最近太ったせいでいつもの寝間着だと寝苦しいから、古着を貸してほしいと頼まれたのは、衣替えが終わってすぐのこと。  
普段着に頓着しない俺(○ニクロ派)は、毛玉にならない素材のものなら好きに使っていいと承諾した。  
ちなみに彼女の示す「太った」とは、すなわち胸のサイズのことを指しているわけだが、いったいこの人の胸はどこまで成長する気なのか不思議になる。  
初めて会ったときはCカップぐらいだったのに。揉むと増えると言う説が正しければ増やしたのは俺ですけどね。サーセン。  
洗って返してもらった服に袖を通すたび、「ここにメイコのおっぱいが」という邪念が頭を過ぎる。俺、生まれ変わったら服になりたい。  
 
 
☆  
 
深夜1時を回って、ようやく家についた。  
新しい録音機材の設置に予想以上の時間を食い、それだけ仕事を足止めされていたためである。  
家の玄関を開けると、石鹸の香りがわずかに乗った生ぬるい湿気を肌に感じる。誰かがつい先ほどまで風呂に入っていたのだろうか。  
時間が時間だけに、早寝早起きの規則正しい生活を送る2エンジン組ではなさそうだ。つまり消去法で。  
「きゃっ!」  
「わっ!?」  
ドアが開けっぱなしでなぜか照明が点いている自室に入ろうとしたら、しろい人影と鉢合わせした。  
石鹸の香りを纏わせた、大黒柱のメイコである。  
「お、お帰り、カイト」  
「え、お、うん。ただいま」  
至近距離でこちらを見上げるメイコの髪は濡れていて、首には彼女のお気に入りであるヒツジ柄のタオルが掛かっていた。いかにも風呂上りなスタイル。  
いやいや、問題はその服装だ。彼女の体には少々大きすぎるサイズの、見慣れた白いYシャツ。  
胴体を隠すようにボタンを3つだけ留めている。  
 
やけに肌色の目立つ腰から下(距離が近くてよく見えないがおそらくパン一)まで視線を辿らせるのはさすがにまずいと、理性で視線をやや上方に引っ張る。  
そうなると今度は目立つ胸に視線が止まってしまう。  
 
こ、これは…  
 
思わず喉が鳴った。  
 
胸元で大きく張り出したYシャツが白く透けて、うっすらと小さな突起が浮き出ているのが見えてしまう。  
これっていわゆるひとつのノー…  
「いいTシャツがなかったから、今日はこれ借りようと思うんだけど」  
胸に釘付けになった俺の視線に気づかず、手のひらまで余った袖を持ち上げる。  
支える物がない胸がふるふると揺れた。  
 
あ、これはいけない。  
 
「これ、初めて着るけど着心地いいのね。それじゃおやす」「待った」  
すれ違いざまのメイコの腕を掴み、部屋の中に引っ張りこむ。鍵は勿論かけて。  
「え?え?」と狼狽する彼女をベッドに座らせ、肩を押さえつけて距離を詰める。  
「けしからん。お説教です」  
「なんで?」  
「なんではこっちのセリフだよ…  
 いつもなら風呂入る前に着替え取りに来るのに、なんで今日は風呂の後に部屋に来たのさ」  
「え、えっと、シャワーのお湯がかかっちゃったから、新しいのを取りに来たんだけど」  
「パンツ一丁で?」  
「ば、ばか!」  
ちょっと間抜けな光景だけに、あまり想像してほしくないのだろう。メイコが真っ赤になった。  
はた、とメイコが何かに気づいたように怒る肩を鎮めた。  
「…なんでわかるの?」  
「え?なにが?」  
ニヤニヤしながら彼女の次の言葉を待つ。ようやく気づいたか。  
「ぱ、ぱんつ……い、っちょう…って」  
上は何も付けてなかったって。  
メイコはおそるおそる自分の身体を見下ろす。彼女の身体を尻のあたりまで覆う、男物の白いYシャツ。  
「だって、形でわかるし」  
「…!」  
咄嗟に叫びだしそうになった彼女の口を押さえる。この深夜に大声を出されては堪らない。  
両腕で胸を隠しながらむーむーと唸るメイコの背を宥め、彼女が落ち着くのを待つ。  
それにしてもブラのホックがないだけでこんなにも背中を撫でるのが気持ちいいなんて。  
「別に俺に見られても平気でしょうに」  
「むぐ、むむ、…恥ずかしいもんは恥ずかしいの!」  
「えー。遅くまで仕事を頑張った俺への身体を張った労いだと思ったのになー」  
「違うって…ちょっと!」  
背を撫でていた左手はそのまま彼女の背を押さえて、聞き分けのよろしくない右手はメイコの細腕をすり抜け、胸に触れる。  
楽器の調律ができるよう、男性の平均よりやや大きく作られた俺の手で包んでも余るほどのそれを、円を描くように撫でてさすって豊かな質感を確かめる。  
「ん、んん、だめ、だめだってば…」  
小柄な手が俺の手を剥がしにかかるが、うまく力が入らないようだった。  
ここで我ながら卑怯にも追い打ち。俺の手に気を取られて下を向いてるメイコの耳にキスをする。  
「ひぁっ」  
今日のメイコは隙が多いな。そう思いながら、耳の外側の輪郭をゆっくりゆっくり舌でなぞる。  
下から上にとなぞって、窪みに舌をねじ込んで、耳たぶを甘く噛んで放す。  
「はぁ、ぅ、あぁぁっ…」  
しまりのない嬌声を呼吸に乗せて力を完全に抜いてしまったメイコを自然な仕草でベッドに組み敷いて仰向かせる。  
メイコは熱のこもった潤んだ目で、それでも不満そうに俺を見上げた。多分、このまま流されようかという意志と理性が葛藤しているってところだろう。  
できれば俺を選んでほしいな、という願いを込めて今度は唇にキスをした。  
すぐさま舌をねじ込んで歯列を歯茎を上顎を刺激して、潤んだ口内をわざと音を立ててかき回す。吸い上げては飲み干し、また送り込んで交換する。  
口付けは少しずつ乱暴になって、歯がぶつかる度角度を変えて味わう。  
痺れたのか、成すがままとなった小さくて柔らかい舌先を舐めまわして嬲る。  
 
