売れっ子カイトとマネージャーメイコ 
 
長引いた音楽番組の収録が終わり、本日の仕事は終了。カイトがテレビ局を出る頃うっすら雲が覆うだけだった夜空は、自宅に着いて窓から見上げる頃になるとその厚みを増して空気が湿る。  
今にも雨が降りそうな様相だ。  
明日は雨だろうか? 久し振りのオフなのに、もったいないな。  
ぼんやり夜の曇天を眺めていると、玄関のドアを開く音を耳が拾った。軽やかな足音が近づく。  
「カイト、部屋の鍵かけなかったの? だめじゃない、部屋に入ったら鍵をかけるようにって、いつも言ってるでしょ?」  
リビングに入ってきたのはメイコだ。彼女の窘める声に怒りはなく、呆れている色が強い。  
「メイコさんが直ぐに来るから、鍵かけなかったんだよ」  
「でもちゃんと注意して。私じゃなくてファンの子に入られたら大変よ。鍵、ここに置いておくわね」  
メイコは手にしていたキーホルダーをカウンターの上に置いた。  
それには部屋の鍵と車の鍵が一緒に下げられている。カイトの車は、所有者本人よりメイコが運転する方が多い。今日の帰りもメイコが運転しカイトを自宅まで送ってきたのだ。  
マンションの車庫に入れる間、カイトはいつも先に部屋に向かう。待っていると言ってもさっさと上がれとメイコに促されれば、従わざるえない。  
「ね、疲れている所悪いんだけど、休み明けからのスケジュールを確認してもらっていい?」  
愛用の手帳を取り出し掲げるメイコに、カイトは素直に頷いた。  
「構わないよ。じゃあコーヒーでも淹れるね」  
キッチンに立つカイトにメイコは小さく微笑んだ。その笑みに疲労が見て取れ、ああ彼女こそ疲れているなとカイトは思った。  
仕事開始の数時間前にここへきてカイトを車で仕事場まで送り、彼が唄っている間も関係者に挨拶に回る。  
また違う仕事場にカイトを移動させ、スケジュールを確認し仕事が終われば自宅へ送り届けてから事務所へ戻らなくてはならない。そしてカイトの翌日のスケジュール管理をする。  
分刻みのスケジュールをこなすカイトよりも、それを管理し付き添うメイコはずっと忙しい。  
メイコは、事務所がカイトにつけた優秀なマネージャだった。  
 
カイトが起動した頃、メイコは最前線で唄うボーカロイドだった。  
歌唱力も高く人気もあって、幾人ものプロデューサーが彼女を使いまたメイコも彼らに応えて様々な歌を唄い上げていた。  
当時、日本語ボーカロイドで実績を上げていたのは『MEIKO』のみ。人間が受けない仕事は、ボーカロイドの『MEIKO』に集中するのは当たり前だった。  
後発のボカロであるカイトは発売当時は需要がなく、歌の仕事より事務所で雑用をしている方が多かった。事務所のテレビで、ネットで同じ事務所のメイコの活躍を目にし歌を耳にする度、妬むよりも純粋に憧れた。  
同じボーカロイドである自分との境遇の差を感じ凹みもしたが、カイトは目標があれば発奮する性質だった。  
自分もあんな風になりたい。輝くステージの中心で、色々な歌を唄ってみたかった。そしていつか、先輩のメイコと声を合わせる事が出来たら、その時はきっと幸せな気分になるだろう。  
そう誓ってカイトは地道に活動を続けた。どんな仕事も断らず、努力は惜しまない。挫けそうになれば、メイコの唄を聴いて自分を奮い立たせ翌日の仕事に励んだ。  
小さな仕事を積み重ねるうち、カイトにもようやくチャンスが回ってきた。そのチャンスを逃さず成功させると、カイトに多くの仕事が舞い込んでくるようになり、気がつけば事務所の稼ぎ頭の一端を担うようになっていた。  
全てが順調にいくように見えたが、しかし今度はメイコの姿がメディアから減りつつあった。週に何度も見かけた歌番組での出番は減り、ランキングにもメイコの歌声は載らない。  
理由はカイトの後に発売された、多くの女性型ボーカロイドの存在だった。彼女たちは初期型の『MEIKO』に比べ、格段に使いやすく容姿も華やかで性能も段違いだ。  
カイトも『MEIKO』と同じ初期型だが、まだ数少ない男性型であるから需要はある。しかし女性型の『MEIKO』は思いっ切り割りを食らってしまった。『MEIKO』の仕事は後継機に移り、メイコの露出は減っていくばかり。  
『MEIKO』に執着のあるプロデューサーは使い続ける者もいたが、カイトの事務所のメイコは、ある時期から姿が全く見えなくなった。同じ事務所にいるというのにカイトにもどうなっているのか動きが掴めず、社員に訊いても口を濁して教えてくれない。  
唄えなくなったボカロを置いておくほど事務所に余裕があるとは思えなかった。まさか廃棄処分場へ送られたんじゃないかと気を揉んでいたのだが、ある日その理由をカイトは知ることになる。  
 
