注意書き  
□ルカものエロ有り  
□ミク微妙にNTR  
 
--------エンプレス  
 
萌黄色の長い髪をなびかせた少女が、駆け抜けていく。  
ちょうど東京でも舞いはじめた、桜の花びらのように、風に乗って舞うように軽やかな足取りで。  
 
青年が一人公園のベンチでくつろいでいる、その背後から、先程の少女が駆け寄ってくる。  
「おーい、おーいってば、もう」  
まだ幼さが残る青年の頬に、少女が最近ハマっているネギ味のカリカリくん ―当たり付きのアイスキャンディー― を押し付ける。  
「うわミク!なんだよ!」  
青年は冷たさに驚いてベンチから飛び上がった。  
驚きで吹き出した冷や汗が背中を伝い、心臓は早打ちのドラムのように高いBPMを刻んでいる。  
ずり落ちたヘッドホンからシャカシャカと軽快なエレクトロサウンドが流れだす。  
 
「街ナカでヘッドフォンなんてしちゃってさ、コミュニケーション取れない人だと思われちゃうよ?」  
ミクが意地悪そうにクスクス笑う。  
「それに、新曲くれるって言ったの、昨日だったじゃん。」  
そうだった。青年の目が泳ぐ。忘れてたわけじゃないんだよ、青年の苦しい言い訳が続く。  
「べつにいいよー、言い訳しなくたって。いつものことじゃん」  
 
今度はミクがふんぞり返って、見下げるような態度を取ってくる。背がそこまで高くないので、実際は見上げているわけだが、可愛らしい態度だ。  
「私もちょっと忙しいし、曲が出来たら呼んでよ。でも、無断で遅れたのは関心しないな〜」  
ミクは最近人気がある。ライブだ、学園祭だと、色々と引っ張りだこだ。  
そんなミクが右手に摘んでいるカリカリくんの食べ終えたスティックを、プラプラと振っていた。  
「ハズレ」だったらしい。  
約束が遅れていることの代償を払え、ということか。  
「・・わかったよ、俺が悪かった。今度のは結構出来がいいんだ、期待して待っててくれ。あと、そこでカリカリくん買うよ、ネギ味でいいんだろ?」  
そうそう、賢いねーチミは。ミクは嬉しそうに頷くと、公園の出口にあるファミリーマートへ駆けていった。  
 
一陣の風が吹き、桜の花が舞い、浅葱色の髪と薄紅に染まった風が優しくたなびいていた。  
 
その晩  
 
うあー、と青年はうめき声を上げ、伸びをしていた。背骨が心地良い音を立て伸びていく。  
「まあまあ、よく出来たほうじゃないかぁ?」  
そう、一人つぶやく。ミクに渡す楽曲を、自宅のパソコンで仕上げているのだ。  
 
駅からだいぶ遠くなってしまったことと引き換えに選んだ、少し広めのワンルーム。  
楽器やら機材を置くのに、正解だった。  
自分で作り上げたばかりの曲を少し大きめの音量で掛けつつ、冷蔵庫から炭酸水のペットボトルを取り出しゴクゴクやる。  
ミネラルウォーターではない人工炭酸水だが、安いのが魅力だ。  
空腹の腹に染み渡り、朦朧としてきていた意識が炭酸の刺激で蘇る。  
 
軽快なエレクトロ・サウンドが部屋に響きわたり、青年は多幸感に包まれた。  
部屋の中心に立ち、目を閉じて自分の曲を聞き、どこを直すか、思案する。  
 
「いい曲じゃないの」  
ツヤのある、女性の声が背後から突如聞こえる。  
同時に青年の背中から肩に腕が回され、暖かく柔らかい物が背中に当たる感覚。  
「うわ!ルカか!?」  
青年はルカの腕を振りほどくと、大げさに後退りした。  
「ど、どうやって入ったんだよ!」  
ルカは唖然とした表情で青年を見つめる。  
「どうもこうも・・・ノックしたわよ、でも気が付かないようだったから、ノブを回してみたら鍵がかかってなかったってわけ」  
モデルの優雅さでポーズ掛った立ち姿、恐ろしくなるような絶世の美女が、たおやかに言葉を紡ぐ。  
まるで弦楽器ような声、それも特上品の音色だ。  
 
