カマイト×メイコ 
 
繁華街の路地裏の奥に、その店はひっそりと営業していた。夜の街で遊ぶ、通人の間で噂の店だ。  
古びた扉を開けるとカウンターと数席のテーブル席。狭くこじんまりとした店内を紫のドレスが似合うママが一人、切り盛りしている。  
彼女は女装した男性だが、上品な物腰に細身の体に纏ったドレスが良く似合い、立派に看板ママを勤めている。美形の『彼女』目当てに店に通う者も多い。  
昭和の匂いが残る居心地の良い店内。美味しい酒とそれを引き立てるツマミが提供され、美しいママは話し上手でありまた聴き上手。  
差し出される酒が、ママの相槌が、都会の生活に疲れささくれた心を癒してくれると評判なのだった。  
そして今夜も心に傷を負った女が一人、閉店時間を過ぎている店内でママを相手に管を巻いていた。  
「あーもー……なんで上手くいかないかな……」  
爪を深紅に彩る細い指が、空のグラスを弾いた。残された透明な氷がグラスに当たってカチリと小さく鳴る。  
「ママおかわりー」  
掲げたグラスは隣から伸びた大きな手に取り上げられた。そしておかわりではなく、彼女を嗜む声が返ってくる。  
「メイコちゃん、飲み過ぎ」  
メイコは唇を尖らせると、むうっと声の方へ赤くなった顔を向ける。そこには苦笑したこの店のママ、カイトがテーブルの上に林立する空の酒瓶に視線を落としながら溜息をついていた。  
女装の麗人(?)であるカイトの表情は慈愛に満ちていたけれど、メイコは不満そうに口を尖らせる。  
「だぁってー! 飲まなくっちゃやってられないわよぅ。なーにが『君は強いから一人で大丈夫』よっ。ばかー!」  
ソファーの背もたれに背中を預け、天井を仰いでメイコは叫んだ。閉店時間をとうに過ぎた店内にはメイコとカイトしかいない。他の客に迷惑をかけることもないので、メイコは存分に声を張り上げるのだった。  
「またベタな別れ文句ねぇ。センスが昭和だわ。そんな男、別れて正解よ」  
閉店後も居座られ迷惑をかけられているのはむしろカイトなのだが、そんなことはおくびにも出さずに優しく茶色の髪を撫でてくれる。  
メイコの表情にはまだ別れた男への未練が残っており、不服そうにしながらも慰撫するその手擦り寄った。  
メイコは男に振られたその足でここに来て、それからずっとこんな調子だった。  
メイコがこの店に通うようになってから数年、彼女は恋愛が終わる度にカイトに泣きつきに来る。その都度、閉店後にメイコを慰めるのはカイトの役目になっていた。  
もう幾度繰り返されたやり取りなのか、数える気にもならない。今回は二股かけられた挙句、先ほどの台詞を言われ振られたようだ。  
話しを聴く限りでは、メイコより年下の守ってやりたくなる小動物系の女と二股されて、メイコが振られた。  
メイコは物をはっきりとした物言いをし、トラブルも誰かに頼ることなく自力で解決するタイプだ。  
今現在こんな惨状だが、周りからはこれでもしっかり者だと認識されているのだった。損なことこの上ない。  
……そういう女が恋愛において、『か弱い女性』に勝てるわけがないのだ。  
 
