メイコお姉さんと思春期カイト 
 
 
「カーイトっ」  
「…………」  
「カイトくーん」  
「…………ムリ」  
「カイトってば!」  
がばっと首に腕が回り、背中に温かくて柔らかい感触がむぎゅっと押し付けられた。  
「うわぁ! ちょっと、止めてって……離れてよ!」  
抵抗するように絞める腕を、渾身の力を込めて無理矢理引き離す。  
背後を取られたら終わりだ! と思ってメイコさんに向き直ると、メイクを施された顔がぶすっくれて僕を睨んでいた。  
「なによ返事しないからでしょ」  
私は悪くないと言わんばかりの態度に溜息をついた。改めて見るメイコさんは、頭の上から爪先まで綺麗に着飾っていて、纏った衣装は抜群のスタイルを引き立てていた。  
メイコさんの魅力を最高に引き出したメイクとドレスも、自宅のリビングでは浮いている。なんで彼女がこんな恰好をしているかというと、それには理由があった。  
「ねぇ、カイトも行こうよ」  
「……だから、ちょっとムリなんだ」  
今日はメイコさんの誕生日。メイコさんと懇意にしているスタッフを集めて、マスター主催の彼女の誕生会が今夜あるのだ。  
メイコさんは身体を屈めて、僕に視線を合わせてくる。ロンググローブに包まれた手で、僕の両手をきゅっと握った。  
……僕はマスターの意向で、容姿を12〜13歳の年齢設定をされている。  
成人女性型として使用されているメイコさんより、身長が頭ひとつ分くらい低いのだ。  
「マスターが、今日はオフにしてくれたじゃない」  
見つめてくる瞳に耐えられなくなって、僕はあらぬ方向へ視線を逸らしてしまった。  
「…………新曲でさ、ちょっとひっかかる部分があって……練習したいんだ」  
自分でもかなり苦しい言い訳だと思う。これじゃ、メイコさんの誕生会に行きたくないって言っているのと同じじゃないか。  
ちょっと眉を顰めたメイコさんは、何か言いたそうにしていたけど、結局何も言わなかった。気まずくなった空気に、どうしよう何か気の利いた事言わなきゃって焦ってたら、メイコさんの携帯電話が鳴った。  
ワンコールで切れたそれは、マスターが迎えに来た合図だった。助かった!  
「ほら、マスター迎えに来たよ」  
「……じゃあ、行ってくるね。戸締りはちゃんとするのよ?」  
メイコさんは怒った様子もなく、微笑んで僕の頬を一撫でしてから玄関へ向かう。  
「行ってらっしゃい……」  
ぱたん。と閉じるドア。遠ざかるピンヒールの足音に、そういえば「おめでとう」の一言も告げていないことに気が付いて、一気に自己嫌悪が僕を襲った。  
 
 
窓を風が叩く音がして、僕の意識は浮上した。  
ああ、うたた寝しちゃったんだ。しかもリビングで。  
ソファーの上から起き上がると、変な寝方をしていたせいか、身体の節々が痛い。  
窓の方へ視線を向ければ、外はもう薄暗かった。夜の闇の中に、遠くに見える街の灯りが輝いていた。  
壁掛け時計を見れば、もうすぐ11時を回りそうだ。メイコさんは、多分今夜は帰ってこないだろう。  
……今日はメイコさんの誕生日。日本語版ボーカロイド第一号、『MEIKO』の誕生を祝う夜に、主役がそう簡単に解放される筈もない。  
今頃、メイコさんはご機嫌でお酒呑んでるんだろうな……呑み過ぎなきゃいいんだけど。  
夕方メイコさんを見送ってから、僕は新曲の練習などしていない。新曲に詰まってるなんて丸っきりの嘘。誕生会に行きたくなかった僕の、見え透いた嘘だった。  
本来、『KAITO』は成人男性型として販売されているのに、マスターの意向で僕は『少年』として使用されている。  
高い声。細い手足。薄い胸板。身長なんか『KAITO』に比べたらかなり低かった。  
……とてもじゃないけど、メイコさんの横になんて立てない。  
それがイヤで、行きたくなかった。誕生会に行ったら、自分が目を背けていることを嫌でも突き付けられる気がした。  
年齢設定を低く変えられると、思考まで幼くなるんだろうか? こんな子供じみた感情を持て余す自分も嫌いだ。  