――これから彼女にお前のマネジャーをしてもらうから。  
 
事務所の打ち合わせ用の小さな部屋。社員に引き合わされたのは、カイトの憧れたメイコだった。  
 
――これからよろしくね。カイト。  
 
彼女の声は、長く聴けなかったあの歌声と同じもの。ああ、だから社員たちはカイトに彼女の行方を教えなかったのだ。目の前のメイコは、本来の仕事の無くなったボカロの行く末の一つだった。  
差し出された白い手へ、呆然としながらカイトは自らの手を伸ばした。  
 
「――ト、カイトったら」  
はっと我に返り、カイトは物思いから顔を上げた。座るソファーの隣で身体をカイトへ傾かせたメイコが、スケジュール表を片手に彼を覗き込んでいる。その視線は訝し気だ。  
「あ、ゴメン」  
「もう、ちゃんと聴いてた?」  
咎めるようにメイコは眉を顰めた。聴いてたよとカイトが言っても、疑わしそうにしている。  
「休み明けの昼頃に取材があるんだよね」  
「何の取材?」  
切り返され、言葉に詰まる。えーっと……続かないカイトに、メイコはわざとらしい溜息をついた。  
「映画の主題歌になった曲のインタビュー! その後は新曲の打ち合わせよ。もう、しっかりして」  
「ゴメン」  
素直に謝るカイトに、メイコは手帳を閉じた。代わりに茶色の瞳が気遣わしげに揺れた。  
「ここのところ仕事詰まってたもんね……疲れるよね」  
「大丈夫だよ、このくらい」  
仕事がなかった時のことを思えば、このぐらいなんでもない。  
「ゴメンね。カイト今売れてるから、社員さんが仕事沢山取ってきちゃってて……私から言っておくね」  
「ホント、大丈夫。メイコさんこそ仕事の調整で苦労させちゃって、疲れてるだろ?」  
「平気。私はそれが仕事だもの」  
当たり前のように言い切る。そんなはずないのに。  
平気なはずない。ボーカロイドなのに歌から離されて、同じボカロのマネージャーをすることになって。  
だけどメイコに唄への執着を感じることはない。淡々とカイトをサポートする姿は、知らない者からしたら唄い手だった頃が嘘のように見えるだろう。  
「私、そろそろ帰るわ。カイトはオフにゆっくり身体を休めてね」  
メイコは二人分のマグカップを持って、キッチンへ脚を進める。その後ろ姿を見詰めていたカイトは立ち上がり、メイコを追った。  
シンクでマグカップを洗うメイコに近づき、背中からそっと抱き締める。  
「……カイト?」  
問いかけに答えず、艶やかな髪に鼻先を埋めた。髪の冷たい感触。香りが鼻先を掠めた。  
「もうちょっと、いて」  
乞うカイトの声は囁きに近い。抱き締めた腕の中でその身体が身動ぎし、頬にメイコの唇が触れた。  
「これ洗っちゃうから……カイトはシャワー浴びてきて」  
「……ん」  
再びシンクに向かったメイコの首筋をしばらく見つめ、カイトはバスルームへと姿を消した。  
 
マネージャーとしてメイコと引きあわされた後、メイコは前マネージャーから残りの引き継ぎがあるからと席を外した。  
カイトのスケジュール管理はメイコの仕事だが、実際に仕事を取ってくるのは人間である社員だ。ボカロにはそこまでの権限は与えなかった。  
メイコにマネージャー業を割り振ったのは、ボカロ同士なら人間が気付けない不具合や精神面に気を配れ、フォローしやすいだろうという思惑らしい。それと、もうひとつ。  
突然の展開に戸惑うカイトへ、社員はとんでもないことを告げた。  
 
