サンタコス咲音なカイ咲/クリスマス
12月。特に年末年始に向けて、繰り上げ仕事の多い季節だ。
人気商売のボーカロイドも、いつもの比じゃない位忙しい。過密スケジュールは休日返上しないとやり繰りできないし、日付が変わる前に家に帰れないこともしばしば。
スタジオで撃沈して、そのまま朝を迎えたことも一度や二度じゃない。
こんな状態なのはカイトだけじゃなく、只今絶賛お付き合い中の咲音も同じだ。
ただ、亜種の彼女は未成年設定のため、成人男性型のカイトよりは扱いがまだマシなのが救いだった。
仕事に追われ、11月中旬から咲音と会う機会は極端に減り、12月に入ってからは全く会えてなかった。
咲音はカイトとは違う事務所に所属している。最近は忙しい合間を縫ってくれるメールでしか彼女の近況を知る術はなが、やはり通常時期より多忙なのが窺えた。
カイトの忙しさはある意味自分のせいでもある。歌の芸風が幅広過ぎるのと仕事が無かった時代のトラウマのせいか、舞い込む仕事を手放さないので忙しいのは自業自得といった感があるのが否めなかった。
そんな苦労性のお陰で、クリスマスも仕事で押し流されて行ってしまった。
……付き合い始めて、初めてのクリスマスだったのに。
クリスマスに時間が取れないことに気がついた時、何もかもが手遅れの状態で、カイトは一気に青褪めた。
詰め込み過ぎた仕事はどうやり繰りしても、一日分の時間を捻りだすのは不可能。
咲音とクリスマスを過ごすことを、楽しみにしていたというのに……。というか、イベント・記念日系は欠かさないのが自分の取り柄だったのに!
電話越しに土下座せんばかりの勢いで謝るカイトに、仕事じゃ仕方がないものとカワイイ恋人は苦笑いで許してくれたが、物分かりが良いのが妙に切ない。
いっそのこと『私と仕事どっちが大事なの?!』とか罵ってくれたらいいのに。あ、それはそれで萌える……。
妄想の中に僅かな癒しを求めながら、疲れた体を引き摺って夜道を歩く。
クリスマスを咲音と過ごしたかったのは本心だけど、咲音と、もうちょっと、こう……仲良くなりたかったというか……ぶっちゃけ、クリスマスに乗じて咲音と一線を越えたかったのも、隠しきれない本音。
咲音の笑顔を見る度、自分の不純な下心に罪悪感を感じて、今までなんとなく手を出せずにいた。
クリスマスに託けて進展したいなーとか淡い期待を持っていたが、それももうご破算。
疲れた。本当に疲れた……。
例年そうだけど、この時期が一番キツイ。肉体的にも、精神的にも。
だがしかし! ここで力尽きるわけにはいかない。
現在、12月25日……の、22時を回る頃。とっぷり陽は落ちて、空は厚い雲が立ち込め星のひと欠片も見えない。なんだか気温も下がってきている気がする。
後二時間もすれば、クリスマスは終了だ。
残り時間は二時間……終われません。
心なしかいつもより冷たく感じる風に煽られながら、カイトは目的地へ向かって重い脚を速めていった。
窓辺から眺めている景色はとうの昔に真っ暗になって、昏い夜空は暗灰色の雲に覆われ光一つ見当たらない。
咲音は幾度目かの溜息の後、カーテンを閉めてソファーに座った。
壁掛け時計を見れば、22時を少し過ぎたくらい。また溜息が出る。
……一人のクリスマスって、初めてかも。
咲音として起動して数年。クリスマスは友人主催のパーティやあるいは仕事で、周りに誰かしら必ずいて賑やかだった。
しかも今年は例年と違い、咲音には彼氏がいる。
仲間内では咲音とカイトが付き合っているのは周知の事実で、今年は友人や仕事仲間は気遣ってクリスマスに咲音を最初から誘わなかった。
カイトは男性にしてはマメ……というかイベント好きで、誕生日や記念日なんかは、忙しくても必ず時間を作ってくれる。
だから、ついクリスマスも一緒に過ごせるのだろうと普通に思っていたのだが、ちょっと勝手が違ったらしい。
…………クリスマス中止のお知らせがきてしまった。
まさかこんなことになると思わなかったから、咲音も何とかスケジュールをやり繰りして、24・25日の予定を開けてしまっていたのだ。
カイトの仕事状況を甘く見過ぎていたせいで、本当にただの休暇になってしまった。
友達のクリスマスイベントに混ぜてもらおうかとチラリと考えたけど、どうも気分が乗らなくて止めた。
結果、咲音がクリスマスにしたことといえば、家で一人ぼうっと無為に時間を潰すことだった。
それで分かった事とといえば、一人のクリスマスは時間が流れるのが遅いということ。
仕事をしていれば追い立てられるように過ぎていく時間も、一人でぼんやりしている分にはものすごくゆっくりだ。
