「いったあー……」
メイコはひりひりと痛む腕を見つめて思わず呟いた。
しまった。しっかり日焼け止めを塗っておくべきだったのに。
一日お日様の下ではしゃいだところでそんなに焼けないだろうと高を括っていたのが馬鹿だった。
毎年恒例のミクの「海に行きたい発言」によって敢行される海水浴で、歳甲斐もなくはしゃいでしまった事を少し後悔した。
パラソルの下でビールでも飲んでいた方が良かったかもしれない。
最も、運転手であるカイトがそれを許すはずもなく、メイコ自身も一緒に飲む相手がいないとつまらないので端からそんな選択肢は無かったのだが。
後悔した途端にそんな考えが頭をよぎるんだからたまったものじゃない。
ミク達と一緒になってビーチボールしたり、バナナボートに乗ったり。
あれだけはしゃいでいて日焼け対策を怠っていたのだから自業自得と言えばそれまでだ。
メイコはため息をついた。
去年は誰かさんのせいで遊べなかったから、ついはしゃぎすぎてしまったのだ。と、責任転嫁する。
メイコは視線の先にいる誰かさんをジト目で見た。
「なに。何か文句あんの」
「べっつにー」
風呂上がりのため上裸で肩にタオルを掛けているだけのカイトが怪訝そうにメイコを見た。
カイトも日焼けをしているが、メイコのように赤くなることもなく、こんがりと小麦色になっている。
それがまた悔しくてメイコは唇を尖らせた。
「勝手に私のビール飲まないでよー」
「誰のでもないでしょー。つーか、運転手だからって我慢して飲まなかったんだよ?風呂上がりの一杯くらい許してよ」
私だって、カイトが飲めないから飲まなかったもん。メイコは口には出さず、心の中で不満をこぼす。なんだか自分はカイトに振りまわされっぷりな気がする。
「なんか、メイコ随分焼けたね」
「そう。痛い」
「背中真っ赤」
「うそっ!」
姿見にくるりと背中を向けて振り返ってみる。するとタンクトップから出た二の腕と、ちらりと見える首筋から背中にかけて真っ赤に日焼けしていた。なるほど、痛いわけだ。
するとカイトが何かひらめいた様に冷蔵庫へ向かって取り出してきたのは冷えたローションだった。
「これ、ルカちゃんが日焼けにいいからって置いていったんだよね」
「ルカ〜〜〜〜」
メイコは半泣きになりながらルカの心遣いに感謝した。
プロデューサー同士が仲がいいこともあって旧知の仲であるルカとは、一緒に住んではいないものの本当の姉妹のように仲が良い。
一見ツンとした美人であるが、その細やかな所作はいつも大雑把なメイコの下を巻かせる。
「はい。めーこ、背中向けて」
「ん」
カイトの方に背中を向けてソファに腰掛ける。その瞬間に冷たいローションがひやりと背中を伝って思わず声を上げた。
「ひゃぁっ!?」
「冷たい?」
「つ、冷た……ひええ……」
後ろを振り向くとニヤニヤと笑っているカイトと目が合った。こいつ、わざとだ。このオヤジめ。
「まー、ルカちゃんの言う事聞かずに日焼け対策ちゃんとしなかったメイコが悪い」
「そりゃそうだけど……ひゃっ……」
「あと、その声エロい」
「はあ!?」
いきなり何を言い出すんだと思った直後に、ローションの冷たさとは別の冷たさを首筋に感じた。
ビールで冷えたカイトの唇だ。
「んっ……」
「冷たい?」
「冷たい……けど、」
吐息が、熱い。
ローションで冷たくなったカイトの手のひらが徐々にタンクトップの裾から入りこもうとしてくる。お腹を撫でられて思わず声を上げそうになる。
「けど?」
「〜〜〜この、変態っ」
「意味分かんない。こっちは親切でしてやってるってのにさ」
カイトの冷えた唇がちゅ、ちゅ、と徐々に湿り気を帯びながら耳の後ろまで上ってくる。
「部屋、行く?」
鼓膜を震わすように囁くカイトに向かって、メイコはこくりと頷くしかなかった。
「ローション、ちゃんと塗ってあげるからおいで」
そう言うとカイトはベッドに腰掛けた。メイコは大人しく床に座り込んでタンクトップをおもむろに脱ぎ捨てる。
その痛々しい真っ赤な背中にカイトは思わず顔を顰めた。これはしばらく苦労しそうだ。
冷えたローションを手のひらに開けて、それを彼女にパッティングしてやる。
するとメイコは気持ちが良いようで、ふうと小さく息をついた。
「ほら、前もやってあげるから」
「え、前はいい!!自分で出来るし!」
「遠慮しないの」
