「ない。ない。……ないです」
マスターが「可愛い我が子たちへ」と与えてくれたVOCALOIDO専用の家の、とある一室――ルカの部屋。
美しく整った顔立ちに汗を滲ませながら、ルカは捜索を続ける。しかし、目当てのものが出てくる気配が一向に無い。
「ゆ、由々しき事態です……。泥棒……?」
頬に手を当ててうろたえる。が、すぐに我に返って自室から飛び出した。
*
時刻は午後二時半。この家に住む他のVOCALOID達は、リビングで過ごしていた。
カイトとがくぽがWiiで某オリンピックゲームで競い合う中、「二人ともガンバレー!」と応援しながら、ミクは紅茶を啜る。
実に微笑ましい午後のひと時だった。
だから、廊下からダダダダと荒々しく走ってくる音が聞こえ、勢いよく扉が開き、普段着ではなく純白のシフォンワンピース姿の
ルカが、桃色のロングヘアーを乱して血相を変えて入ってきただけでも驚いたのに。
「ヘンタイ、ミクちゃん!!」
――と開口一番に叫ばれては、ミクは紅茶を噴かざるを得なかった。
「げほっ、ごほっ! え……何? ヘン……タイ? ……ひどいよルカさん。げほっ……一番の、仲良し、姉妹だと思ってたのに……」
むせ返り、肉体的苦痛と精神的苦痛を味わいながら、ミクは涙を浮かべていた。ゲームをしていた男性二人も、何事かと寄ってくる。
「ごめっ……違っ……違うの。はぁ……はぁ……大変、大変なんです……」
こちらも二階からリビングまで『大変、大変』と叫びながら走ってきたので、肩で息をしながら苦しそうに弁明する。
そのままルカは、ふらふらとがくぽの腕の中になだれ込む。
「ルカ殿、何があったんだ?」
「大変なんですっ!」
「それはわかった!!」
未だに混乱しているルカに、落ち着くようにがくぽは諭す。ルカは大きく深呼吸して気持ちを落ち着かせると、口を開いた。
「私の、お気に入りの一つの下着が、ないんですっ!」
「『はぁっ?!』」
ルカの恋人であるがくぽはもちろん、くすんと目の端をゴシゴシと可愛らしくこするミクも、その頭を優しく撫でていたカイトも、
全員が叫んでいた。
「な、何故、そのようなものが……勘違いとかじゃ、なくて……なのか?」
「自室と脱衣所と、ベランダは調べました! けど、無いんです……最近つけてないなと思ったら、そもそも見当たらなくて」
「下着泥棒?! やだ、気持ち悪い!」
ぎゅうとミクもカイトに抱きつく。ミクの背を撫でながらカイトは言った。
「下着って、上下どっち? 両方?」
「下です、下!」
「いやぁぁぁぁ! パンツのほうっていうのが、なんかリアル!」
「ミクちゃん! そういうことを言わないでくださいよぉ!」
姉妹二人がお互いを抱きしめあい、わぁっと泣き出す。そこで険しい表情で、
「下着なんて盗んで、いったいどうするというんだ?」
とがくぽがいうものだから、ルカとミクもぴたりと泣き止む。ルカはジト目でがくぽを睨みながら小さく溢す。
「がくぽさん……考えないようにしていたのに……」
「えっ?! いや、すまない。……いや、でも、気になるだろ?」
「あー、がくぽさん。僕の予想なんですけどね、ブラのほうじゃなくてパンツってことは」
ビシッと人差し指を立てて、カイトは言う。
「多分、そのパンツの持ち主……ルカのことを思いながら、色々な部分を触って、中身の感触をイメージして、最終的にはファイト一発――」
「『いやぁぁぁぁぁ〜〜〜〜!!!!』」
カイトの説明に、女性二人は絶叫だった。二人してがくぽに抱きついてガクガクと震えている。何よりも守ってあげたい最愛の女性と、マス
コット的可愛さで妹のような先輩に抱きつかれるという状況は、まさに幸福! だがしかしカイトの説明に、男のがくぽですら普通にドン引き
ものだったので、今の状況を楽しむ余裕はまったく無かった。
「ルカさんのパンツが、今頃オカズにぃぃぃぃ!」
「いや! やだ! がくぽさん探し出して! でないと、今頃犯人が、私の下着が、……あの手で! あの手で!!」
「わかった、わかったから、とにかく落ち着け! …………。…………………」
ルカとミクの頭を撫でながら、ふと、がくぽは思いついた。「……そうか、わかったぞ、犯人が」と言いながらビシッと手にした扇子で相手
を指し示す。
「貴殿だ、カイト殿!」
「え、何……えぇぇぇ?! 何をもってして僕が容疑者に?!」
「カイ兄っ?!」
「カイトさん……?!」
他3人が驚く中、がくぽは言葉を続ける。
「容疑はこうだ! 盗んだ下着でどのような奇行に及ぶか知っていたのは、自分がそのような行動を取ったからではないか?
それにカイト殿はルカ殿を『ルカ』と親しく呼び捨てにしている! 以上。Q.E.D.」
「なんだよその暴論! しかも最後の理由とか明らかに私怨じゃねぇか! 自分が呼び捨てに出来てないだけですよね?!」
――しかも侍のクセしてQ.E.D.(証明終了)などと使いおってからに!
カイトは憤慨していた。――冤罪だ。自分はなにもしていない! ただ予想を述べただけなのに、確実に変質者扱いされている。
しかも恋人のミクまで、がくぽさんの背中からこちらの顔を窺うという、最悪の事態!
