両手にコーヒーカップを携えた俺の目の前で、自動ドアが音もなく開いた。
「・・・ああ、どうもお疲れ様です」
室内に入った俺の足音に気付き、白衣姿の『監視役』の男が椅子越しにこちらを振り向く。
同じく白衣を身にまとった俺からコーヒーを受け取ると、男は再び正面のモニターに向き直り、手元のパネルを操作しはじめた。
「わざわざ見に来られたんですか?」
手を動かしながら、男が俺に尋ねる。俺はくい、と一口、コーヒーを喉に落としてから答えた。
「ああ。とりあえず、立場上な」
そう言って、俺は改めて、正面の壁いっぱいに広がる、複数のモニターに目をやった。
規則正しく並んだそれらには、この施設内の別のフロアに作られた、とある部屋が映し出されている。
殺風景で、白一色に塗りつぶされたその部屋は、見ようによっては病室に見えないこともなかった。
同じ作り、同じ設備に統一しているせいでわかりにくいが、これらのモニタは、全てが同じ部屋を監視しているわけではない。
監視対象は3部屋存在し、いくつかずつのモニタが、それぞれの部屋のカメラからの映像を映し出しているのだ。
そして今、その3部屋には、それぞれ1人の人物が存在していた。
「開始予定は・・・」
「もう少し先ですね」
壁の時計を見上げる俺に、男が先回りして答えた。
「この後、本番前に、彼女たちの状態を最終チェックするつもりでした」
「そうだな、頼む」
了解です、と短く答え、男がパネルをカタカタと叩く。
すると、前面のモニタの映像が切り替わっていき、その全てが、一室だけを映したものになった。
その部屋は、『3番』の部屋だった。
「うあぁ・・・あふぅ・・」
『3番』の吐息がスピーカーから漏れ出してくる。
映し出された部屋の中、唯一の設備とも言えるベッドに仰向けになったまま、3番はただ、天井をぼうっと見つめていた。
それを見下ろすカメラのレンズに、きら、と瞳が放つ、青い光が映りこむ。
特徴的な桃色をした長髪は束ねられていず、ベッドの上で放射状に広がって、ある部位は枕にからみつき、
またある部位は、汗ばんだ素肌に貼り付いていた。ここからは見えないが、その背中一面には、大量の髪の毛が
じっとりとへばりついている事だろう。3番はそれを手ではらいのける事もせず、ただじっと寝そべっていた。
もっとも、両手足をベッドに縛り付けられている以上、他に何をする事もできないだろうが。
そして彼女は全裸だった。寝巻きから下着まで、およそ衣服と呼べる物は何一つ身に付けていない、
文字通り生まれたままの姿だった。
だから、こちらからは3番の姿がよく観察できる。
虚ろなその表情だけでなく、大きく張り出した二つの乳房。理想的に細く締まった腰つき。
そして。
彼女の股間から伸びる、巨大な男性器が。
「んくぅっ・・・」
ずりずりと、3番が身じろぎをする。それに合わせて、どくん、どくん、と脈打ちながら屹立する肉棒が左右に振れた。
肉棒だけでなく、その下にずっしりとぶら下がる精巣もまた、常識を超えた大きさのものだ。
その身を充血させ、今にもはち切れんばかりに膨らんだそれらはしかし、爆発する事を許されていなかった。
ウィィン、と部屋の壁から機械音が鳴りだした。
「・・・ひっ!」
それを耳にした3番がびくりと震え、怯えた表情で壁の一点を見据える。
やがて、壁の一部がぱかりと開き、その奥から、銀色に輝く金属製の腕が姿を現した。
折りたたまれた状態から、次第に伸びてくるその先端部には、本体に似つかわしくない肌色をした、
筒状のものが取り付けられている。
弾力に富む素材で作られているそれが、3番の先端へとあてがわれ、ぐにゃり、と歪んだ。
「あひぃっ!」
亀頭への刺激に、3番が思わずといった様子で悲鳴を上げる。
金属製の腕には力が込められていき、その肉穴を、ペニスに対して垂直に押し付け続ける。
やがて、すぽん、という音とともに、その全体が、3番の性器にぴったりと嵌まった。
「はひぃぃぃっ、んひっ、ふぁぁっ・・・!」
そのまま上下にごしゅっ、ごちゅっと肉穴を動かされ、ペニスをしごかれる快感に3番が悶える。
途切れる事のないその声は甘く濁り、伸びやかで、この上なく扇情的な音色だった。
休むことなく、一定のペースで弄ばれる肉棒がさらに大きくびくびくと跳ね出す。
まるで、これ以上耐えられないとでも主張するかのように。
