「先生、さようなら」
「はい、さようなら。気をつけて帰るんですよ」
キヨテルが、たまたま街で出会った小学生にそう声をかけてから、
ふと傍らを見ると、つい最近付き合うようになったばかりの彼女がジト目でこちらを見あげていた。
「ほら、やっぱり、本当はキヨテルさんはロリコンなんですわ」
「…またですか」
キヨテルは困ったように頬をぽりぽりと掻いた。
彼女、巡音ルカにキヨテルが告白したのが一週間前。
あのときも「好きです」と言ったキヨテルに不審げな目を向けたルカは、
「でも、キヨテルさんってロリコンなんですよね?」
と言ったのだ。
驚いたキヨテルが慌てて否定しても、「でも、小さな子供が好きな人は、みんなロリコンだって、兄から聞きました」とルカは益々不審げな目をこちらに向けた。
ルカは最近アメリカから日本に帰ってきたばかりの帰国子女なのだが、そのときに間違った知識を家族に植えつけられてしまったらしい。
以来、事あるごとに持ち上がるロリコン疑惑を、その度に否定するキヨテルなのだが、ルカに刷り込まれてしまったおかしな知識はなかなか消え去ってくれないのだった。
「今のは僕が勤めてる学校の生徒だったんですよ」
「小学校に勤めてるなんて、変態だって言ってました」
「誰が?」
「兄が」
「………」
一体、ルカの兄という人はどんな人なのだろうか、と考えながらルカを見ると、キヨテルを見上げていた視線がふいっと逸らされた。一瞬だけ見えた瞳の奥に、わずかに寂しそうな色が浮かんでいたように思い、キヨテルは「ルカさん」と言ってその顔を上げさせた。
「もし僕がロリコンだとしたら、ルカさんを好きだと言ったり、ルカさんと付き合おうなんて考えないはずじゃありませんか。ルカさんは、その…立派な成人女性なんですから」
「…ロリコンを隠すためのカモフラージュかもしれませんわ」
「なんでそんなことを考えるんですか?」
「………」
「誰かがそう言ってたんですね?そうなんでしょう?」
「……ええ、実は兄が」
「………」
キヨテルは、まだ会ったことのないルカの兄に対して、少しだけ憎しみを覚えた。
「ルカさん、いいですか?ロリコンって、何の事だか、本当に分かって言ってますか?」
「はい。兄の部屋で、そういう本を見たことがあります」
(兄がロリコンなのか!!!)
何だかすべてに合点がいったような気がした。
それでルカも、男なんてみんなそういうものが好きなのだと思い込んでしまったのだ。
ルカは続けた。
「男の人って、みんな、ぺたんとした胸とか、スク水とか、『らめ…らめえ!』みたいな舌足らずな喋り方が好きなんでしょう?」
「………ルカさん、僕は毎日小学生に接しているけど、彼らに性的欲求を覚えたことは一回もないですよ」
「………」
「信じてないんですね」
キヨテルはため息をついた。
いくら言葉で説明しても分かってもらえないなら、やることはひとつしかない。
できれば、こういうことは、クリスマスとか何かイベント的な日まで大事にとっておきたかったけど…。
「ルカさん、僕と一緒に来てください」
「……ここは」
ルカが不安そうに呟いた。
「ラブホテルです」
「…それは、…分かってます」
語尾が小さくボソボソっと消えてしまい、それが一層ルカの心細さをキヨテルに伝えた。
ルカはおそらくこういったところは初めてだろうと思い、清潔でおしゃれな雰囲気のラブホテルを選んだつもりだった。
キヨテルは背広を脱いでソファーに投げた。
ルカの体が強張ったのが分かる。
「ルカさんが先にシャワーを浴びてきますか?」
「……なんで…」
「ルカさん」
「なんで、突然こんな…。あ、もしかしてロリコンを隠すために私を連れてきたんですね?
