「はい、リュウト君」
目の前に差し出された金属製の小さな箱缶。長方形の頭に丸い穴が開いている。
咄嗟に両掌を差し出すとミキが手にしているその缶を振った。
ころりと穴から転がり出たのは、透明な赤い玉。
「あめ?」
「ドロップだよー」
あげるね、とミキが言う。物を貰った時に言う言葉。
「ありがとう」
「どういたしまして」
にこにこと笑顔を振る舞いながらミキは自分の手にドロップを出すとそれを頬張った。
傍から見てあまりにも彼女が美味しそうに飴を舐めているので、リュウトも急いで貰った玉を口へ入れた。
たべちゃうぞたべちゃうぞ、という声がどこからか響いた気がしたが、気にしない気にしない。
ざらりとした砂糖の食感。ほわりと鼻腔をくすぐる甘酸っぱい匂い。
味が良い物を食べた時に言う言葉。
「おいしいね」
「でしょー?」
右隣に腰を下ろしているミキを見上げながら、リュウトは口内の飴を前歯にかちかち当てながら舌で転がす。
飴の話をする時に言う言葉。
「のどにもいいよね」
「そうよね、美味しくて喉にも良くて」
「一石二鳥だね」
「ふふっ、でもドロップの魅力は二鳥だけじゃないのでした」
「?」
リュウトが首を傾げる横でミキは缶の蓋を閉じると、視線をこちらに向けながらカラコロと缶を振り鳴らした。
色彩溢れるドロップの、パッケージの絵が揺れる。
「宝石みたいでしょ?」
だから好きなのだと、赤毛のおねーさんがえくぼを見せる。
貰ったドロップと同色のアホ毛がぴんと揺れた。
惹き付ける、透明な赤い玉。
ミキの瞳も宝石みたいだよ。
考えるより先に出た言葉。
それを聞いたミキは「褒めちゃってカッコいいなぁこのぅ」とリュウトの頭を胸元に引き寄せると、
きらきら輝く笑顔のままわしわしと緑髪を撫でた。
その感触がどうにもくすっぐたくて、「苦しいよぅ」と言いながらリュウトも思わず笑みを零す。
おねーさんからは、ドロップと同じ甘酸っぱい香りがした。