こういう事態になるのなら、仕事を入れておけばよかったとちょっと後悔する。
クリスマス中止の連絡が来たとき、すごくがっかりした咲音だったが電話口でカイトがあまりにも申し訳なさそうに謝り倒す様子に、つい笑ってしまった。
年末だし、仕事なら仕方がないよとあの時は言えたのに、やっぱり一人は寂しいと思う自分は何て勝手なことだろう。
ああ、私やっぱりすごく残念なんだなあ。
好きなヒトと迎えるクリスマスって初めてだから、楽しみにしすぎてたんだ。
眉を顰めて考え込んだとき、広くない居間にチャイムが鳴り響いた。
「……?」
こんな時間に、誰? 今日は誰とも約束してないし、こんな時間に訪れる人なんて……。
事務所から与えられた住まいに一人暮らしの身、警戒しながらインターフォンを取った。
「……はい?」
「咲音ちゃん! 僕だよー」
「え? カイトくん?!」
叩きつけるようにインターフォンを置くと、玄関へ走り急いでドアを開ける。
「う〜寒いね。久しぶりー」
全くブランクを感じさせないカイトの笑顔に、咲音は瞳を瞬かせた。
「……! 今日、仕事じゃ……」
むぎゅっと抱きつかれ、咲音はそれ以上続けることができなかった。苦しい。
「いや、仕事終わらせた。やっと自由の身だよ。必死で時間を詰めた甲斐があったなあ」
くっつけられた頬は冷たく、外がどれだけ寒かったのか窺えた。カイトの身体からは冬の匂いがする。
「はー……久しぶりの咲音ちゃんだ」
そう言って顔を寄せてくるカイトの唇を、咲音は片手で抑え押しやった。
「だーめー。うがいしてからにして」
一瞬涙目になったカイトだが、咲音の意図を察して目元が弛む。
名残惜しく咲音を離し、カイトはお邪魔しますと丁寧に言いながら洗面所に向かった。
久しぶりに会えたカイトはいつもの笑顔だったけど、やはり疲労の色が濃い。
顔が見れて嬉しい反面、時間があれば身体を休めて欲しいとも思うのに、会いに来てくれた嬉しさが勝って、顔がニコニコしてしまう。
カイトが洗面所にいる間、咲音は玄関に置きっぱなしにされたカイトの荷物を居間に運んでいた。
愛用のカバンと、大きくてちょっとボロい紙袋。よいしょと抱え、ソファーの横に立てかけようとして……紙袋の方が横倒しになり、中身がはみ出た。
慌てて元に戻そうとして、咲音の手が止まる。
それがDIVA2でクリスマスのために用意された、サンタの衣装だったからだ。
サンタ服が用意されたのは正規版のボカロのみで、亜種の咲音たちには無かったものだ。
それでも前作よりは衣装が増えて、嬉しかったんだけど……。
手にとってしげしげと眺める。なかなかしっかり仕立てられていて、安物っぽくない。赤い布地が指先に暖かかった。
カイトは顔でも洗っているのか、まだ戻ってくる気配はない。
……ちょっとだけ、いいよね……。
咲音は衣装を手に持って、にっこり笑った。
カイトはうがいと手洗いついでに身づくろいを終えると、居間へ入ろうとして、入り口で止まった。
半開きのドアから見える咲音の姿に釘づけになったからだ。
…………。
え? なにコレ。一体どういう状況?
なんで、咲音ちゃんが僕のサンタ服着て笑ってるの?
ソレ、クリスマス前にキャンペーンで散々着て、僕にとっては見るのも嫌になるくらいのシロモノなんだけどさ。
スタッフにせっかくだから持って帰ればー、なんて言われて仕方なくかさばる荷物を抱えてきたんだよね。
つーか、男のサンタ服って何得なのって思いながらさ。
それなのに、そんな風に着られちゃうと、なんかヘンな気分になってきちゃうよ!
袖とかすっごい余っちゃってヒラヒラしてるじゃん! おまけに上着しか着てないし、脚とかいつの間にナマ脚に? さっきまで部屋着のワンピ着てたよね?
つか、脱いだの? ワンピ脱いだ上で、僕のサンタ服着ちゃったりしてるワケ?!
なんてけしからん咲音ちゃんなんだ!
「あれ? カイトくん?」
顔の下半分を片手で覆うカイトを、咲音が首を傾げている。
そりゃあそうだ。居間に入らず入り口で突っ立っているのだから、不審がるのも無理はない。
「どうしたの? 入ればいいのに」
自分の姿に疑問を感じていないのか咲音が促すのに、カイトはふらふらと力なく彼女の傍に寄る。
「……いや、あの、それ……」
カイトの問いに、ああ、と咲音が頷いた。
「これ、DIVAのサンタ衣装でしょ? これ貰えるの正規版だけだから羨ましくて、ちょっと借りちゃった」
えへへと照れ笑いの咲音に目眩がする。視線をソファーにやると、さっきまで着ていたワンピースが無造作に置かれていた。
え? やっぱりサンタ服の下は下着のみ?