おもむろに、ルカが詰め寄ってくる。  
長い足で、小幅な歩調でも青年の一歩と大差がない。  
「いつも思うのだけど、あなたちょっと無用心過ぎない?いくら男の一人暮らしといえど、泥棒ぐらい入ってくるんじゃないかしら。まあ取るほどお金は無さそうだけれども。」  
余計なお世話だ!青年が返す。  
しかし確かに金には困っていた。  
 
「掃除もしたほうがいいわよ、ホコリもたまっているし。  
それに、女性が部屋に入ってきているのに、アレはどうなのかしらね・・  
あなたなりのアピールだとしたら、逆効果だからやめたほうがいいわよ、『ドン引き』っていうのかしらねこういうの」  
ルカが部屋の隅においてある室内干しの洗濯物に目をやる。  
「うお!こら、見るな!ていうか勝手に入ってきたんだろうが!何いってんの」  
青年の下着がありのままの姿でいくつか掛かっていた。  
ウニクロ製の色気のないトランクスタイプだ。  
 
青年の抗議に、我関せずとルカが続ける。  
「う〜ん、曲の出来はいいのだけれど、ちょっと音量も大きいのじゃなくて?  
私が部屋に入っても気が付かないなんて、相当よね。  
周りの住民の方々からすれば、これはちょっとした騒音公害じゃなくて?」  
「うっせえ!何しにきたんだ!」  
 
「何って、」ぐいっと詰め寄ると、青年が手にしていたペットボトルを奪う。  
「私もガスウォーター好きよ。」青年が飲みかけていたそれを、ぐいっと煽る。  
「あら安っぽい」  
「余計なお世話だ!」  
 
青年の部屋のベットにルカは女王であるかのごとく腰掛けている。  
安物のベッドにはあまりに似つかわしくない姿が部屋の情景から浮いていた。  
青年が部屋を片付けるのを眺めているのだ。  
 
「ふうん。なるほど悪くないわね。」  
なにがだよ、下着をしまいながら青年が問い返す。  
「いや、あなたなかなかいい旦那様になるわよ。」  
ペースを乱された青年が、あたふたと返事に困る。  
 
「私、よく勘違いされるのだけれど、家庭的な男が好きなのよね。  
エグゼクティブな殿方に言い寄られることが多いのだけれど、豪華なホテルで口説かれても、ちょっとも面白くないの。  
その点、あなたのびんぼ・・慎ましい生活には感心するわ、家事も自分でできるようだし」  
やっぱり馬鹿にしてるのか!  
 
「はあ、なんなんだよ、お前はいつもいつも・・」  
やれやれ、といった口調で青年は続ける。  
ルカが青年のところを訪れるのは、最近よくあることだった。  
いつもこんな調子だが。  
 
「それで今日はなんだ、飯は作ってやんねーぞ。」  
前回来たときにルカが食事をねだったので作って食べさせてみたら、先程までの調子で論評されたので、もう二度と作る気が起きない。  
 
「あら残念、とてもお美味しかったというのに。  
そうねえ、用事ねえ?・・・用事が何かと言われても、困るわ。」  
暇なのかよ!  
ハイソサエティな風体をしているが、実はただの暇人なんじゃないか?  
今日はちょっと忙しいから、家にいてもいいけどかまってやれねーぞ。  
青年はそう言うと、パソコンに再び向き合い楽曲を完成させようとする構えだ。  
 
(ここまでストレートに迫っているというのに。  
恐ろしく鈍感なのかしら?・・ちがうか、さすがに年頃の男だもの。  
鈍感なんじゃなくて対処ができないんだわ)  
 