カイトは「それは違う!!」と叫び、がくぽを指差して反論する。
「ミクという恋人がいる僕が、他の女性の下着を盗む理由が無い!」
「『…………』」
がくぽ、ルカ、ミクの三人は、それぞれが「ミクと付き合っている」が前提でカイトが下着を盗む理由を想像する。
『ルカの使用済みのパンツなら高く売れるぜ! ひゃっほー!』
『ミクもいいけど、大人の女性もいいよな……一枚くらいならバレないよな!』
『なんでミクのパンツは干してないんだよ! しょうがねえ、ルカで我慢するか!』
「ねぇ今の想像、誰がどの想像してた?! めちゃめちゃ酷くない?! 僕って皆の中でどんなイメージなんだよ!!!!」
「『……ごめん……』」
「謝られた?! なんか、余計惨め!」
頭を抱えて叫ぶ。そして、キッと三人を睨みつけて言い放った。
「こうなったら真犯人、もしくは無くなった下着を見つけ出してやる!」と。
「もう犯人は誰でもいい……いえ、よくはないけど! とにかく見つけて! 安堵させてください!」
「四人で一緒に行動すれば、怪しい行動も取れないもんねっ」
「それもそうだな」
四人の意見が一致したところで、容疑者扱いとなったカイトは握り拳を揚げ、
「よし、じゃあ皆行こうぜ! ゲートオープン! 魔界へGO!!」
と叫んだ。他三人は『魔界って何処だよ』と突っ込んだのは、カイトには聞こえていなかった。
*
「灯台下暗し、にはなりたくなかったので、まずはルカさんのお部屋から探し出します!というわけでお邪魔しまーす」
ミクが先陣切ってルカの自室のドアを開く。余分なものがなく、清潔に片付いているシンプルな部屋。
ただ、三面鏡やそこに置いてある化粧品が、やはり女性らしさを感じさせる。
だが。
「ベッドカバーが黒ーい! 前はピンクだったよね? しかも素材がシルクですべすべ!」
年頃の女性なら、もっと明るい配色や柄を選ぶものであろう。だがルカのセミダブルのベッドは、黒だった。
ルカは照れたように言った。
「それは、私の肌が白いから、黒の中で寝ると映えるって言われたから」
「『殿、エローい!』」
「拙者じゃないわ!」
反論しつつ、誰が言ったのかという疑問の視線をルカに送る。ルカは「マスターですよ」と微笑む。
「ほぁ〜すべすべで寝心地いい〜……」
ゴロゴロとルカのベッドの上をミクは転がった。セミダブルなのでミクのような小柄な少女が転がると、結構広い。
「こら、ミク殿! 昼寝をしに来たわけではないだろう?」
「あ、そうだった」
ぴょんとベッドから降りると、タンスに向かう。下着が収納されている段は一番下なので、ルカとミクは床にぺたりと座る。
「ちゃんと探したつもりだけど……パニックだったから見落としがあるかもしれないですものね」
「では、開けるです! …………。…………………」
開けようとして、ミクは止める。
――下着が入ってるんだよね? わたしは平気だよね。女だしルカさんとは仲良し姉妹だし、うん大丈夫。がくぽさんはルカさんと
恋人同士だしまぁいいとして…………。…………………。
くるっと後ろを振り向き、指差して言った。
「カイ兄。カイ兄はリビングに戻って、ミルクでも飲んでやがれ! です」
「えぇぇぇぇぇぇぇ――――?! なにそれイジメ?! 僕だけつまはじき?!」
泣き叫ぶカイトを見て、ミクは慌てて言葉を続けた。
「ち、違うよカイ兄! プライバシーの問題なんだよ! 女子の恥じらいなんだよ! それに、それにね?」
カイトの腕を取って、頬を赤らめながら呟いた。
「カイ兄には、他の女の人の下着を見てほしくないんだよ……?」
「ミク……!」
「カイ兄……!」
カイトとミク。二人、しっかりと指を絡ませお互いの瞳を見つめあう。
バカップルだ。
「……さてルカ殿。戦力外は放っておいて早速始めるか」
「そうですね、がくぽさん。終わりましたら、先程やっていたゲーム、一緒にやりましょう」
なんとも冷たい二人の視線にカイトとミクは、慌てて指を離した。
「待って、わたしも探します!」
「僕もやるよ!」
「『いえいえ、お二人とも。どうぞお気になさらずに、リビングに戻ってミルクでも飲んでいてくれて結構ですよ』」
がくぽとルカ。こちらも見事なユニゾンだった。
「『ごっ……ごめんなさーい!』」とカイトとミクは叫んでいた。そして捜索開始しようとするが、やはりミクがカイトに対して
「ミルクでも飲んでいろ」と言うのに対し、『せめて部屋の隅で飲んでていい?』というので、承諾した。
がくぽも『調べるものがものだから、遠慮したい』と言ったのだが、何故かミクが袖を掴んで『強制イベント! こんなおいしい
シチュエーションはそうそうないですよ! 遠慮するとか、男かきさまぁ!』と言うので強制参加。ちら、とルカを見るとすごく
顔が赤く染まっていた。愛らしい。
『僕っていったい……』といいながらカイトはリビングに戻る。『別にミルクじゃなくてもいいよなぁ』と思ったので冷凍庫を
開ける。
――あれ、……アイスの買い置きが足りない気がする。
ざっとアイスを眺める。やっぱり足りないような気がする。しかし気のせいかもしれないし、アイスを食べる気分でもなかった
ので、言われたとおりにグラスにミルクを注ぎ、もと来た道へと歩く。階段を上っていくと、楽しそうな会話が聞こえた。