「私、男を見る目ないのかなぁ。どーしていっつも取られちゃうんだろう?」  
「逆よ。男が見る目ないの」  
髪を撫でていた手に頭を優しく引き寄せられ、カイトの肩にもたれた。  
ちらりとカイトの顔を盗み見る。紫がかった青い髪はアシメントリー。髪の色に合わせたシンプルで細身のドレスは、長身痩躯の身体によく似合う。  
上品な立ち振る舞はその辺の女より婀娜っぽくて、「性別:オンナ」のメイコだって見蕩れてしまうほどの女っぷりだ。  
(男だけど)美人で、(男だけど)色っぽくて、(男だけど)包容力たっぷりのママ。  
……可愛い系が無理なら、せめてママみたいだったら捨てられなかったのかな……。  
思わず涙がこみ上げて、メイコは慌てて目元に力を入れた。  
「もー……! 男はなんで若くて可愛らしい系が好きかなぁ? みーんなそっちに行っちゃうんだもん、腹立つ!」  
「メイコちゃんだっていいオンナよ?」  
「じゃあどうしてアイツは私を振るのよ!」  
「だからソイツに見る目がないんだって。堂々巡りになっちゃうわねぇ。……なに? そんなにいい男だったの?」  
「二股されるまではね! はぁ……」  
失恋のダメージは根が深そうだった。最近こんな振られ方ばかりだ。失恋が同じような理由で重なれば、普段は前向きなメイコだがさすがにやさぐれる。  
「ママお酒のおかわり早くー! ねー今日はとことん付き合ってよ。いいでしょー」  
メイコから避けるようにテーブルの奥に置かれたグラスへ手が伸ばされた。しかしその手はグラスに届くことなく、カイトの手に捕えられてしまう。  
「今日はもうダーメ」  
「えぇ〜〜ママぁ」  
甘えた声にカイトの溜息が重なる。捕えられた手は更に握り込まれ、カイトは離そうとしない。不審に感じたメイコがカイトに視線を向けと、深く青い目が彼女をじっと見据えていた。  
「終わった恋愛なんか忘れちゃいなさい」  
「だってだってだって――――! こんどこそって――――!」  
うわあああぁん! と泣き出す様はまるで駄々っ子だ。こんな彼女の姿から、外ではしっかり者ので通っているとは誰も想像できないだろう。  
「らしくないわねぇ。こんどこそって思ってたから、忘れられないの?」  
「……うぅ……」  
メイコは黙ってしまったが、目を見ればカイトにはお見通しだった。  
「バカな子」  
メイコに肩を貸しつつ、カイトは小さく笑った。メイコは傷つく度に、カイトに泣きつく。  
その涙を意中の男に見せれば良いものの、それはプライドが許さないというのだから始末に負えない。この姿が可愛くないわけがないがないのに。  
悩ましい溜息が、カイトの口から転がり落ちた。  
「もう、ヤ……」  
「ん?」  
「淋しいの……愛されたいよ」  
目尻から一粒涙を零し、メイコが呟く。ポロリと漏らす言葉は紛れもないメイコの本音だった。酔ってとろりとした表情は十分に艶めかしく、油断し弱った姿はカイトの乾いていた雄の本能を揺り起した。  
「メイコちゃん」  
「え――――……んぅ?」  
呼びかけられ、不意に寄せられたカイトの顔。唇に温かく湿った感触を受け、メイコの目が丸くなる。  
やさぐれ、アルコールで鈍くなった頭ではなにが起こったか瞬時に判断できなかった。目を白黒させている内に、小さな温もりは離れる。  
気がつけば、間近でカイトが微笑んでいた。綺麗に口紅を引いた唇に、妙な色気を纏わせながら。  
「あれ……?」  
驚いてメイコの涙も引っ込む。カイトの微笑みは綺麗だけど、内心が全く窺えない。  
「びっくりした?」  
「ママ、今……」  
「うふふ」  
キスとか、そりゃあびっくりもする。メイコは女装姿で相手をしてくれるカイトに、男を感じたことなどなかった。  
姿に似合った女言葉とたおやかな振る舞いに、メイコはすっかり同性同士の気分でいたのだ。それなのに。こんなスキンシップは初めてで戸惑う。  
「オカマとキスはイヤだった?」  
ぷるぷる茶色い頭が左右に振れた。無意識の幼い仕草が、彼女の困惑を表している。  
「そう、よかったわ」  
カイトは笑みを深くする。イヤじゃない。確かにイヤじゃないけど、同性同士でもキスってしない。少なくとも、メイコは。  
「忘れられないの?」  
「はえ? あ……」  
照明を弾く艶やかなマニキュア。その指先がメイコの頬を滑り、顎で止まる。擽ったそうに肩を竦めるメイコをカイトは伏せた瞳に映し、固まってしまった彼女の首を指でなぞった。そして項を捕え、茶色の細い髪の中へ指が潜る。  
 