だがその瞬間、まるで意思を持った生物のように、腕がぴたりと動きを止めた。
「あうっ・・・!」
絶頂寸前でお預けをくらった3番が、もどかしそうに吐息をもらす。
そんな彼女を省みる事なく、無常にも、金属性の腕は肉穴をじゅぽん、と引き抜くと、その身を元通りに折りたたんでいき、
壁の中へと戻ってしまった。
「んぁぁっ・・・ひぐぅっ・・ふえぇぇ・・・」
またしても叶えられなかった望みに、一人残された3番は嗚咽をもらす。
どれだけ待とうと解放の訪れない、快楽の海の底から響くような、陰鬱さを伴って。
「3番は・・・」
俺はふと、男に訊いた。
「この状態で、どれくらい経つんだったか」
俺の質問に、センサーの具合を確かめていた男が、手元の画面を切り替えた。
あのセンサーは、3番の身体の緊張や興奮度合いを測るためのものだ。画面に映し出されていた金属製の腕と連動しており、
一定以上の数値が計測された瞬間、自動的に3番への責めが中断される仕組みになっている。
「ええと・・・ちょうど一月、ですね」
過去の履歴データを確認し、男が答えた。
一月か。常人ならすでに狂っていてもおかしくない。
だが、彼女については、そんな心配も無用なのだった。何しろ彼女は・・・いや。
彼女達三人は、人間ではないのだから。
「・・・2番の様子は?」
「少々お待ちください・・・」
そう言うと、男はスピーカーの制御を行い、その音量を大きく下げた。
延々と続いていた3番の喘ぎが徐々に小さくなり、やがて聴こえなくなる。
それから、パネルを操作して、モニタとスピーカーを、『2番』のいる部屋へと切り替えた。その途端、
「あひゃぁぁぁっ!」
部屋中に響き渡るような、『2番』の甲高い嬌声がとどろいた。
男が顔をしかめながら、音量をさらに下げる。ようやくまともに聴こえるようになった状態で、俺はモニターの映像を見た。
「あへぇっ、あへぇぇっ!んおおおっ!んっひぃぃっ!」
部屋の中では、2番が床にべったりと腰を据え、膝を立てた体勢で激しく両手を動かしていた。
短くそろえた黄色の髪に、大きなリボン付きのカチューシャをはめた頭部をがくがくと前後に揺らしながら、
あふれる涎をそこら中に撒き散らしている。その両手でがっしりと握っているのは、3番に使用しているものと
同じ肉穴であり、それを自らの下腹部――そこにもまた、固く勃起した男性器が生えている――に激しく突き立てていた 。
ぎゅっぽ、ぎゅぽっ、という卑猥な音を立てながら、一心不乱に擦りあげるペニスが、徐々に膨らみを増していき、
ほどなく射精を迎えた。白濁液がびゅるっ、と肉穴の先から噴出し、そのまま床へとこぼれ落ち、染みとなっていく。
だが2番は一向に手を緩めることなく、萎えてしまったやや小ぶりな自分のモノを、ごしごしと刺激し続ける。
と、見る間にそれが硬さを取り戻し、早くも次の絶頂へ向けてビクビクと震え始めた。
「ぐひいいっ!ふひっ、んふひぃっ!ふひひひっ!」
泡のようにあふれ出す間歇的な笑いとともに、2番の幼い顔貌が、射精への期待でにいい、と歪む。
他のモニタを見れば、全ての画面に映りこんだ床、壁面、果ては天井にまで、2番の狂騒的な行為の証が染み付いている。
俺の記憶が正しければ、彼女もまた、3番と同じく、一月はこの状態が続いているはずだった。
「おっほぉぉぉぉうっ!」
画面の向こう、恐らくは、むせ返るような熱気と臭気が充満した部屋で、2番が一際大きな咆哮をあげる。
仰向けになって、両足と頭だけで体重を支え、腰を思い切り付き上げた不恰好な体勢で、2番は早くも次の絶頂を迎えていた。
「なあ」
俺の呼びかけに、男が顔を上げる。
「あれだけ激しくしてて、2番の身体の方は何ともないのか?」
そうですね、と男が応じ、ぎしり、と椅子を鳴らして座り直した。
「あの肉穴と一緒に使わせているローションは特製のもので、生体的な自己治癒力を補うようになってるそうです。
だから少なくとも、表皮がひどく傷ついたりする事はないんだとか。それ以外のことは、僕もよく知りませんけど」
男に軽く頷き返すと、俺は黙った。男も、それ以上何も喋らなかった。
部屋にはただ、狂ったように2番が喚き散らす、耳をつんざくような声だけが響いていた。
その時、手元のパネルで何かを監視していた男が
「ああ、また始まった」
とつぶやくと、素早く画面を切り替えた。
モニタから2番の姿が消え、代わりに『1番』の部屋が全体に映し出される。
