「マスター。初音さんか鏡音さんが欲しいです。」
晩飯のメニューに悩む俺の隣に真面目な表情をして座った彼女の第一声はあまりに唐突だった。
「あ…えと…メイコさん?いきなりどしました?」
「だから初ね「いやだから何故にほしいのかというね?」」
オウムのように繰り返そうとする彼女の言葉を遮って理由を問いただしてみた。
「妹か弟が欲しいんです!!」
いよいよ意味が分からなくなってきた俺を置き去りにして彼女の力説は続いた。
「先日、マスターの実家にいった時ルカさん達を見てたらたら欲しくなってしまったんです!兄弟がいるって素晴らしくありませんか!」
確かに実家には妹がアホみたいに買いまくったせいでボカロだらけになって若干家庭内騒音問題になりつつあるが…。
「まさか…それだけの理由で?」
「はい。」
考えてみれ、彼女は俺が実家を出てから買ったのでずっと二人きりだった。
そんな彼女には実家のドタバタも即興でデュエットしたりする光景も憧れの光景なのかもしれない。
「でもさメーちゃん。僕は曲はメーちゃん以外に作ったことないから買ったとしても上手く歌わせてあげれるか分からないよ?それはボーカロイドという存在にはとても不幸な事じゃない?」
「確かにそうですが……でも…歌い方なら私がちゃんと教えます!生活の面倒も私が見ますから!だから…だからお願いします!」
……目の前の風景をお見せできなくて残念でならない。上目遣いで瞳を潤ませつつ見上げるなんて動作どこで覚えたんでしょうねこのボーカロイドさんは。
明日から単独でのインターネット禁止した方が良いのかな…。
「仕方ない…じゃあ週末に買いに行くかな。」
「マスター…「一人だけだからね!一人!」」
念を押すと「はい!」と元気良く返事をしつつ彼女は抱きついてきた。…メイコさん…あなたは少し無防備過ぎやしないかい。ああもう胸が自慢なのは分かってるから押し付けない!耳元で大好きとか言わない!押し倒しちゃうよこの娘はまったく。
そんなわけで我が家にもう一体ボーカロイドがやってくる事になったのだが、これが始まりでまさかあんな数になるとは…。
その話はまたいつかさせていただくとして、まずはメーちゃんの無意識(?)の誘惑から開放される手立てを考えないと…。