心地よいサウンドがスピーカーから漏れだす。  
 
(何をしにきたと言われてもねえ、その「曲」に用があるのだけれど、どうしたものかしら)  
 
「いい曲ね」  
すっとベッドから立ち上がったルカが語りかけてくる。  
これについては青年も素直に嬉しく、声が弾む。  
「お、そうか?なあ、どこ直せばいいかルカも聴いてくれよ。  
ミクにあげる予定なんだ。」  
その一言でルカの表情が強張るが、青年は気が付かなかった。  
 
(ふーん、やっぱりそうなのね)  
 
「いいわよ、聴いてあげる」  
デスクに向き合って座る青年の背後に、ルカが寄り添うように立つ。  
その視線は、モニターと青年の後頭部を行ったり来たりさまよっていた。  
 
(あの娘と「良い仲」になっていたら困るのだけれど)  
 
ルカは手持ちぶたさにチャプチャプと振っていた炭酸水のペットボトルをすっと持ち上げた。  
 
(一揉みしてみるか)  
 
わっ!と青年が声を上げる。  
ルカがペットボトルを彼の首筋に押し当てたために、急に冷やされた感覚から反射的に声がでたのだ。  
「お、おいルカまじめにやってくれよ。  
まったく、ボーカロイドって人を冷やして驚かすのが好きなのかい?」  
冷やすとはどういう意味合いかルカが続けて尋ねると、ミクにカリカリくんを押し当てられたというのだ。  
 
(あらあら、人見知りのあの娘が・・)  
 
「ふふ、そう怒らないでほしいものね。ずっとパソコンで作業してたんでしょ?  
目も腫れてるし、冷やしたほうがいいのよ」  
はぁ、と青年はため息をつくと、ありがとうと返す。  
またく心の入っていない返事ではあったが。  
 
「飲んだら?」  
ルカがキャップを外したペットボトルを青年の口元そばまで運ぶ。  
「気持ちいいわよ。炭酸」  
青年はぎょっとして、ペットボトルの飲み口を見る。  
くそ、今日のこいつは何なんだよ、やりづらい。  
 
「ああいや、いいよ、それルカにやるから。俺はもう一本開けるよ」  
そう言って席から立ち上がろうとする青年を遮るように、ルカがペットボトルを口元に運んでくる。  
意地悪な、妖艶な笑みを浮かべて。  
 
「まさか恥ずかしいのかしらね?間接キッス」  
そうじゃなくてだな、青年はうろたえる。  
本当に一体何なんだ、終いにゃ怒るぞ。青年は困惑する。  
 
(うーん、これはこれは、まだウブねえ。この歳でどうなのかしらね人間の雄として)  
 
「中学生じゃないんだから、こんな事で意識されるとかえって私の方が恥ずかしくなってしまうのだけれど」  
「彼女や友だちとはアタリマエのことでしょ?」  
そこまで聞いて青年は不機嫌な表情に変わり、  
「悪かったな!」  
(あら?)  
「いねーよ、彼女なんて!」  
(あらあら)  
「邪魔するならかえってくれよな、もう・・・」  
言葉を続けようとした青年の口にペットボトルが差し込まれ、言葉が遮られる。  
差し込まれるというより、避けようとした青年に捩じ込まれるといった感だった。  
 
「じゃ、ちょうどいいじゃない、なってあげるわ、彼女に。間接キスの味はどう?」  
ルカが一段と意地悪な笑みを浮かべる。  
口から喉へ流れ込んでくる炭酸水が、弾ける感覚が心地よく、ペットボトルの呑口は甘美な果実の味がした。  
 
何が起きているんだ。  
冷静になれ。  
青年はベットに腰掛けて頭を抱えていた。  
先ほどのやり取りを冷静に反芻する。  
自分に彼女が出来たことはどうも確からしかった。  
それも唐突に、だ。  
 