そうでしょう?ホントはペタンコが好きなくせに…」
それ以上言わせないために、キヨテルはルカの唇にキスをした。
付き合って初めてのキスが、こんな形になるとは。目じりに苦笑をにじませながら、キヨテルは唇の角度を変えた。
うなじに手を添え、小さな顔を両手で支えて深く口づける。
ルカが苦しくなって離れようとするのを許さず、舌でルカの口腔をなぶりながら、ゆっくりと彼女の背中に手をまわして抱きしめた。
ルカの唇をようやく解放した頃には、彼女は荒く息をつきながら、力なくキヨテルの胸にもたれかかっていた。
激しいキスのせいで、ぽってりと赤く色づいたルカの唇が、ふたりの唾液で濡れてテラテラと光っている。
それを見てキヨテルが思わずゴクリと生唾を飲み込むと、ルカがじっと見上げてきた。
「…ルカさん、僕はあなたが好きで、あなたが欲しくて欲しくてたまらないんですよ。ほら…」
抱き合った腰と腰を擦りつけると、その股間の熱さと固さに気付いたルカの顔が、かあっと赤くなった。
「僕がロリコンじゃないってことが分かりましたか?」
「で、でも…。でも、私とキスしながら、小さい女の子のことを想像してたりとかは、できるじゃないですか」
「………」
急に、キヨテルがぐいっとルカの体を引き上げた。
あ、とルカが面くらっていると、ふっと体が軽くなり、背中が柔らかい感触に包まれて、次の瞬間ベッドにふたりで倒れこんだことが分かった。
ルカが見上げると、薄暗い部屋の中で、キヨテルが両手をついて自分を見降ろしていた。
その表情が読めなくて、ルカは少し怖くなって「…怒ったんですか?」と言った。
「ええ、怒りましたとも」
「え…」
「まったく、なんでこの人はこんなに頑ななんだろうと思ったら…」
キヨテルは指で自分のネクタイをぐいっと引っ張って緩め、メガネを外してサイドテーブルに置いた。その間もルカから視線を外さず、じいっと見つめ……。
そして唇の端を歪めてニヤリと笑った。
「どうしても分からせてやらなければ、と僕は思いましたよ」
***
「ひあ……っ」
息を吸い込むような悲鳴を上げて、ルカは体を大きく反らした。
そうすることで、乳首を大きく咥えこんでいるキヨテルに益々しゃぶられることになり、耐え切れず体が震える。
「いやあ…っ」
ちゅぷちゅぷと乳首をしゃぶられる音が大きく響いて、ルカは過ぎる羞恥心に大きくあえいだ。
「ぃや…っ、そこばっ…かり……、おかしくなっちゃ…う…!」
「まだですよ。僕はここが好きなんです」
立ち上がった乳首の先を軽く噛まれ、もう片方の乳房は乾いた男の手に大きく揉みしだかれて、ルカは一層高い声を上げた。
「ルカさんは結構感じやすいんですね。体中、さっきキスした耳も、わきの下も、背中も、足も、足の指も…」
「あふう…っ、んんっ……」
キヨテルが先ほど付けたキスマークを指でなぞる。ルカは体中、どこもかしこも性感帯のようで、キヨテルの髪の毛が触れただけでも肌が粟立ってビクビク震えた。
真っ白い体は桃色に染まり、ところどころに自分が付けた赤い痕が残ってなまめかしく動くのを見ていると、さすがに理性が飛びそうになるのを覚えて、キヨテルは軽く舌舐めずりした。
「ここも…」
「ああぁ……っ」
白い胸は吸いつくような感触でキヨテルの手の中にあった。
この乳房を揉む自分の手は、なんて醜く野蛮なのだろうと思う。
その野蛮な手が思うさま、白くふっくらと柔らかい乳房を揉む。
気が済むまでしゃぶったあとの唾液が、動きに合わせ照明に照らされてぬめぬめと光った。
「こんなに感じてる…」
声が興奮でかすれてしまったが、それがかえってルカの感覚を刺激したらしく、蒼い瞳の中に欲望がちらちらと揺れて、唇がわなないた。
それを見たキヨテルは喉の奥でくくっと笑い、殊更に低い声で、ルカの耳元に口を寄せて