「やっぱりルカさんの下着はアダルティーだけどエレガントだね! ところで今探してるお気に入りってどんなヤツだっけ?」
「えっとチェリーピンクの……あ、これ。これのつがいです」
「ほぇ、なにこれ。ワイヤーがなくてレースだけでペラペラだよ?」
目の前で繰り広げられる女性二人のやり取りに、堪らず抗議の声をがくぽは上げた。
「なぁ、ここに、拙者がいる必要性をまったく感じないのだが! これが世に言う羞恥プレイというヤツなのか?!」
「わ、私もそう思うんですけど、ミクちゃんが……。あ、あとそのブラジャーは、その、…………」
言い淀む。しかし天真爛漫なミクが何?何? と聞くので、ルカは視線を落としてしどろもどろに話す。
「その、レースだけのほうが、し、自然に、……ゆ、揺れるからいいって、お店の人が」
「うわあああぁぁぁぁぁ!!!!」
両手で顔を覆ってがくぽは叫んだ。ルカも物凄く恥ずかしそうだったが、ミクは自分の胸を見て「自然に、揺れる……。……揺れ、る……」
とどこか寂しそうに呟いていた。そして恨めしげな表情と声でルカに襲い掛かる。
きゃ、と小さく悲鳴を上げてルカは横に倒れこむ。倒れ込んだ先にはがくぽがいて、自然と彼の背に手を回す格好になっていて、
さらにミクがルカの背後から山脈を揉みしだくという、端から見れば「なにこの3P」みたいな状況だった。
「うぅ。揺れるってなんだぁ揺れるってぇ……くすん。羨ましいよぉルカさぁん〜……!」
「あっ……や、やだっ……こんな、がくぽさんが見てる前でなんて……! や、ほんとに、だめ、ワンピース、ずれる!」
「うあぁぁぁ……大丈夫だ、心配ない。神威がくぽは、出来る子! だから、今のこの状況だって、別に、……べ、つに……」
――このとんでもない状況を救ったのは。
『うへへへへへ……いいねーみんな。楽しそうだねー……ははははは。僕も仲間に入れてよぉ〜……』
「『うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!』」
ドスのきいた怨念のようなカイトの羨望の声だった。
カイトが部屋に戻ってきたのを機に、がくぽも部屋の隅に移動する。その顔は赤らめてはいるものの、疲れが表れていた。
「助かった、カイト殿。来てくれなかったら今頃どうなっていたことか」
「……端から見れば随分と楽しそうでしたけどね〜……」
と悪態はついてみるものの、がくぽの顔を見ると、大変だったことが窺える。生真面目な人だし、女性のタンスを漁るなんて
嬉々として出来るようなタイプじゃない。というか、そういうタイプだったら、カイトみたく「ミルクでも飲んでろ」と言われて
いることだろう。それ以前にルカと恋愛関係になっているかも怪しい。
グラスに注いだミルクをちびちびと飲む。
「……しかし何故『ミルクでも飲んでやがれ』なんだ?」
がくぽの素朴な疑問に、あぁ、とカイトが答える。
「それはですね、とある星の調子に乗った王子が、王子視点で取るに足らないザコに言い放ったセリフなんですよ」
「そんなセリフを意中の相手に言えるものなのか?!」
「多分、なんとなく思い出したんでしょうね。それで使いたくなったんじゃないかな。ミクは天然で、狙ってないですから」
実はカイトの考察は間違いではなく、事実だった。ちなみにタンス漁りにがくぽを強制させたのは、成人男性が恋人の下着を
見てどういう反応をするのか見たかったという、とんでもない小悪魔的考えで、こちらは確実に狙っていたのだった。
――女性たちから、楽しそうな声が聞こえる。
「うわぁ……これぇ……向こう側が透ける……すごい。使ったことある? ルカさん」
「それは、お洋服を沢山買ったときキャンペーンだとかで貰ったので、使ったことはありません! 使えません……」
カイトはミルクを噴出しそうになった。隣を見ると、いたって普通の表情をしていた。
「ねぇがくぽさん、今の聞いてた?!」
「え? いや、聞いてなかった。心を落ち着かせるために瞑想していた」
「すごいこと言ってたのに!!」
「すごいこと、とは?」
「向こう側が透けて見える下着とか、そんな感じの内容でした。うわー正直、気になる!」
「うむ。そういうときは、アレだ。『イメージしろ』」
「は?イメージ、ですか?」
「なんでも、『イメージは自分の力になる』らしいぞ」
「そうなんですか。……やってみます」
イメージ。向こう側が透けて、下着としての機能を気持ち程度しか果たせていないような下着。つまり、桜色のアレとか、
同性同士か、本当に大切な人にしか見せられないような秘密の部分とかが見えてしまうという下着を、彼女が。
ルカが。
「うわぁ……すげぇ……ルカってやっぱ素晴らしいモン持ってるんだな……」
「……は……は……」
「はい? ……くしゃみ?」
「腹切れ貴様ぁぁぁぁ!!!!」
「うぅわ、殿がキレた!! 自分でイメージしろって言ったのに!! やめて! 刀はやめて!」
「ルカ殿でイメージしろとは言ってない!!」
「確かにそうだ! でもあの流れでは仕方ないと思う! うわ、待って、うわぁぁぁぁ!!」
男性二人が乱闘しているのを見て、ミクはくすりと笑った。
「良くわからないけど、なんだか楽しそうだね」
「もう……こっちは真剣なのに……」
※男二人も、真剣です。