「辛いのなら、忘れさせてあげる」  
 
メイコは困惑しつつも、再び寄せられたカイトの唇をソファーの上で素直に受け入れていた。横に座るカイトは腰を捩じりメイコの顔に陰を落とす。  
うっすら開けた目に、化粧の乗った端正な顔が瞳を閉じているのが見えた。  
昼間男と別れてその日の夜に別な人とキスするなんて、ちょっとどうなんだともう一人の自分が囁いていたけれど、その声も口の中に舌が侵入した時点で消えた。  
だって、淋しい。心も身体も寒くって、浴びるほど酒を呑んでもちっとも温まらないのだ。気持ちが弱ってて、人肌が無性に恋しかった。  
ぐっとカイトが顔を寄せメイコの口が大きく開くと、舌はより深いところまで入ってくる。小さな舌を自分から伸ばせば、唇がそれを吸った。  
ちゅ、ちゅっと小さな音が鳴って頭がじんじんしてくると、舌を絡めて擦り歯列を丁寧になぞられた。ぷっくりした唇を啄むことを何度か繰り返したのち、カイトの顔が離れていく。  
軽く息を弾ませたメイコの瞳に、少し色が薄くなった口元がにっこりと弧を描いて茶色の瞳に映った。  
「メイコちゃん、モノ欲しそうな顔してるわ」  
「こんなキス、ズルイ……」  
キスだけでうっとりしてしまう。それだけ上手いキスだった。抵抗なんか許さず、根こそぎ萎えさせ身体の力が抜ける。  
「あらあら。そんなこと言ってたらこの先タイヘンよ?」  
「! んん……」  
ぺろりとメイコの唇を舐め、こめかみから頬、顎、首筋へと辿っていく。耳朶を甘咬みされた時、腰を撫でられて思わずカイトにしがみ付いた。  
「感度いいのね」  
「ママ……」  
不安げにメイコの声が揺れる。服の下に潜り込んだ手のひらの大きさに、カイトが男ということを認識してきて、たじろいでしまう。  
しかしカイトは笑みを絶やさず、下着に包まれた乳房をゆったりと揉んだ。布地を押し上げ蠢く動きはいやらしい。  
「大丈夫よ。怖がらないで……悪いようにはしないから。ね? ふふ。おっぱい柔らかーい」  
ひとしきり楽しんでからカイトは胸の上まで服を捲り上げる。ハーフカップのブラに覆われた乳房の上に服を引っかけて、青い目が丸くなった。  
「あらすごい。おっぱい大きいから引っかけることできるのね」  
そう言って指先がカップにかかり、僅かに力がかかるとブラの淵はほんの少しだけ下がった。  
「マ、マ……恥ずかし……」  
「メイコちゃんの乳首は、どんな色しているのかしら♪」  
カップを徐々に下げられる。乳輪が出てきたところで、メイコはぎゅっと目を瞑った。  
「あら! カワイイ色」  
淡色の乳首は半勃ち。青い視線に晒されてそれはツンと張る。  
肌を撫でる手のひらが服の下を進んで肩のストラップを下ろし、袖の中の二の腕のあたりに留まった。そして両方のカップに手をかけずり下げると、真っ白で豊満な乳房が揺れながら姿を現した。  
「やん……」  
「ぷるって揺れてるわ。えっちなおっぱいねぇ」  
五指が乳房を絶妙な力加減で揉む。重みを量るような手つきに息を乱しつつ、こんな風に触られたことってないかもと、メイコは頭の片隅で思った。  
今までの男は、巨乳を喜んでむしゃぶりつくヤツばかりだったから。  
「いいわー。羨ましーわ。私なんかこーんなぺったんこ。メイコちゃんズルい」  
「いやいや、だってママ」  
思わず冷静になった。突っ込んでもいいのだろうか?  
「羨ましいっていうか、ちょっと妬ましいかもね……っと」  
「ひゃぁあっ!」  
ぎゅうっと両方の乳首を抓み上げられて、メイコは悲鳴を上げた。愛撫の域を超えた痛みと僅かな快感に、背中が反り上がる。  
「ママ!」  
胸を押さえ、抗議の眼差しをカイトに向けた。くすくす咽で笑いながら、カイトは取り上げられた乳房を隠す腕に手を伸ばす。  
「ゴメンなさいね。ホント、羨ましいぐらいの美乳だったから。ほら、仲直りしましょ」  
メイコの唇に音を立てて一瞬だけ触れてから、腕を解きにかかる。再び顔を覗かせる乳房の、ほんのり赤くなった乳首を吸った。  
「……あ」  
「ぷっちり尖ってるから、イジりたくなっちゃう。赤くなっちゃって……」  
乳輪を舌先でなぞり、中心で主張するそれに吸い付いては舐めて転がす。舌に嬲られ、メイコの肩が竦み熱っぽい吐息が幾つも零れ落ちた。  
腰にあった手が徐々に下へ降り、ミニスカートから伸びる膝を撫でている。それが、何気なく合わさった腿の間へ移動した。  
軽く歯で挟んだ乳首を引かれてメイコが身震いした隙に、その手はスカートの奥へと忍び込んだ。  
あ。無意識にカイトの手首を上から抑えた。  
胸から唇を離さず視線だけ上げたカイトは、微笑んで視線だけをメイコに向ける。  
 