マスターに迎えられこの家に来た時、先に購入されていたメイコさんに僕は預けられた。彼女に生活に関すること、唄について一から十まで教わった。  
初めは家族が出来たみたいですごく嬉しくて、メイコさんにくっついて歩いていたけど、一緒に生活する内に感情が変化していった。  
薄着でうろつくメイコさんの、柔らかそうな身体のラインから目を離せなかったり、食事をしている時の口元とか、傍にいる時に香るいい匂いとかを感じると、落ち着かなくなる。  
さっきみたいにぎゅっと抱き締められると、密着したメイコさんの身体の柔らかさ……特に胸、に僕の身体の一部が過剰に反応してしまう。  
極めつけは、メイコさんの出演したちょっと大人向けのPVをみた夜、初めて夢精してしまったことだ。あの時は驚くというより、恐怖に近い感情が沸き起こって、混乱した。  
それから僕は、メイコさんを避けるようにした。僕の身体がメイコさんに反応しているのは明らかだし、過剰な性欲に夢精も頻繁になった。  
気付かれるのが怖かった。なにより、メイコさんを汚い目で見ているような気がして申し訳なかった。  
あんなに僕に親切にしてくれる、大切なヒトなのに。  
メイコさんは僕を弟として可愛がってくれている。それなのに、家族として見れない自分が、一番イヤだった。  
 
ソファーに座って、なんとなくテレビを付けてチャンネルを変えてみたけど、興味を惹かれる番組は無かった。取りあえず音を流しているだけ。  
……僕、なにやってんだろ。  
誕生会は今頃、宴もたけなわなのだろう。メイコさんはきっと、たくさんの人に祝われている。……今夜は誰かと一緒に過ごすのかも。  
イヤだな、僕、嫉妬してる。  
見えない何かから自分の身を守るみたいに、膝を抱えた。  
メイコさんは大人で、美人で、魅力的なヒトだから、僕が知らないだけでコイビトがいたって不思議じゃない。  
メイコさんが他の男の人と一緒にいる妄想で、下らない嫉妬が胸を焦がした。僕に親切にしてくれるのは、後輩で同じマスターの元で共に暮らす家族のようなものだからなのに。  
僕にはメイコさんを守る知恵も身体もない。むしろ守ってもらっている。  
成長することのない僕は、マスターの作品の傾向が変わらない限りずっと子供の姿のまま。  
姿がメイコさんに追いつくことなんてないし、大人のあのヒトと僕じゃ、釣り合いなんて取れるはずもない。  
拗ねて、突き放して、メイコさんをイヤな気分にさせるだけだ。  
おめでとうって、言いたかったのに……。  
出かける間際の、メイコさんの困ったような眼差しを思い出す。最近は、あんな顔ばかりさせている気がした。  
さっきのことも僕のことも忘れて、誕生会で楽しんでくれてるといいな。  
ぼんやり画面を眺めていたら、玄関の方から聴こえる微かな音を耳が拾った。あれ?  
次いでドアの開く音がして、リビングへ続く短い廊下を早足で歩く足音。え、え?  
「カイト! ただいま〜」  
勢いよくリビングの扉を開けたのは、メイコさんその人だった。  
この家に住んでいるの、僕とメイコさんしかいないから当たり前なんだけど、それでも今日は帰ってこないと思っていたヒトの帰宅に、僕の思考は一瞬停止した。  
「あ〜も〜、寒かった!」  
硬直していた僕に両手を広げて、ぎゅうっと抱き締めてくる。外は本当に寒いみたいで、合わさったほっぺたは冷たかった。  
コートを着たまま抱きつかれたから、身体の柔らかさはそんなに感じなかったけど、鼻先を掠める匂いにやっぱり身体の芯が反応する。メイコさんに知られるのが怖くて、力を込めてを払いのけた。  
「どっ、どうしたの? 誕生会は?」  
「抜けてきたわ。皆いい具合に酔ってて、バレなさそうだったし……マスターにはちゃんと挨拶してきたから大丈夫よ」  
「抜けたって……」  
「カイトを一人にするわけにはいかないわ。  
ねえ、夜ゴハン食べた? 会場でお料理詰めてもらったから、一緒に食べようよ」  
メイコさんはにこにこ笑って、紙袋の中を探っている。  