これから今までよりもっと忙しくなって、注目度も上がる。そうなれば、夜、外で遊ぶのに嫌でも人の目についてしまうだろう。  
――だから、その時はメイコを使え。  
 
なにを言われているのか分からなかった。数瞬後、理解し慌てた。  
『そんなの、できるわけないじゃないですか! いくらなんでも、メイコさんがそんなの許すわけ――』  
『大丈夫だって。メイコは承知している。問題はない』  
つまりマネージャーであるメイコに、カイトの『夜の相手』を務めさせると社員は言う。  
マネージャーなら四六時中行動を共にしている。メイコと共にいたって不思議に思われない。それに内々のことは外に漏れにくい。でも、だからって。  
――メイコさんが、承知してるって。  
そんなこと言われても、カイトの性格的に易々と手を出すことはできなかった。  
承知しているなんて悪い冗談だ。間に受けて仕事に影響を及ぼしたくはない。  
大体、カイトとメイコは互いの存在を知っていても、殆ど口を利いたこともない間柄なのだ。カイトが一方的に憧れていただけだ。  
社員の勧めに従って気まずくなれば、修復不可能な関係になるのは目に見えていた。あの言葉はなかったことにしようと、カイトは忘れることに務めた。  
一緒に仕事をするようになり、マネージャーとしてのメイコは有能の一言に尽きた。驚くカイトに、メイコは姿を消していた一時は他のマネージャーの補佐をして仕事を覚えたのだと教えてくれた。  
マネージメントだけでなく、メイコは唄で培った経験で難解な楽譜と格闘するカイトに的確なアドバイスもしてくれた。それは大いにカイトの助けとなって、仕事は順調に幅を広げることになる。  
円滑に進む仕事。歌唱力は以前より評価を得て、カイトを指名するプロデューサーも格段に増えた。毎日が忙しく充実している。  
しかしその一方、忘れようと決めたあの一言がふとした時に顔を出す。  
……そしてカイトはメイコを自由にできる位置にいる。誰にも、メイコにすら咎められることはない。  
ふとした時に思い出し、その度に罪悪感が募って頭を振っても、頑固な油汚れのように脳裏にこびりついたままだ。  
メイコにはこんなに良くしてもらっているのに。形は違えど憧れだったメイコと共に仕事が叶った。それなのに。自分が不純過ぎてメイコに申し訳なかった。  
そんな煩悶を抱えていたせいか、カイトはある収録でミスをした。  
それはボーカロイドならあり得ないような単純なミスで、他のことに気を取られた末の、自業自得の結果だった。  
落ち込むカイトを、メイコは気晴らしにと飲みに連れていった。  
飲み慣れない酒に酔い潰れたカイトを、彼の自宅までメイコは送り届け介抱までしてくれた。ベッドの背を預け天井を仰ぎながら、自分の情けなさにほとほと呆れ果てる。  
メイコのことを考えて、本人の目の前で失態を犯すとか。しかも雑念の内容はよりにもよって、アレだし。  
いたたまれなく、介抱してくれるメイコから顔を逸らした。  
『メイコさん……も、いいです、から』  
『でも』  
もう夜も更けて大分経つ。こんな時間にメイコを部屋に留めておけば自制心も怪しくなる。それが怖い。  
『帰って、ください……』  
理性を保てる内に。関係を壊さないために。  
『カイト』  
『だいじょうぶ、だから』  
目を閉じ、回らなくなる舌を懸命に動かした。だが、メイコが立ち去る気配がなかった。どうしたのかと重たい瞼を押し上げる寸前、唇に何かが触れた。柔らかくて、温かいものが。  
メイコの唇だった。ベッドの端に腰かけていたメイコが身体を屈めて、カイトにキスをしていた。  
『……っ?!』  
目を白黒させたカイトを尻目に、メイコは静かに上体を上げて手をそっと腹部に這わせた。  
『メイ……』  
『黙ってて。何も言わなくていいから』  
硬直するカイトの身体を下り指が下腹部を辿る。あっという間に形どるそこを撫でられて、カイトは咄嗟にメイコの手を止めた。  
 