そして、ユニットバスから聞こえてくる、シャワーの流水の音。  
安普請なマンションゆえに、少し蒸気が漏れているのだろうか、熱を帯びた湿気が、部屋まで漂ってきて、それにのって運ばれてくるかすかな甘い匂い。  
こ、これはルカの・・・  
 
落ち着くなんて無理だ、どうする、どうすればいい?  
ルカは風呂を上がったら家に帰るだろうか。  
もういい時間だが、着替えて駅まで送れば終電にはまだまだ余裕がある。  
いや、本当に返るだろうか、泊まると言い出したらどうする。考えろ、考えろ、、  
 
貧乏揺すりが止まらない。  
目を強くつぶる。  
 
シャワーの音に紛れて、まだ止めていなかった自分の曲が聞こえてくる。  
そうだ、ミク、ミクに曲をあげなきゃ。  
 
ミク・・・・俺は・・・俺は、ミクのことをどう思ってるんだろう。  
 
ミクとの今までの出来事を反芻する。  
俺は・・・  
 
ルカに謝ろう。こんな急に付き合うだなんて、俺には無理だ。  
 
確かに、ミクとルカ、二人と音楽を通じて共有してきた日々は掛け替えのないものだったが、俺はミクに・・・  
 
「そんなに考えこまなくてもいいのよ」  
声は、近くから聞こえた。心臓が跳ね上がり青年の頭が真っ白になる。  
なんで、まっすぐこっち来ちゃうんだよ、服とかどうする気なんだよ。  
おかしいだろ。  
青年の頭の中から、先程まで思い悩んでいたミクの姿が消し飛ぶ。  
 
(ふふ、急いで事を進めて正解だったかしらね)  
 
「ここでお勉強タイムです。  
『据え膳食わぬは男の恥』という金言がありますが、  
ラブコメばりにここでストップして、純愛がどうのこうのっていう展開にはさせないわよ。  
覚えておきなさい」  
マジかよ、マジかよ、なんで?  
もうそんな事すんの?  
付き合ったばっかりじゃん、おかしいぞ。  
恐る恐る青年は声のする方を見上げる。  
身に付けるものはスリッパと、肩からかけたバスタオルだけ。  
バスタオルぐらい巻いているだろうという期待は、眼前の凄まじいまでの情景に打ち砕かれた。  
拭かずのままの体は、赤子のように水を弾き、  
胸はタオルで隠れているが、下は全く何もない、  
強いていうなら髪と同じ色の柔毛が股間を隠している程度だった。  
 
(あきれるわ、全く経験がないのかしらね。視線が「刺さる」というやつね)  
 
青年の視線は、自分の目と全く合わさっていない、それどころかもっと「下」で釘付けになっている。  
 
(ま、今日だけは構わないわ。私のものになってから躾ければいいのだし)  
 
「じゃ、横になりなさい。」  
 
(この人は、ミクには渡せない、この曲、この才能は私に必要なの)  
 
青年が恐る恐る立ち上がる。  
横になれといったのに、物わかりの悪い子ね。  
ルカは青年の頭を引き寄せ、唇を吸い上げる、強引に。  
青年の荒々しい呼吸がルカの唇と鼻孔をくすぐり、むず痒い。  
空いた手で今度は青年の腰を引き寄せる。  
Tシャツ越しに、高鳴る鼓動をが伝わってくる。  
ジーンズの奥では、彼の男が高ぶり固く膨れ上がっているのがよく分かる。  
 
シャワーから上がったばかりのルカの肢体が、彼のシャツを濡らしてお互いの体に吸い付く。  
ボリュームのある、それでいて柔らかい乳房が青年の胸と呼吸を圧迫する。  
こんなにも柔らかいのか。  
双房の頂点に、わずかに硬いものを感じる。  
思わず青年は手を上げ、ルカの脇を通し、背中を抱き寄せる。  
乳房は弾けんばかりに密着し、押し潰れる。  
すげえ、これが・・  
 