なにも言えず、顔を隠したまま視線まで逸らすカイトに、訝しんだ咲音の表情が曇った。
「……もしかして、怒った?」
「え?!」
「仕事で使ったものを、遊び気分で着ちゃったから……しかも無断で」
ごめんね。しゅんと項垂れた咲音は、浮かれ過ぎたことを後悔していた。カイトは仕事でこれを着ていたのに、自分ときたら遊び半分で勝手に借りて。
カイトが怒っても不思議じゃない気がした。
今日ここに来るのだって無理してくれたんだろうし……肩を落とす咲音の頭上へ、「あーもう!」と、やけっぱちな降ってきて、次いで床から爪先が浮いた。
「へっ……きゃ!」
身体が不安定に揺れたのは、カイトが正面から咲音を立ち抱っこしたせいだった。
突然の浮遊感に驚いてカイトの肩に縋り、その間にカイトはしっかり咲音を抱え込む。
自分の格好が恥ずかしくて、咲音はあーとかうーとか唸りながら赤面するしかなかった。
咲音ときたら、カイトに尻を腕で支えられながら彼の腰を脚で挟んでいる状態。
しかもそのせいでサンタ服の上着が脚の付け根まで捲り上がって、剥き出しの脚が殆ど丸出しだ。
おまけにいつもは見上げているカイトの顔が、ものすごく近い。格好も距離も、全部恥ずかしくて、顔に熱が集まるのを咲音は感じた。
「……あ、あの……」
俯いていて表情の見えなかったカイトの、前髪の隙間から青い瞳が覗く。まるで咲音を咎めるような目つきだ。
「……も〜……なんでそんなに可愛く僕の意表を突くの……」
「へ? ……ん!」
首を伸ばしたカイトは、れろりと咲音の唇を舐めた。面食らっている内にカイトは咲音を抱えたままソファーへすたすた歩き、咲音を抱えたまま座り込んだ。
カイトの膝の上に座る形になり、ぎゅうっと腕に閉じ込められて身動き出来ない。
カイトは肩口に顔を埋め、咲音の首筋に青い毛先が触れてくすぐったかった。
「あの……カイト、くん?」
恐る恐る声をかけると、肺の底から空気を押し出すような溜息がカイトから漏れた。
「……今日はさ、時間も遅いし流石に疲れ気味だったから、咲音ちゃんの顔見てちょっと話でもしてから帰ろうと思ってたんだけど……」
拘束していた腕が弛んで、カイトは細い腰に腕を絡めたままほんの少し身体を離した。その顔は、ちょっと赤い。
「そんなカワイイ格好見たら、疲れもどっかいっちゃったよ。
彼氏のサンタ服着たカノジョを見れるなんて、美味し過ぎる。すごくカワイイ!」
「ちょ、その……恥ずかしいよ……」
「大事なことだから何度でもいいます! 可愛いサンタさんサイコー! 元気出る。ってか、出た!」
腰を抱いて、すっかり笑顔になったカイトはまた咲音の肩に顔を埋めた。
咲音はされるがままくっついてくるカイトに身体を預けていたが、ふと感じた違和感に首を傾げる。
下腹部に何か硬いものが当たってるのだ。咲音は正面からカイトの身体を跨ぐよう膝に座っている。互いの身体がくっつけばくっつく程存在を感じるそれに疑問を感じ、微妙な表情をしていた咲音に気がついたカイトが、ぱっと身体を離した。
「あ……ゴメン。あんまりカワイイから、別なトコロも元気に」
カイトが何を言わんとしているのか分かって、咲音は一気に赤くなって目を逸らす。
「ばっ、なっ、何言って」
剥き出しの脚に温かさを感じ、咲音は息を飲んだ。カイトの両手がそっと太ももを上へと登っていたからだ。
咲音が混乱している内に、手はサンタ服の裾の中に潜り下着に覆われた尻へゆるゆると伸びていく。
臀部にカイトの体温が触れた途端に引かれ、硬いソレを強く脚の間に押し当てられて咲音は目を見張った。
カイトはこつんと額を合わせた。
混乱させているのも怖がらせているのも承知の上だけど、でもここで咲音を手放すことはしたくなかった。
今までは欲情しても自制することはできたが、今日はもう無理っぽい。
しばらく会えなかったカノジョにこんなに可愛い姿を見せられて、今日はクリスマスで、しかも目の前のサンタさんは頬を染めてカイトの膝に乗っているのだ。