*
乱闘を制し、ルカの部屋全体を探してみたが、やはり見つからなかった。とりあえず小休憩ということで、そのまま四人は
ルカの部屋でお茶を飲む。
「まぁ灯台下暗しになりたくなかったから探していただけで、もともとルカ殿の部屋は望み薄だったわけなのだが」
「問題は次に何処から探す、だよな……」
ここで四人全員がふぅ、と大きく溜息をつく。というのも、この家は広いのだ。マスターの実家が金持ちだとか、宝くじで
夢を買っただとか、いろいろな説はあるが、詳しくは彼らも知らない。
話を戻すと、彼らの住んでいるこの家は三階建てで、これから新しい“家族”が増えるかもしれないということで部屋の数も
余りがある。ちなみに三階はレコーディングスタジオになっている。
カイトはルーズリーフにざっと部屋割りを書いて、次の捜索場所を検討する。
「まぁ、三階はないよな」
「なんで? カイ兄」
「だってスタジオだよ? がくぽさんとルカがスタジオで言葉攻めと喘ぎ声の録音とかしてなければ、まずないと思うけど」
「『そんなマニアックなことするかっ!!』」
顔を赤くして否定するがくぽとルカ。だがこの場の全員が『ちょっと面白そう』と思ってしまったのは、誰もが口が裂けても
言えない事実だった。
「とにかくっ、拙者たちはそのようなことは断じてしてない! 三階は最後に回そう」
こほんと大きく咳払いをしてがくぽは否定する。そして表情を正し、声色を低くして言葉を続けた。
「……この家は広いから、一番厄介なのは。……本当に第三者が犯人だったときだ」
「家が広い分……お金持ちの家な分、本当に泥棒って事も考えられますものね……」
「えと、その時の責任は、家長だよね?」
がくぽ、ルカ、ミクが三人で頷きあい、家長を見る。
「……ん? なに、なんで僕を見るの」
「カイト殿が家長だろう?」
「えぇ?! そうなの?!」
「カイトさんが多分年長者ですし」
「そういう理由でわたしは除外です! 若いと得です!」
満面の笑みのミク。普段なら癒されるそれなのだが、ミクの発言に他三人全員が心の中でイラッとした。だがそれこそ「大人」
なので、全員がスルーを決め込んだ。
小刻みに震えながら、ルカが口を開く。
「そ、そんなわけでカイトさんが家長ですから、責任は取っていただかないと……」
「え、責任……うん、そうだね。責任取るよ」
「待て、何の話だ」
「責任とってルカを幸せに……うわ、右からがくぽさん左からミクは、無理、キツイ、やめて! 冗談なんだから! あ、そうだ
! 思ったんだけど!」
右と左から笑顔でプレッシャーをかけられて、慌てて別の話題を振る。
「あのさぁ! お気に入りの下着って、どんなときに使うのっ?! あぁ、決して、セクハラじゃないから!」
「どんなとき、ですか?」
ここでルカと、同じく女性のミクが目で会話をする。そしてまずはミクが口を開く。
「気分的なものだよね、ルカさん! どこかに出かけるときとか。女の子同士で出かけるときもだよね! 外だけじゃなく中も
ばっちり決めるの!」
「そうですね。ミクちゃんのいうとおりです。そういう意味では――」
にっこりと、穏やかに微笑みながら。
「好きな人に会いに行くときが、一番なんじゃないでしょうか」
女子二人の会話にカイトは「へぇ〜やっぱそうなんだ。デートのとき、外見は拘るけど、下着まではそこまで拘らないんだよ
ね、男は」などと考えていた。
――好きな人に会いに行くときが、一番なんじゃないでしょうか
頭の中である説が浮かぶ。同時に、あぁそうか、何故今まで浮かばなかったんだと苦笑した。どうやらそれはカイトだけではなく
ミクも同じだったようで、ぱん、と両手を合わせていた。そしてカイトとミクはお互いを指差して声高に主張した。
「『がくぽさんの部屋だ!!』」
「は、拙者の部屋?」
というがくぽの言葉に返事も返さずルカの部屋を飛び出し、カイトとミクは全速力でがくぽの部屋に向かった。
*
「『俺たち参上! ダ○アク担当!』」
実に楽しそうに叫びながらカイトとミクはがくぽの部屋のドアを開けた。そして同時に叫んだ。
「『めっちゃ洋室! 全然侍らしくねぇ!』」
「拙者も和室がいいとマスターに言ったのだが、」
遅れてルカとともに部屋まで来たがくぽは、どこか寂しげな表情で語る。
「……聞くも涙、語るも涙という話で、」
「『じゃあ、いいや!!』」
「語らせてくれないのかっ?!」
「今は殿の話なんか聞いてる場合じゃないんだよ! 尺の都合なんだ! 絶対この部屋にある!」
話なんか聞いてる場合じゃないと真っ向からばっさりと切られたがくぽは、見るからに落ち込んでいた。ルカが精一杯背伸び
して彼の頭を撫でている。
「侍なのにこたつもみかんも猫もないだなんて!」とミク。そして同時になんだか今のセリフ、前にも言ったことがあるような
気がしていた。
だがダブルベッドを目にした途端、考えを捨てルカの部屋のときと同様にダイブし、ゴロゴロと転がる。
「ダブルベッドいいなぁ〜。……? …………」
「ミク。他所の男の人のベッドになんて寝るんじゃない! ……って、どうしたの怪訝な顔して」
「カイ兄、カイ兄」
ミクは寝そべりながら、両手でカイトを手招く。近づいてきたカイトの耳元で囁いた。
(……このベッドから、ルカさんの香りがする!)