『だ、だめです。それは』  
制止は聞き入れられなかった。カイトの手を逃れた白い手はジッパーを下げて下着から昂ぶりを引き出された。絡む指の動きと視線にカイトの身体が震える。  
『……ぁっ、メイ……!』  
『……カイトは楽にしていて』  
先端に吐息を感じ思わず下を見れば、肉棒を握ったメイコがそれに唇を寄せていて、目が釘づけになる。  
『遠慮、しなくていいの』  
メイコは全て見透かしていたのだ。カイトが彼女をどう見ているのか。……どうしたいのか。カイトの顔が羞恥で熱を持った。  
『私はそのために傍にいるんだから……』  
メイコが身体を差し出したのは、失敗に落ち込むカイトを慰めるためだということぐらい理解している。  
カイトが社員に言われように、メイコだって言い含められているのだ。少し考えれば分かることだった。単純に好意からだなんて思えるほど、カイトはそこまで純粋ではない。  
生温い感触に包まれ、情けなくもカイトは悲鳴を上げた。メイコの口腔で肉棒は愛撫にびくびく反応する。舐められ、這う舌の感触。竿を鈴口を吸っているのが、唄うためのあの唇だと思うとどうしようもなく興奮した。  
肉棒が口の中で膨れ、メイコの表情が苦しげに歪む。扱く指の刺激と咥える赤い唇から漏れた啜る音に、下肢を抗いがたい快感が支配する。  
『……! う、あ……っ!』  
吐き出し、弛緩した身体を投げ出す。荒い息を繰り返して虚ろな視線をメイコに向ければ、彼女は自ら服を脱ぎ出していた。  
目の前で露わになる肢体は豊満で、カイトの雄を掻き立てる。すっかり裸になったメイコは、四つん這いになり動けないカイトへと登った。  
『カイト』  
見上げる視界で、たわわな乳房が揺れた。冷めやらぬ興奮と欲望に思考を塗りつぶされる。  
腹の底から込み上げるものに突き動かされ、カイトは白い肢体を反転させてベッドの中に引き込んだ。  
 
寝室に甘い喘ぎと水音が満ち、合間に堪え切れない吐息が走る。  
ボトムと下着を脱がし、メイコを下半身だけ裸にした。ベッドの淵に腰掛け開かされた脚の中心には、カイトの青い頭がある。床に膝立ちになり、顔を寄せるメイコの性器に舌を這わせて滴る粘膜を啜り上げた。  
「ん……ぁ……っ」  
振動の刺激にメイコの背筋が反る。後ろ手でベッドに手をつき、その指がシーツを握り締める。内股に力が入る動きを、青い瞳が捕えた。  
あの夜以降、メイコとベッドを共にすることが格段に増えた。柔らかな身体を抱き締める度、事務所の人間に言葉が頭を過るが手放すことはできなかった。  
――メイコも承知しているから。  
その言葉通り、ベッドの中でメイコは素直に抱かれる。最初こそ誘われた形になったが、カイトのリードに彼女は従順だ。  
事務所に言い含められた通り、望むまま夜の相手を勤めてくれる。  
メイコはカイトを拒めない。自分の意思なくセックスを要求され、身体を開かねばならない彼女が自分をどう思っているかなど考えたくなかった。どんなに考えたって、好かれているとは到底思えないのだ。  
そのせいだろうか。事の最中は会話はほとんどない。甘い言葉を囁いても『事務所命令』が根底にあるメイコの立場を思えば、なにを言っても空々しかった。  
メイコは言う。気にしなくていいから。カイトが気に病むことじゃないと。……でも、カイトは。  
分かっていないのはメイコの方だ。こんな状況で、未だ彼女へ好意を寄せている自分はおかしいのだろうか。  
「あ……んっ」  
膣口を舌先でなぞり、開いた襞を食むとメイコは震えながら喘いだ。カイトに簡単に身体を開くメイコにも羞恥はもちろんあって、閉じたがる形の良い脚を阻止し彼女の中心から顔を見上げた。  
「カイ、ト、まっ……て」  
「どうして?」  
脚の間から見えるメイコは、瞳を潤ませて頭を横に振っている。短い毛先が揺れ、上気した頬にかかっていた。  
「気持ちよくなかった?」  
「ちが……、私が……する。だから」  
「……されるより、する方が好きなんだ」  
もう一度唇を桃色に濡れる性器に唇を押し付けた。ぷるりとした襞が挟んだ唇の間から逃げる。  
「……あっ……」  
硬くした舌先を膣口に差し込み、舐めた。ぬるぬるした浅い部分を舌は滑らかに動く。  
舌先に熱い肉が締める感覚を感じ、揺れる爪先が空を掻いた。  
 