「……あの、さ」
「は、い」
探るように覗き込んでくるカイトの瞳に、咲音が困ったような顔で固い返事をする。
「僕、今日の時間作るためにすごくがんばったんだ」
「……」
「や、僕が咲音ちゃんに会いたくって、勝手にやったことなんだけどさ。
……でも、でもね」
「……」
「ご褒美というか、プレゼントが欲しいなって」
押し当てている硬いソレはこれ以上ないくらい自己主張して、カイトが何を欲しがっているのか知識の乏しい咲音にだって理解できた。
「……だめかな? サンタさん」
怯えさせないようなるべく優しく囁く。
「…………えっと、あー……」
「…………」
少し間が合って、震えた小さな声がカイトの鼓膜へと届いた。
「こ、こんなプレゼントで、よかったら……」
どうぞ、と続けようとした言葉はカイトが重ねた唇に吸われ、音にはならなかった。
「……んっ、はぁ……」
咲音の唇を貪った後、カイトの唇は頬、顎、首筋へ辿り、上着のファーの中の隠しボタンを外していきながら胸元へと降りていく。
カイトとキスは何回もしているけど、こんなに激しく求められたのは初めてで、咲音の息は簡単に上がってしまった。
鎖骨の下辺りを彷徨っていた舌が、前が開く程に大胆に舐める範囲を広げていく。
こそばゆさより今まで感じたことの無いぞくぞくしたものが勝って、余った袖から手を出してカイトの首筋に縋った。
とうとうボタンを全て外され合わさっていたファーを開かれると、咲音のまろやかで大きく膨らんだ乳房が垣間見える。
「下着、付けてなかったの?」
目を丸くするカイトに、瞳を潤ませた咲音がだって、と上目遣いで見上げてくる。
「今日はもう寝るだけだったから……カイトくん、来ると思わなかったし」
「……本当にけしからんなぁ……これでサンタ服着ちゃうんだもんね」
カイトの大きな両手が乳房を包みながら、服の中からそっと取り出した。
正規版の『MEIKO』までとはいかないが、咲音の乳房は十代の年齢に似つかわしくないぐらい大きい。手の中でぷるりと揺れた美乳に、カイトは「おお……」と感嘆の声を漏らした。
「……っ」
「真っ白で、すごく柔らかいね」
軽く揉むと、むにむにと手にひらの中で形を変えていく。手のひらを押し返す小さな感覚に揉みながら親指をそっと動かせば、指の腹が乳首に触れて咲音がびくりと震えた。
「んっ……!」
「こんなとこまでピンクでカワイイ。あ、硬くなってる」
薄い桃色のそれを両方抓み指で軽く玩ぶと、あっあっと甘い声が上がる。
施す愛撫の一つ一つへ敏感に反応する咲音に、カイトが満足そうに微笑んだ。
乳房を揉まれ、乳首を弄られると身体の奥にぞわりとして、電流みたいなものが走ったように身体がびくびく震える。
こんな感覚は知らない。こんなカイトも咲音は見たことが無かった。
これまで感じたことのない未知の快感は咲音を不安にさせる。
得体のしれない感覚に身体が段々熱を帯びていくのを、咲音は痺れる思考の中で感じていた。
サンタ服を着せたまま今度は横抱きにし、素直に従う咲音の額にカイトはキスを落とした。
前を完全に開き、覗く真っ白な肌が赤い布地により一層映えた。
太ももを何度も撫で、下着の上から脚の間に指を滑らせる。
割れ目の形に添ってそこを撫でると、腕の中の身体がぴくりと緊張した。というか、さっきから咲音はがちがちに緊張している。
苦笑して、カイトは鼻の頭にもう一度キスをした。
「可愛いパンツだね」
「へっ……?」
「イチゴ柄だ」
不思議そうにカイトを見ていた咲音だったが、何を言われているのか気付いて耳まで赤くなった。
咲音の本日のショーツはイチゴのプリントが幾つもついた、正にイチゴパンツだ。
「や、やだぁ! 見ないでっ」
「今更何言ってるの。おっぱいも見せてくれたのに」
「だって、子供っぽい……」
まさか、今夜こんなことになるなんて想像もしていなかったから、下着のことなんて今の今まですっかり頭から抜け落ちていた。
レースとか、せめてプリント柄以外の穿いてれば……!
