え? あぁんっ!」  
乳首を離し、指を奥へと突っ込む。親指で包皮につつまれたままのクリトリスを軽く触ると悶える肢体。押さえこんで最奥へと埋めた指を曲げ、壁を引っ掻く。  
「ああっ、ソコ、あああっ」  
汗ばんできた肌と、切羽詰まった喘ぎにメイコの余裕の無さを感じ取り、絶頂が近いことを悟った。  
反った背中をカイトに預けるメイコの乳房が、膣を探られる快楽にたゆんと揺れて、カイトの視線さえも奪う。  
「ほら、イケよ」  
クリトリスを小刻みに擦りながら、指が中の弱い部分を何度も引っ掻いた。  
言葉は乱暴なのに手つきはやたら優しく、メイコを高みへと押し上げる。  
「あぅ……あああ、んぁっ、ああーーっ……!」  
極まって大きく痙攣する肢体をカイトの腕が強くかき抱き、耳元でぼそりと低音が呟いた。  
「エロいよ、メイコ」  
 
「メイコはさー、PVの僕と現実の僕が違いすぎるって言うけど、仕事って分かってる? メイコだって大人ぽい曲なら、それなりにしおらしくなるだろ。中身はてんで子供のクセに。  
……ちゃんと訊けよ」  
強く揺すぶられて、メイコは甘く呻いた。  
「ウルサイわよあんた……」  
カイトはメイコの中に自分を埋めながらメイコを詰る。それでも肉棒が萎えないのには感心するが、最中に文句ばっかり垂れられるとセックスに集中出来ない。  
メイコはカイトの下腹部に跨り、騎上位で反り立つ肉棒を胎内に受け入れていた。  
腰をスライドさせたり出し入れしたり、メイコなりに責めているつもりなのだが、カイトは足りないらしく、たまに腰を使いメイコを突き上げる。  
その度、身体を甘く鋭い快感が貫いた。  
今はカイトも裸体で、ベッドの下には無造作に服が落ちている。  
緩やかな腰使いから生まれる快感は温くじわじわ身体を侵すが、余裕のある分カイトの嫌味は容赦ない。  
「大体あの仕事、ほんっと大変だったんだぞ……」  
「へ?」  
カイトへ視線を投げると、思い出したのか眉間に皺を作っていた。  
メイコには、『可愛い女の子と共演できたカイトに役得のおいしいお仕事』にしか見えなかったのだが。  
「……私と違って、素直な女の子相手で楽しかったんじゃ、ないの?」  
「初音ちゃんが可愛いのは確かな事実だけど、あのコ、からかったら直ぐ泣きそうな顔するからさ。気を使いまくりだったんだよ」  
カイトのからかいは時に度が過ぎる。本人の自覚が無くても、ポロっと棘のある言葉を漏らしたのだろうと察しはつくのだが、それよりも。  
「んっ、はっ……ちょっと……強い……」  
腰の動きが徐々に早くなり、粘ついた水音が大きくなってくる。喘ぐメイコなど気にも止めずに、カイトは濡れた襞の挟間で膨れた肉棒を前後させた。  
ぱっくり開いた脚の中心に捻じ込んだ肉棒の形に合わせて、膣口もぐにっと広がる。  
「あっ、ああ……!」  
「プロデューサーに『ミクを苛めるな』って厳命されてさ、カメラ回っていない所ですら素の自分を必死で殺して作ったPVだってのに、メイコにキモいとか言われたし! 散々だよ」  
カイトのピストン運動が激しくなって結合部の音も卑猥さを増し、メイコの身の内を掻き回す。  
『ワガママボディ』とカイトに揶揄される肢体は穿つ肉棒に過剰に反応を返し、モノ欲しそうに締め上げた。  
「……っ、メイコは、僕に他所の『KAITO』みたいに優しくして欲しいワケ?」  
腰を引き寄せてぐりぐり押しつけ、締まる膣の刺激に顔を顰めたカイトが問いかけた。  
前傾しカイトの引き締まった腹に手をつくメイコの乳房を、大きな手のひらが握り込み、メイコのアソコも妖しくヒクつく。  
「…………違……別に、あれは……違う、の。ん……今更、カイトが、優しくて素直だったら、調子狂う……」  
息が苦しくて、全身を巡る愉悦に痺れた。乳首を抓みながら引っ張られ咽が反る。  
常にあんな笑顔を向けられたり、妙に優しくされたりしたらカイトが何を考えているのか分からなくって、疑心暗鬼になりそうだ。  
「あんた、こそ……」  
私に素直になって欲しいの? と訊き返せば、不貞腐れた声音が投げつけられた。  
「僕だって、ちょっかい出しただけで泣いたり凹む女の子達より、怒って立ち向かってくるコの方がずっといい」  
メイコの腰を掴み、引き寄せながらより一層腰を打ちつける。激しい動きに、ぶるぶる揺れる乳房がカイトを煽り奮い立たせた。  
脚を広げさせたメイコは、カイトの肉棒をより深く迎え入れようと結合部を自ら晒して鳴く。  
膣の奥深くまで届くカイトの肉棒が万遍なく中を擦って最深を抉り、その刺激が堪らなくてメイコは悲鳴を上げながら身悶えた。  
こみ上がる二度目の絶頂に、身体が震え爪先もぴんと張る。  
「んあっ、もうダメ、ダメ、イッ…………ひっ……あああ!」  
達してぎゅっと切なく締まる膣がカイトの射精を促し、カイトも我慢し切れず吐き出しながら腰を振った。  
ぐったりとカイトに倒れかかるメイコを受け止め、カイトは気絶寸前の彼女に荒い呼吸のまま囁いた。  
「ちゃんと出た。不能じゃなかったよ」  
良かったね。メイコと、暢気に笑う。  
コイツ、後で絶対ブン殴る。メイコは心に誓いながら、温かい腕の中で瞳を閉じた。  
 