メイコを軽々しく抱きあげて身体の向きぐりんと変えて、膝に抱く。今更恥ずかしがる理由もないのに、メイコは露わになった乳房を隠すよう両腕で身体を抱いた。
「あー、もう。そうすると意味無いでしょうが」
「別に自分で出来るって言ったじゃん!」
普段はそこそこ素直なメイコだが、一度拗ねると面倒くさい。恥ずかしさから拗ねてそっぽを向いているメイコは非常に可愛らしいのだが、カイトとしても一刻も早く事に及んでもっと可愛らしい姿を見たいが故にさっさと日焼けの処置をしてしまいたいのだ。
「んじゃ、自分でやってよ」
「ここまでしといて!」
「えー……どっちなのよ……」
「だ、だって、手、使うと、隠せなくなっちゃう」
「それ、今更言う事?」
それを言われてしまうと何も言い返せなくなってしまうメイコが、むぐと、口を噤んで観念した様に両腕を下ろした。
身体を抱いていたことによって寄っていた乳房が引力に耐えられなくなって、たゆんと揺れて左右に離れる。白くすべすべとしてハリのあるメイコのそれは男達の夢と言っても過言ではないだろう。
カイトは両手のひらにローションを擦り込むと首筋ではなくその両乳房を撫でた。
「ひゃぁ!!??」
「ここ。胸のところも焼けてる」
「ちょ、だからって!!首は!?」
「さっさとやらせてくれなかったお仕置き。ここ、スースーして良くない?」
「ひあんっ」
よくローションを擦り込ませた右の人差し指と親指の指の腹で乳輪をくるくると撫でまわす。
普段よりも数段強いその刺激にメイコの背が弓なりになる。
倒れこまないように左手を腰に回すと、それも感じるようで、メイコはその強すぎる刺激に耐えるように自分の指を人差し指を噛んだ。
「声、我慢しなくていいよ」
「や、やだあ……」
「なんでよ。声出ちゃうのとかいつもの事でしょ」
「だって、いつもより、つよ、ひゃあ」
空いている左の乳房に噛みつくように吸いつく。くちゅくちゅとわざと音を立ててやると恥ずかしそうにメイコは目を瞑った。
冷たい刺激と生温かい愛撫がメイコを一度に襲う。初めての感覚にメイコは早くも達してしまいそうだった。
愛液がショーツを通してカイトの太ももを濡らしているのに自分でも気が付いていた。
ちらり、とカイトの方に視線をやると汗ばんだ額に濡れて張り付いた前髪を掻き上げる姿が目に入った。その色っぽい姿にドキリとして身体の芯が火がついた様に熱くなるのを感じる。
まだ暑い日が続くとはいえ、節電を心がけている我が家ではよっぽどのことが無い限りエアコンのスイッチを入れることは無い。加えて、今は夜も更けて夜中と言ってもいい時間だ。夜風も冷たく、冷房を入れることなど許されないのだ。
最も今は「こんなこと」の最中だから窓を開けるわけにもいかず、二人で密着しているので暑苦しいにも程がある。二人とも風呂から上がったばかりというのにその身体は汗とその他諸々の液でべたべただった。
カイトの色っぽい姿に見とれていると、彼の持つ深い藍の瞳と視線がぶつかった。その整った双眸がにやりと歪む。
「惚れ直した?」
「馬鹿いうんじゃないわよ……」
こういうお調子者のとこがなきゃ完璧なのになあ。メイコははあ、とため息をつく。どうも彼はここぞという時に茶化す癖がある気がする。
「正直に言わないと」
「!!んあああっ……」
下着の上から筋をつつと撫でられる。急な刺激にメイコはカイトの肩に爪を食いこませて身体を震わせた。
「いつもより濡れてる。ローションのせい?」
くすくすと面白がるように笑い声を漏らすとカイトは右の指にたっぷりとローションを掛け始めた。あっけにとられた様にメイコがその姿を見つめているとふいに唇を塞がれた。
「よそ見すんなよ」
「っ、だって!」
「メイコ、いいんだろ?これ」
指摘されて、思わず顔が熱くなる。顔だけじゃない。期待するように奥が疼く。
図星だ。それをカイトに指摘されたのがどうしようもなく恥ずかしい。だから下着のクロッチの脇から入ってくるローションまみれの指にも抵抗出来なかった。
「んあっ、あああっ……!」
「まだ触っただけだっつの」
薄い恥毛を掻き分けて顔を出した突起を軽く擦るとメイコの身体が一瞬びくりと跳ねあがり力が抜けたようにへなへなとカイトに枝垂れかかった。
「……ばか」
上目遣いに余裕そうなカイトをじっと見る。なんなのよ。自分ばっかり余裕しゃくしゃくって顔しちゃって!