男がスピーカーの音量を元に戻すにつれ、ごつっ、ごつっ、と、断続的に響く、鈍い音が聞こえた。
一体何だ、と言いかけたところで、俺は画面の一つを見て、その原因を理解した。
画面の片隅には、『1番』の姿があった。
壁に向かって立っている彼女の両脇で、緑がかった大きなツインテールが、ぶらぶらと左右に揺れている。
まるで止め方を忘れてしまったメトロノームのように、それらは絶えず動き続けていた。
なぜなら、彼女が何度も何度も、壁に向かって自らの頭を打ち付けていたから。
「2回連続で『はずれ』が出ると、いつもああなんです」
男が説明しながら、パネルを素早く操作する。それを終えると、ふう、と一息つき、コーヒーカップへと手を伸ばした。
ほどなくして、まるで同じシーンを繰り返し再生しているようだった映像に変化が表れた。
1番の胸元で、何かがちか、と点滅したのだ。
その途端、彼女は頭を打ち付けるのをやめ、くるりと振り向いて壁に背中を預けると、視線を下げ、自分の胸元を凝視し始めた。
1番が体の向きを変えた事で、画面には、彼女の表情と、その全身がはっきりと映し出された。
すなわち、興奮と期待と不安がない混ぜになったような奇妙な表情と、ふっくらと盛り上がった胸の中心部の発光体、
それに、一糸纏わぬ姿の下半身で、大きくその存在を主張している陰茎が。
胸の発光体はちかちかと明滅を繰り返し、その間隔が徐々に早まる。やがて、緑色の光を発した状態のまま、点滅が停止した。
それを見届けた1番の唇が、にまあ、と奇妙な笑みを形作る。
と同時に、股間の剛直が上下に弾み、その先端からぶしゅうっ、と勢いよく精液が噴出した。
恍惚の表情を浮かべた1番の体が、膝からがくりと崩れ落ちた。
「あれが例の仕掛けか?」
1番の胸元の発光体を指して、俺は言った。
「ええ。一定時間ごとに判定が行われて、光が点けば『当たり』、消えたら『はずれ』なんだそうです」
「それぞれの確率は・・・」
「五分五分にしてあります。ただ、さっきの状態でさらに『はずれ』が出てしまうと、何をやるか分からず危険なので、
強制的に『当たり』を出しました」
「確かにな」
モニタの向こうで、再び、1番の体に組み込まれた発光体が点滅を始めた。先ほどと同じく、1番の表情が激しく変化する。
これから訪れるかもしれない快楽への期待と、それが裏切られるかもしれないという不安がめまぐるしく入れ替わる。
間もなくして、点滅が止まった。今度の結果は『はずれ』だった。
萎むようにして消えてしまった光を追って、1番の顔が深い絶望に沈んでいく。
そして、やにわに両手で自らのモノを掴むと、必死になって手首を上下動させ始めた。
固く、大きく反り返ったそれは一見、今にも射精を迎えようとしているかに見える。
だが、いくら激しく刺激を加えようと、光が消えている間は、決してその欲望が発散されることはないのだ。
歯を食いしばり、目に涙を浮かべながら、無我夢中でその行為を続ける1番の横顔を見ながら、俺はぼそりとつぶやいた。
「・・・ここまでやっても、目的は果たせなかったんだよな」
「ええ、だからこそ、今日の計画を実施する事になったわけですから」
横目で俺をちら、と見 上げて、男が問いかけてくる。
「上手く行くと思いますか?」
「さあな」と俺は答えて、残りのコーヒーをぐい、と飲み干した。実際、見当も付かなかったのである。
これからやろうとしている事の中で、何が起きるのか。
人間でない連中が考えていることなど、俺にわかるわけがない。
「・・・そろそろ時間か?」
「はい。開始します」
そう言って、男がモニタを元の状態に戻すと、2番と3番の姿が画面に戻った。
それぞれが、それぞれの環境で、ただひたすらに自分の内の欲望だけと向き合っている。
男は続けて卓上の端へと手を伸ばし、そこにひっそりと存在していた、一つのスイッチに指をかける。
他の準備が全て整っている事を確認してから、そのスイッチを、パチン、と切り替えた。
その瞬間、全てのモニタの映像に変化が起こった。
ズズズ、という細かな振動とともに、それぞれの部屋を構成していた壁面が天井へと吸い込まれ出したのだ。
あまりの出来事に、3人それぞれが大きく目を見開き、体を強張らせている。
やがて各部屋の壁は完全に消失し、それを確認した男が、パネルを操作する。