「生々しいわっ!」
ペシッと軽く頭を叩いた。「はぅ!」と声を上げ、う〜と唸りながらミクはベッドから降りた。がくぽに密着しながらクロー
ゼットを捜索していたルカは、ぷくっと可愛らしく頬を膨らませるミクを見てくすっと微笑んだ。次いで視線をベッドに移し、
がくぽの耳元で囁いた。
「ねぇ、がくぽさん」
「ん、……何、…………」
いきなり耳元で囁かれる。そうすると、今まで気になってなかった腕に当たる柔らかな感触とか、甘い香りを意識してしまう。
絡ませてた腕に力を入れられ、押し当てられていた胸がより強く当てられる。そして――
「……ベッドがやけに乱れているんですけど、どうしてでしょうか?」
「痛い痛い痛い!!!!」
思い切り腕を絞められた。ルカの顔は不機嫌そうで、がくぽは慌ててベッドに視線を送る。整っていたはずのベッドは、それ
なりに乱れていた。まるで事後のように。
「違う! 知らない! 多分、ミク殿が乱したんだと思うぞ?!」
「ミクちゃんが乱したんですね……」
「どういう意味で今の単語を使っている?! 『淫ら』と同義に聞こえるのだが!」
「はいはいお二人さん! いいから早く探そうぜ!」
大人二人の言い合いを大人が制する。ベッドを乱した張本人のミクは、床にうつ伏せになっていた。
「ミクちゃん、どうしたんですか?」
「ん〜とね、男性のベッドの下にはエロ本が置いてあるというのが世の定説なので、調べてるんです!」
「拙者はその定説には当てはまらないぞ」
『確かにこの人は持ってなさそうだ』、と他三人は思った。ミクはう〜んと唸りながらベッドの下に手を伸ばす。そしてなに
か本のような質感のものを掴んだ。これはまさかのエロ本?! と掴んだものを引っ張り出す。
確かにそれは本だった。サイズはA4でやや大きめ。表紙は、桃色のロングヘアーの女性が小さなブーケを持って微笑を浮かべ
ている。
「これはこのあいだ出たルカの……いや『巡音ルカ』の写真集だ!!」
「おぉ! そのような場所にあったのか! 買ったばかりだったのに行方がわからなくてな……礼を言うぞ、ミク殿」
「こ、こんなもの、出ていたんですね……」
がくぽが嬉々としてページをパラパラとめくるのをルカは頬を赤らめながら一緒に見る。カイトは「なんでそんなモノが
ベッドの下から……」と思っていた。そして何かを見つめているミクに声をかける。
「ミク? どうかしたの?」
「あのね、これ……」
目の前に出されたものは、下着だった。チェリーピンク色で、やけにヒラヒラしていて、一目で女性とわかる代物。
その場にいる全員が見る。空気が凍りつく。ルカはがくぽから離れて下がる。最初に声を出したのは、カイトだった。
「あー……そうかー……ははははは。うん、やっぱりというか」
不気味に笑い出したかと思うと一旦溜息をつく。そして「論破した」というしたり顔でがくぽを指差して宣言する。
「犯人はがくぽさんだったんだ!!!!」
「違う!!」
「違わない! 容疑はこうだ! 最近二人は一緒に寝てなかったらしいから欲求不満になって下着に手を出したんだ!
もしくはルカに気づかれないよう情事の最中に隠したんだ! 以上。Q.E.D.」
「違う! 暴論だ! それに何故そんなにテンションが上がっている?!」
「カイ兄拗ねてるんだよ! 初っ端から犯人扱いされて、ロクな目に遭ってなかったのに犯人は恋人だったんだもん!」
「だから違うと言うのに! 拙者は武士として男として……いや、人としてそのような真似はしない!!」
そこでがくぽは気づく。何の反応も示さない人物がいることを。本来なら一番に何らかの反応を起こす人物が、何も言わない。
恐る恐る振り返る。
切腹したい気分になった。
「…………」
ルカは笑っていた。実に穏やかで、とても愛らしい柔らかな微笑み。だが今のがくぽには分かった。第六感が告げていた。
この笑顔は、危険だと。
「ル、カ、どの?」
「なんですか、神威さん」
「そんな呼び方、今まで一度たりともされたことがないっ!!」
ルカの中のがくぽへの好感度が下がったようで、大ショックだった。頭を抱えてがくぽは叫ぶ。ルカは小さく溜息をつくとぼそりと呟いた。
「……わざわざ盗まなくても欲しいなら言ってくださればよかったのに、こんな騒ぎまで起こして……」
「『そういう反応もどうかと思う!!』」
男二人が同時につっこむ。「今回は許しますけど、次はダメですよ?」とルカは言い、がくぽの頭を撫でる。がくぽは「違う、違うのに……」
と否定を続けていた。カイトも彼の肩を叩き、「もう認めてしまえよ」と言っている。
大人三人のやり取りを右から左へと聞き流しながら、ミクはルカの下着をじっと見つめる。
「でも、このパンツ、変な汚れはないし、……匂いも……洗濯したてと言うか、…………。……………………」
――頭の中で、カチリと音がする。
――そう、これは。確か、一昨日か、一昨昨日の午後。ミクは鼻歌交じりに洗濯物を取り込み、綺麗に畳んでいた。まずカイトの部屋から