くすくす笑うカイトの声が憎たらしい。
「似合ってるのに……じゃあさ、見られるの嫌なら脱いじゃおうか」
「は? きゃ……」
止める間もなく、カイトの指がショーツにかかってするりと下ろしていく。
「もおぉ……」
「恥ずかしいなら、目を瞑っていて」
背中を支える腕に力が篭り、咲音の上半身が引き上げられる。言われた通り瞳を閉じたその瞼に一度キスしてから、カイトは唇を重ね合わせた。
舌を差し入れ深く口付けながら、キスに気を取られた咲音の脚の挟間に指を差し入れていく。
「む……んんっ」
下から上へ何度か撫でて指に粘膜を絡め、クリトリスをつつくと抱いた身体が跳ねる。円を描くように愛撫すれば、堪らないといった様子で悶えた。
「んっ、ん――!」
粘膜のぬめりを借りて撫でるだけだった指先が、不意にくりくりとソレを押してくる。刺激が強くて呼吸が苦しく、咲音は唇を外して大きく喘ぐ。
「あ、ああっ……、ひ……っ」
些細な指の動きにも耐えきれなく、身体が大きく反応した。
高まる性感に瞼を開けると、うっすら微笑んで自分を見ているカイトが瞳に映った。指は止まらず、襞の形を確かめるようになぞる感覚にも感じてしまう。
顔を近づけて半開きの咲音の口を一舐めしながら、滴る入口へそっと指が埋まった。
「ふ、ぁ……っ」
僅かな異物感を下腹部に感じる。緩やかに出入りし始めた指は、愛撫に濡れた膣に難なく沈み湿った音をさせてた。
「……痛くない?」
「う、ん……大丈夫……」
「じゃ、もう一本」
「あ」
くちゅんと小さな音がしてカイトの指が増えた。中で膣壁を擦りながら出し入れされ、口から勝手に自分でもびっくりするほどの甘い吐息が出てくる。止めようとしても自制できない。
何度も壁を擦られて、身体の奥が熱い。奥の方を指が掠めるだけで悲鳴じみた喘ぎを上げてしまう。
「や、あっ、あぁん……はぁ……んっ」
咲音の喘ぎが大きくなるにつれ、指の出し入れが激しくなり、粘膜の跳ねる音も増す。力なく首を振って刺激をやり過ごそうとしても、逃げられない。
この感覚はなに? ボカロだから歌を唄う時に歓びを感じるが、それとこの感覚は全く異質だった。言葉にしたら同じ「快感」に置き換えられるけど全然違う。
身体を支配し始めたそれが、咲音をどんどん押し上げる。
息を乱す咲音を注意深く見つめるカイトの前で、その時はきた。
「ひ……あっ、カイ、ああ……っ、だめ、変に、なる……っ」
荒く息を吐き、切なく鳴く咲音の兆しをカイトは見逃さなかった。強張った肢体を抱く腕に力を込め、反応の良い場所を数度指の腹で引っ掻くと、膣がカイトの指を強く食んだ。
「ひっ……ああん、んっ、ああっ!」
支えるカイトの腕の中で華奢な身体にぐっと力が入り、やがてくったりと弛緩した。
霞む視界に、体温の上がった身体を抱え直しす嬉しそうなカイトが映る。
「大丈夫?」
分かっているクセにあえて聴いてくるカイトに、咲音は拗ねた目を向けた。
「……いじわる」
抱え直してくる腕に誘われ、カイトの胸に咲音は荒い息を整えながら顔を埋めた。
左右に大きく割れた白い脚の間、青い髪が埋まっている。
カイトの頭が揺れる度、曲げた脚が震え服の縁に付けられたファーが肌を擽って、敏感になった触覚を刺激した。
薄い恥毛が飾る割れ目を開き、カイトの舌が何度も上下に滑っていく。
時折全体に軽く吸いつき、ぽてっとした襞を唇で引っ張って玩びまた舐める一連の動作に、咲音の腰は妖しく動いた。
リビングで絶頂を得た後、カイトは咲音を抱き上げ寝室へと連れていった。ベッドに寝かせ、その上に自分が乗り上げて執拗に性器に愛撫を繰り返し、咲音は息も絶え絶えだ。
「……んっ、ねぇ……も……」
「ん?」
性器から顔を上げずに返事をするカイトに、咲音は羞恥に頬を染める。
「……服、汚しちゃう……」
奥から、とろとろとした透明な粘膜が溢れてくるのが分かる。カイトが何度も吸い取っているけど、追いついていないはずだ。
現にカイトの舌は、尻の溝の方へも伸ばされている。咲音はそれほどカイトの舌使いに感じてた。
「いいよ。もう使わないし、返却もないから」
「あうっ!」
脚がびくんっと強張る。カイトの舌がクリトリスを弾いた。そのまま口に含んで、ちゅっちゅっと細かく吸い付かれると我慢なんかできない。刺激が強すぎた。
身体を反らせ、反射的にカイトの頭を手で退けようとするが、弱々しい抵抗ではどうにもならない。
舌先で小さな突起をねぶられ尻にきゅっと力がこもった。
「ね、気持ちいい?」
「え……、それは、その……ひゃっ」