前面のモニタが全て統合され、ある一つのカメラからの映像が、壁一面に大映しの状態となった。
「さて・・・」
俺は腕組みをし、無言のままで事態の推移を見守った。
ただ一つ、モニタ上に残された光景。
そこに映っていたのは、互いを遮る壁がなくなり、一つの大きな部屋となった空間で対面した、1番、2番、3番の姿だった。
体の自由が利かない3番はもとより、1番も2番も身体を凝固させて、突如として現れた他の二人を、ただじっと見つめている。
誰も、一言すら発する気配はなかった。
無言の内に、時間だけが過ぎていく。1分、2分。
永遠に続くかのように感じられたその沈黙が、2番によって破られた。
「ふっ、んふふぅっ・・・ふひぃぃっ!」
それまでうっすらと聞こえていた2番の笑い声が、突如、爆発するように大きく響いた。
そして、ぐるん、と3番の横たわるベッドの方を向くと、その声を絶やさぬまま、一直線に駆け出した。
その右手に、自分が使っていた肉穴をしっかりと握り締めたまま。
「ひっ・・・!」
自分の方へ、まるで獣のようにまっしぐらに突っ込んでくる2番を見て、恐慌に襲われた3番は、必死で逃げ出そうとした。
しかしどれだけ力を込めようと、その手足を拘束している鎖が解ける事は無い。
その間にも、2番と3番の距離はみるみる縮まっていく。そんな目の前の光景を、1番がただ棒立ちになって眺めていた。
「はふっ、はっ、ふっひぃっ」
3番のベッドにがばっと取り付いた2番が、目の前にそそり立つピンク色の巨塔を、しばし憧憬の目つきで
うっとりと眺めまわす。
無遠慮に、その節くれだった陰茎やぽってりとぶら下がる陰嚢をべたべたと撫で回すたび、びくびくと3番の身体が痙攣する。
やがて2番はのそり、とベッド上に立ち上がると、右手をゆっくりと掲げた。
「・・・っ!」
その手に握られた肉穴に気付き、3番の顔が一瞬ぎくり、と硬直した。
ついで、恐怖に支配されていたその表情が、ぐずぐずと蕩けていく。
その下から表れたのは、悲願への、かすかな希望を見出した、とても淫らな期待の色だった。
そんな3番の様子には目もくれず、2番は目の前で尿道口をぱくぱくとさせている亀頭に、くちゅ、と肉穴をあてがった。
「あひゅぅっ・・・!」
先端に走った柔らかな感触に、3番が熱い鼻息とともに気の抜けた喘ぎをもらす。
2番はさらに力を込め、その肉穴を、ずぶぶぶと一気に引き摺り下ろした。
「んぐっひいいいんっ!」
3番の声が上ずり、裏返った。
と同時に、顎ががくんと上がり、3番の不自由な体が弓なりにびきんと反る。
「はっひっ!あへっ、あへへっ!」
2番はただひたすら、自分の性器にそうしていたときと同じように、3番の肉棒を全力でしごき上げていた。
もはや自分のモノと他人のモノの区別すらつかなくなってしまっているらしく、一切手を加えていないにも関わらず、
2番の小ぶりな肉棒は、先ほどから何度も射精と勃起を繰り返していた。
その精液をも潤滑油にして、肉穴はぐちゅぐちゅと3番のペニスを汚していく。
もともと2番のサイズに合わせて作られたそれは3番には小さすぎ、今や完全に伸びきってしまっていた。
だがその分、内側の締め付けは尋常ではなく、容赦のない力でぎゅうぎゅうと、3番から精液を搾り取ろうとしている。
「んほぅっ、おほっ、んああああっ!」
下半身からの刺激にぐちゃぐちゃに掻き回された頭で、絶頂が近づいている事を3番は自覚した。
これまでずっと、渇望しては与えられなかったモノが、すぐ目の前までやって来ている。手を伸ばせば届きそうなほどに。
その期待と歓喜に脳内の興奮は際限なく高まり、眼は大きく剥かれ、口から発せられる声はますます調子の外れた絶叫となる。
「んにゃああああっ!んぐっ、ひぎいいっ、あひっ、あっ、あっ、あっへええええっ!!」
ごりゅん、と何度目かに2番が肉穴をずり下ろしたその瞬間、3番のペニスが限界を迎えた。
ぶびっ、ぶびびびぃっという、空気混じりの排泄音が轟き、異常なまでに粘度の高い精液が、噴出孔から迸った。
溜まりに溜まっていたそれはいつ果てるともなく噴出し続け、その塊がぐりゅぐりゅと尿道を通りけるごとに新たな刺激を
生み出し、3番をさらなる高みへと導いていく。
いつ終わるともしれない禁欲から解放された3番を待っていたのは、やはり終わる事の無い絶頂の繰り返しだった。
「はぐぅぅっ!ふっ、ぐっ!んむっぐぅぅぅんっ!!