メイコさんが帰って来たことは嬉しかったけど、その理由で素直に喜ぶことができなかった。  
夜ひとりぼっちじゃ可哀そうだから。僕が子供で心配だから。  
僕のせいで、自分の誕生会を抜けてきたんだ。  
――無性に悔しくなって、自分でも知らない内に歯を噛みしめていた。  
すごく苛々する。メイコさんにも。自分にも。  
ローテーブルに折詰を乗せるメイコさんを尻目に、僕は立ち上がった。  
「カイト……?」  
「バカじゃないのメイコさん……せっかくマスターが開いてくれた誕生会、帰ってくるなんて。主役のクセにさ。留守番ぐらい一人で出来るよ」  
気が付いた時には口が勝手に動いて、そんなことを口走っていた。なに言ってんだ、僕。  
メイコさんの瞳が哀しそうに揺れ、いたたまれなくなった僕は背中を向けた。  
「……ゴメン、もうゴハン食べちゃったから、入らないや。僕……もう寝るね」  
「え? ちょっと待って」  
「おやすみ!」  
戸惑いながら呼び止めるメイコさんの声に振り向かず、僕は自分の部屋に急いだ。  
今の自分の顔を、メイコさんに絶対に見られたくなかった。  
 
 
最低だ……。  
ベッドに寝そべったって、頭が冴えて眠れる訳がなかった。  
メイコさんが留守している間は帰ってこないと拗ねてたのに、帰ってきたら怒るなんて最悪だ。  
僕のために帰ってきてくれたのに。メイコさん、絶対怒ってる。今までイタズラして怒られたことはあったけど、こういうことで叱られたことは無い。  
理由なんて絶対に言えないし、嫌われたかも……。  
僕はバカだ。自分の未熟さに泣きたくなる。少年の姿でも、せめて精神面は成人男性型『KAITO』と同じだったらよかったのに。  
帰ってきてくれて嬉しかったって、言いたかった。それなのに、てんで子供の僕はメイコさんを傷つけることしかできない。  
どのくらい経ったろう。枕に顔を埋めていると、部屋のドアをノックする音がした。  
「カイト……まだ、起きてる?」  
どうしよう……。今は会いたくない。でもメイコさんは、これからも一緒に生活しなきゃいけないヒトだ。  
「ね……話しがしたいの」  
懇願するような声に負けた。どうせ明日の朝には顔を合わせなくちゃいけないんだし……。  
「う……ん、どうぞ……」  
ドアを開けて入って来たメイコさんは風呂に入ったようで、すっぴんに寝間着代わりのキャミソールとホットパンツ姿だった。  
起き上がってベッドの端に座り込む僕の隣に、メイコさんも腰を下ろす。  
剥き出しの白い膝が目に毒だった。言葉を探す沈黙が続いた後、視線を逸らしている僕に静かな声が語りかける。  
「あのね……私、カイトになにかイヤなコト、しちゃったかな?」  
「…………」  
「最近、私のことを避けてるよね? 私に触られるのもイヤなんでしょう? 前はそんなことなかったのに、どうしてかなって。今日も……誕生会来てくれなかったし」  
「……それは」  
何と言ったらいいか分からなかった。大人ならなんて言うんだろ? 本当の理由なんか、恥ずかし過ぎて口が裂けたって言えない。  
メイコさんはちょっと唇を引き結んで、思い切ったように口を開いた。  
「カイトは私のコト、嫌いなの?」  
「は?!」  
思わず顔を上げてメイコさんを見た。流石にメイコさんも僕を見て訊くことが出来なかったのか、自分の爪先をじっと眺めている。  
確かに、メイコさんにしてみればそう思うのも無理はない。  
俯いて頬にかかる髪から透ける表情は微笑んでいたけど、とても淋しそうだった。  
「それなら、それでいいの。でも、私たちこれからも一緒に暮らしていかなきゃいけないんだし、生活のルールをちょっと変えないとカイトが辛いん……」  
「違うよ!」  
メイコさんの言葉を聴いてられなくって、僕は気が付けば遮るように叫び出していた。  
 
 
きょとんとしたメイコさんに、僕はしまった! と内心思った。  
違うって否定したって、その後どうするの? 理由は……言いたくない、ケド……ああもう!  