今度は指で開かれた濡れそぼる入口を舌が這う。
くちゅくちゅと鳴る卑猥な水音が聴覚すら刺激してくる。それはカイトも同じで、興奮した熱い息が脚の付け根近くに触れていた。
「い、言わせ、ないで!」
「……腰、揺れてる。それに……ココも全部剥けてるよ」
剥き出しのクリトリスを押し潰され、咄嗟に長い袖を握りしめた。拳にぎゅうっと力がこめられ、布地に皺が寄る。
「やっ……あああっ……!」
腰を浮かせて二度目の絶頂に戦慄き、糸が切れたように身体を包むカイトのサンタ服に埋まった。大きく胸を上下させる咲音に、カイトがようやく脚の間から上へと身体をずらし、咲音を覗き込んだ。
「イっちゃった?」
口を拭いながら半泣きで見上げてくる咲音の耳元で囁くと、組み敷いた彼女がひくんと反応した。
「おかしくなる……」
カイトに翻弄されてどうしようもない。
恥ずかしい部分を曝け出して、舐められ悶え、口から勝手にイヤらしい声が出てしまう。
そんなはしたない自分を嫌でも自覚して、カイトにイヤらしいコだと思われるのが怖かった。
初めて知った快楽と、初めて知ったカイトの一面にただ戸惑うばかりだ。
「おかしくなってよ。さっきから、すごく色っぽくてぞくぞくする」
事実、カイトの指と舌が動く度に上がる嬌声とサンタ服を纏って悶える肢体が、欲情を駆り立てて止まない。しかもここは咲音の寝室で、組み敷くベッドからは彼女の匂いがするのだ。
我ながらちょっとキモい。咲音に知られたら確実に退かれるなぁと自嘲しながら、カイトはそっと身体を離した。
服を脱いだカイトが咲音へと乗り上げて、その脚の間に身体を据えた。
割れ目に擦り付けられる昂ぶって硬く勃起した肉棒の熱さに身体を竦め、咲音はカイトを呼んだ。
「あっ、あの、カイトくん」
「え?」
怯えを含んだ瞳はすっかり潤んで、カイトを窺っている。
「あの、私ね……は、初めて、で……」
咲音が初めてだということは、カイトはなんとなく分かっていた。
付き合う前、どうアプローチを仕掛けようと彼女の周りを探っていたが、特定の男の姿はなかったし、咲音も付き合うのはカイトが初めてだと言っていた。
実際に咲音の中に指を差し込んだ時、あの狭さに経験はないだろうと確信した。だから彼女が気持ちよくなることを優先していたのだ。
不安そうに瞳を翳らせる咲音に、安心させるように微笑みかけ身体を重ねる。
「大丈夫、分かってたから。……なるべく優しくするけど、痛みが我慢できなかったら言って」
こくんと小さな頭が縦に振れる。
カイトは咲音の肢体に視線を走らせた。前を全開にした男物のサンタ服から零れる乳房。なだらかな腹部から繋がる脚はカイトを挟んで、ピンク色した大事な部分が口を開いている。思わず咽が鳴った。
「プレゼント、貰うね。えっちで可愛いサンタさん」
「や、馬鹿ぁ……っ! う……」
指なんか比べ物にならない圧迫感が下腹部を襲い、みしみし音を立てそうなくらい入り口が広がって、肉棒が潜り込んでくる。
性器はぐっしょり濡れていたけど、それでも酷く痛む。
まだ先端しか挿っていないのに、この先どうなるんだろう? せめて悲鳴を上げないように、咲音は唇を噛んでカイトの肩に顔を埋めた。
少し挿っては引いてまた挿入する。その動作を繰り返すうち、肉棒は徐々に咲音の中へと沈んでいく。
「……もうちょっと、力抜ける……?」
声もなく、ふるふると頭を横に振る咲音にカイトは苦笑した。
痛みを堪えるのに精一杯な様子が、緊張した肢体から伝わってくる。
咲音が痛みに降参しないのでつい半分くらい腰を進めてしまったが、肉棒を締める膣のあまりの狭さにこっちが持ちそうにない。
ここのところ家に帰っても疲労に負けて寝るだけの生活を送っていて、そういえば自家発電もご無沙汰だった。その上、咲音の感触と痴態だ。持つ筈がなかった。
「咲音ちゃん、痛いなら一回抜こう?」
腰を引こうとすると、意外にも咲音がしがみ付いてくる。困惑していると、咲音は尚カイトに縋った。
「止めないで……私も、カイトくんにあげたい、の」
仕事が詰まっていたのに、無理矢理やり時間を作って会いに来てくれた。
カイトは自分がそうしたいから勝手にやったと言うが、咲音だって今日は会いたかった。すごく嬉しかったのだ。
ケーキもチキンもプレゼントもなにもない。カイトが望んでくれるなら、自分で良いというなら、あげたかった。
「……いいの? 痛いんでしょ?」
穏やかだけど、やけに真剣な声が耳朶に響く。
「いい……して……あ、くっ……」