お邪魔して洗濯物を届け、次いで自分の部屋に。そしてがくぽの部屋に向かったのだ。
「あ、そうだ。今、がくぽさんとルカさんはデートだから居ないんだっけ……。洗濯物置くだけなら、入っても平気だよね?」
そう自分に言い聞かせて、がくぽの部屋のドアを開ける。
「めっちゃ洋室! 全然侍らしくない! 侍なのにこたつもみかんも猫もないだなんて!」
叫びながら部屋の中心のテーブル付近まで歩く。ルカの分の洗濯物も持っていたので、前が見づらい。
そんな状態だったので、何かを蹴飛ばした気がした。あれ? と思い足元を見ても、何もない。気のせいだったのかなと思うことにした。
「はぁ〜……いいなぁがくぽさんとルカさんラブラブで。わたしもカイ兄とデートしたいよ! 手をこう、ラブ繋ぎしたいよ! 未だにキス止まり
ってなによ! いつまでも子供扱いしてぇぇぇ〜!!!!」
叫びながら、両手をバンザイの格好にした。してしまった。
――両手には、大量の洗濯物があったのに。
部屋の中に、衣服が飛び散った。
「きゃあぁぁぁ! 折角綺麗に畳んだのに!!」
慌ててミクは畳みなおす。
「大丈夫だよね? 回収し忘れないよね? ……うん、多分大丈夫! さてと、次はルカさんのお部屋だー!……終わったらカイ兄の買い置きのアイス、
こっそり食べちゃうんだから!」
軽やかなステップを踏みながら、ミクはがくぽの部屋を出てルカの部屋に向かった。
――すぅっと、背中に冷や汗が垂れる。
――つまりこのパンツは、あの時たまたまベッドの下に落ちちゃって、わたしが回収し忘れてたのに気づかなかったってこと?
それに、あれ。あのとき蹴飛ばした感覚は、多分ルカさんの写真集だったんだ!
でも今犯人は「ルカさんの恋人のがくぽさん」ってことになってるから、問題ないよね……?
「『問題あるわっ!!』」
「ふぇっ?! え、なに皆、なんで……」
「『今の全部口に出てた!!』」
「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇ〜〜〜〜?!」
「そういうことだったのね……」
「ひどいぞミク殿……このまま拙者に罪を着せるなんて」
「どうりでアイスが足りなかったと思ってたんだよ!」
ミクは引きつった笑顔で、
「ご……ごめんなさぁぁぁぁい!!!!」
そんなわけで。
犯人は第三者による変質者の泥棒でもなんでもなく、この家の可愛いマスコットによる事故であった。各々が色々と精神的に疲れただけで過ぎていった午後であった。
数時間後、夜。
頭の高い位置で纏めている髪を解き、就寝時に着る浴衣掛け姿で、がくぽはダブルベッドの真ん中でぐったりと仰向けになっている。
「……疲れた……」
あの後、やれ「いつまでも子ども扱いするカイ兄が悪いんだ」だの、やれ「最低限の場所しか調べないで事件扱いするルカが悪いんだ」
だのと責任転嫁の押し付け合いが始まった。結局は「見つかったんだし、変なこともされなかったんだからこれで終わり」という至極真っ当な結論が出るまで
大分時間が掛かった。
目を両手で覆い、溜息をつく。
「お疲れの様子ですね、がくぽさん」
くすくすとルカの笑い声。がくぽは体勢はそのままで視線だけルカに向ける。ルカも就寝前のラフな格好……というか、がくぽのPV撮影の衣装の一つである
Yシャツを着て、テーブルで鏡と睨めっこしながら自身の長い睫毛に美容液を塗っている。
曰く“女の裏舞台は男は絶対禁制”で、その姿が見れるのはよっぽどの気心の知れた存在だけ、と聞いたことがある。とはいえ鏡であまり見えないし、
今は疲れているので、別段嬉しくもないのだが。
睫毛と戦いながら、ルカから話しかけられる。
「最初に一番ノリが良かったのはがくぽさんだと思いましたけど」
「犯人扱いされてから一気に疲れた……」
「ふふっ。ノリノリでしたものね、カイトさん」
「ルカ殿からも犯人扱いされる上に、神威さんとも呼ばれた……」
「あら。まだ気にしていましたの?」
「拙者が『巡音殿』と呼んだら、どう思う?」
「そうですね、……うん、『Love is over(愛は終わりました)』と思い、刺すかもしれませんね」
「よくわからないが物騒なことを言われたのだけは理解できた!!」
冗談ですよ、と楽しそうに笑いながら美容液を塗り続ける。冗談でないと困る、と思いながらがくぽは再び目を伏せる。
「うん。出来ました!」とルカ。
「私のターン、スタンドアンドドロー! 神威がくぽにライド! えいっ!」
謎のセリフと共に仰向けのがくぽに飛び掛る。飛び乗るとき、彼女の豊満なバストが暴れていた。実に素晴らしいシーンだったのに、
彼は目を伏せていたので見ていなかった。
がくぽの上に覆い被さり、彼の長い髪を手で梳きながら呟く。
「本当にお疲れのようですね。……うん、だから、今日は私、自室に戻りますね」
「…………」
彼女が、自分の上に乗っている。正直、疲れた。だけど、触れたい。彼女が欲しい、そう思う。けど、動けない。このままでは、去ってしまう。