「怖気づいた? イヤ?」  
飲まれそうになるくらいの青い虹彩は、いつになく妖艶だった。嫌と言えばカイトはメイコを解放してくれるだろうが、この淋しさと寒さは癒えない。  
両天秤にかけてしまえば、自ずと答えは出た。抑えていた手の力を抜くと、手はそのまま奥へと潜っていく。そして。  
「………………あ………………っ」  
下着の上から溝を一撫でされ、身体がぷるっと震えた。  
くちゅ、くぷ。  
下着の前から差し込まれた指先が僅かに動くだけなのに、脚の間から粘ついた音が鳴って、辺りに響く。  
割れ目の奥は既に粘膜が満ちて、性器を弄る指にイタズラされる音には喘ぎが混じった。  
あ、は……っ、と耐えきれない吐息を零し細かく肢体がびくつくのを、乳首を吸うカイトは満足そうに目を細める。  
「もうコリコリね」  
「んぁっ」  
クリトリスを押し潰し指の腹でぐりぐり圧迫される感覚に、胎の奥が疼く。  
「はあっ! あぁん……」  
「マンコこんなに濡らして……イケナイ子。セックスは久しぶりなの?」  
「うん……」  
メイコは小さく頷いた。元彼とは別れる前からレスだった。だからこの頃は。  
「ふぅん。じゃあ、最近はずっとオナニー?」  
直球すぎるカイトの問いに息が詰まったが、訊ねた本人はけろっとしている。ここまできて誤魔化すのも馬鹿みたいなので、メイコは素直に頷いた。  
膣口を爪の先でくすぐり、その刺激に集中していたメイコの下着からカイトの手が引き抜かれた。物足りなさに隣を見上げれば、にっこり笑ってその手を眼前にカイトは掲げた。  
「おカマにこんなことされちゃっていいの? ほら、見て」  
メイコの粘膜で濡れる指。くっついていた親指と人差し指の腹が開くと透明な糸が架け橋を作る。  
「ママのすけべ!」  
「すけべなのはあなたでしょ? ……ん。おいし。メイコちゃんの味ね」  
長く節くれだった指に纏わりつく粘膜を、まるで見せつけるかのようにカイトは平然と舐め取る。  
ママって、こういう時はちょっとイジワルなんだ。メイコは知らなかったカイトの一面にうろたえる。  
メイコの知っているカイトは、綺麗で女心をすごく理解してくれて、包み込むように優しい。癒しオーラハンパない女装のバーのママなのだ。  
…………認識を改めなくてはいけないようだ。  
「パンツ、かなりぐっしょりになっちゃったわ。これ帰り穿けるかしらね?」  
両脚の付け根に指をかけ、ぐっと引き上げられる。割れ目にクロッチが食い込み陰毛と大陰唇がはみ出て、メイコは流石に顔を赤らめた。  
「ちょ……ママってば!」  
せめてもの抵抗に太ももを擦り合わせた。だけどより一層食い込んだ割れ目と顔を覗かせる陰毛は、いやらしさを際立たせる結果になる。  
「これ、見ている方は結構そそるわよ?」  
「こ、こんなの、されたことなんて……ひゃん」  
カイトは素早く手を括れた腰へもっていくと、そのまま下着を下げた。布一枚なのに、剥がされるとその喪失感は大きい。初めてする相手に見せるのは抵抗があって、メイコは両手で股間を隠そうとするがカイトはそれをやんわりと阻んだ。  
「だぁめ。ほら、手を離して。おマタも開くの」  
小さな攻防はメイコの負けに終わった。脚から下着を抜かれ、カイトの手に助けられながら股をおずおず開いた。  
「……まあ!」  
カイトの声が弾む。メイコは性器に視線を感じ、居た堪れなくなった。  
弄られて嬲られ、熱を持つソコがどうなっているかなんて、見なくったって分かる。興奮の高まりに侵されて、身体は見られているだけで粘膜を滲ませた。  
 
