誕生日の夜もすがら。ミクがお休み前にあいさつに来てくれました。
リンちゃん達に貰ったと言うおニューのふりふわパジャマを披露してくれています。
上機嫌ぽいので、この調子だと寝付くのには未だ時間が掛りそうかと……
「お兄ちゃん。今日は、お祝いしてくれてありがとうね」
「いや、大したこと出来てなかったけど……ミクにとって良い誕生日だったら嬉しいよ。
お休み、ミク。良い夢を」
「お休みなさいの前に……お兄ちゃん、あのね。もう一つプレゼントにね、お願い聞いて貰ってもいいかな?」
「お願い? 言ってごらん?」
「そう。だから、そのぅ。『お兄ちゃんと、今夜一緒に寝ても良い?』」
……ぐはっ! ――ナニイッテンデスカ? みくサン、キミハ――
枕を抱きしめながらの上目使いは止めなさい。
「……あ、あのですね。ミクさん。君、一体幾つになったと思ってるの?」
「16歳と48ヵ月ですv イコール20歳(ハタチ)!」
「……つまり、そうでしょう?
第一、ハタチ自称した女性がそう言うのは……物凄く意味深長な事なんですが……」
「え? 普通に一緒にって……」
「それじゃ、大人の行動ではないって言外にry」
「でも、お兄ちゃんがそう言ってくれるなry……」
もじもじくねくね仕出さないで下さい。
意味解って言ってるんですか君は!いや多分、解って言ってるんだろうが、な。それはそれで問題だろう。
正直。僕もくらりぐらりと来た頭と心臓を抑えるので精一杯なんですが……
「どちらにせよ、不許可です」
あくまに冷静に断言した。
「どうして? 18歳でもおkらしいんですが、あえてちゃんと成人になるの待ったんですよ!
メイコお姉ちゃんとルカちゃんには『成人祝いだー』って、お酒で祝福してもらいました! 苦かったけど、大人の味でした」
更に、小首を傾げて見せないで。それから訴えるにしても、近い、近い、近い! しかも、どこかで嗅いだ匂いが……
……なるほど、酒入りほんのり上機嫌なのか。ならば尚更、戯言を聞くのは出来かねる。
「……それに、ハタチになったら色々厳しい2chのBBSPINKもおkって言ってたし、だからお兄ちゃんには、そのぅ……」
――相変わらず。あの二人は。『何』吹き込んでるんですか! 明日は、味噌汁も小豆の砥汁も無しにしてやry――
今度は耳まで真っ赤にして目元まで潤ませて、何口走ってんですか! ああ全く。本当にこの子は……危なっかしくて、もう……
「待つんだ! ちょっと冷静になろう、ミク。
――BBSPINK(ここ)は、『21歳』からなんだけど」
「え?ぁ、そう。なのっ?」
「そうです」
重々しく頷く。
途端に、拍子抜けしてポカーンと団栗眼に見開いたかと思うと、直ぐにショボーンのAA通りに表情が急転上昇直下していた。
こんな風に機嫌が急転したりするのは、まだまだ子供の領域+酔っ払いの言動。
「――ぁあああ。また、来年かぁ。長いなぁ……」
つか、あんまり意味解ってないな。おい。
この分だと来年また、似たような愚を犯すことになるだろうなぁと、遠い目をしたくなってしまいますデス。
ただ、論点が思いっきりズレてくれたの良い事に、項垂れた頭をぐりぐりと撫でながら、真面目ぶって正論を垂れた。
「全く。そういう事に興味を持つのは仕方なくても、安易に行動に移すのは大人とは言えません。
大切なのは『ソレで大人に成れるワケでもアリマセン』!
衝動的で有るのは、まだまだ、子供の領分と言う事デス。
……それに、まだミクには。可能性とか色々考える事や余地は多いと思うし。
ハタチになったからと言って、誰でも急に大人になれるわけでも……」
――こっちも酔っ払い親父のクダみたいな、押しつけがましい説教ぶってただけだったので。
「はひ。――でも、ミク、考えたんだけどな。いっぱい……」
――だから、その時。微かにそう言ったミクの表情を見えていなかった。
「……それに急いで大人になる必要はありません、色んな事を経験してそうなって行くって。マスターも言ってました」
「あうぅ。大人への道のりって、まだ遠いのね……」
「そう。大人への道は遠く厳しいモノなのです。
解ってくれたら、約束してくれるかい?」
……明日になれば、忘れられているかもしれないけど。それは、それ。
「約束?」
顔を上げたミクが不思議そうに問うた。
「そう。安易な考えで、危なっかしい行動しないって事、ゆっくり大人らしくなるって事」
僕の言葉を、ゆっくりと噛みしめる様にして。憑き物が落ちた様な冷静な表情だった。
「うん、約束する。……お兄ちゃんの事とかちゃんと考えるから」
取りつける事は出来たけど、ちょっと思い詰めさせたような感じがしてしまった。
だから……やはりこういうのは甘いのかな?と思いつつ。つい口に出していた。
「……『約束』してくれたから。いいですよ、添い寝『だけ』なら。但し、本日中。午前0時迄」
「ふえ? ホント、いいの?!
でも0時って、ええーっ! 後30分も無いじゃないのー!」
急に真剣な表情を吹き飛ばし、きらきらと瞳を輝かせたかと思うと。
肩越しに見た時計に、あたふたしながら、善は急げとばかりに僕の脇をすり抜けて、
ふりふわの裾を盛大に広げて、ベッドにダイブしたミクの姿を見ていたら……もう苦笑するしかない。
これから色々な経験をして、大人らしく振舞う事を覚えていったとしても。
大元の可愛らしく、素敵……いや素っ頓狂な女の子である根幹は、きっと一生変わらないんだろう。
ちゃんと間をとって隣に横になった僕を見上げて、気恥ずかしそうに持参の枕を抱きしめ、ほやりと相好を崩したかと思うと、
何がツボに嵌ったのか、くすくすと笑うほろ酔いミクの頭をそっと撫でながら、自分もくすくす笑いが感染している事を知る。
「ミクが幸せそうだったら、まぁ、いっか。」そう思わせる何かが彼女の中にはある。温かいモノが心に染みる。
それに、すり抜ける間際に言われた言葉。「だから、お兄ちゃんって、好き」――慕われているだろう事は嬉しい。
――だけど、それがどんな意味合いを持つかは、きっとミク自身も見つけていまい。
偉そうに説教ぶった、大人の振りをしている僕自身にも。まだ、解らない。だから慎重に成らざるを得ない。
……けれど、向き合わないとならない事なんだろう。きっと、何時かは。
……だから。もうちょっとだけ、こんなアフォ可愛い妹でいて下さい。
大事にしたいんです。君を。君と過ごす、ちょっと危なっかしく素っ頓狂で、暖かい時間を……
――やがて、30分経たずに寝オチしてしまったミクを抱えて、ドギマギしながら部屋に送り届けるハメになるのは。
多分想像通りかと。
お粗末。