夜半、カイトが目を覚ますとメイコは隣にいなかった。  
はて、と思えど、寝起きの頭は働くことを放棄している。えっと、メイコとやってそのまま寝たんだよな……。  
ぼんやり虚空を見つめるカイトの鼻腔を、食べ物の匂いが掠めた。一気に食欲が刺激され腹が高らかになる。適当に着替えて、カイトはふらふらと匂いのする方へ足を向けた。  
匂いの出所はやはりキッチンで、シンプルなエプロン姿のメイコがガス台の前に立ち、鍋をかき混ぜていた。この匂いは、多分……。  
「野菜スープ?」  
後ろから覗き込むと、メイコの肩が跳ねた。音に敏いボカロのくせに考え事でもしていたのか、カイトが近づく足音に気付かなかったようだ。  
「びっくりした……」  
後ろからメイコの身体に腕を絡め、お腹の辺りで手を組んだ。肩口から鍋を見下ろせば、思った通り、メイコが残り野菜で良く作るコンソメ味の野菜スープだった。  
「明日の朝食用?」  
あわよくば腹を満たしたかったカイトは下手に伺う。メイコは視線を彷徨わせ始めた。  
「……夜食用。あんた、さっきお腹減ってたみたいだから……コレのほかは、買い置きのパンしかないんだけど」  
「覚えてたんだ」  
「これは明日の朝食兼用だからね」  
つんと顔を逸らすメイコに、カイトは笑いを噛み殺した。素直じゃない。  
鍋を見つめるメイコがぽつりと呟いた。  
「ねえ……本当に大丈夫、なのよね?」  
「ん?」  
「その……アレ」  
「アレって、僕のち……」  
「言うな!」  
訊いてきたのはメイコの方なのに、高速で怒鳴られた。なんて理不尽な。  
「平気だろ。メイコに反応したし、いっぱい出たしな」  
腕の中で強張った身体から力が抜けたのが分かる。彼女なりにカイトの身体を心配をしてくれていたのだ。  
「でもさ、メイコはもっとフェラ練習した方がいいよ。気持ち良かったけど焦れったかった」  
「……あんた、また殴られたいの……?」  
声音が地を這うように低い。カイトじゃない男だったら怒りを怖れて逃げ出していたことだろう。  
 
「僕を本気で不能にする気か。ま、あんな風に僕の言うこと訊いてくれるなら……」  
カイトの手がメイコの身体を登り、胸をむぎゅっと掴んだ。まだノーブラだ。  
「今度は裸エプロンとか、いいかもな」  
「――――! 調子に乗るなーーっ!」  
ごす。と鈍く危険な音がキッチンに響いた。メイコの肘がカイトの鳩尾にめり込む。  
言葉なく崩れ落ちるカイトに目もくれず、メイコはガスを止めると足音高らかにキッチンを出ていった。  
「……め……目一杯くれやがって……犯すぞ」  
絶え絶えにカイトが紡いだ言葉に、メイコがくるりと振り向く。その目は険しい。  
「返り討にしてやるわこのヘンタイ! あんた、やっぱその性格どーにかした方がいい!」  
どすどす足を踏み鳴らしてメイコは自室へと戻っていった。夜も更けたというのに近所迷惑だ。  
カイトは身体を起こし、コンロの下の収納扉に背中を預けた。鳩尾から鈍痛が身体中に響く。  
ウチのメイコは、ボカロとしての機能以外のモノが付けられてんじゃないだろうかと、疑いたくなる程の衝撃だ。  
性格をどうにかしろだと……?  
「酔い潰れて『優しいだけの男は、もうたくさん』って大泣きしたのは、どこの誰だよ……」  
昔、カイトがこの家に来て間もない頃の出来事だった。酔いの上での発言で、当然メイコは覚えていない。  
取りあえず、痛みが引いたら夜食を食おう。メイコを犯すのはそれからだ。  
真夜中のキッチンで、カイトは天井を仰ぎ密かに溜息をついた。  
 
 
おしまい  
 

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