「うっ!」  
 
青年はくぐもったうめき声をあげる。  
ルカが脚を絡めてきたのだ。  
柔らかい太ももが自身の股間を下から押し上げてくる快感に、体が過敏に反応する。  
ルカは脚を上下させ、また彼女の股を絡んだ青年の脚に押し当てる。  
ルカの太ももで圧迫されるたび、彼の雄の部分は激しく反応し、自分で触れるのとは全く異質な感触を覚える。  
ビュルと、肉茎の中をゲル状のものが充填し、こみ上げてる感触。睾丸は張り裂けんばかりに膨らむ。  
 
青年の本能が獣の衝動を呼び起こし、力ずくで押し倒しメスを犯せと叫び狂う。  
「だめよ、がっつかないで。私がレッスンしてあげる。」  
唇を離したルカが彼女の耳元で囁く。  
 
「上で踊ってあげるわ。」  
妖艶な囁きに、青年は、これから自身に振りかかるであろう運命を想像し、全身の力が抜ける。  
最早抵抗するすべがなかった。  
「はぁ・・・?う、上って、・・」  
いいから大人しく従いなさい、ルカはそう続けると、青年を優しくベットに押し倒し、組み伏せる。  
 
(まるで子供みたいね、エスコートは今度教えてあげるわ)  
 
ルカは彼の体を、胸のあたりで跨ぎ、膝立ちの姿勢でシャツを引き剥がす。  
 
「結構いい体してるじゃない、鍛えたほうがいいわよ。」  
自分を跨ぐルカを見上げるのは、絶景だった。  
豊満な乳房が揺れ、その下には、整った茂みが構えていた。  
自分を跨いでいるため、脚は大きく開かれ、もう少し潜り込めば奥まで見えそうだ。  
 
「スケベね、そうジロジロ見られると、女の子は引いてしまうわ。」  
ごめん、青年は顔を真赤にして背ける。  
「やん、カワイイ・・顔を見て、目を合わせて」  
ルカは左手で青年の頬に触れ、優しく彼の顔を起こすと、腰を落とし彼の腹の上に座り込む。  
吸い付くようなキメの細かい肌が触れ合う感覚が心地よい。  
ダンスで鍛えられた肢体は、程よく引き締まっているが、バランスよく脂が乗り、喩えようがない程柔らか  
 
チュル・・  
 
更に体が沈み込むと、ルカが体に纏っている湯水とは全く異質の粘り気のある水音がなる。  
青年の腹筋に、柔肌とは異質の、熱く熱をたたえた粘膜の触れる感覚。  
これは、これが、ルカの・・青年の触感がその一点に集中する。  
ルカの口元がクイと上がり、妖艶な笑みを浮かべる。  
 
「楽しみ?」  
青年は答えることが出来なかったが、その問いかけで、されるがままで精一杯だった頭がようやく回転しだした。  
 
初めて、俺も男になるのか。  
そうか、そうだよ、さっきまで変なことで悩んでいた俺が馬鹿だったんだ。  
誰だってしてる。  
俺は遅いくらいだ、学校の連中が頭によぎる、あいつだって、  
あいつらだって、俺よりちょっと早く彼女が出来たからって見下しやがった。  
 
だが今はどうだ?年上の、信じられないぐらい上玉の、ルカと俺は結ばれるんだ。  
そうだ、そうだよ、悩むようなことじゃなかったんだ。  
ルカが最近俺のところに来るようになったのは、俺に惚れてたからなんだ。  
そうに違いない、「俺の女」だ。なんだって出来る、いまから。  
 
青年に右手を上げ、ルカの体を這わせ、豊満な膨らみを包み込むように触れる。  
信じられないほど柔らかく、それでいてしっかりと指を押し返してくる弾力。  
ルカの口がわずかに開き、嬌声とも吐息とも分からない声がもれる。  
 