されるよりする方が好きなのは嘘ではないが、それだけじゃない。好きでもない男に身体をいいようにされるメイコに、少しでも気持ち良くなって欲しいのが本音だった。  
自分とのセックスを愉しむことはできなくとも、せめてなにも考えられなくなるぐらい溺れて欲しい。カイトの男としての沽券もある。  
膣口から上った唇は上部の実を結ぶクリトリスを啄む。快感の度合いが跳ねあがり、逃げる尻に両手を回して腰を引き寄せた。  
「ひ……! ぃ、あ、あぁっ」  
メイコの手が反射的にカイトの頭を押さえたが、舌でクリトリスを嬲ると指の力が途端に抜ける。  
膝裏を両手で思いっ切り持ち上げてしまえば、カイトの頭に置かれた手はまた後ろ手に戻り、倒れそうになる身体を支えた。  
おまけにぱっくりと開脚され、晒された性器を隠したくて脚がもがいても、カイトに膝裏を押し上げられればメイコにはどうしようもない。  
剥けた尖りを唇と舌で扱き、溢れる粘膜が溝を伝ってシーツに染みを大きく広げていった。  
「あっ、んぅ……ダ、メぇ……!」  
咽を反らし、閉じられない口から喘ぎと吐息がひっきりなしに零れた。  
ダメ、イっちゃう。脳を痺れされる蕩ける声に、カイトはきつく小さな尖りを吸い上げた。  
「んぁっ――、ああぁん!」  
膝裏を持ち上げる手に絶頂の震えが伝わる。びくびく痙攣する肢体は糸が切れたようにベッドに倒れ込んだ。  
「ぁ……う……」  
カイトはベッドに乗り上げ、呼吸もままならないメイコを覗き込んだ。長い睫毛を伏せた瞳には生理的な涙が滲んでいて、強烈な色気を放つ。  
投げ出された身体をうつ伏せにさせ、その腰を掴んで高々と腰を上げさせる。  
こちらに向けさせた丸い尻を片手で掴み、肉の割れたそこを親指で開いた。大陰唇から散々可愛がった襞が零れて性器が丸出しになり、羞恥にメイコが唇を噛むがカイトには見えない。  
「や……そんなに、見ないで……」  
性器を差し出すメイコは泣きそうになって、顔だけをカイトへ向けた。  
「恥ずかし……」  
「僕はすごく、そそられる」  
閉じられた膣の入り口を撫でられ、尻がひくんと跳ねる。襞の間に指を二本潜り込ませ、内壁を引っ掻き悶えるメイコへカイトは訊ねた。  
「ああ、もう十分だね。入れるよ」  
「は、ひぃん……っ」  
言葉にできずメイコがこくこく頷くと、糸を引きながら離れた指の代わりに今度は屹立した肉棒がねじ入れられる。息苦しさに、噛みしめた唇は再び解かれた。  
「! あぅっ」  
「っ、ん……っ」  
膣を圧迫するそれは小さく出し入れし、少しづつ中へ侵入してくる。メイコの穴が狭いのかカイトのモノが大きいのか。狭い中を進む肉棒を、膣はまるで待ちわびたようにきつく咥え込む。  
震える尻を掴み、ぬぷぬぷ音を鳴らしながら根元まで完全に納めると、カイトの口から熱い吐息が零れた。中は熱を持って肉棒全体をぎゅっと包みこみ、思わず吐き出しそうになるのを自制する。  
目いっぱい広がった入り口に根元まで埋まっているのを確認し、カイトはゆっくりと動き始めた。まだ着たままだったメイコの上半身の服を、剥ぎにかかる。  
ブラウスを床に落とし、ブラのホックを外す。伏せた状態で腕で身体を支えるメイコの肩からストラップがするりと滑ってシーツに落ち、カイトが動きに合わせて乳房がゆさゆさ揺れた。  
「ひ、あっ、んっ、んん……あっ」  
突き上げてくる腰はあっという間にに激しさを増す。尻の肉が波打つ程のそれは、貫く衝撃に肉棒をきゅうきゅう締めた。  
腰を中心に這い上る快感にカイトは奥歯を噛んだ。深く穿つその都度、結合部の上の小さな窄まりもひくひく動く。視覚効果は抜群で、悩ましい。  
「あぁ、ん、ぁ……!」  
きゅ、っと中が締まって、メイコが身震いする。どうやらイったようだが、それは中途半端なもののようだ。  
カイトは乱れた息を必死に整える汗ばむ背中を見下ろした。  
ベッドの中でのカイトの要求にメイコが異を唱えることはない。自分の意思を全く見せないから、カイトの感情は不安定に揺れた。  
『業務の一環』は一体どこまで有効なのだろう。試してみたくなった。拒まれないことがカイトの胸を黒く塗りつぶす。こんな感情に囚われるのは初めてだが、不思議と気分が高揚してくるのを感じた。  
「――――っ!」  
カイトは後ろからメイコを抱き締め、そのまま重心を後ろに反らす。  
ベッドに胡坐をかくカイトの膝にメイコが座り込む形になり、達した膣により深く肉棒が突き刺さる。奥を突く刺激にメイコが悲鳴をあげた。  
 
