「休日」
とある秋の日曜・・・
久しぶりのオフの日であったが、ミクは今日はどこへも出かけず、自分の部屋でのんびり過ごすことに決めていた。と言っても、家にいるのにはもう一つ訳がある。何日か前にリンに遊びに来てもいいかと言われていたのだ。
リン、レンのきょうだいが遊びに来たり、一緒にどこかにでかけることはいつものことだが、今日は二人揃ってではなく、リンだけがくることになっている。リンの話では、レンは男の子同士でどこかに遊びに行くとかということだった。
まあ、あの二人もいつもの一緒という歳でもないわね、とミクは考える。
午後もだいぶ過ぎて、部屋のチャイムがなった。ドアを開けるとリンが小さなケーキの箱を持って立っていた。
「これ、よかったらおみやげです」
「ああ、ありがとう。入って入って」
ミクが促すと、リンがおずおずと部屋に入ってきた。
「わあ、素敵ですねえ」リンが部屋を見渡して言った。「それに片付いていて綺麗だし」
新しい家具のことも褒められて、ミクは素直に嬉しい。
「まあ、ね。ちょっとお金も入ってくるようになったし」
「リンも部屋はちゃんと片付けなきゃだめよ」
ミクがみたところでは、リンレンの部屋にはいつも散らかっている。
「私が悪いんじゃないですよ。せっかく片付けても、レンがすぐ散らかしちゃうんです」
リンがふくれっつらで答える。
ミクが紅茶を入れて、リンが買って来たケーキと一緒にテーブルに出して勧める。
「うん、美味しいですね、この紅茶」
「ケーキも美味しいわよ」
「ところで・・・その・・・」
「なあに、リンちゃん?」
「ミク先輩はその・・・仕事は楽しいですか?」
「まあ、そうだわね。でもどうしちゃったの急にそんな?」
「わたし、最近はちょっと上手くいってない気がして。」
「例えば?」
「ネットみたりすると、やっぱりわたし、ミク先輩より使いづらいみたいなんですよね。単に打ち込んだだけだと歌下手だ、とか聞き取りにくいとか」
「でもそれは使う側にも問題があることが多いわよ」
「ミク先輩のネギとか、ルカ先輩の・・・まあデビューは私たちより遅かったですけど・・・のタコみたいに決めとなる要素の普及も今ひとつだし」
「一応あることはあるじゃない?」
「でもPVとかフィギュアで使いづらいですよ、あれ。乗り物だし」
「まあ・・・そうかもね」
「あと、ほらあの◯ガのお仕事あるじゃないですか」
「あれは楽しいじゃない。新曲はどんどん作られるし、ダンスも舞台も素敵だし」
「でも、ほらあの・・・水着ってあるじゃないですか」
「うん、あるわね」
「プールサイドならまあまだいいんです。それでも恥ずかしいんですけど」
「まあ、私もちょっと恥ずかしいわね、あれは確かに」
「中にはプールとかじゃなくて、雪降る中で水着選ぶプレイヤーとかいるんですよ」
「ああ、私も時々やられるわよ」
「寒いのはまだガマンします。でも私を見る目がちょっと耐えられないんです。お客さんのことをこんな風にいっちゃいけないかもしれないけど、変・・・」
「だめよ、リンちゃん、それは禁句よ。どんな紳士さんも私たちのお客様なんだから」
「ごめんなさい。でも私さすがに」
「ちょっと犯罪スレスレなのは確かかもね。最近の国際的な状況だととくに」
「ミク先輩はどうして平気なんですか」
「別に平気ってわけじゃないけど。やっぱりこれも仕事だと割り切らなきゃ。私もルカさんと違ってプロポーションに自信があるほうじゃないし、あなたとちがって、ほら、もっと変態紳士・・・じゃなかったお客様が好きな、スク・・・」
「ああ、あれですね。あれはないですよね、さすがに」
「リンちゃんはまだ可愛いビキニだからいいわよ」
「わかりました。ミク先輩も苦労されているんですね。私もがんばります」
「そうそう、その調子」
リンは来たときとはうって変わって元気になって帰っていった。
大変ね、この商売も。ミクは思う。まだエロゲーに出ろとかの無茶な仕事はさすがに事務所の方も受けない。でもそれもいつまで続くのかわからない。
自分の人気もあとどれくらい続くのだろう?
実際、携◯でも初音ミク、というようなわけのわからない仕事もあったのだ。
「あんないかがわしい仕事は受けて欲しくなったかのに」
もっとイメージは大切にしてくれなければ困るのだ。
「でもまあ最近でてきたライバルは大したことはなかったわね」
◯リーとか、猫◯の顔を思い出して、いつになく暗いにやにや笑いを浮かべてミクは思う。
「心配して損しちゃったわよ。あいつらには」
さらに最近のガチャ◯ンとか、吉◯君とか、ボーカロイドというよりは単なるイロモノだった。当面、ボーカロイドNo.1のアイドルの地位は揺るぎそうにない。
「でも油断は禁物ね。もっと努力しないと」
今日はゆっくり休んで、また明日からがんばろう、とミクは思った。
おわり