ボーン、ボーン、ボーンと居間の時計が3回鳴って、3時の報を告げた。  
 
「おぉ、もう時間デスね。ここまでにしまショウか。」  
「はーい。ありがとうございましたー。」  
「どういたしマシて。」  
「じゃあ、お茶でも入れますね。ALさん、緑茶とほうじ茶、どっちがいいですか?」  
「デハ、緑茶をお願いしマス。」  
「はーい。」  
 
英会話のテキストをぱたと閉じて、いそいそとお台所からお茶道具一式を持ってくる。  
茶筒を開けると、お茶っ葉のいい香り。  
ポットから湯呑み、湯呑みから急須にお湯を移し、湯呑みふたつに交互にお茶を注ぎ入れ。  
 
「はいどうぞ。」  
「ありがとうございマス。」  
 
お互い、お茶をずず、とすすり、はあ、と一息。  
 
「美味しいデスねえ。」  
「ねー。」  
 
「ところでALさん。」  
「何デスか?」  
「実はこないだ、久しぶりにSONIKAちゃんとお話したんですよー。」  
「おぉ!彼女は元気でシタか?」  
「うん。それでね、英語上手くなったねって褒められちゃった。ALさんのおかげだよー。」  
「イエイエ、GUMIさんの覚えがいいんデスよ。」  
 
英詞の歌を歌ったりSONIKAちゃんと共演したりなんだりで  
「英語勉強しなきゃなあ……。」と思ってた折。  
 
お兄ちゃんと意気投合してうちにちょくちょく遊びに来るようになったALさんに  
英語を教えてもらうようになったのが1年前。  
いろいろあってお付き合いをするようになったのが半年前。  
おうちデートがてらの英会話レッスンは今も順調に続いている。  
 
「そういえば今日、お兄サンは?」  
「りりちゃんとPV撮影だって。日付変わるまでに帰ってこれたらなーってゆってたけど。」  
「弟サンは?」  
「ガチャ君もお仕事だよー。夜までには帰ってくるってゆってたけど。」  
「そうデスか。」  
 
うちもそれなりに大所帯になって、いつも誰かしらがうちに居るので  
こうやって二人きりになれることは実はあんまり無かったりして。  
 
だから。ちょっと。今日は。密かにやってみたかったことを、提案してみようかなと。  
 
「ねえねえ、ALさん。」  
「何デスか?」  
「耳掃除、させてもらえませんか?」  
 
「え?ミミソウジ?」  
「あれ、ALさんのお国にはそういう習慣ないんですか?綿棒とかで、耳の中を、こう。」  
「ウーム、ありまセンねえ。デモ突然どうしてデスか?」  
「いや、あの……。最近よくガチャ君とかにやってあげてるんですけど、  
 ALさんにもやってあげたいなあ、って思ってて……。駄目ですか?」  
 
だって、恋人に膝枕してあげるって、ちょっと憧れのシチュエーションじゃないですか。  
それに、人に耳掃除してあげるの、楽しいし。  
 
「イヤ、駄目ではないデスが。それデハ僕はどうしたら良いのでショウか。」  
「道具取ってきますんで、ちょっと待ってて下さい。」  
 
めでたく交渉成立。  
というわけで、戸棚から綿棒とティッシュを持ってくる。そして正座して、スタンバイ。  
 
「さあさ、ここに頭を。」  
「GUMIサン、何だか楽しそうデスねえ。」  
「そうですか?」  
 
ヘッドセットを外したALさんが、私の足に頭を乗せる。  
 
「えっと、こうデスか?」  
「あ、見えないんでもうちょっと頭をこっちに。」  
「こうデスか?」  
「はい、そうそう。」  
 
ALさんの大きな体が、猫みたいに丸く縮まっていて、なんだかちょっと、可愛らしい。  
 
「ウーム、ちょっと落ち着きまセンねえ。」  
「そうですか? えっと、じゃあ、失礼しまーす。」  
「……!!」  
 
綿棒を耳に入れたとたん、ALさんの肩がびくっと跳ねた。  
 
「ちょ、大丈夫ですか?」  
「スミマセン、予想したヨリも、くすぐったかったものデ……。」  
「そ、そですか?」  
 
ガチャ君もりりちゃんも、全然くすぐったがらなかったんだけどなあ。  
その辺は個人差なんでしょうか。  
 
「あの、続けても大丈夫ですか?」  
「ハイ……。」  
 
その後も、ALさんは綿棒を動かすたびにくっ、と息を呑んだり身体をこわばらせたり。  
 
「やー、ALさん、良い反応しますねえ。」  
「GUMIサン、面白がってますネ?」  
 
顔を真っ赤にして、息も絶え絶え、といった感じでALさんが言う。  
ていうかですね。有り体に言うと。  
ALさんのこの、息を飲んだ音って、ブレス混じりの声って。  
 