「さ、触られるのがイヤなんじゃないし、嫌いなんて、そんなことないよっ。何時も僕のいいように考えてくれてるメイコさんに、感謝してる……」  
それは紛れもない事実なんだけど、こ、この先どうしよ……。思考回路をフル回転させるのに集中して、メイコさんに注意を払っていなかったのが、敗因だった。  
「……カイト」  
「えっ……」  
メイコさんの腕が僕に絡んで、ぎゅっと抱き締められた。途端に身体がかあっと熱くなる。  
「ちょ、ちょ、メイコさん!」  
「よかった。嫌われていないのね」  
慌てた僕は、重心をかけてくるメイコさんを支え切れず、柔らかな身体を抱えながらベッドの上に仰向けに倒れ込んだ。この状況もかなりマズイし、なにより僕の胸に乗っかるぽよんとした感触が、下半身に熱を集中させる。  
「メイコさん、お願い、は、離れて……」  
拘束する腕の中でもがいていると、メイコさんは上半身をちょっと起こした。  
「ゴメン。重かった?…………ん?」  
…………気付かれちゃったみたいだ。重なるメイコさんのちょうどお腹辺りに、僕の勃起したおちんちんが当たっている。  
メイコさんは解ったみたいだ。僕が触られるのを嫌がった理由。情けなくて泣きたくなってきた。  
仲直りしかけていたのに、これじゃ嫌われてしまう……。  
「ご、ごめんなさい……」  
怒られてもせめて泣かないよう、僕は固く目を閉じた……が、僕を責める声は聴こえてこなくって、代わりに勃起したソレをパジャマ越しに撫でる手のひらを感じた。  
「……ひっ!」  
ぞくりと肌が粟立つ感触に僕の咽から悲鳴が漏れた。  
「謝ることじゃないわ……」  
酷く優しい声がして、手のひらが股間をゆっくり撫でる。思わずシーツを握りしめ、湧き上がる快感をやり過ごそうとした。  
「ひょっとして、私がくっつくとココが硬くなっちゃうから避けてたの?」  
「……ごめんな、さい」  
「私に欲情してた?」  
「〜〜〜っ! ご、ごめんなさい、ごめんなさい……」  
くすっと忍び笑いが落ちてきて、僕は目を開けた。覆い被さるメイコさんは、瞳を細め微笑んでいた。  
「もう、謝らなくていいのよ。怒ってなんかないわ……ね、カイト」  
至近距離に迫った透明な茶色の瞳が、泣きそうな顔の僕を映している。  
「私ね、カイトから誕生日のプレゼントが欲しいな」  
「え? えぇっ?」  
誕生日のプレゼントは……本当は買おうとした。でも、僕の選ぶものはどれもこれも子供っぽいものでしかなくて、メイコさんに似合わない気がしたから買うことができずにいたのだ。  
「僕、用意してなくって、あ、明日買いに……あぅっ!」  
指先がおちんちんを引っ掻いた。布越しでも、十分すぎる程の刺激が腰を貫く。  
「モノじゃなくっていいの。私、カイトが欲しい」  
僕? 僕が欲しいって、どうやって……。  
爪がカリカリとおちんちんを引っ掻いている。あ、あ、と漏れる声を我慢できない。  
「ダメ……?」  
甘く囁く声音とむず痒い刺激に、拒否なんか出来るわけがなかった。  
真っ赤な顔で、言葉なく頷いた僕を見て、メイコさんはとても艶っぽく笑った。  
 
柔らかな赤い唇が僕のそれに重なって、啄ばむようなキスをされた。しばらくそうしていたら、メイコさんの舌先に唇の隙間を撫でられびっくりして薄く口を開く。  
忍び込んできた生温い舌が、つい逃げてしまう僕のそれを絡め取って、優しく舐めてくれた。  
くちゅっとした水音が頭の中に響く感じ。舌同士を絡め合うと、むずむずした感覚に縋る物が欲しくて、またシーツを掴む。決してイヤな感覚じゃないんだけど、気持ち良いんだけど、落ち着かなかった。  
口の中から舌が抜かれ、つい追いかけるように舌を伸ばすと、メイコさんは小さく笑って唾液で濡れた僕の口を指で拭う。  
息の上がってる僕のパジャマの前を肌蹴ながら、メイコさんは尋ねた。  
「カイトは、セックスって分かる?」  
直球の単語に顔が熱くなった。知らなくは、ない。夢精する夜は必ずメイコさんが夢に現れて、僕と絡んでいたから。その行為の意味を知りたくて、ネットで調べたことがある。  
その時は、イヤらしい行為でしかないと思って絶望したのだけど……。  
「う、うん……でも、どうしてそういうことするのかは、よくわかんない……」  
「基本的には好き合ってる男と女が、愛情を確認するための行為よ。人間はセックスをして、子供を作るの」  
「好き合ってる……?」  
「そう……私は、カイトが好き。カイトは? 私のコト、好き?」  
そんなの……決まってる。あんなに身体が反応して困ったのは、それを知られてメイコさんに嫌われるのが怖かったからだ。  
「好き……。メイコさんのこと、大好きだよ。だって、そうじゃなきゃ、こんなに悩まなかったよ……!」  
本当は帰ってきてくれて嬉しかったんだ。大人の男の人の所に行っちゃうんじゃないかって、どんなに好きでも僕は子供だから、相手にされないと思ってた。  
そのくせ、メイコさんに対して欲望だけは一人前で。  
だからあんな態度取るしかできなかったんだよ……!  
