「ルカ、おいで。『遊ぼう』」
呼びかけに、彼女はただ俯く。
今更、何を躊躇う事があるのか。俺が部屋を訪ねた時点でその理由なんてわかっていた筈だし、大人しく迎え入れたという事は了承した、という意味ではなかったのか。
扉の前で立ち尽くす彼女に、苛立つ気持ちを隠さず声に乗せてもう一度、その名を呼ぶ。
「ルカ、…嫌なの?」
俯いていた彼女はゆっくりと顔を上げ、何かを訴えるような瞳でこちらをじっと見つめてくる。
何か。…多分、俺はその答えを知っている。けれど、知らないフリをして、何にも気付かないフリをして、今にも泣き出しそうな表情に、今度はとびきり優しい声で、呪いの言葉を。
「ルカは俺の事、嫌い?」
彼女はその整った表情をくしゃりと歪め、それから首を横に振ると、緩慢な動作でベッドへ座る俺の元へ。
従順なその態度に口角が上がるのを感じたけれど、それが嬉しいからなのか、楽しいからなのか、それとも別の感情からなのか、もう自分では判断がつかない。
目の前までやってきた彼女は、当たり前のようにその場に膝をつき、俺の脚の間にしゃがむと、その白い手のひらで腿を撫でながら『遊び』の準備を始めようとした。
何度も繰り返して、教え込んだ通りに。
「……ルカはいい子だね」
目の前にある頭を撫でて、長い髪を梳きながら声をかければ、躊躇いがちに動いていた手のひらが一瞬止まった。その白い指先が震えているのに気付いた瞬間、どこかで何かが軋むのを感じる。
「今日は、それはしなくていいよ」
髪を梳いていた手のひらを、そのまま頬へと動かして顔を上げさせれば、不安げに俺を見つめる瞳。
あの日も彼女は、こんな目をしていた。そして俺は、その不安を取り除いて上げたくて。
「おいで」
微笑んで、両手を広げてみせたけれど。
あの日のように、泣きながら飛び込んできてはくれなかった。