ルカはがくぽの上から退く。だが「あ、でも」と言い、すぐにまたがくぽの上に乗る。
「このまま戻るのは寂しいから、……うん、キスだけ、していきますね」
そう言ってルカはがくぽの唇に唇を重ねる。最初は重ねあうだけの、淡いキス。互いの唇の感触を感じるためのキス。次いで濡れた熱い舌が
口の端をなぞり、下唇を舐め、ついばむようなキスをする。
がくぽの手がスッと伸びて、ルカの頭を引き寄せる。より深い口づけになり、最初に求めたのはルカの方だったのに、苦しそうな声が洩れた。
唇が離れると、ルカは妖艶な瞳でどこか艶かしく言った。
「疲れていてもこういうことは出来るんですね」
「ルカ殿のキスで覚醒した。それに」
ここでやめたら、アホか勃起不全だと思う。
*
「あっ……んっ……!」
Yシャツの上から、柔らかな胸を揉みしだかれる。ルカは未だにがくぽの上に乗っていたので、彼女がビクッと反応すると、ダイレクトにがくぽに通じる。
「思ったのだが、」
両手で胸を揉み続けながら、がくぽは言う。
「何故今夜は拙者の服を着ているんだ?」
いつものルカは、ミクと色違いのお揃いだというパジャマかネグリジェを愛用していた。
「それは、ですね……ひぁ! ……いつも同じ格好だと、面白みがないかなと思いまして……ひゃぅ!」
喘ぎながらも表情はにっこりと微笑んで答える。
「そうか。……普段の夜着もいいが、これはこれで、美しい。……だけど」
Yシャツのボタンを一つ、また一つと外していき、左右を開く。
現れたブラジャーを指差した。
「これ。これが今は邪魔だ」
「苦しいから寝る前はつけないんですけどね。Yシャツだから地肌が透けたら恥ずかしいので、薄くてつけてる感覚が少ないものをしていたんです」
どうせ寝るときには外されているでしょうし……と心の中で続ける。
Yシャツ一枚しか着ていなかったので、左右を開かれるとルカの白い身体と、上下ペアの、件のチェリーピンクの下着と黒のソックスだけだった。
ルカは着ていたシャツを脱いで、背中で止めてあるブラジャーのホックを外す。ブラジャーが外れるのと同時に、彼女の豊満な胸が揺れる。
下から見上げるルカの胸は、また違った良さがある。そう思いながらも上半身を起こして胸に顔を寄せると、乳首を口に含んだ。
「んんっ……! あぁっ……!」
ルカは大きく声を上げた。そんなルカの声を悦ぶように、がくぽは舌先で突起を舐める。敏感な部分を刺激されて、彼女は上がる声が止められなくなる。
がくぽはなおもそこに舌を這わせ、くわえ、吸い上げる。そうされるだけで身体中に甘美が広がっていくような感覚が走る。
「あ、や……がくぽさ……ぁ……」
音を立てて吸い上げながら、がくぽは片手で秘所を包むショーツに触れる。
「ぁ、あっ!」
「今日は散々、この下着に苦労させられた」
苦笑しながらがくぽはショーツの中に指を滑り込ませる。彼の指は割れ目の先端を探った。そっと、わずかに触れる。撫でられるだけで敏感なそこは、
痺れるような快楽を感じて、ルカは声を上げる。指はそのまま吸い込まれるように中心に触れて、花びらを探り出していく。
「や、あ……、ふぁ……」
ルカの秘所に指が埋まる。くちゅ、と音がした。がくぽは円を描くように指を動かし、指の腹の部分を擦りつける。
「ふぁ! ……ん、んっ!!」
指の二本で、花びらを挟まれる。そのまま上下に擦りたてられると、じわりと愛液が洩れこぼれた。ルカはもっと、とその先を求める。
「ここ……?」
「ひぁっ! ……あっ……」
がくぽの親指が、もう一つの花びらを擦る。三本の指を使って敏感な部分を擦られ、押し拡げられて、狭間をかき回されて水音を立てた。
「気持ちいい?」
愉悦に溺れた声で、意地悪くがくぽは尋ねる。答えようとしたその声は喘ぎ声になってしまい、ルカは身をくねらせる。
「んぁ……あっ!」
愛液にまみれた秘所はがくぽの指を挟みこみ、入り口はひくひくと震えている。そこを貫いてくれるものを欲しがって内股はわななく。
ルカは彼の浴衣の兵児帯を外し、無造作に着たままだった浴衣の前を左右に開き、「ねぇ、もう……」と求める。
「ルカ殿、腰を上げて」
ルカは言われるがままに動いた。快楽に震える手を彼の身体の脇に置き、腰だけを高く持ち上げた。
がくぽの手が伸びていく。ショーツに指が掛かり、引き下ろされ床に落ちる。濡れそぼった秘所に冷たい空気が触れて、ルカは小さく悲鳴を上げた。
「ねぇ、早く……」
ルカの性急な求めに、がくぽは微笑む。一旦ルカに退いてもらうと身に纏っていた衣服を全て脱ぎ捨てる。そうしてまたベッドの上に寝転ぶと、
先程のようにルカを自分の上に乗るように促す。
「このまま座って」
「えっ……?」
彼の言葉の意味が解らず、ルカは目を見開く。彼の手に促されるまま腰を下ろす。今まで彼の指が触れていた濡れた部分に、彼自身の先端に当たった。
「きゃっ……!」