「……私にカイトをちょうだいね。好き同士のセックスは、とっても気持ちがいいのよ……それにね」  
「?」  
「異性の身体に興味があるのも、性的な反応をするのも、悪いコトじゃないわ」  
「うぁ……!」  
パジャマの前を完全に開かれる。そこに指が潜り込んで、乳首をまさぐった。  
びくんと跳ねた背中。メイコさんの顔が僕の首元に寄せられて、鎖骨を唇が這っていく。ちくりと甘く刺す感触がして、強めにそこを吸われたのが分かった。  
僕の薄い胸を辿る手が、乳首を捉えてくっと抓まれると、どうしようもなく身体が疼いておかしな声が次から次へ咽から出てくる。  
メイコさんの頭が段々身体を降りていく。鎖骨から胸、乳首を吸って舌で何度も舐められた。頭がじんじんして、震える身体を止められない。  
メイコさんの唇が肌に触れる度にちゅ、ちゅっと音が鳴る。時にくすぐったくて、たまにちくんとする刺激が、僕の息を乱れさせた。  
 
「カイトは、こういうこと誰かとしたことある?」  
身体の輪郭を確かめる手のひらを感じながら、メイコさんの問いに首を横に振った。  
嬉しそうに笑ったメイコさんの頭が、下っていった。腰の辺りを何度かそこを撫で、パジャマのゴムの部分に指がかかり下ろされる。思わず焦って大声を出してしまった。  
「メ、メイコさんっ!」  
呼びかけに応じてくれず、下着に包まれた硬く膨れた僕のおちんちんに、メイコさんの指を感じた。  
「! ……っ、は」  
「ココ。この部分、ちょっと色が変わっちゃってるわ」  
おちんちんの先っぽをちょんちょんとつつかれて、恥ずかしさに顔が熱くなった。  
「気持ちよくって、染みちゃったのね」  
耳まで熱くなって、僕は固く目を閉じた。本当にメイコさんの言う通りだから、言い訳なんて出来ない。  
「ね……カイトはオナニー、するの?」  
おちんちんの形をなぞる指の動きに、びく、と腰が揺れた。  
「あ、あの……う……」  
したこと、ある。  
夢精してから、メイコさんに触発されて勃起するようになった。僕の身体の一部なのに、言うことを全然訊いてくれないそれを宥める方法を探る内に、覚えてしまった。  
さすがに答えるのを迷っていたら、布が肌を擦る感触と解放感がした。メイコさんが僕の下着を下ろしてしまったのだ。  
「や、メイ……っ」  
曝け出された勃起状態のおちんちんに、メイコさんの視線を痛いほど感じた。  
どくんどくんと、ソコが脈打つ。もう、恥ずかしさが頂点になって、僕は両腕で顔を隠した。  
びんびんに勃っておへそに付いているおちんちんを、柔らかな手のひらが包み込む。弾かれるように跳ねた僕などお構いなしに、メイコさんは天井に向けてソレを立たせ、もう片方の指で括れた部分に触れた。  
「……してるんだ。皮が剥けてる」  
見られて、言い逃れができない。こっそり自分で処理していたら……剥けた。  
「カイトのおちんちん、大人と同じね……これなら、ちゃんとできるわ」  
ほう、と赤い唇から溜息が零れた。  
「ふ……ぁあっ!」  
ゆっくり、ソレを握り込んだ手が上下に動く。誰にも触られたことなんてないソレは、僕の意思など関係無しに暴走をし始めた。  
 
「あまり生えていないのね」  
片手で緩やかに僕を扱きながら、メイコさんは袋に触れ股の間を観察していた。  
身体は第二次性徴期に差し掛かった辺りに設定されているから、確かに大人の男とは違う。  
「……っは、あ、あの……」  
脚の間から覗いたメイコさんは、にっこり笑って僕を見つめてた。  
「舐めやすくて、都合がいいわ」  
えっ、な、なめ……。メイコさんの台詞に頭がついていかなくって、困惑していた僕は次の瞬間叫び出した。  
……生温く湿った感触が、僕のおちんちんを包み込んだからだ。  
「あっ、うあぁぁっ?」  
今までにない強い刺激に驚いて下腹部に目をやれば、茶色い頭が股間に埋まりメイコさんの口におちんちんが咥えられている。ちゅぽちゅぽとソレを吸う音が唇から立ち昇り、僕の腰から脳へ一直線に快楽が走った。  
一気に呼気が乱れ、言葉を紡ぐとこもままならない。  
「あぅっ、ああ、メイ、メイコ、さ……」  