「メイコちゃんのマンコ、ピンクで艶っつや! 男のハナシばっかり聴くからもっとアレかと思ってたけど、ステキ……」  
横から覗き込み、カイトは頬に手を当てながら感嘆の吐息を漏らした。そんな、他人と見比べたことなんかあるワケないので返事に困る。  
「お口がいっぱいヨダレ流してるわ。クリちゃんも『こんにちわ』しちゃってる。もっと良く見せて?」  
「きゃ……っ」  
くぱぁと指が襞を拓き、濡れた桃色の肉まで丸出しにされた。カイトは身体を屈めて白い膝に小さなキスをすると、皮の剥けたクリトリスへ舌を伸ばした。  
「あんっ、ダメ! マ、ママぁ……」  
青い髪を除けようとしてもびくともしなかった。それどころか甘苦しい刺激に早々陥落し、頭を押さえる手は役目を放棄してよがり腰を捩じる。  
細かく吸い付かれると、ソファーの端に乗った爪先が敏感に反応しゆらゆら揺れる。ちゅぱちゅぱれろれろなんて表現じゃ足りない程、カイトの舌使いは卑猥だった。  
「とろっとろね。襞がひくひくしちゃって……ふふっ」  
つん。指先が襞をつつき、メイコの膝がぴくんと震えた。  
「はぁ……ん……」  
「指で中を可愛がって上げたいけど、アタシの爪がねぇ」  
示されたカイトの爪はネイルアートまではしていないが、マニュキュアを乗せるために綺麗に伸ばされていた。中に入れて探るには、内側を傷つけてしまいそうだ。  
「うーん。…………そうだわ!」  
思案に曇っていた表情が閃いたといわんばかりに明るくなる。性感は十分に高められているから、挿入がくるのかとメイコは構えたが予想は外れた。  
カイトは嬉々としてテーブルの上に鎮座する夥しい数の空き瓶の一つを手に取った。選んだのは、瓶の括れた部分から口までが一番太いもの。  
「これがいいわね」  
「え……、ま、待ってよ、ママ?」  
イヤな予感にメイコの顔が引きつった。瓶を片手に、カイトはあでやかにメイコを威圧する。そりゃあもうイイ笑顔だ。  
「前戯はちゃーんとしなくちゃねーっと」  
「や、あ、あぁ?!」  
ぐぷんと硬質な無機物が押し込まれ、メイコは為す術も無く受け入れた。熱をもつ濡れた膣にガラス瓶の先端はひやりと感じる。  
膣内をピストンする瓶口に肉をコリコリ刺激され、戸惑いは直ぐに薄れ快感に置き換わった。  
「あ、ウソ……っ、ひぁっ、ひんっ」  
「ねえメイコちゃん。いつもオナニーはどうやってるの?」  
「ど、どうって……あぁん!」  
容易く奥に先端が届き、言葉が遮られた。膣から引かれる瓶の首は、ねっとりした粘膜がまとわりついて照明にてらてら光る。  
「指? それとも何か使う?」  
手は瓶を巧みに動かしつつ、どこか楽しげカイトが問う。快楽を導く瓶に誘われるまま、悶えるメイコの口は勝手に答えを紡いだ。  
「……ぁ……つか、う。んんっ」  
「そう。持っているのね。ローター? ……んー、でも久々でもココは慣れてるみたいだから、バイブかしら。アタリ?」  
顔を背けたメイコを見れば、黙ってていても答えは出ているようなもの。形の良い薄い唇をふふふっと綻ばせ、カイトは加減をしながら瓶を繰った。  
「そんなに恥ずかしがることじゃないわ。コレだって、使いようじゃバイブと似たようなモノよ……ほら」  
「はっ、あぁっ」  
胎内に潜る瓶に勢いがつく。冷たかったそれはメイコの熱に温もり、中から溢れる粘膜がガラスの首を伝う。  
沈み込めばぐじゅんとはしたない音がするが、もう気にならない。ただの無機物、ガラスの瓶はカイトに生を吹き込まれたようにメイコの中を犯して、快感に総身を悶えさせた。  
ひとり火照った身体を慰めるときにバイブは使用するけども、それ専用に作られたものよりまったく別の用途に使われる瓶に、どうしようもなく感じる。  
こんなこと今まで男にさせたこともない。許す間もなくこんなことをされることも、快感に追い打ちをかけた。自分を見ている青い視線を、肌に感じる。  
「あっ、あっ、んっ、あぅんっ!」  
「……いいわ、そのまま」  
粘つく音を鳴らし忙しなく出入りする瓶の、丸い口が膣を掻き抉る。それが性感帯にダイレクトに響き、メイコは悲鳴を上げて全身を戦慄かせた。  
「う、あ、あぁあ! マ、マぁ……っ!」  
緊張する中が瓶を締めつけるのを自覚する。絶頂にあられもなく悲鳴を上げる淫らな姿を、メイコは余すところなくカイトに晒した。  
 