いきなり挿入を再開され、咲音が息を詰めた。そんなこと言われたら自制心が足元から崩れていく。
腰を前後させながら襞を押し開き、肉棒が少しづつ埋まっていった。最後まで納めるとカイトは咲音の肩に手を回し、大きく息を吐く。
痛みと異物感もさることながら、中でぴくぴく動く肉棒がリアルに存在感を示しているのを感じ、咲音はぎゅっと瞳を閉じた。
「直ぐ終わらせるから、もうちょっと我慢してね」
その言葉を皮切りにカイトはゆっくりと腰を動かしていった。
「あっ、あっ、んん……」
下半身を押し付けるようにカイトが動き、それに合わせて胸が揺れる。
柔らかさを堪能した乳房がたぷんと上下する煽情的な視界、破瓜の痛みに歪む顔は快感に喘ぐそれに似ていて、カイトを興奮させる要因にしかならない。
申し訳ないと思いつつも、腰を止めることはできなかった。
カイトにしてもセックスは久しぶりの上、咲音の膣は熱く狭い。本人にそんな意図はなくとも、まるでカイトを求めるような締まり具合だ。
緩やかだった腰の抜き差しは自然に速くなる。カイトの息も乱れ夢中になって腰を振った。
初めてじゃ快楽なんて感じられないだろう。だったらせめて早めに苦痛から解放してやりたくて、カイトは身体を合わせながら逃げる腰を掴み、がんがん腰をぶつけ始めた。
「ひゃっ! ま、待って……お願、いっ」
悲鳴を上げる咲音を「もう少しだから」と宥め、最奥を何度も穿つ。
熱く濡れた膣に肉棒を扱かれ急速に射精感が高まり、苦しげに息を荒げた。
「っく、イク、あ……っ!」
「あ……」
胎内で爆ぜ、射精しながら進めていた腰が次第に勢いを無くしやがて止まった。
肩で息をしながら咲音の上に身体を重ねる。
「……痛くない?」
「へいき……」
本当は激しく抜差しされてアソコがひりひりしていたけど、苦痛に感じる程ではなかったからそう答えた。
「ありがとう」
カイトのいつの間にか顔を寄せていたカイトに気付き、ぼんやりしていた咲音は我に返った。
急に恥ずかしくなって顔を背ける。何せ全部が初めてだったから、こういう時どうしたらいいのか分からない。
ただ、浮かされていた熱が冷めてくると、カイトの前で見せた自分が全て恥ずかしくって仕方がなかった。
「最高のクリスマスプレゼントだよ。嬉しい。仕事頑張った甲斐があったなぁ」
いつもの調子に戻ったカイトは咲音を抱き締めて額や頬や耳元に、音を立ててキスを降らす。せっかく裸なんだからと首筋や鎖骨、胸元に唇を落としていると、腕の中の柔らかな肢体が震えた。
「んっ……」
鼻にかかった甘い吐息に、カイトはふっくらとした胸から顔を上げた。
「あれ? ……もしかして感じた?」
「ち、違う!」
「でも、ココひくひくしてきたよ」
未だカイトは咲音のアソコに挿したまま。軽く腰を揺らめかせば、きゅっと狭まり膣が応える。
「やんっ……あ……」
緩い刺激が萎えかけていたカイトに芯を持たせ、また膨らみつつあった。
数度ゆっくり出し入れすれば再び力を取り戻し、肉棒が形を成していく。
「あ……あ……っ」
初めの頃より大分解れた膣を少しづつ突き上げていくと、咲音の声に甘い喘ぎが混じってきた。
いや、だめと口から否定の言葉が漏れるけど、膣は甘くカイトを包み込む。
処女だった咲音の身体の負担を考えて二度目をするつもりはなかったが、その反応の良さにカイトの自制心は脆くも崩れ去りそうだ。
「まだ痛い?」
「さ、さっきよりは、、痛くない、けど……やぁっ!」
ぐっと脚を開かせると繋がった性器が露わになる。襞の奥から掻き出され尻の挟間を、精液と破瓜の血が混じって流れ落ちて赤い布地を汚した。
滲む粘膜に光る肉棒にも赤が絡む。
欲望に悶々と焦れるカイトは興奮を抑えきれなくなってきた。
「咲音ちゃん」
「は、はい?」
無駄に爽やかなカイトの笑みに気圧され、咲音が目を丸くしてカイトを見上げた。
「この際だから、今日で処女膜きちんと破いちゃお」
「は? ……はぁっ?!」
「ほら一回じゃ心配だし、ちゃんと破いておかないと塞がっちゃうかもだしね」
尤もらしく言ったところで勿論ウソだ。そんなのさっきのアレでばっちり破けている。というか破けていない方がおかしい。
嘘も方便。という慣用句がカイトの脳裏に浮かぶ。ちょっと使い方を間違っている気がしないでもないが。
「えっ? えっ?」
カイトの嘘を、嘘と切り捨てられずつい耳を傾けてしまうのは、咲音の性知識が乏しいからに他ならない。混乱する咲音の脚を抱えて、カイトはピストン運動を再開した。
「あっ、ひっ、あっあっ……」