「あぁっ?!」  
すかさず脚に腕を回し大股を開かせて、勢いのまま乳房を握りこんだ。向こう側に人がいればさぞかし良い眺めだろう。肉棒が刺さる蕩けた女性器が晒されているのだから。  
「やっ、カイ……」  
あられもない格好にメイコが腕の中でもがいた。他人に見せるわけじゃないが、繋がった性器を外へむき出しにした格好にメイコが不快感を覚えるのはあたりまえだ。  
普段ベッドの中でカイトが辱める行為を強いることはなかったから、戸惑っているようだった。  
「イヤなの?」  
「え……」  
いっそ、嫌なら抵抗してくれればいいのに。こんなことはイヤなのだと拒否してくれたなら。  
メイコの本心が、知りたい。  
「……ねぇ」  
「っあ!」  
首筋を舐め、両乳を思うまま揉みしだいた。硬い乳首を押し潰すと密着した身体が強張り、また膣がカイトを食む。  
「あ、あっ…………へい、き。んっ、あぁ――――!」  
力強く穿った肉棒にメイコは甲高く叫んだ。迷う素振りも束の間、メイコは受け入れ、失望感がカイトの胸を覆った。  
やはり自分とのセックスは仕事の内でしかないのだろうか。言いなりの彼女の意思を少しでも感じたかったが、そこに本音を見出すことは叶わない。メイコはひたすら自分を押し殺す。  
無性に悔しくなって、半ば八つ当たり気味に女芯を攻め立てた。  
「ひっ、あぅっ、うぅ……」  
感度抜群のメイコの膣はカイトによく馴染み、突き上げる肉棒に濡れそぼる。可愛がれば可愛がるほど、カイトを快楽へ導いてくれた。  
だけど、これは一方的な交わりだということが胸に影を落とす。強い者から弱い者への強要で、温かく交わし合う感情などここにはなかった。  
かつてのメイコへの憧れはいつしか思慕に変わり、傍にいたいという願いは叶ったがこんな形を望んでいたのではない。  
一度関係を持てばそれを断つことは容易ではなく、カイトは囁く言葉も持たない。終わった後には虚しさしか残らないけど、傍にいればどうしたって触れたくなる。悪循環だった。  
カイトが本当に欲しいものは――――。  
「カイ、あんっ、んぁっ」  
激しく出入りする硬く反り返った肉棒が、じゅぼじゅぼ卑猥な音を鳴らす。襞が妖しく蠢き、奥を小突く刺激にメイコは悶え快感に打ち震えた。  
「ダ、メ……っ、カ、イ……ト! やめ……」  
断続的に膣を締めながら訴えかけてくる。メイコ口にした「止めて」という言葉に軽く目を見張った。今までそんな言葉、聴いたことなどない。  
殆ど初めて聴いた制止の声に驚きつつ、カイトは耳を傾けた。  
「ソコ、ヘンに、なる……! おねが……ひっ!」  
いつもと当たる角度が違うからか、メイコはいつになくよがる。  
揺すり上げて顕著に反応を示す場所を亀頭で抉ると、腕の中の肢体が跳ねた。  
「ダメ、ダ……メぇ……やっ」  
ぐぅっと膣が吸い込む動きをしメイコの終わりが近いことを察した。膝を抱えながら上下に揺れる乳房を握りこみ、カイトも腰を振って絶頂への階段を駆け上がる。  
メイコは髪を振り乱し半泣きになりながら、いや、ゆるしてと繰り返すが、カイトは聞き入れなかった。そして。  
「や……ぁ、あっ、あああぁ――――っ!」  
「――――?」  
無理矢理拡げた股間から勢いよく透明な液体が噴出した。  
激しく揺すぶられ喘ぎながら断続的に噴き出すそれは、徐々に勢いを弱めていく。華奢な肩越しから眺めたその扇情的な光景に、否が応にも掻き立てられる。  
膨れ上がる欲望に急かされ、カイトは精を注ぎ込んだ。  
 