力が抜け、酸素を求め息を乱すメイコの額にカイトがキスをする。  
「すごく可愛かったわ」  
「ママの、バカ……ヘンタイ」  
「悦んでたくせに。ほら、ごらんなさい」  
涙目で見上げてくる茶色い瞳に微笑んで、手にしたままだったビンを照明に掲げた。  
「ちょこっとだけど、ビンの底にメイコちゃんのマン汁が貯まってる。あんなことされてこーんなに感じちゃって、ヘンタイはどっちなの?」  
傾けられたビンの底に、カイトの言う通りメイコの垂らした粘膜が泡立っている。どれだけ感じていたのかを示す確たる証拠に、メイコはイヤイヤと首を振るしか出来なかった。  
そうしている間にも中途半端に乱された服はカイトによりソファーの下に落とされ、白い肌が間接照明の灯りに照らされ淡く浮き立つ。  
カイトはメイコの前に立つと、自らのスカートにスリットから手を差し入れて股間を扱き始めた。盛り上がる前の動きにメイコの視線が釘付けになる。  
「メイコちゃんの気持ちイイ顔と声で、こんなになっちゃったわ」  
薄く微笑むカイトは男臭い仕草をしていても尚、妖艶だ。女性らしい言葉遣いと物腰がカイトの「男」をより際立たせた。  
カイトから視線を逸らせず、メイコの息が興奮で上がる。  
身体の線に沿ったドレスの長いスカートをたくし上げながら、深く入ったスリットを片側へ寄せる。  
ガーターリングが押さえる滑らかなストッキングに、無駄な肉が削ぎ落された筋肉質の腿を包み込まれ……っ、て。えぇ?!  
その驚きと衝撃に、メイコの瞳が最大限に見開かれた。  
「えぇええっ? マ、ママっ、ママ!」  
「なぁに?」  
目を白黒させ焦るメイコに対し、カイトは不思議そうに首を傾げている。  
「……っ、なんで、は、穿いてない……の?」  
カイトは下着を付けていなかった。曝け出した股間に、勃起した肉棒が天を向いてそそり立つ。  
「だってドレス姿に男物の下着なんて美しくないんだもの。女物の下着はそりゃあステキだけど、窮屈だしサイズがねぇ……」  
そう言いなが、肉棒の根元を抓み、カイトはそれを軽く振ってみせる。確かにメイコの目から見ても、女性用のショーツに収まりきらない質量だ。  
玲瓏な女の装いの下のことなどメイコは考えたこともなかったが、言われてみれば男の下着はそぐわない。でも、だからって――!  
メイコは真っ赤になりながらも目にしたソレに子宮を疼かせる。前戯で高められた身体は、あの男根を前にどうしようもなく興奮して制御できない。  
「そんな些細なこといいじゃない。ほぅら」  
「あっ」  
カイトの両手がメイコの腰を引っ張り、ソファーの淵ぎりぎりまで尻を下ろされた。M字に脚を広げられて解された入口を亀頭がつつく。  
「んっ!」  
「メイコちゃん、濡れすぎ。狙いが定まんないわ」  
「あっ、あっ……ふぅ……んっ」  
にゅるにゅる溝を滑る先端に刺激され、メイコは身を震わせる。ひくんと応える襞に、カイトが含み笑いを漏らして鼓膜を擽った。  
「アタシもー限界。いくわね」  
「あっ……? はあぁん!」  
じゅぶり。大きく水音が鳴り、一気に肉棒が根元まで突き刺さる。圧迫感で口を開いては閉じることを繰り返すメイコを他所に、カイトは互いの陰毛が絡まりそうになるほど密着させ、腰を回した。  
「ひぃあ……っ、マ、マ……っ」  
「すごいわねぇ……オマンコ、きゅーって……ふふふ」  
はぁ。ついた感嘆のため息はメイコの喘ぎと交じり合った。垂直に近い角度で抉る硬い肉棒は、それと対比する熱く柔い膣に銜え込まれてきつく締め上げられる。  
まるで待ち構えていたようなよい反応に、カイトの薄い唇に笑が浮かんだ。  
「離さないって、中が吸い付いてくるわ。膣ヒダがおちんちんに絡みまくるし、なんて淫乱なマンコなの!」  
「あっ、ひぃ、ひんっ! あああ……」  
小さな膝を手のひらで包み込んで左右に広げさせ、カイトが腰を振る。  
肉棒をゆっくり引いて強く打ち込まれると、奥に届く衝撃は重く脚が勝手に跳ね上がってしまう。  
穿たれる刺激に言葉はままならず、口は嬌声だけを響かせた。  
「あっ、あっ、あぅんっ、マ……」  
「ピストン好き? 押し込むと襞が捲れて咀嚼してるみたい……見て?」  
身体の角度的に見ることのできるそこに促されてつい視線をやれば、濡れそぼった襞は肉棒の太さに沿い大きく口を開けている。  
自分の中に潜っては姿を現す欲望の形は照明を受けて光を弾き、中から新たな粘膜を掻き出す有様。イヤらし過ぎて直視できない。  
「はっ……んぅ……んっ」  
膣壁を擦られ生まれる快感がメイコの身体を縮こませる。その上に影が差し、カイトが顔を寄せて額にキスをした。  
 