「メイコが感じやすいだけだって。俺は大したことしてない」
むしろ愛撫しただけでここまで反応が返ってくるのはこのひんやりローションのせいなのか、それとも単純に彼女が感じやすいだけなのか。どちらにせよ、その過剰とも思える反応が自分の限界へ急激に昇りつめさせている事だけは確かだった。
指を二本に増やし、溢れ出る愛液を掻き出すように奥で曲げてやる。ごりごりと壁を擦る度にメイコはカイトの肩に顔を埋めて身体を震わせた。
たわわな乳房がカイトの厚い胸で形を変えて、その主張する頂きがカイトのそれを擦る。
「あ」
「なによう……」
思わず声を上げたカイトにメイコは力無く答える。息をするのもやっとな位だ。
「いや。後にするより」
「ひあ」
「今はこっち」
メイコを抱き上げて下から見上げる。豊かな乳房がたゆんと揺れてカイトを誘惑する。そこに顔を埋めたい衝動に駆られながらも、奥で動かしていた指をぐりぐりと回す。
メイコが再び達しそうな直前でゆっくり指を引き抜くと、メイコが名残惜しそうにこちらを見つめた。
「……?」
「俺の事も忘れないでよ」
窮屈になった下着をベッドの下に脱ぎ捨ててパンパンに張った自分自身を楽にしてやる。
ごくりとメイコの喉が鳴ったのを見逃さず、ゆっくりと彼女を膝の上に下ろしていく。
しかし、入口に宛がった瞬間にずるりと滑って上手く入らない。メイコも顔を赤くしながら一生懸命腰を下ろそうとするが上手くいかない。
もどかしくなってカイトはメイコを押し倒した。
「きゃあっ」
「その気持ちは嬉しいけど、じれったいよ」
「なんで中々入らないんだろ……」
「濡れすぎ」
そう指摘してやるとメイコは朱に染めた顔をますます赤くして茹でダコみたいになりながら目を見開いた。
ああ、もうなんでこんなに可愛いんだろ。僕のお姫さんは。
口には出さずに心の中で呟く。
油断しているメイコの中に自身を宛がい、ぐっと押しこめる。
突然の事にメイコは声にならない叫びをあげて、涙目でカイトを睨みつける。ぱくぱくと空気を食むように唇を開閉する。それに答えるようにカイトはメイコのそれにかぶり付いた。
メイコの口腔を舌で犯しながら下半身を奥に奥に進めていく。
何度経験してもメイコの中は狭く、締め付けがすごい。すぐにイッてしまいそうな自分を叱咤して堪える。
その快感を誤魔化すようにメイコに口づける。捕えようと追う舌に答えようと、メイコの小さな舌が差し出され絡み合う。
キュンキュンと小刻みに締め付ける膣がカイトを苦しめる。
「動くよ」
始めはゆっくりと腰を前後に動かす。その擦れる感覚にメイコは顔を顰めた。
段々と激しくなってくる前後運動にお互いの息が上がり、ベッドのスプリングがギシギシと音を立てる。
呟くように吐き出されたお互いの名前が部屋の中に響いて、まるで二人だけの世界になったみたいだった。
「メイコ……メイコ……!」
「カイト、カイト、んあっ……」
ぎゅうとカイトに抱き締められた瞬間に奥で熱いものが放たれた。
段々とお腹いっぱいに満たされるそれを感じた直後、メイコの力も一気に抜けた。
「そういえば、途中でなんて言おうとしてたのよ」
一通り終わって布団にくるまっていると、ふとメイコが思い出したように言った。
「メイコ、今日ホルターネックのビキニ着てただろ?」
今日彼女が着ていた水着はホルターネックのスポーティーなビキニだった。
赤地にストライプが入ったもので、勝手にカイトが購入してきたものではあるがメイコの身体を知り尽くしたカイトにはサイズぴったりのものを買うのなど容易い事で、それが似合いすぎる事も当たり前のことだった。
ちなみに購入してきたその日に水着姿のメイコは「おいしく」頂いている。
そのホルターネックで日焼け対策を怠るとどうなるか。
「リボンが垂れてるとこだけ、焼けてない」
「ええっ!?」
カイトの発言に思わず身体を起こして部屋の姿見を探す。カイトが指差した姿見に背中を映すと、確かにリボンの部分だけ変に焼けていない。
「そんな〜」
「まあ、いいじゃないの」
仕事着は背中出す衣装じゃないし。これを知ってるのは俺だけってことで。
そう心の中で優越感に浸ると、カイトはしょんぼりしているメイコの背中に口づけた。