「じゃ、始めるわ。私の体に乱暴しちゃ、やーよ」  
青年の顔がほころぶ。嬉しいのか、支配欲におぼれているのか、性欲を隠さない笑み。  
 
(獲れるわ、この男。ごめんなさいねぇミク)  
 
ルカは一度腰を上げると、そのまま後ろに這って下がり、青年のジーンズを引き下ろそうとする。  
 
その間、青年は先程までルカが座り込んでいた自分の腹を手で拭い、絡みついた液の感触を確かめる。  
ルカの中心が触れていた部分は、汗や湯水とは確かに違う粘液の感触が残る。  
すごい、これが女の子の・・  
 
「うっ!」  
引き下げられたジーンズの下、張り上がった下着の上から性器をルカに掴まれ、  
撫ぜられると、そこから肛門、脊椎を伝って脳に電撃が走るような感覚。  
たまらず声を上げてしまった。  
あれ!?やべえ、やべえ、もう出そうだ、なんで・・・。  
自分の鈴口が湿ったのがわかる。陰茎に精液が一気にみなぎる感触。  
 
「もうちょっと我慢してほしいなあ。早いわよ、キ・ミ」  
つかみ上げる手を緩め、鎮めるように優しく撫でるような動きに変えながら、ルカが挑発してくる。  
男のプライドに刺さる言葉、攻め手が緩んだ所で全身を強ばらせて耐える。  
 
「やだ、たくましい。」  
性器への刺激をやめ、ルカが強張った彼の腹筋や脇腹を撫でる。  
青年はたまらず嬌声を上げる。  
 
(おもちゃにしてあげるわ)  
 
そんななか青年の作った曲は、なおもエンドレスで響き、ルカの体を包み込む。  
ルカの胸の奥、心臓が大きく跳ね、カッと熱くなる。  
 
「私もそろそろ『欲しい』のだけど」  
ルカが大げさに肢体を捻る。右手を青年の下着にかけ、左手を自らの秘所を覆うように這わす。  
 
「し、しようルカ、早く」  
青年の声と曲とが、ルカの耳から心の奥へと流れ落ち、野心と混ざりあい激しく燃え上がる。  
 
まだまだ幼い荒削りな才能が自分の下で横たわり、自分を心待ちにしている。  
軽快なサウンドは、青春を思わせる、希望に満ちた真っ直ぐな音色。  
 
だがルカはその音の先に、もっと別の未来が聴こえていた。  
見渡す限りのオーディエンスが、青年の情熱的なサウンドに熱狂し、  
ルカの歌とパフォーマンスに歓声を上げる。そういう情景が聴こえていた。  
 
「あなたはもっと変われるわ」  
青年の下着が荒々しく引き剥がされ、  
喰い付くようにルカが跨り、腰を落としていく。  
 
限界まで張り上がった青年のそれを、ルカが自らの手で優しく入り口へと誘う。  
鈴口に熱い粘膜の感触。  
 
「いくわよ」  
ゆっくりと腰を落とすと、角度が合わなかったせいかルカの秘所は一度侵入を拒むが、  
少し腰を動かし再び体重をかけると、穴は咥え込むように彼の先端を迎え入れる。  
 
思わず吐息を漏らすルカ。  
ゆっくり、ゆっくりとルカの体内に刺さっていく感覚。  
やわらかな肉襞が彼を迎え入れ、包み込んでくる。  
 
肉茎の半分に差し掛かった所で、ルカの呼吸が乱れ、動きが一旦止まる。  
膣の一番敏感な部分に青年のものが差し掛かったところだった。  
ルカの表情が上気し、潤んだ目が細む。  
 
綻んだ口元から弱い喘ぎを零しながら、再び腰が沈んでいく。  
最奥に当たる感覚。  
なおも腰は落とされ、今度は最奥を付き上げていく感触。  
 
ルカの背中が反り、苦しげに喘ぐ。  
少し、また少し、ついに彼の全てを咥え込んだルカは、  
彼の腰に静かに体重を落としきり、体を支えていた脚の力を抜いていく。  
 
最も深く繋がりあった所で生じた快感に、  
青年を跨いでいた脚が彼を挟みこむように痙攣し、膣が歓喜とともにひときわ潤う。  
目眩がするような快感に、少しわざとらしく喘いで、  
ルカは自分の右手の中指を自らの口に僅かに咥えた。  
 
