小生の隣には借りてきた猫がいる。  
正確には昼寝中である小生の左腕を勝手に枕代わりにして横になった猫村いろはがいる。  
借りてきた、と言うのは自身の部屋の整理を手伝ってくれる人員として、いろはが今朝から我が家を  
訪問しているからである。小生の姉――ミズキから貰った必需品メモを参考に、取り敢えずは必要  
最低限の物を新しい部屋に揃え、『ヒト』としての生活に慣れているいろはに内装の整えを手伝って  
貰う事で、昼過ぎ丁度に部屋の片づけが完了した。  
 
姉が作っておいてくれた握り飯を二人で食した後、用事が済んだいろはを彼女の家に送ろうと考えた  
のだが、一向にいろはが帰る素振りを見せなかったので止した。その内うつらうつらと自身を襲って  
きた眠気に身を委ねそのまま小生は床に寝転がってしまい、そして今に至る。  
「……腕が痛い」  
「慣れれば痛くないよ」  
それは寧ろ血の巡りに問題が、と思ったが南窓から射す日光の温もりが小生の唇の動きを阻止した。  
夢と現の狭間にいるこの感覚が小生は好きだ。だから昼寝は欠かさない。  
浮ついた感覚の中、どうにか右手で部屋奥の襖を指差す。  
「……枕は、確かあっちに、置いた」  
「いらない」  
「……腕が痛い」  
「眠れば痛くない痛くない」  
 
いろはの言いたい事が少し解ってきた。彼女は枕が欲しいわけでは無い様だ。  
「……何?」  
「馬には乗ってみよ、人には添うてみよって言うでしょ」  
「知らない……」  
「あとでggrks」  
満面の笑みで言われても知らない物は知らないので困る。生まれたばかりなので勘弁してほしい。  
もしかすると意味深な発言なのかもしれないが、それに気付けるほど小生は『ヒト』としての場数を  
熟していないのが実状である。無論、未熟を言い訳にするのは好ましく無いのだが。  
「別に邪魔しようってんじゃないから気にせずお眠りなさいな」  
そう言いながらいろはは小生の左頬を細い指で突く。それがどの指なのかを確認する気力が小生の  
両目にはもう無かった。  
「おやすみ」  
「…………」  
「般若心経でも唱えてあげようか」  
「……いやだ」  
 
     *  
 
「勇馬のアホ!マヌケ!そのまま本当に眠る馬鹿がいるか!」  
「いいか勇馬、据え膳食わぬは男の恥という言葉があってだな……」  
「ウチのいろはがどうも申し訳ない。ただ女声の前で無防備に眠るのは流石にどうかと」  
「そうか!つまり俺らも無防備に女声陣の目の前で寝ればハーレム成立じゃね!?」  
「そ の 発 想 は 無 か っ たメモメモ」  
「ボクは子供だから何のことか全然分かんないやー」  
後日の飲み会にて男声陣にこの出来事を話すと、個性の溢れる六人六色の反応が返ってきた。  
『ヒト』としての形が定まらぬこの身もそれはそれで一つの個性なのだろうかと思いながら、小生は  
先輩等の酒臭い説教をぼんやり聞き流したのであった。  
 

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