彼の勃ちあがった欲望を見つめる。その隆としたさまにルカは目を見開くものの、それを見ると秘所の奥が濡れるのが分かる。思わず身体をよじらせる。
これに奥を突かれ、翻弄され、何度も声を上げたことを思い出す。
「そのまま、腰を降ろして」
「ふぁ……あっ! あんっ!」
洪水状態のそこに、濡れそぼった先端が入り込む。ぐしゃぐしゃに濡れた花びらは、突きこまれたものをたやすく受け入れた。
「あぁ! あ、あんっ!」
じゅくっと重いものに貫かれる。拡げられる感覚にルカは声を上げた。嬌声は濡れた音と絡まり、部屋の静寂を乱していく。
傘の部分を呑み込むまでは、ただただ拡がっていく感覚に翻弄された。しかし、もっとも太い部分を通り過ぎると、あとはぬめりを借りてずるりと
入り込んでいった。ルカの秘所は、一息に中ほどまでがくぽの熱塊を呑み込んでいく。
「ふぁっ、あ、あんっ! あぁっ!!」
濡れそぼった割れ目が、棹の部分で擦られる。花びらと、その先の固く尖った秘芽まで固いもので擦られて嬌声を上げる。
「やぁ……だめです、こん、な……」
がくぽが少しだけ腰を突き上げた。それにまた擦られて、悦ぶように襞が捲きつく。熱塊を呑み込んで、愛液が溢れ、くわえ込んだ熱塊にも絡みつく。
「ルカ殿……もっと、」
深くまで呑み込んでほしい、と訴えるようにがくぽが腰を突き上げる。感じる神経が強くなったルカは、甘い声を上げた。
そんなルカの嬌声をもっと聞きたくて、がくぽは突き上げていく。ルカはがくぽの腹部に手を置き、腰を跳ねさせた。
「ルカ殿……」
そう呼ぶがくぽの声も苦しそうで、どうすればいいのかとルカは迷う。どうすれば、彼を満足させられるのか分からない。
がくぽはルカの身体を引き下ろすように力を込めて、彼女の耳元に唇を寄せて囁いた。
「このまま体重をかけて、……深くまで、呑み込んでほしい」
「え、えっと……」
言われたとおりに、恐る恐る腰に力を入れる。体内をぐっと突き上げられる。熱塊が濡れた芽と花びらを擦りあげ、淫猥な音を立てた。
そうやって立ち続けに、感じる部分を突き上げられた。
「こう、ですか……?」と震える声でルカは尋ねた。ルカの腰にかけられていたがくぽの指が、快感をこらえるように力を込められる。
「ああ、よく、出来たな……」とがくぽは掠れた声で答える。ルカは「良かった」と安堵しながら腰を動かした。その動きは頬を染めて嬌声を洩らすルカの姿とは裏腹に、
あまりにも淫らな動きだった。
「……っ、う……」
がくぽが声を詰めた。何かを堪えるような表情をしたかと思うと、一際強く腰を突き上げた。するとルカの、もっとも感じる部分に先端が当たる。
続けざまにそこを突かれてルカは、全身を震わせた。
「あぁん! あんっ! あぁ!」
激しすぎる快楽から逃れようと腰を上げ、しかしまた味わいとも思い腰を降ろす。そうするとまた身体中に電流が流れるような快楽が走る。
がくぽの腕に抱きしめられる。がくぽの胸の中で、何度も大きく息をついた。彼も激情を抑えられないというように、腕に力を込める。
「奥が、あ、……あぁ! い、やぁ……!!」
ルカの頭の中は真っ白になる。全身がびくびくと痙攣した。愉悦の波に呑み込まれて、達してしまったのである。
それとほぼ同時に耐え難いほどに突き上げられて、最奥に熱いしぶきが飛び散った。
「んぁっ、あぁ……!」
彼の放った白濁がルカの中で広がる感覚に、ルカは震えた。
「ルカ、殿……」
掠れたがくぽの声が耳元で聞こえる。そんなことにさえルカはぞくっと感じてしまう。彼の背に手を回し、首筋に唇を寄せて口づける。
付いた痕に舌を這わせる。そして、がくぽの唇に自身の唇を寄せて口づけをねだる。
唇が触れるだけの淡いキスをして、互いを離さないようにと、愛情のこもった熱い抱擁を交わした。
一方同刻、カイトの部屋。
そこではピンクのパジャマ姿のミクが来ていて、テーブルに頬杖を突きながら羨ましそうに呟く。
「あ〜あ。今頃はルカさんは愛する人の腕の中でオンナの悦びを得ているんだろうな〜……」
「そういうことを言うんじゃありません」
ミクの対面に座るカイトが、雑誌に目を通しながらぴしゃりと答える。ミクはう〜と唸りながら、ガバッと起き上がり、
「ちょっと覗いてくるっ!!」
「やめなさい!!」
「なぁんで〜……! 大丈夫だよ! 怒られないよ! むしろ覗かれるのを多少なりとも心待ちしてるよ!」
「僕たちの家族が、覗かれるのを心待ちにする、そんな人たちだったらどうする……?」
「……やだ……」
カイトの説得に、ミクはげんなりとして答えた。
「はいはい、もうそろそろ日付跨いじゃうよー子供も大人も寝る時間だよー」とカイトは言いながらミクの手を引いてベッドに潜り込む。
『このまま襲ってくれたらいいのに』とミクは思っていた。きっとミクの考えなんて分かっているのだろう。けれども、カイトは手を出さない。
(彼女を目の前に手を出さないなんて、アホか性的不全だよっ!)なんて思うが、ぎゅ、と指を絡ませられると、許せてしまう自分がいた。