「・・どう?私は。お気に召してくれると嬉しいわ」  
他の女と比べてみろ。  
青年に経験がないであろうことは感じ取っていたものの、あえて問いかけてみる。  
彼をからかう意地悪と、気が付いていないフリをする気遣いが交じり合った不思議な感情。  
 
「すっげーイイよ、すげえ・・」  
男になった、その感動に青年は素直な答えをぶつける。  
そして、早く腰を振って喰らい尽くしたい衝動がこみ上げる。  
が、彼の衝動はすぐに霧散した。  
 
!!  
 
ルカが腰を振り始めたのだ。  
初めての雌の欲情を魅せつけられて、青年はただされるがままになる。  
 
初めは上下に、次第に複雑な動きで青年を誘う。  
ルカの動きは、靭やかな体ならではの動きであろうことは、初めての青年にもわかる。  
 
前後に艶かしく、しなやかにグラインドする腰、それを動かす腹筋と双脚の筋肉が、動きに合わせて緊縮を繰り返す。  
ルカの大造りの腰と臀部が青年の陰茎を舐り尽くす。  
肉襞が複雑にからみつき、雄の子種を吸い付くそうと誘う。  
 
「ルカ、ルカ!一回ごめん、もう・・・」  
ルカが動き始めてまもなくといった所で青年が音を上げる。  
とうのルカはといえば、全くお構いなしに腰を振り立てる。  
彼の性器を覚えたばかりで、これからといところでは止めようもない。  
 
「ちょっとは我慢なさい!」  
彼女の言葉に、全身を強ばらさせ、シーツを握りこんで耐えようとする。  
ルカは、最も敏感な箇所に彼のものが刺さる動きを見つけ、吐息を漏らしながら腰をふる。  
 
『踊る』と表現したとおり、ルカは彼の曲に身を委ねて複雑に、靭やかに体を動かしていく。  
 
粘液をかきまぜ粘膜同士が摩擦する、淫らな水音も、全く卑猥さを感じさせない。  
四つ打ちのサウンドに乗ってしなる肢体、双房がリズミカルに揺さぶられ、極上の美女が歌うように喘ぐ。  
 
「でも・・・ルカ、中に・・・ッ!」  
それを聴いて、勝ち誇ったような笑みを浮かべるルカ。  
何も言わないが、ペースは乱さない、無言の容認。  
 
ぐうぅ、と青年は低い唸りを上げる。  
下半身の快感は今までに覚えたものとは全くの異質で、こすれあう性器に甘い痺れを感じていた。  
少し、出てしまったかもしれない。必死に力を込めて耐える。  
 
「まだ始まったばかりよ?ガマンガマン」  
ふふ、と笑みを零しながら、曲の盛り上がりにあわせていっそう激しく腰を振り立てる。  
 
彼のデスクトップから流れるリズムは、  
少し奮発して買った上等なスピーカーから軽快に流れ、ルカの肢体を渦のように巻き上げる。  
ウーハーが打ち鳴らす低音がルカの下腹部をくすぐり、青年と繋がっている場所と共鳴する。  
ルカは体を大きく弓反りにしならせ、曲のクライマックスに併せて激しく青年を責め立てる。  
 
既に我慢の限界で堪えていた青年に、ルカの本気の体に耐えられるはずがなかった。  
青年の体の奥から一気に精液がこみ上げ、性器から吹き出す。  
たまらず唸りを上げる青年。  
 
「アアッ!ハァ・・ア、ア、ア、ア、ア・・・ンッ!せっかく、・・・良くなってきてるのよッ!アハァ!、我慢なさい!」  
喘ぎ声を上げながら、ルカが声を張り上げて青年を挑発する。  
 