排出のたびにいきむように声を絞り出す3番の腹に跨り、天からびしゃびしゃと降り注ぐ精液のシャワーを盛大に浴びながら、
2番は目の前で唸りを上げるそれを、まるで純粋な子供のような瞳で、ただぼんやりと見つめていた。
「・・・ぜえっ・・・ひゅうう・・・ふぅぅ、ふへぇぇぇ・・・」
ようやく射精が止まったときには、3番は全精力を使い果たしてしまっていた。
そこここに薄黄色の水溜りができたベッド上には、むわっとした異臭が立ちこめている。
その中心で、大口を開け、舌をだらりと垂らしたまま、必死で呼吸をする3番を尻目に、2番がゆっくりとベッドから下りる。
べっとりと、一面精液まみれになったその顔が、ぐぐ、ぐ、と、1番の方へ向けられた。
2番によって、3番が陵辱される一部始終を見ていた1番が、びくり、と震えた。
「んっふぅっ・・・」
視線を1番に固着させたまま、2番がひた、ひたという静かな足音をさせてにじり寄る。
「んひゅっ、んふひぃっ・・・」
しゃくり上げるように笑いながら、2番が右手の肉穴を股間へと突き立てた。
ぎゅぽっ、ぎゅぽっと歩くペースに合わせて前後させるその先端から、粘液とローションの混合物がびしゃびしゃと吹き出す。
その上をびちゃり、べちゃりと渡りながら、2番は徐々に1番へと近づいていった。
自分に危害が加えられることを恐れた1番は、その場から逃げようとした。しかし、すでに腰が抜けており、
歩くことすらままならない。
その場にへなへなと座り込んだまま、ただ、後ずさるように両足を動かすので精一杯だった。
そんな1番を見下ろす位置まで近づいた2番が、大きく広げられた1番の股間のモノを、捕らえるようにぎい、と睨んだ。
わなわなと、1番の唇が震える。湧き上がる涙をぬぐうこともせず、ただいやいやをするように弱弱しく首を振る。
2番はその場にしゃがみこむと、すっかり萎縮してしまった1番の性器をを弄ぶように指で撫で回した。
さわさわと触れたそこがむくり、と首をもたげてきたところで、大きく口を開くと、先端から根元までを、ぱくり、と咥える。
「・・んんっ、ふむぅ、ぷぁ・・・」
2番の唇と舌の上でぬちょぬちょと転がされていくうち、たちまち1番の肉棒が硬さと熱を取り戻していく。
ぎゅっと眼を閉じて快感に耐える1番の足元で、しっかりと芯の通った肉棒が、頬の内側や喉を叩く感触を楽しんでから、
2番がちゅぷりと口を離した。
「ん・・・はぁ・・。ふぅ・・・んふふぅっ」
つんつんとソレを指先で小突き、辱めるに足る十分な勃起を確かめると、2番がまたにやりと笑う。
そして、両手で持った肉穴を、捧げるように高々と振りかぶった。
怯えをたたえた眼で、2番を見上げる1番。
勝ち誇った表情で、1番を見下す2番。
二人の視線がぶつかり、一瞬、動きが止まる。
次の瞬間、2番がまるで鎚を叩き付けるかのような勢いで、1番の股間めがけて両手を振り下ろした。
電流のように全身を走った刺激に、1番の眼が大きく見開かれる。
3番の、極めて太いペニスによって大きく引き伸ばされた肉穴はしかし、強い伸縮性によって元の状態にまで戻っており、
1番のそこをもまた、ぎしぎしと容赦なく締め上げた。
「はっ、はぁっ、んはぁぁっ!」
興奮した様子の2番が、根元まで一気に下げた両手を使い、ぎゅっ、ぎゅっと1番の男根をもみしだく。
柔らかい肉穴の上から、形を確かめるように握っていき、その手応えを感じ取る。
それが済むと、ゆっくりと両手と肉穴を上下させ、1番の肉棒への愛撫を開始した。
―――無論、それは、2番にとってはそのまま、自慰を意味するのだが。
「あはっ、はうぅんっ!」
粘つく自らの涎とローションにも後押しされて、瞬く間に肉穴を滑らせる速度を増す2番。
摩擦が弱いせいで圧迫される感覚はないが、その代わり、ぬるぬるとした軟体生物が性器を這い回るような感触が1番を襲う。
それに呼応するかのようにガチガチに勃起していくその様相を見て、興奮した2番がさらにペースを上げた。
2番の股間も激しく反応し、肉穴の上下するペースに合わせてびくん、びくんと激しく脈打つ。
しかし、そんな目の前の光景に関わらず、1番の胸には今、光が灯っていないのだ。
達する事を許されない中での激しい手淫は1番にとって、3番と同じく、ただ苦痛でしかなかった。