必死でメイコさんを呼んだ。初めて受ける刺激は、強烈な快感と大きな不安を一緒に連れてきた。怖くて、何度も名前を呼ぶと、宥めるように僕の腿を優しく撫でてくれる。  
おちんちんに舌がねっとりと這い、竿と先端の境目を重点的に責められた。咽の奥に誘われ強く吸われると、つられて腰が浮いてしまう。  
口から離されたと思ったら、また手で扱かれて今度は裏側やおしっこの出る穴を舌の平らな部分で舐め上げられる。その度背筋を悪寒みたいなモノが行ったり来たりして、僕は声を上げながらシーツを握ることしかできなかった。  
「はぁっ……あっ、ダメだ、よ、ぼくっ……」  
「……カイト……気持ちいい?」  
「う……も……ああっ」  
付け根から先端までれろりと舌が登る感覚に、お尻が震えた。ぴくぴくしているおちんちんへ、メイコさんはしゃぶりつく。  
唇で強く挟まれ頭を前後しながら動かされ、その感覚に益々射精感が競り上がった。  
「ダ……メ! メイコさ、それ以上、は……でちゃ……うぅっ」  
このままじゃ、メイコさんの口に出してしまう。それなのにメイコさんは咥えたまま頭を前後に振り、唇は一層僕を責め立て添えられた手の動きも激しくなっていく。  
「あうっ、ダメだ、でちゃ……あっ、あああっ」  
メイコさんの吸い込みに耐えられなかった。我慢は破裂するように決壊して、吹き出る精液は止められない。  
その全てを、メイコさんは口で受け止めてくれた。最後の一滴まで吸い取ってから身体を起こしたメイコさんは、赤い唇をぺろりと舐め僕の上で身体を伸ばして、息を乱す僕の耳元で囁く。  
「いっぱいでたね」  
「ごめ……なさ……ごめ……」  
あんなモノをメイコさんの口に出してしまった。小さな子供じゃないのに、粗相をした気分になって涙が出る。  
「いいのよ。それでいいの」  
「あんなの、汚いよ」  
「汚くなんてないわ。気持ちよくて、ガマン出来なかったんでしょ?」  
頷く僕に添うよう横になって、メイコさんが抱き締めながら頭を撫でてくれた。髪を梳く指が心地よくて、次第に気持ちが落ち着いてくる。  
僕はメイコさんに縋りつき、豊かな胸に顔を埋めた。  
 
泣き止んだ僕の額にひとつキスを落としてから、メイコさんは起き上がった。  
何をするんだろうと思って眺めていると、メイコさんは僕に背を向け着ていたキャミソールとホットパンツを脱ぎ始める。  
白くて滑らかな背中。艶かしい腰のラインに続くお尻は太っていないのにむっちりしてて、触り心地が良さそうだった。  
うっかり見惚れていたら、くるりとこっちを振り向かれ慌てて視線を逸らす。  
「見てもいいのに」  
くすくす笑いながら、横臥する僕と向かい合わせになるように寝そべった。  
「えっと……その……」  
「こっちにおいで」  
腕が僕の首の下に差し込まれ、もう片方が背中に回って、身体をぐっと寄せられる。メイコさんの胸に思いっきり抱きしめられる形になった。その……裸の胸に。  
「……! あの、ム、ムネがっ」  
「触りたい? っていうか、もう触ってるのも同じだけどね」  
メイコさんは、ふふっとふんわり笑う。確かに抱き締められてるっていうか、胸に顔をくっつけられてるというか……。ふにふにした感触がほっぺに当たる。  
ちょっと顔を離してまじまじ胸を見る。横になっているせいか、いつもより大きく感じた。真っ白で、こんな姿勢でも形が良いのが分かる。  
中心を飾る乳首はピンク色で、ピンとしていた。  
そろそろと手を伸ばし、白く大きな膨らみに手を伸ばした。初めて手にした女のヒトの胸はものすごく柔らかくって、でもちゃんと張りもある。五指を使ってにぎにぎ揉むと、メイコさんはくすぐったそうに肩を竦めた。  
「気に入った?」  
「うん。すごく柔らかいんだね、それに……その」  
どうしても気になってしまうアレ。その視線に気がついたメイコさんは、僕の頭を胸へ導く。  
「おっぱい吸いたい? はい、どうぞ」  
ぷつんと勃って自己主張しているソレが、気になって仕方がなかった。胸を握りしめ、勢いで吸いつく。  
「……んっ」  
乳首は芯を持ってて、不思議な食感だ。ちゅうちゅう吸ってると、メイコさんの吐息が色付くのに気がついた。気持ちいいのかな……?  