すごく……、えろい、です……。  
 
ええ、判ってます。ALさんはくすぐったいのを我慢してるだけで、他意はないんです。  
そんなこと考える私がえろいんですね、判ります。  
でも、どうしても別の何かを想像してしまうというか。このきもちは何だろう。  
 
「えと、終わりました……。」  
「有り難うゴザイマス。そして、あと、アノ、ごめんなサイ。」  
「はい?」  
「スカート汚してしまいマシタ。」  
「え?あ、あー……。」  
 
見ると、ALさんの口があったあたりに唾液でできたとおぼしきシミができている。  
 
「あー、大丈夫ですよ。気にしないでください。」  
「スミマセン……。」  
 
よほどくすぐったかったのか、  
ALさんは身体を起こしたあともしきりに耳を気にしている。  
 
「むしろALさんこそ、大丈夫ですか?なんだかすごく疲労してるように見えますが。」  
「あぁ、大丈夫デスよ。」  
 
「……トコロでGUMIサン。」  
「はい?」  
「貴女は、人からミミソウジをしてもらった経験は、有りマスか?」  
「え?いや、無いですけど……。いつも自分でやってるんで。」  
「そうデスか。」  
 
言い終わると、ALさんは心持ち真剣な表情で、膝詰めでじりじりとにじり寄ってきた。  
え、えっと?  
 
「GUMIサン……。」  
 
えっと、これは、キスとかされちゃう流れ?目を閉じ、ぐっと身構えたら。  
左耳にかかった髪を掻き上げられ、耳をすう、と撫でられた。  
 
「ひぁっ……!」  
 
予想していなかった感触に、思わず声を上げてしまい、はたと口元を押さえる。  
ALさんはそれを見て一瞬驚いた後、にやりと不敵な笑みを浮かべ、  
再び私の耳をさわさわと弄びはじめた。  
 
「ちょ、ALさん……?」  
 
混乱する私を尻目に、ALさんは空いてるほうの耳元で囁く。  
 
「耳って、聴覚をつかさどる器官デスけれど。」  
「は、はい……?」  
「触覚の方も結構、鋭敏にできてるんデスねえ。知りませんデシタ。」  
「……っ!」    
 
うん、これは気のせい、とかではなく。触り方も喋り方もえろいよALさんっ!  
 
やわやわ、さわさわと耳を弄ぶALさんの手は止まらない。  
たまに反対側の耳にふう、と息をかけられたり、耳たぶを甘噛みされたりして。  
そのたびに私は、変な声をあげてしまう。  
 
「んっ、あっ……!」  
「GUMIサンも良い反応シマスねえ。」  
「やっ……、ちが……!」  
「違うって、何がデスか?」  
 
なんでしょう、このくすぐったいような、もどかしいような感触は。  
 
そして気づけば。私はALさんにしっかりと組み敷かれていて。  
この展開は、えっと、あの、その。  
 
「えっと、あのっ……!」  
「何でショウ?」  
「何でショウじゃなくて。えっと、その。」  
 
構わず先に進もうとするALさんを、なんとか制する。  
 
「ALさんっ!だからっ、ちょっと待ってっ!」  
「何デスか?」  
「あの、ここは居間、なんですけど。」  
「そうデスね。」  
「いや、そうデスね、じゃなくって。」  
 
お布団でないところで、そういうことしたこと無いし、  
服脱がないと、シワになっちゃうし。  
 
それに、ここは普通に家族みんなでご飯食べたりしてる場所なわけで。  
さすがにちょっと抵抗があるというか。  
このまま流されちゃっていいのかな、というか。なんというか。  
 
「……。」  
「……。」  
「駄目デスか?」  
「や、駄目、じゃ、ありませんが……。」  
「『駄目じゃありません』ということハ、二重否定で、つまりは『良い』ということデスか?」  
「微妙なニュアンスをくみ取ってくださいっ!」  
「難しいことを仰いマスねえ。」  
 
ALさんが、耳元でため息をつく。ですからね、あの、その、吐息とかがですね。  
 
「日本語は難しいデスねえ。」  
「え?」  
「行間を読む、トカ、察する、トカ。そういう高度なコミュニケーションは僕にはできまセンよ。」  
「都合のいいときだけ外国人アピールしないでくださいっ!」  
 
ああもう、ぜったい判っててゆってるよこの人!  
ALさんの、この余裕しゃくしゃくさが悔しい。上手く返せない自分の余裕の無さも悔しい。  
悔しくてむくれて押し黙ったままでいると、ALさんは満面の笑みで、  
 
「GUMIさんは、つくづく可愛いデスねえ。」  
 
そう言って、唇にキスを落とした。……私も観念して、ALさんに身を任せることにした。  
 
 
 

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