酸欠を訴えて唸るメイコの喉に大人しく従って、解放してあげた。  
唾液が糸を引いて彼女の顎に張り付く。再び唇を寄せて掬い取った。  
「…やっぱりダメ?」  
息が荒いままのメイコは答えない。口では答えない代わりに、視線を逸らして足をもじもじと擦り合わせて、白い指で俺の服をきゅっと握った。  
俺は勝利を確信して彼女をきつく抱きしめた。  
 
 
☆  
 
 
布の面積で言えば彼女の衣裳のほうが小さいのに、なぜ男物のYシャツを彼女が着るとこんなにもいやらしいのか。  
すでにぴんと立ってしまっている胸の先端に布の上から吸いつく。  
「っ、ふ…」  
片方を軽く甘噛みしながらもう片方を指でいじる。  
弱い部分に歯を立てられたせいで、少しだけ怯えながら、俺の頭を撫でるメイコが愛おしい。浮いた吐息が前髪を掠めるのも心地いい。  
舌を動かしながら布越しに吸うと、繊維の味が混じった唾液が逆流してじゅるじゅると音を立てる。  
唇を離すと、唾液が染み込んだそこが胸の先端を透かしていた。  
せっかくなので、もう片方も。どうせ脱がすことになるのだから、着ている間でしか出来ないことは楽しんでおきたい。  
 
シャツのボタンを下から外してお腹を晒す。重そうな胸に反して薄い腹は健康的で腹筋が程よくついている、俺のお気に入りの一つだ。  
メイコのトレードマークでもあるので、キスマークは厳禁と言われているが、毎回やってしまいたくなる衝動に駆られる。  
皮膚のすべすべとした質感。ここに舌を滑らせるのが好きだ。おいしそう、なんて言ったらその瞬間からメイコに引かれるのは目に見えてるし、彼女の肌の味は俺だけが知ってればそれで良いのでこの感想は墓まで持って行くことになるが。  
 
脇腹に至るとメイコの体が大きく震えた。彼女はくすぐったいのが苦手だ。  
「んぅぅっ」  
指を噛んで喘ぎをこらえるのはメイコの悪い癖だと俺は思う。痛いのは良くないよメイコさん。  
歯形がついた可哀想なメイコの人差し指を口からどけて、指をからめてシーツに縫い留めておく。  
くびれを舌の先で擽ると水揚げされた魚のように腰をうねらせる。  
 
ついつい魔が差した舌先はそのまま肋骨へと昇り、乳房の横を素通りして脇の下まで。  
僅かに汗の甘い匂いが浮いた関節の窪みに、舌をやわく触れさせて細かく動かす。汗の塩辛さが唾液と混ざって舌先から喉まで降りていく。  
「はっ、あぁ、ふぅっ、ぁあっ」  
性感帯である脇の関節部分を攻められて、メイコの喘ぎは大きくなる。  
空いた片手を下肢に伸ばし、彼女の下着の上から硬くなったしこりをくるくると擦る。  
上り詰める彼女の顔を見つめながら、湿った指と舌とを忙しなく動かした。  
「やぁあっ、あぁぁ、あ!」  
 
絡めた指が一瞬だけ強く握られて、あとはずるずると脱力。  
メイコが息を落ち着ける間に、どろどろに濡れた下着を剥ぎ取って足を開かせる。  
じっとりとぬめりを纏い、光を照りかえすそこを指で押し広げる。赤く熟れた部分が、次の愛撫を待ちわびるように震えていた。  
指でそこをつるりとなぞると、反射的に彼女が足を浮かせる。  
「…ね、もう、挿れてもいいよ?」  
 