「人間の赤ちゃんになったみたい」  
乳首に唇を触れさせたまま呟く。  
「大人の男だって同じことするわ」  
「そうなの?」  
「うん……あ……っ」  
そうなんだ。なんだか安心した。もっと吸いたくて、唾液で光るそれを口に含む。メイコさんの吐息が僕を高揚させた。  
赴くままもう片方の乳首を指で摘むと、僕を抱き締めるしなやかな身体が大きく震える。  
「あ……そんなに、吸ったら……んんっ」  
背中に在った手が、肌を伝って下がっていく。腰を回り、手がもう硬くなっていたおちんちんを捉えた。  
「! ……っ」  
「……勃起してるね」  
ああ……っと熱い吐息がおでこにかかった。柔らかく、でも的確に僕を昂ぶらせる指の動きに身を任せて、口に含んだ乳首に舌を絡めた。  
 
敏感な部分を探り合って肌を寄せていると、メイコさんは僕の上に乗り上げてきた。  
されるがまま仰向けになって、上半身を合わせ汗ばむ背中に手を回す。顔のあちこちに降ってくるキス。ふっくらした赤い唇を僕のそれに押し当てて割って侵入してくる舌を、今度は喜んで迎え入れた。  
嘘みたい。夢みたいだ。僕は本当にメイコさんと夢でしていたことを現実でやってるんだって、やっと実感することができた。  
深く探る舌に僕は一生懸命自分のモノを伸ばして応える。メイコさんに気持ちよくなって欲しかった。  
「カイト……大好きよ」  
身体を起こしたメイコさんは、そのまま僕の腰を跨いだ。ふくよかな胸から平らなお腹、脚の付け根の陰毛が見えてつい目を逸らす。  
……薄いから、割れ目がくっきり見えちゃってる。  
不自然に視線を飛ばす僕に気がついて、メイコさんが苦笑した。  
「だから、見ていいのよ」  
「だって……どうしてもイヤらしい目で見ちゃうよ……」  
「イヤらしいコト、してるのー」  
くすくす笑いがくすぐったい。  
「ちょっと濡らすね」  
下腹部で反り返るおちんちんの上に、濡れた熱い何かを感じ驚いて視線を戻すと、メイコさんの性器がおちんちんの上に乗っかっている。  
間髪入れず腰を前後にスライドされ、僕の口から呻き声が漏れた。直ぐにおちんちんはぬるぬるにまみれたけど、メイコさんは腰を止めない。喘ぎがして、くっついている所に目を向ける。  
割れ目から覗くちっちゃな赤い突起。それをおちんちんに擦り付けてメイコさんは眉を寄せて喘いでいた。  
その姿と微弱な刺激に僕も興奮が増していく。  
「……っは……」  
ようやく腰を持ち上げ、メイコさんがおちんちんを起こした。先端の位置を調節している。不安と期待が入り交じる目で見上げていた僕に、メイコさんは妖しく微笑んだ。  
「怖い?」  
「……こ、怖くないよ!」  
虚勢もいいとこだけど、そう言った。でも、噛んじゃって台無し……。  
「かわいいわね。そういうカイトが好きなのよ」  
「メイ……ああっ!」  
そっと腰が降りてきて、僕のおちんちんがメイコさんの胎内に呑みこまれる。  
その感触と熱と狭さに、身体が反って悲鳴を上げた。  
 
難なく僕を受け入れたメイコさんの内部は、おちんちんの存在を確かめるように蠢いた。口でしてもらった時とは別格の気持ち良さだ。自然に僕は息を詰めた。  
ぬるぬるにまみれたくさん濡れてて、内側の肉がおちんちんと擦れると信じられない程の快感を産む。  
メイコさんが動くと繋がった性器からぐちゅぐちゅ音がして、腰を中心に急速に広がった性感が僕もメイコさんも乱れさせた。  
「うわ、あ、あ、うぁ……っ!」  
「んっ、あっ……んぁっ……」  
入り混じった喘ぎが壁に反射して部屋に響く。僕の身体の両側に手をついて、メイコさんは激しく腰を振り咽を反らせた。眉を寄せ、艶やかな唇の端から零れる吐息が僕の上に落ちてくる。  
「カイト……カイトのおちんちん、気持ちいい……」  
「僕も……僕も……っ」  
言いながらメイコさんは腰を回す。擦り付けられる性器がおちんちんを刺激して、僕は慌ててお尻に力を入れた。そうしないと、今にも出してしまいそうだ。  
だけど、それははただの時間稼ぎでしかなくて。腰の動きに合わせて揺れる胸が、僕の胸に触れて勃った乳首が肌を掠めた。たったそれだけのことにも僕の身体は反応し、神経を焼いた。  