「んぐぅ、んうぅぅ・・。・・・ふあぁぁっ!」
いつまでたっても射精の気配を見せない1番のペニスに、2番が焦れたように叫び、苛立たしそうに立ち上がった。
目の前の性器が絶頂を迎えないことには、それと同調している2番もまた、射精する事はできない。
そんなじれったさに耐えかねた2番は、もはや手段を選ぶつもりはないようだった。
「はっ、あふっ、あひっ、はへぇっ!」
あわただしい動きで2番が膝を大きく広げ、ぐぐっと前かがみになって、肉棒を下へと向ける。
1番に嵌め込んでいる肉穴をずず、と半分だけ引き抜くと、その先端に、つぷりと肉棒をあてがった。
「んひぃ・・・」
そして、一切の躊躇いもなく、穴の中で待つ1番の亀頭めがけて、ずぶう、と自らのペニスを突き刺した。
「んおおおおおぅっ!」
ようやく収まるべき場所へ自分を収めた至福の叫びとともに、2番が即座に発射する。
勢いよく発射された粘液は、肉穴の内壁を伝ってそのまま1番のモノに降りかかっていく。
亀頭、陰茎、さらには包皮の隙間にまでじんわりと染み込む熱っぽい感覚に、1番が思わず腰を浮かせる。
「あへぇぇっ!あぁぁ、うああああっ!」
催促するかのようなその動きに、2番が今や一続きとなった自分と相手のモノを、大きなストロークで擦り始めた。
ずるり、ずるるっと肉穴を往復させ、1番の根元から二人の先端をぐにぐにと揉みほぐしつつ、自らの精巣まで
余すところなく責めあげる。
さらには先端の柔らかな感触まで貪ろうという勢いで、ぐりっ、ぐりっと1番の亀頭に向けて腰を押し付け始めた。
自分だけでなく、相手の持つ性欲すら奪い、堪能しようとする貪欲さ。
そんな2番の意識にあてられたのか、1番もいつしか同じように腰を振っていた。
肉穴は中央で固定され、その内部で二人の尿道口が何度もキスを交わす。その度ごとに、両者の間にとろりとした
粘液の架け橋が繋がれる。
ごぼごぼと肉穴の中を泡立たせながら、何十度目かの挿入を繰り返した時、1番の胸の発光体がちか、と点滅した。
だがもはや、1番はそれに斟酌することなく、ひたすら腰を打ちつけ続ける。
途切れることのない快楽の波に、他の全ての思考が押し流されてしまっていた。
そして、二人が全力で腰をぐいぃっ、と押し付け、肉穴が2番の手でぎゅぅぅっと握りつぶされた瞬間。
1番の胸で、光が灯った。
「んっひぃぃぃっ!はふぅっ、あうぅっ、ひっ、ひぐぅぅんっ!」
ぼびゅるるっ、という激しい噴出音とともに、肉穴の両端から、おびただしい量の精液が迸った。
両者とも天井を仰ぎ、自分の肉棒の表面が、焼けるように熱い粘液でどろどろとコーティングされていく感覚を、
精一杯に受け止めていた。
そのうちに、びしゃびしゃという水音を立ててこぼれていた精液が、ぽたり、ぽたりという雫に変わった頃、
ふっ、と2番の手が緩んだ。
ついで、支えを失った肉穴がずるりと抜け落ち、精液まみれの床にぼとりと落ちる。
「・・・あふえぇぇぇ・・・」
一瞬の間があって、2番の身体がべしゃり、と横ざまに倒れた。
白目を剥き、射精直後でだらしなく垂れた性器をぶらさげて、それでも2番は満足そうに、喉の奥から
搾り出すような笑い声を発していた。
1番も、倒れてこそいなかったが、だらりと舌を出して荒い息をついていた。両足を投げ出した体勢のままで、
身じろぎすら出来なかった。
やがて何とか呼吸を落ち着かせた後、1番はすい、と視線を落とし、自分の胸を見下ろす。
そこで、きらきらと輝いている緑色の光を、しばらくの間、ぼんやりと眺めていた。
「・・・んんっ・・・」
どこからか、か細いうめき声がした。
それを耳にした1番と2番がつと、顔を上げる、
お互い、声の主が相手ではないと察すると、ほとんど同時に同じ方向を向いた。
「んあっ・・・ふぅん・・・」
3番の声だった。
先ほどの陵辱により、完全に失神している3番ではあったが、気絶してなお余りある行為の余韻が、無意識の内に身体を苛み、
3番に声を上げさせたのだった。
そして、その股間では、もはや完全に威容を取り戻した男性器が、大きく屹立していた。
「・・・くひっ」
2番が、痙攣するように一声、笑う。