「…でも、ここは、まだ触ってないですよね?」と言った。
同時に、ルカの足の間、柔らかい毛の奥に指を滑らせると、驚いたルカの体がびくんと反って、逃げようとする。
「やっ……!」
「だめです」
キヨテルはサイドテーブルの上から、先ほど外したネクタイを手に取り、うろたえるルカの両手を頭の上でひとつに縛り上げた。
「いや、キヨテルさんやめて、…こんな」
「だめです」
言うなり、抵抗する両脚の膝の裏に手を押し込んだキヨテルが、ルカの体を柔らかく折り曲げながら、その両脚を左右に大きく広げた。
「い、や…っ!!」
ルカがあまりの恥ずかしさに、頬を赤らめながら顔をそむけた。
キヨテルの目前にさらされたルカの女性器は、綺麗な桃色で、ぷっくりと形よく膨らみ、奥に蜜を含んでしっとりと濡れている。
「…きれいだ」
「や…いやあ…」
「僕のだ…」
「ぁ…」
キヨテルはルカの「そこ」に吸いついた。
くちゅ、にちっ。体を強張らせたルカの足をさらに大きく広げ、ひだを舐めまわし、その奥まで熱い舌を差し込んでは、じらすようにすぐ抜き去る。
「あああ…!ひあああん、だ、だめ…!!」
ぷくりと膨れたクリトリスは愛らしく震えている。
それを優しく、大きい丸を描くようにゆっくりと舐めながら唇に挟み、文字通り「愛撫」した。
「あ、あぁ、あん…んんっ」
ルカの肌が感じすぎて汗ばんできた。
腿の裏を撫でると、過ぎる刺激に体がびくんと跳ねる。
「いや…、テルさ…あ」
好きな人が自分の名前を呼ぶのがこんなに心地いいとは、今まで知らなかった。
キヨテルは満足げに笑った。
ひとしきり堪能した後、ようやく顔を上げ、ルカの愛液がついた自分の唇を舐めていると、彼女と目が合った。
酸欠のように荒い息を繰り返すルカの目が潤んでいて、たまらなくいとおしくなる。
「ルカさん」
「…」
「ちょっと待っててください」
枕元に手を伸ばして、備え付けのコンドームを手に取り、固く起ち上がった陰茎に装着する。
すると背後でルカが、快楽でふんにゃりしてしまった体を何とか立て直そうと、躍起になっているのに気付き、キヨテルは頬を緩めた。
「何してるんですか」
「………」
「逃げられないですよ?」
ベッドの端まで追い詰められたルカは、シーツを軽くまとっただけで服を着ていないせいか、無造作に乱れた髪のせいか、ひどく年下に見える。
「い…いやです」
「なんで?ルカさんの体は僕を欲しがってる」
「だって…だって、キヨテルさんは、ロリコンのはずで…」
「…まだ、そんなことを」
ルカの頑固さに、さすがに少し頭にきて、キヨテルはほんの少し乱暴に彼女を押し倒して、縛られた腕を上から押さえつけた。
「こんなに、好きだって言ってるでしょう。好きだ好きだ好きだ、僕はあなたが好きでたまらないんだ」
「あぁ……っ!!」
激情のまま、ルカの柔らかい体を押し開き、そそり立った陰茎を一息に突き立てる。
溢れ出す愛液でとろとろにこなれていたルカのそこは、それでも最初からキヨテルをすんなりとは受け入れず、その頑なな性格そのままに、入口で彼を押しとどめてきた。
一瞬戸惑ったが、振り切るように、ぐんっと大きく突き入れる。
「ひあぁああ…ん!!」
奥まで入ると、ルカの中は、ぴくんぴくんと痙攣しながらキヨテルを優しく包みこんだ。
頑なだけれど、中身は優しい、それがまるで彼女の性格そのもののような気がして、何故か切なくなって顔を覗き込むと、ルカは喘ぎながら涙をこぼしていた。
「ルカさん…」
「ん、あ、…っ」
「泣かないで」
「ふ…っ」
キヨテルはたまらなくなってルカの唇にキスを落とした。
「好きだ…」
ルカの目に新しい涙が膨れ上がった。
「でも…、私……私…、…本当は、私みたいなのは、キヨテルさんの好きなタイプじゃないんでしょう…?」