メイコの口からめったに聞けないえろっちい台詞にちょっと傾きそうになったが、なんとか持ち直す。  
あっさり終わらせるのは勿体ない。彼女の勧めに反して、広げた脚の間に屈みこんで足の付け根にキスをする。  
 
「んぁあっ!」  
まだまだ終わらない前戯にメイコの嬌声が飛ぶ。  
割れ目に沿って舐め上げて、充分に濡れた襞と突起に唾液をさらに塗りたくったり、愛液の溢れるそこに舌を埋めて鼻先を敏感な突起に擦りつけたりしてやる。  
「ぁ、ゃんっ、そこ、ぁ、なめちゃだめぇっ!」  
足の間に埋まる俺の頭に細い指が引き離そうと伸びる。そのタイミングで突起の包皮を脱がせて唇で揉むと、メイコの腰が持ち上がり、髪を掴む指に力が籠って、俺の頭に股間を押しつけるという卑猥な姿勢になる。  
ほとんど悲鳴混じりのあられもない台詞を引き出せたことに満悦しつつ、閉じようと暴れるメイコの脚を押さえて愛撫を続ける。  
膣口に中指を差しこんで泳がせて、上の壁をひっかくように指を曲げて浅く出入りを繰り返す。往復する度ぴちゃぴちゃと泡立つみだらな音は、互いの理性を蹂躙する。  
「あっ、ぃ、あ、いく、ん、あぁぁっ!!」  
柔らかい胎内が俺の指を締め付けて、そしてびくびくと痙攣しながら緩やかにほどいた。  
 
 
 
指を引き抜いて身体を起こす。かすかな刺激にも反応するようになってしまったメイコは、濡れた部分に俺が動いた時の空気の流れが当たるだけで脚をひくひくと痙攣させた。  
「これから挿れるけど、大丈夫?」  
「……ん…」  
もう何か言う気力すらなくなったのか、相槌かどうかすら怪しい呻きをひとつ零す。メイコの顔は度重なる絶頂で耳や首筋まで真っ赤に染まり、唇や眼元からは拭われないままの体液が筋を作って、シーツに小さくしみる。  
苛めすぎたのかも知れない。それでもやめるつもりがない自分に苦笑いして、知らず知らずのうちに汗を吸っていた服を脱ぐ。  
お預けを食らってずくずくと脈打つそれを、柔らかい入口に当てこすって互いを焦らす。  
「あ、」  
「…入れるよ」  
メイコが頷くのとほぼ同時に、ほぐれた胎内に一気に沈む。熱く蕩かすような襞が俺を迎え入れるように蠢いて絡まった。  
「あぁぁぁっ、あ、は、かいと、あつ、い」  
「……ぅ」  
うわ言の様に熱いと喘ぐメイコの中こそ、全身の温度が集中したような熱さだった。  
全て納めて、大きく息をつく。白い膝が視界に入り、そこでまた魔が差した。  
大きく開いた脚を膝の裏から撫で下ろし、宙ぶらりんになった足を両手で拾って土踏まずを指で擦ると、まだ動いてもいないのに彼女の入口がぐっと締まる。  
「ぁ、やだ、足やだぁっ!」  
「…ん。ここもイイんだ」  
調子に乗ってこすこすと綺麗な曲線を描く足の裏を刺激する。今度足で今突っ込んでるモノをいじめてもらおうと思い立つ。  
しかし今はぎゅうぎゅうと締め付けるメイコに我慢が効かない。腰を引き、ぎりぎりのところまで引き抜いて再び叩きつける。  
それを繰り返すペースが上がっていく。肌がぶつかり、ふたりの体液がひとつに攪拌されるそれらの音が混ざって響く。  
「あっあっ、ぁは、ぅん、かい、あっ!」  
「く、…ぁ、メイ、コ」  
名前を呼びあい、メイコの肌の上に汗のまだらを作り、時には繋がる角度を変えて行われるそれは、彼女の中を粘液の塊で汚すまで続けられた。  
 
 
 
「メイコさんにひとつ提案があります」  
終わって即失神したメイコが目を覚ますのを確認して話を持ち出す。  
「なにその畏まった口調」  
「俺のYシャツ着て廊下を歩くの禁止」  
はぁ?とメイコが怪訝な顔をする。他の同居人が女子供で無害とはいえ、こんな危険な格好で野放しになっていたら体力が持たない。なので。  
「着るときは、俺の部屋にお泊りするときだけにすること」  
彼女が可愛く着こなしていた件のYシャツは、汗で湿気てベッドの下に下着と一緒に脱ぎ捨てられている。  
裸に毛布をかぶっただけの無防備なメイコは、俺のわがままにくすりと微笑みをひとつ零して。  
「じゃあ、カイト君にひとつ提案があります」  
「なに?」  
「Tシャツのバリエーションを増やして。今日一緒に買いに行きましょう」  
にやりと彼女が笑った。  
 
終わり  
 
 

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