「おつかれ、ミク」
「おつかれさまです、マスター。やっと収録終わりましたね」
「本当…もう3時か。おやつの時間だ」
「おやつですか? 今日は何でしょうか?」
「うん、何にしようか……そうだ、昨日作ったクッキーの冷凍生地があるから、焼いて食べようか?」
「クッキーですか? 食べます!」
できあがり
「おいし〜」
「お菓子食べてる時のミクって、まさに”ほにゃらか”って感じだね」
「ほにゃ?」
「ふふふ、可愛いなあ」
「えへへ…照れます」
「そうだ。ちょっとしたゲームでもしながら食べようか」
「ゲーム、ですか?」
「うん。僕とミクが交互にクッキーを食べていって、最後の1枚を相手に食べさせた方が勝ち、というゲーム」
「……難しそうですね」
「ルールは簡単。一度に1枚から4枚までクッキーを取ることが出来るんだ」
「う〜ん」
「とりあえずやってみよう。僕はミクに最後の1枚を、食べさせる自信があるよ」
「お皿の上にはクッキーが30枚」
「ミクからいく?」
「はい、では私から」
ミク:1枚(残り29枚)
「あれ? 最初からもっとたくさん取るかと思ったのにな」
「そんな風に言われたら、私が食いしん坊みたいじゃないですか」
「違う?」
「違いますよっ」
「ふふ、じゃあ僕も取るね」
マスター:1枚(残り28枚)
「あ、分かりました。私の真似をしていくつもりですね?」
「そうかな? まあゆっくり楽しみながらやろうよ」
「むう…」
ミク:2枚(残り26枚)
「もぐもぐ」
マスター:2枚(残り24枚)
「やっぱり真似してます?」
「じゃあ、今度は変える」
ミク:3枚(残り21枚)
マスター:1枚(残り20枚)
「……もぐもぐ」
ミク:1枚(残り19枚)
マスター:3枚(残り16枚)
「紅茶、おかわりする?」
「何だか、こんぐらがってきました」
「ええい、思いきってたくさん食べちゃいます!」
ミク:4枚(残り12枚)
マスター:1枚(残り11枚)
「でも、何枚食べても美味しいね、このクッキー」
「そうですね。マスターの手作り、市販のクッキーよりも好き…です」
「ありがとう。なら何としても、ミクに最後の1枚は食べてもらわないとね」
「…でも、勝負に情けは無用ですよ?」
ミク:2枚(残り9枚)
マスター:3枚(残り6枚)
「もぐもぐ。じゃあ次は…」
「ふう、紅茶が美味い」
「えと……1、枚?」
「4枚」
「残りは……1枚」
「ミクの負けだね」
「ちょっと待ってください! やっぱり、3枚にします!」
「良いの? じゃ、僕は2枚」
「残りは……1枚」
「ミクの負けだね」
「……そんなぁ」
「おつかれさま」
「…これ、どうやっても私が負けるように出来ているんですか?」
「違うよ。ミクにも勝つチャンスはある。正しくは、”途中まであった”」
「チンプンカンプンです」
「ちょっとしたコツがいるんだ。僕だけ知ってて、ミクには悪いことしたかな」
「そうなんですか…ずるい」
「ごめん」
「でも、楽しかったですマスター」
「そんな訳で、最後のクッキーをどうぞ」
「…マスター」
「ん?」
「やっぱり、おあいこってことで分けっこしませんか?」
「どうして? ミクはクッキー、好きなんじゃないの?」
「私はマスターが、一番好きです。おやつもごはんも一緒に食べられないと、きっとつまらないから」
「…」
「…あっ、ごめんなさい」
「…ミクってば、本当に純粋で良い子なんだねえ。分かった――ほら、咥えてごらん」
「え? んむ」
「じゃあ半分、貰うよ」
「…!」
「ぱく」
「…はー、美味しかった。ごちそうさま」
「…あ…今、き…キス…!」
「ふふふ。さあ、片付けようか」
「マスター…ずるい、です」
「そう? じゃ、謝るからこっち来て。――うん。ミク、ごめん、ね」
「!? ん……んんっ」
「……ふ…ミクの舌、すっかり甘くなってる」
「…ふぁ…ますらぁの、も」
「……」
「……」
「……ミク。僕もミクが、一番好きだよ」
「…え、へへ…それは私が、先ですから」
できあがり
「マスター」
「?」
「今度また勝負しましょう。次は自力でマスターを負かしますから!」
「そう言ってもらえると張り合いがあるよ」
「だから、またクッキーを焼いてくださいね?」
「勿論。じゃあ、もう少しお昼寝しようか」
「はい。…マスター、大好きです」
***
解説
「ちなみにコツは何なのさ」
「そんなレンの為に、マスターに代わって私がこっそり教えよう」
「え? リンは知ってんの?」
「もちよ」
最後に1を取った方が負けで、一度に取れるクッキーは1〜4
足して2〜5か、この状態で相手に渡すと、1にして返すことが出来てしまうから積み
相手に残り5以下で渡しちゃダメなの
「なら、6?」
「そう」
6で渡せば、例え相手が何枚取っても1には出来ないし、尚且つ次のこっちの手で決められる
1なら4、4なら1とね
つまり、6で渡された方が負けと言える
「7や8は?」
逆に6にして返される可能性があるから、ダメね
相手もコツを知っているなら当然同じように考えるから、1を、そして6を渡されない為にはどうしたら良いか
それを考えて組み立てていかないといけないのよ
「何か無駄に難しい」
「じゃあ結論から」
常に5つ分の余裕が必要なの
6を渡されない為には11を取らされちゃダメ
11を渡されない為には16を取らされちゃダメ……以下略
”1+5α”の段は必ず相手に渡すように綱渡りをしていけば、素人玄人関係なく必勝よ
「んー」
「結局、両方ともコツを知ってるなら、最初が肝心ね」
まず何枚あるか確認して、下一桁が1か6なら後攻
それ以外なら自分が先攻して、1か6になるように取って相手に回す
「それって、ゲームとして破綻してるだろ?」
「ゲームと言うよりは、中学校レベルの数学の知恵試しって感じかな。先生が生徒に出すような」
「なら最初はわざと…」
「そういう風にして遊ぶのが正しいと思うよ。マスターも、途中まで遊んでるよね」
「ミク姉は天然でからかい易いからなー。リンの方が落ち着いてて、時々年上に感じるくらいだし」
「え? …ふふん」
「外見は誤魔化せないけどな」
「一言多い!」