「え…」
濡れた瞳の中に、悲しげな色が混じるのをキヨテルは見た。
その瞬間、すべてのことに合点がいって、キヨテルはルカの細い体をぎゅっと抱きしめた。
「ルカさん…かわいい」
ルカが涙で潤んだ瞳でキヨテルを見上げた。一瞬のあと、見る見るうちにその頬が真っ赤に染まっていく。
「!ち…ちがっ…」
「ルカさんも、そんなに僕のことが好きだったんですね。根も葉もないロリコン疑惑に嫉妬して傷ついちゃうくらい」
「違うっ…」
キヨテルは再びルカの唇にキスをした。
最初は軽く、徐々にねっとりと深く。
その最中に、ルカのすんなりした腕に手を這わせ、手首のネクタイをするすると外して、男の首の後ろに回させる。
白くてぷるんとした胸を、両手で大きく揉みながら、腰を優しく突き上げると、ルカの喉から小さな悲鳴が漏れた。
「ルカさんが悪いんですよ。こんなにかわいいから…」
「ぃあ、ああ…んっ」
もう一度大きく腰を突き上げる。
ルカが耐え切れずキヨテルの首にしがみついた。
「もう歯止めが効かないじゃないですか…」
ルカの艶めいた唇が何か言葉を紡ぐ前に、腰をぐんと突き上げた。
か細い悲鳴が漏れて、キヨテルの肉棒がきゅんと締め付けられる。
それが心地よくて、二度、三度、もっと、もっとと、抜いたり入れたりを繰り返した。
「あ、あ、あ、ゃっ…、ああっ…」
結合部が、ぬぷ、ぬぷ、といやらしい音を立て始め、ルカの体が快楽にとろけはじめる。同時に、愛液で滑りを増した肉棒も、その持ち主に理性を焼くほどの快楽を与え始めた。
「ああ、あ、あっ、あんっ、あん…あっ…」
「ルカさん…っ」
キヨテルがルカの腰を自分の方へ引き寄せるように少し抱えあげた。
角度が変わり、さらに深くまで突かれて、ルカは嬌声をあげた。
「やっ、…!そこはダメぇ…!!」
「ダメって、…ここのことですか?」
「ひぃあああ…あん!…っ」
ルカの内部が、きゅうきゅうとキヨテルを締め付ける。
この角度だと、キヨテルのカリの部分がルカの感じるところを擦りあげるらしく、もうどういうふうに動いても快楽を感じる様子だった。
足をさらに大きく広げさせ、腰を陰茎中心にまわすようにグラインドさせる。
「あぁ…んっ!ひゃん、あ、ああ、ダメ、…っ」
「ダメ?気持ちよくない?」
膣の痙攣間隔が早まってきたことが分かっていたキヨテルは、気持がよくない訳がないことを知りながら、しらばっくれて、今度は前後に擦りあげるように動かしてみる。
この方法だと、キヨテルもかなり気持がよく、短時間でいってしまいそうだったが、こらえて大きく抜き差しした。
ベッドがぐんぐんときしむ。
「ひぅ、あっ、ダメぇ、いやああっ、…!」
「よくない?」
「い、いい、イイの、…イイのっ、あは、ぁ、っダメ、いっちゃう…!」
「いっていいですよ」
「ダメ、いや…っ、いやあ…あああん」
「どうして?」
「い、一緒…っ、キヨテルさんも、一緒じゃ、ないと、…いや…」
ああもう、この人は。
かわいい。好きだ。もうめちゃめちゃにしたい。
そう言ったキヨテルの言葉がルカに聞こえていたかどうか、いや、そう言ったキヨテルの言葉が果たしてきちんと人間の言葉をなしていたかどうか、そんなこと吹き飛ぶくらいの激しさでふたりは抱き合い、何度目かの交合のあと、とうとう最後にはルカが意識を手放した。
***
「先生、さようなら」
「はい、さようなら」
キヨテルが小学生に優しく手を振るのを、かたわらのルカが見上げた。
「…なんですか?ルカさん」
「…いえ、なんでも」
猫のような美しいアーモンド形の瞳をふいっと逸らすルカの仕草に、つい口元がほころんでしまう。
「…僕が恋をしているのは、ルカさんだけですよ?」
みるみるうちに赤く染まりだすルカの頬を軽く撫でて、キヨテルは幸せな笑みを浮かべた。
終わり。