最初とは明らかに違う声音に、カイトは微笑んだ。やっぱり咲音は感じている。
痛みが完全に消えたわけではないが、むず痒いような快感がそれを上回り咲音の身の内を浸食していった。
揺さぶれば我知らず濡れた声を上げる。性器がひくひく震え、奥から流れ出る精液とは別に透明な粘膜も零し始めた。
ぐちゅぐちゅ聞こえる恥ずかしい音を聴いていたくなかった。だけど耳には覆い被さってきたカイトの舌が差し込まれて塞ぐことはできない。
いつの間にか背中に回された力強い腕が、咲音を抱き起こし、同時に自分の身体も起こしたカイトは、膝の上に咲音を抱える形になる。
肩からサンタ服が滑り落ちてとうとう咲音は一糸纏わぬ姿になり、カイトの無駄な肉を削ぎ落した堅い胸に抱き締められた。
ソファーの上での姿勢と同じだったが、違いは咲音の中にカイトが居るということ。咲音の自重でより深く肉棒が胎内を貫き動く細腰を、カイトの手が掴んで突き上げた。
「ああっ!」
最奥を昂ぶった先端が穿ち、悲鳴を上げて咲音はカイトの肩に縋りついた。
身体が強張って、ぎゅっと締めつけてしまうのが自分でも分かる。
首筋を舐めて時々歯を立てるカイトは緩急つけながら突き立て、その度に吸い付く膣の感触を楽しんでいた。
「や、あぁんっ、ダメ、ダメぇ……」
言葉とは裏腹に、鳴く声は甘ったるくて仕方がない。
「なんで? ほら、こんなに」
激しく揺すぶると、結合部がじゅぷじゅぷと淫らに鳴る。膣を擦り上げる感覚はもう痛みより快感の方が強かった。
「すごく気持ちいい……イっちゃいそうだ」
「ああっ、んっ」
咲音の指に力が入り、カイトの肌を刺す。突き上げに跳ねる肢体、すんなりと伸びた脚の爪先が内側に曲がった。
肉棒を食む膣の動きがカイトを蝕み、最後を求めて一層激しく腰を使う。
「……っ、咲音ちゃ……咲音!」
「ひっ……! あ、っぁあ……っ」
「う……くっ……」
咲音の身体が大きく震え、皮膚を爪が引っ掻き傷を作る。
欲望を吐き出しながら、カイトは縋りつく柔らかで小さな身体を掻き抱いていた。
落ち着いた後、咲音の身体を綺麗にしてカイトは布団に潜った。
カイトの腕に頭を乗せる咲音の髪をゆっくり撫でる。
「明日、一緒にシャワー浴びようね」
頬を染めて咲音が頷くのを確認して、カイトは笑った。
身体の熱が冷めたせいか、肌に触れる部屋の中の空気が冷たく感じる。
ベッドサイドに置いてある目覚まし時計の示す時刻は、深夜をとうに超えていた。
カイトは言わずもがな、咲音も今はもう何も纏ってはいない。あのサンタ服は途中で脱げて、今はベッドの下に落ちてしまった。
クリスマスは終わりサンタは帰って、カイトの手にはプレゼントだけが残った形になった気がした。
「……なんだか、僕ばっかり貰ってで悪いなあ。次の休み、咲音ちゃんのプレゼント買いに行こうよ」
「ううん。もう貰ったからいらない」
へ? と目を丸くするカイトに、咲音ははにかんで微笑む。カイトの胸に額を押し当てた。
「……本当は、クリスマス会えないって言われた時すごくがっかりしてたの。
仕事だって分かってたのに。でも会いに来てくれたから……だから、いい」
「がっかりしてたなら、言ってくれればよかったのに」
「だって困るでしょ?」
「ちょっとは困るけど、それにも萌……」
不意に言葉を途切れさせたカイトに、咲音は顔を上げる。カイトの視線が部屋に設えられた窓に注がれていた。
「寒いはずだ、雪が降ってるよ」
「ホント?」
首を捻って咲音も窓へ視線を移す。カーテンの隙間から、街灯に照らされチラチラと白い雪が舞い落ちているのが見えた。
「わあ……!」
「僕、ホワイトクリスマスって初めてだ……あ、もうクリスマス過ぎちゃったか」
「もしかしたら、気付かなかっただけでもっと前から降ってたかもよ?」
声を弾ませる咲音は楽しそうに、静かに落ちていく雪を眺めている。
「肩出てるよ。冷えるから、ほら」
剥き出しの肩に掛け布団をかけながら、カイトは布団の中に咲音を引っ張り込んだ。
「あったかい」
「今年はゴメンね。来年はちゃんとクリスマス空けとくから……それと、ありがとう」
心底申し訳なさそうなちょっと情けない声音に、こみ上げる笑みを堪え切れず咲音はカイトの胸の中で囁いた。
「今年だって、十分忘れられないクリスマスよ」
無邪気に微笑む咲音に、力が抜けたようにカイトも笑う。
「……そっか。そうだね」
寄せ合った素肌の温もりが心地よい。
明日には融けてしまうだろう窓に映る儚い雪の欠片を、二人は飽くことなく見つめていた。
おしまい