そして、ずる、ずるり、と手足を這いずるようにして、3番のベッドへと移動を開始した。
自分の体力の消耗などとうに忘れ、ひたすら自らの欲望に向けて邁進する2番。
そんな2番の姿を、背後から、1番がじっと見つめていた。
長い時間をかけて、3番の横たわるベッドの足元までたどり着いた2番が、その端につかまり、よろよろと身を起こす。
息も絶え絶えの中、2番はほぼ真下から、拝むような体勢で3番の肉棒を見上げた。
「・・・はひっ、はっ、あはあっ・・・」
天井の照明がかぶってシルエットとなり、さらに存在感を増したその姿に、2番の目が蕩け、口がだらしなく開く。
この中に、みっちりと詰まっているであろう精液が爆発する瞬間を夢想するだけで、自分が絶頂を迎えてしまいそうなほどに、
2番の中ではそれが、妖しく魅惑的な存在と化していた。
文字通り、目の前に迫った素晴らしい瞬間に向けて、2番がぶるぶると震える手を伸ばす。
その手が、脈動する肉の幹に触れるその刹那―――
するり、と何者かの腕が、2番の背中から回された。
「ひっ!」
その、あまりに突然の出現に、驚いた2番が動けずいるうち、その手は2番の胸にそっと寄り添ってくる。
そして、内側に握りこんだ何かを、ぐぐぐ、と胸に押し込んできた。
胸を圧迫され、わずかな息苦しさを感じた2番は我に返り、ばっと後ろを振り向いた。
そこに、1番の顔があった。
2番がとっさに飛び退き、1番から身を離した。
「ぐぅっ・・・!」
膝立ちの姿勢になり、うなり声を上げつつ、警戒するような目つきで1番をきっとにらみ付ける。
そして、気付いた。
1番の身体の中心、胸の中央に、ぽっかりと穴が開いていることに。
2番が思わず、触れられた胸の辺りを手探りでなでる。と、そこに妙な違和感を覚えて、視線をちら、と落とした。
先ほど、何かを押し付けられた場所。
その箇所が、緑色にちかちかと点滅していた。
反射的に2番が、1番と自分の身体を素早く見比べる。それは間違いなく、さっきまで1番の身体で目障りなほどに
明るく輝いていた、『何か』だった。
その、得体の知れない何かの点滅が早まる。それに合わせるかのように、2番の鼓動がどっどっどっどっと早鐘を打つ。
「あああ ・・・ひぃぃっ!」
正体の分からない物体に、自分の肉体を蝕まれるような感覚に、2番は震え上がった。
そんな2番の様子を、1番が感情のこもらない瞳で、観察するように見据えている。
その唇は真一文字に結ばれ、呼気の一つさえ発しない。
やがて、2番の胸の明滅が極限まで激しくなり、それから突如、ぴたり、と止まった。
出た目は『はずれ』だった。
「あぎぃぃぃぃっ!!」
ずきん、という、鋭い針を刺し込まれたような強烈な痛みが、2番の股間に走った。
今まで思うままに垂れ流していた精液を、突然せき止められたのだ。
それは2番にとって痛みなどという生易しいものではなく、この世の物とは思えない、耐え難い苦痛だった。
「あぐぅっ!ふぐっ、ふっ、んぎいぃっ!」
2番はぐうっと自分のモノを睨めつけ、そこにありったけの力を込めて、精液を排出しようと試みた。
だがいくら力んでも、一向に精液が尿道を通り抜ける気配は感じられない。
焦った末に、2番は両手で陰茎を鷲掴みにすると、恐ろしいほどの速さで手淫を開始した。
両手が赤く染まるほどにぎりぎりと力を込め、必死の形相でペニスを奮い立たせようとする。
しかし、どれだけ続けようとも、絶頂の瞬間は訪れてくれなかった。
「はっ、ひっ、はひぃっ、ふっ、ふぐっ、ふぐぁぁっ!」
2番の眼が大きく見開かれ、黒目は点のように小さく縮んでいく。
それはすぐそこまで来ているはずだった。先程までの状態なら、もうとっくに限界を通り越し、射精に至っているはずだった。
それなのに、まるで強固な見えない栓でふさがれてしまったかのように、どれだけ足掻き、もがいても、マグマのように
煮えたぎる欲望を、ぶちまける事が出来ないのだった。
「うがああああっ!!」
絶望の中で、2番が叫ぶ。
その声が引き金になったかのように、発光体が再び点滅し出した。
「ひぁぁぁっ!」
それに気付いた2番が素早く股間から手を離し、代わりにその、おぞましい物体に手をかけた。
何とかして引き抜こうと力任せに引っ張るが、それはがっちりと2番の胸に食い込んでおり、一向に抜ける気配はない。
