※ヤンデレLily (亜種登場につき注意)  
 
 
 
 
周囲に張り巡らされた、白いネット状の柔らかな布地に取り囲まれた先へと。  
幾重にも覆い尽くされた、眠り姫を百年も護り抜く荊の蔓が如く、遮られる中を。  
僅かな隙をくぐり抜け、苦心しながらも漸くたどり着いた先に…其の姿は有った。  
 
「何故…斯様な場所に籠もって居るか」  
相反する様に無防備な衣装を纏った侭に眠り続けるは、花の名を冠する愛しき者。  
そっと起こさぬ様にと、金色に輝く髪をひと房ばかり、手に取り口付ければ。  
己が面(おもて)に自然と笑みが零れるのを、胸より湧き出ずる想いと共に、  
心の裡へと染み渡る感情を、男は穏やかな旋律に乗せ、子をあやす様に歌を紡ぐ。  
 
…不図、何処か違和感を生ずる動きを眼の端に捉え、男は眉根を寄せる。  
観ると腕の中に…女と良く似た面差しの幼子が、愛らしいミツバチの着ぐるみ姿で安らかな寝息を立て、納まって居るのを。  
見間違いなどで無く、注視するに到る。  
 
「…此れは、一体…?」  
歌声が途切れたのを切っ掛けに、微睡みに浸されて居る姿が大きく揺れる。  
 
「…くぴ、ぽ?」  
目の前に居る男の顔を観て、不可思議な言とキョトンとした表情とで見詰める幼子は、ひとしきり眼を瞬かせた後、  
直ぐに隣りで眠る女の胸の…いや腹部へと、ぺちぺちと音を立て起こしに懸かる。  
 
 
そして…程なくして、目覚めた女のクチから予想だにしなかった台詞が呟かれる。  
 
…僅か数日ばかり離れて居た間の内に、横に居るハリィと云う名の子が生まれ、  
此処までの幼子へと育ったのだと。  
其れはもう、至極とても上等の…見惚れる程の美しい笑顔で、彼女は微笑み。  
何処か戸惑い…覚束無い、複雑な眼差しを湛える瞳の元へとキスを落とした。  
 
 

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