「ん。いいカオ」  
早くも余裕のないメイコとは逆に、カイトは乳房を下から持ち上げると振動をつけて揉み始めた。  
「いいわねぇ。このおっぱいはオカマをもコーフンさせるわ」  
ふるふる揺れる白く大きな膨らみを弄ぶ手つきは、最早カイトが愉しむよりもメイコをよがらせる。  
「あーキモチ……ほんとオマンコの動きがエロいわ。メイコちゃんてば欲求不満なのねぇ」  
「違……っ、そんなん、じゃ」  
「ウソおっしゃい。マンコにバイブ挿れて、淋しいのってヒィヒィ鳴いてたんでしょ?」  
「! ひどい……っ」  
いつもの優しいママはどこへやら、セックスの最中に囁く言葉は意地が悪い。しかし反論したくとも、言葉はグラインドする腰に封じられただ悶えるしかなかった。  
「バイブで満足できたの? できないわよね、こんな淫乱なオマンコだもの」  
「はぁ、あぁあっ!」  
熱く蕩けた性器に沈む肉棒の動きが激しくなり、押さえつけられた腰が快感にくねって無意識に誘いかける。  
「ね……どっちがいいの? バイブとアタシのオチンチンと」  
「そ、そんなの、あっ」  
口より先に膣が反応し、カイトが目を細める。  
「アタシ? 嬉しいわ!」  
痺れるような快感に恍惚になるメイコの脚は、いつの間にかカイトの胴に巻き付いていた。見た目よりずっとしっかりした感触が意外だった。  
中を突き上げ揺すぶられる力強さにくらくらする。触れれば思っていたよりも硬い身体。低くても女言葉に違和感を感じさせない柔らかな声音は、意地悪な囁きでメイコを苛む。  
酔って管を巻くメイコを慈愛と細やかな気遣いで癒す温かさとは打って変わった、有無をも言わせない強引さにイヤらしい指先の愛撫。  
見下ろす青い視線は欲情の光が宿り、メイコの喘ぎ悶える様に浮かべる淫靡な笑みは、もう女のものではなかった。  
――この人は、女でも、オカマでもなくて――。  
焦らしながら中を犯す肉棒に脳内を乱され、レコードの針が飛ぶように思考が途切れて纏まらない。  
喘ぎ鳴くことしかできなくなったメイコの唇に、カイトのそれが触れる。  
「カワイイわね。もっとイジワルしたくなっちゃう」  
「……ウ、ウソ、わたし、可愛くなんか」  
男にそんなこと、例えセックスしてたって、言われたことはなかった。視線を逸らしたメイコに、意外そうな顔をする。  
「カワイイわよ。こんなに感じて、乱れて……。えっちなメイコちゃんを抱いた男に嫉妬しちゃうわ」  
「こ、こんな風に、なったことない……っ。いつもは、いつもはちゃんと……あぁん!」  
暴れる肉棒が堪らない。メイコの言葉は本当だ。変にイイオンナを気取って、相手に合わせるセックスばかりしていた。  
それなりに充実感を得てはいたが、カイトとの交わりを前にすれば、それは霞んでしまう。  
アブノーマルなプレイはしたことなかったし、痴態を意地悪に揶揄されたこともない。しかし、初めて経験したそれらはメイコのM属性を引き出していつもより感じさせた。  
「ママのせい、ママのっ」  
「そうなの? アタシだから?」  
「やっ、ソコ、ひぃんっ」  
「……やっぱりカワイイわ。メイコちゃん」  
抽送が激しくなり、涎を垂らす膣はすっかり解れ、奥へ深く肉棒を迎え入れる。メイコはもう何も考えられなくなり、カイトの肩に縋りながら浮かされたようにはしたない言葉を口にした。  
「気持ち……ちんぽ、ひぁっ、ママのがイイのぉ!」  
脚の付け根に陰嚢が当たりぱんぱんと小気味良い音が鳴る。犯される膣から響く快感が全身を浸し、絶頂の兆しがメイコの肢体を強ばらせた。  
「あー、そんなこと言うから……はっ、アタシも、も……」  
「ひぅっ、あ――っ、もっ……もっ、と……」  
「……っ、イキなさい……っ」  
些細な振動でもしっかり振れる乳房の天辺を彩る尖りを、紫の爪の指が抓み上げる。メイコの目が見開かれ、腰に回した脚に力が篭った。  
貪欲な膣が肉棒を一際強く収縮し吸い立てる。  
「お、おく、ちょうだ……! ぅひんっ、あぁあっ、あああぁあん――――っ!」  
びくびく跳ねる肢体に、快楽に顔を歪めたカイトが腰を振って精を解き放つ。  
最後まで出し終わると、息を整えるより早く萎える前のそれが膣圧に押し出されて失笑した。  
「膣圧高いのね。きっついハズだわ……」  
「あ……あ……」  
「アタシの精液、キツキツマンコにいーっぱい出しちゃった! 気持ちよかったぁ」  
力の入らない身体を投げ出し、メイコは全身を細かく震わせていた。半端ない快感と絶頂の余韻に身動きが取れなかった。  
 
結合を解かれたばかりの性器は薄く口を開きながら、カイトの放った精液が粘膜と共に溢れて流れている。  
精液まみれの股間を無防備に晒すメイコは、温和な態度に隠れたカイトの嗜虐性をやたら刺激した。  
カイトはテーブルを押しやると、メイコの腰を引っ張る。合皮のソファーの表面を滑り、床にペタンと尻を落とすメイコを見下ろす。  
「……?」  
ぼんやりと自分を見上げるメイコの頬は赤く、未だ快楽はその身体を蝕んでいるように見えた。  
カイトはもう一度萎えかけた陰茎を取り出すと、粘膜と精液にまみれたそれをメイコの口元に差し出す。  
「綺麗にしてちょうだい。お掃除よ……できる? 上手に出来たら、またいっぱい注いであげる」  
促すようふるりと揺らされたソレを虚ろな目で追ったメイコは、おずおず口を開いた。陰茎に触れた生温い口腔の感触にカイト腰が小さく震える。  
汚れを舐めとる舌。しゃぶりつく淫らな音が聴こえるまで、そう時間はかからなかった。  
 
 
 