未知の疼痛に悶え苦しむ2番とは対照的に、発光体はあくまで冷たく輝き、発光と消滅を繰り返す。
それを観察している1番の瞳にも、同じ色の光が宿っていた。
「うあっ、うあああっ!ぐうぅっ!はへっ、はへっ、はっ、ふああああああっ!」
半ば半狂乱となり、かすれた声を上げながら地面をのたうつ2番の胸で、光がすうっと消えていく。
その輝きが、完全に失われた瞬間。
2番の頭の中で、何かが、ぷつり、と切れる音がした。
「・・・・あぁ・・・」
魂の最後のひとかけらを吐き出すように、2番の喉が鳴った。
それきり、2番は動かなくなった。
「・・・・・・」
2番の狂態を最後まで見届けた1番が、ゆっくりと天井を見上げた。真っ白な天井には、規則正しい配列で、
まばゆく輝くライトが並んでいる。
そのうちの一つに目をやると、まぶしそうに、すっと目を細める。
「・・・ふふ」
それから、笑い声を一つ、漏らした。
「ふふふ・・・あはっ、あははははっ」
最初は小さな声で、徐々に、徐々に大きく。
「ははっ、はっ、あっははははっ!」
ついには腹を抱え出し、おかしくて仕方がないといった様子で。
「あははははははははっ!」
涙を流して、心の底からの笑顔を浮かべながら。
ありったけの感情を込めた声で、1番は笑い続けた。
「はぁっ・・・」
笑って笑って、笑い疲れた1番は、その場にそっと身を横たえ、眠った。
あとに残った声はただ、1番の、とても静かな寝息だけだった。
「・・・終了だな」
「ええ」と答えながら、男が傍らの連絡機を手に取る。その向こうの相手と二言三言会話を交わした後、機械を元に戻した。
ややあって、モニタの向こうの部屋に、数人の男たちの姿が現れた。彼らは倒れ込んでいる三人を部屋の外へと運び出すと、
汚れきった部屋の後始末を開始した。ホースを引き込み、部屋中を洗い流していく。
それを傍目に俺は腕組みをほどくと、手元のパネルをじっくりと見ている男に近づき、「どうだ?」と訊ねた。
漠然とした言葉だったが、それでも男は質問の意図を理解したようで、そこに表示されているデータを俺に見せながら言った。
「完璧です。ようやく1番の音声データが取得できましたよ。これをサンプリングしてライブラリに追加すれば、
ますます人工音声の幅が広がるのは確実でしょう」
今日、初めて感情を露わにした口調で彼が言い募る。
「それに、2番と3番からも新規のデータが採取できましたしね。予想以上の効果がありましたよ、この計画は」
「まあ、結果論だがな」
「それでも、成功は成功ですから」
それから、椅子から立ち上がって伸びをしながら、俺に向けて笑いかけた。
「発案者としても、鼻が高いんじゃないですか?」
鼻が高い、か。とてもそんな気分にはなれそうもなかった。
大体、発案者といったって大した事じゃない。うんともすんとも言わなかったあの1番を喋らせるためにはどうすればいいか、
という話し合いの席で、苦し紛れに
「他の連中と会わせてみりゃ、お喋りでも始めるんじゃないですかね」と言っただけの事だ。
それ以降の計画は、俺のあずかり知らぬところで、勝手に転がっていったに過ぎない。
そんな俺の内心も知らず、男は幾分、浮かれたような調子で続けた。
「さて、それじゃ僕はデータの整理に入ります。大量だから時間がかかると思いますけど、終わったらそちらの部署へも
転送しておきますから」
「ああ、頼んだ。サンプリングはいつも通りこちらでやらせる」
そう言い残し、俺は踵を返して出口へと足を進めた。が、ふと気になってもう一つ質問を口にした。
「なあ」
「はい?」
「あの三人、この後どうなるんだ?」
「さあ・・・僕は何も聞いてませんけど」
心底、興味のなさそうな反応だった。
「気になるんですか?よかったら、僕の方で確認しておきますけど」
「いや、いいんだ。俺も別に興味はないよ」
そうだ、これはもう、終わった事なんだから。俺は再び、出口へと向かって歩き出した。
そんな俺の背後で、男が確認のためか、録音データを再生している。
「ははっ、はっ、あっははははっ!あははははははははっ!」
けたたましい1番の笑い声に見送られながら、俺は自動ドアをくぐり、その場を後にした。