おちんちんを嬲る、吸って搾り上げる胎内に呆気なくその時はやってきた。  
「メイコさん……メイコ、さんっ! ひっ、あ、あああっ……!」  
名前を呼ぶだけで精一杯だった。急激に訪れた絶頂感に突き上げられ、僕は背中を反らしながら中にぶちまけるように射精をした。  
「カイト……イっちゃった?」  
動きを止めたメイコさんが、覆い被さるよう顔を寄せてくる。先に達してしまい、恥ずかしいのと情けないのとで、気持ちがぐちゃぐちゃになる。  
「だって、だってあんなに動いたらっ、僕、ぼく……っ」  
言い訳じみた泣き言を口走る僕の頬を撫でて、しなやかな身体が起き上がった。  
「気持ちよかった? 嬉しいわ」  
「う……っ」  
萎えかけたおちんちんを中に入れたまま、メイコさんの腰が動き始めた。奥に溜まった精液が掻き出され、結合部を濡らす。桃色の襞が絡み、きゅ、きゅと不規則に締まる内部の動きが出したばかりのおちんちんを刺激した。  
えっ? と思い見上げれば、メイコさんは自分の胸を寄せ上げ、揉みながら腰を揺らしている。その、ものすごくえっちな姿に目を離すことが出来ずにいると、視線に気がついたメイコさんは、僕へ挑発的な視線を投げて寄こした。  
「ほら……ね?」  
その視線とイヤらしい仕草に、僕は簡単に興奮して身体が熱くなっていく。  
メイコさんの腰の動きと中の締め付けに助けられて、おちんちんは勃起し始め僕は再び喘ぎを漏らした。  
 
「帰って来たのは、誕生日をカイトと少しでも一緒に過ごしたかったからなの」  
ベッドの上で横たわり、メイコさんの胸に抱きしめられていると、そんな言葉が聴こえた。  
疲労困憊もいい所で、ぐったりと身体を預けていた僕は、ちょっと顔を上げてメイコさんを窺う。  
「なのに、カイトは怒って部屋に篭っちゃうし……もお、泣きそうだったのよ」  
責めるような台詞だけど、口調は柔らかい。  
僕のおちんちんを舐めたり、上に乗って腰を振っていたヒトは、今は優しい眼差しで僕を見ていた。  
「……あの、メイコさん……」  
「なあに?」  
「ホントに、僕でいいの……?」  
あんなコトしておいて今更だけど、興奮状態から元に戻った僕は夢から覚めた気分になった。  
もしかして、メイコさんの目の前で下半身が反応しちゃった僕を慰めるために……してくれたとか。大人のメイコさんが僕を選ぶというのが、非現実な出来事に思えて仕方がなかった。  
メイコさんはちょっと首を傾げてから、僕を抱く腕に力を込めた。更に身体が密着して、僕とメイコさんの隙間が埋まる。  
「カイトがいいの」  
甘く囁く声に、顔が熱くなった。今、僕すごく顔が真っ赤だ。  
「で、でも、僕にはメイコさんを守る身体も、立場だってない……」  
メイコさんより身体が小さくて、こんな細い腕じゃメイコさんを抱き締めるより、抱きつくことしかできないんだよ?  
「そんなのいらない。守って欲しいなんて思ってないわ。私は、むしろ守りたい方だし」  
首の後ろを撫でる手の感触が気持ちいい。つい、うっとりしてしまう。  
「それに私……ダメなのよね、大人の男。カイトがウチに来る前に何人か付き合ってみたけど、結局続かなかった」  
「えぇ?!」  
と、いうことは。メイコさんって……!  
「カイトみたいに、線が細くていかにも『少年』ってカンジがタイプなの」  
……そうだったんだ。身体から力が抜ける。僕が今まで悩んでたのって一体……。  
「嫌われちゃったかと思ってたけど、そうじゃなくて本当によかった。子供だっていいじゃない」  
僕のおでこやほっぺたにたくさんキスするメイコさんは、とっても嬉しそう。  
……そうだ。僕まだ言ってないことがある!  
「あの、あのねメイコさん」  
見上げる僕にキスの雨が止む。メイコさんは、ぱちぱちと赤い瞳を瞬かせた。  
「?」  
「お誕生日、おめでとう」  
ずっと言いそびれていたその一言を、やっと口にすることができた。  
そおっと、僕からキスしてぎゅっと抱きつく。メイコさんはこの上なく幸せそうな顔で、ありがとうと華が咲いたように笑った。  
 
おしまい  
 

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