事務所に戻ったメイコは暗い窓の外をぼんやり眺めていた。透明なガラスに幾つも雨の粒が流れ、降り出した雨はアスファルトを黒く濡らす。  
仕事は既に片付けてあったが、先ほどの行為で身体がどうにも怠くてなんとなく帰宅するのが遅くなってしまった。  
メイコの仕事自体はカイトを無事に送り届けることの方が重要だったので、今夜の社内での仕事はついでのようなものだ。本来なら、明日すればいい仕事だったのだから。  
それにしても、カイトの様子がおかしかったのが少し気になっていた。メイコの手が無意識に腹部に伸びる。まだ下肢に、カイトの名残を感じて頬が熱くなった。  
いつもだったらあんなこと、しないのに。  
快感に溺れてあんな醜態を見せてしまったことに、羞恥心で顔から火が出そうだ。誰が見ている訳でもないのに、更に赤くなっているだろう顔を隠したくてメイコは俯く。そして、カイトに思いを馳せた。  
今夜はともかく、普段のカイトはまるで恋人にするようにメイコを抱く。事務所は的確にカイトの性格を掴んでいた。優しくてすれていないカイトは、遊びの女にも本命のような接し方をするだろう。  
女が勘違いするかカイトが本気になるか。そこでトラブルになるのは目に見えている。だから事務所はカイトにメイコを宛がった。正しい判断だったとメイコも思う。  
現に全て納得の上でカイトの相手をしているのに、『勘違い』しそうになる自分がいるのだ。……仕事だと思わなければ、やってられない。  
売れなくなって後継の歌手のサポートに付けと命じられた時は、廃棄処分にして欲しいと事務所に申し出るつもりだった。歌を唄えないボーカロイドになんの価値などない。  
だが、マネージャーに付く相手がカイトと知り、考え直した。  
歌い手としてカイトと仕事をしたことはなかったが、起動当初は売れなくて懸命に下積みをしていた頃の彼をメイコは知っていたのだ。  
初めてその歌声を聴いたとき、絶対カイトは売れると確信した。耳馴染みのよい伸びのある歌声は心地よく、埋もれているのは今だけで頭角を現すのにそう時間はかからないだろうと。  
いつか同じステージで歌うのを楽しみにしていたのだ。予想は違わずカイトは事務所の売れっ子になったが、反対にメイコは歌うことすらできない状態になってしまった。  
残念だったが、仕方がないことだ。同じステージで歌うのが無理ならば、これからも伸びるであろう後輩のサポートも悪くはない。自分でも驚くぐらい素直に納得した。  
自分の知識も何もかも、カイトを支えるために与える。性欲処理に身体だって惜しむつもりはなかった。それなのに求められる度にどうして胸の奥が疼くのか、それを思うと泣きたくなる。  
それでも、カイトが他の女を抱くのはどうしても嫌だった。  
カイトを支えたいという気持ちは……そういうことなのだ。仕事だなんていい建前で、公私混同もいいところだ。  
セックスは性欲解消で構わない。知識も技術も身体も全部あげる。だから、唄えないボーカロイドでも傍に置いて欲しかった。  
カイトは何も知らなくていい。メイコも自分の気持ちを言うつもりはなかった。必要とされるのはマネージャーとしての自分ということを、ちゃんと理解している。  
メイコは額をそっと冷たい窓に押し当てた。  
しっかりしないと。休み明けにはマネージャーの顔をしてカイトを迎えに行くのだ。邪魔にしかならないこんな感情は、蓋をし鍵をかけて胸の奥にしまい込む。  
 
泣けないメイコの心中を映すように、窓の外の雨は未だ降り続いている。  
 
おしまい  
 

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