「また来るねー、ママー」  
「きっとよ? 気を付けて〜」  
酔って陽気な客の声にカイトは投げキッスで見送る。危うい足取りで去るスーツの背中は、閉じるドアの向こうへ消えた。  
夜も深く更け、閉店時間まであと幾ばくか。店内で寛ぐ客は二人ほどまで減り、彼らを送り出せば今夜はおしまい。  
気が緩むと、ふとあの淋しがりやの顔を思い出す。どうしているかしらね、あの子は……。  
メイコとはあの夜からとんとご無沙汰。こんなに長い間店に顔を出さないのは初めてだ。肩を竦め、カイトは小さくため息を付く。  
何かあれば、主に男にフラれたらだが……泣き付き自分に甘えるメイコも、さすがにあんな痴態を見せてしまったことを「酔った勢い」にして店にくることはできなかったのだろうか。  
帰り際、「淋しいのならここにいなさい」とカイトは告げた。  
耳まで真っ赤にしたメイコは俯いて、「あ」とか「う」とか、なにやら呻き声を漏らした後、止めるまもなく脱兎のごとく店を後にしてしまった。  
どこまで自分の意図が伝わっているのか……。カイトはカウンターに寄りかかると、柄にもなく粗野な仕草で首の後ろをボリボリ掻いた。  
別に絆されて抱いたわけじゃない。自分なりにメイコに好意があった。しかしメイコの好みに自分が合わないみたいだから、これまで慰め役に徹していただけなのである。  
フラれて毎回飲んだくれるならまだしも、「淋しい、愛されたい」と嘆かれたらカイトは忘れさせることに全身全霊を傾けるしかない。  
……かなりの役得だったけど。無茶なプレイでメイコの頭から元カレを追い出したはいいが、自分にああいうS属性があったとは。  
開いてしまった新たな扉にカイト自身かなり興奮し、途中からのめり込んで愉しんでしまった。  
メイコが自信を喪失して「自分が可愛くないからフラれる」というのを聴く度に、カイトは内心苦笑していた。傍目には弱さを潔しとしないメイコのことだ。どんな男を選んでいたのかは想像に難くない。  
愛されようと懸命に愛情を注いでも、最後は誰かに取られて。本当は一度躓けば脆くいくせに虚勢ばかり張るメイコ。  
そんなメイコが可愛くないなど言語道断。カイトにしか見せない姿に惚れたとかベタ過ぎていっそ笑えるが、事実なのでしょうがない。  
カイトに慰められるメイコは飲んだくれの絡み酒。飲み潰れたみっともない姿も、カイトの中に沈んだオスを奮い立たせるのに十分だった。  
店に顔を出さなくなったとはいえ、カイトはメイコとこれで終わるなどとは欠片も考えていない。  
あの甘え下手で淋しがりやの意地っ張りが、他所で素の自分を曝け出せるとはとてもじゃないが思えなかった。  
店内に据えられた時計に視線をやり、カイトは看板をしまいに店の外へ向かう。店じまいも近い時間に客に来られても、大したもてなしはできない。  
今いる客を送り出して、店の片付けと……。頭の中でいつもの段取りを唱えながらドアを開ける。  
入口の外に置いてあるネオンの看板に手をかけたところで、カイトはドアの陰に隠れていた人影にようやく気がついた。  
 
「…………メイコちゃん」  
呼ぶ声に反応した小さな人影は、俯いたまま身を縮こませる。おずおず顔を上げ、メイコはカイトを見上げた。  
「ママ……」  
どんな顔をしたらいいのか分からないといった様子に、カイトは苦笑を漏らす。一体いつからこんな所に立っていたのか。  
「なあに?」  
「あ、あの……あの……ね……」  
全く要領の得ない呟きばかりが口をついて出るが、肝心な言葉は一向に出てこない。もじもじしているメイコは、どう見てもあの夜のことを意識している。  
面白いぐらい手に取るように分かって、吹き出しそうになるのを堪え顔を作った。  
「ご無沙汰ね」  
「……う、うん」  
「今日はどうしたの? またフラれちゃった? ……それとも」  
カイトの腕が優美な動きでメイコの背中に回る。言葉にするより、身体に訊くほうが話が早い。二の腕の内側へそのまま手を差し入れ、華奢な身体を引き寄せながら乳房を掴んだ。  
「あっ……」  
「カラダが淋しくなっちゃった?」  
手のひらが蠢いて指が膨らみに沈んだ。服の上からでも手中に感じる質量は柔らかく、路地に人の往来がないことをいいことに扉の裏に隠れてカイトは存分に揉みしだいた。  
目を閉じてぷるっと震えたメイコは、なすがままに身体を委ねる。あの夜の快感を脳裏に浮かべ自ら身を寄せるメイコから手を離し、カイトは髪を撫でて額にキスを贈った。  
「まだね、お客様がいらっしゃるの。もうすぐ閉店だから、その後たっぷり可愛がってあげる」  
白い頬に差す赤みが濃くなった。その表情は店で管を巻くメイコからは想像もできず、カイトは破顔した。  
もう一度言う。メイコは可愛い。オカマが本気にさせられるほどに。  
「外で立ってないで、中に入りなさい。温かいもの淹れるわ」  
「ママ、わたし……」  
「安心して。身も心も愛してあげるからね」  
「…………っ」  
微笑みかけると赤く染めた顔のままメイコは言葉を失った。  
背を促し、カイトはメイコを店内へ招き入れる。残りの客を送り出し看板の照明が消えた後の店内の様子は、誰も窺い知ることはできなかった。  
 
 
おしまい。  
 
 

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