必死に堪えるようとする青年だったが、一度絶頂を迎え、敏感になったものを堪えろなどと、男性には酷な命令だ。  
力を入れれば、逆に吹き出してしまう。  
青年は呻きと喘ぎを繰り返し、息も絶え絶えになりながら、射精を繰り返す。  
敏感になった肉茎を、ルカの柔肉が包み、絞り上げる。  
 
自分の体内で一人の男が昂ぶり、果てて行く。  
男を支配する感覚。  
高鳴る心臓に、打ち付けられる低音、疾走感の強いサウンドが火照る体を突き抜けていく。  
この才能が自分のものになる。  
絶頂に悶える青年をお構いなしに、多幸感に包まれるまま、自分の熱い箇所を打ち付け快感を貪る。  
すべてが手に入る、もうすぐ。  
自分がこれからシーンを独占する。ルカの野心が胸を焼く。  
 
「うぅぅくっ!ミク・・・」  
無意識だったのかもしれない。  
一団の快感の最後の一絞りを子宮に注いだ青年はミクの名前をこぼした。  
青年自身、名前を読んだことに気が付いてはいなかった。  
 
これに過敏に反応したのはルカの方だった。  
激高し、憤怒の形相に急変する。  
殴りつけたい衝動を抑え、落ち着け、落ち着け、  
そう胸の中で呪文を唱えるように繰り返す。  
 
(セックスの最中に他の女の名前を呼ぶなんて、随分と大物じゃない、童貞君)  
 
(まあ、いいわ、強引に迫ったのは私。とことんまで奪い尽くしてやればいいのよ)  
 
感情を抑え、整理する。目を閉じ表情を平静にもどす。  
 
「忘れさせてやるわ、全部」  
果てた青年に覆いかぶさると、強引に唇を奪い舌を差し入れた。  
 
二人の情交はどれぐらい続いたろうか。  
 
深夜。  
青年はベッドにルカを組み伏せ乳房を揉みしだき、獣のように腰を打ち付ける。  
 
二人の精液が混ざり合い、グズグズに崩れたルカの膣は、  
敏感な部分を突き上げられ何度目かの絶頂を迎えた。  
 
激しく犯されるたびに肉茎を包む柔肉は歓喜の痺れに酔い、  
快感は波打ち際のように四肢まで繰り返し押し寄せ、乱れた嬌声を止められない。  
 
これでいい、何度でも、何度でも求めさせる。  
他のすべてを忘れ去るように、全て与えてあげる。  
私の、私だけの才能になりなさい。  
 
快感の目眩に天井が揺れ、朦朧としだした意識の中で、ルカは青年を呑み込んでいく。  
 
何と罵られても構わない、ただ自分の野心のために。  
 
「ミクー!こっちだ」  
 
約束の時間、いつもの場所、いつもの男女。  
 
「新曲だね!」  
ミクは嬉しそうに、さっそくプレイヤーを動かす。  
 
青年があの日、作ったままの曲が流れる。  
軽快で、疾走感のある、青春を想起させる楽曲にミクは嬉しそうにはしゃぐ。  
 
「ああ、ミク『には』似合うよ、きっと!」  
二人に、ではない。  
 
小鳥のように騒いでいるミクを見て、奏でられる自分の曲を聴いて、何も感じない。  
ズレてしまったのかもしれない。  
この娘はまだ、このままが良いんだ。  
 
「じゃ、今日はちょっと忙しいから、またな。」  
別れ際、少女の翠玉色の瞳が、夕陽の橙色に染まる。  
 
なんだか長い別れになってしまうような気がして、  
少女は寂しさに胸を締め付けられた。  
 
割れんばかりの歓声、視界一面を埋め尽くす赤紫のサイリウムがうねりを上げ、  
ムービングヘッドが乱れ狂うようにオーディエンスを照らす。  
 
『JUMP!JUMP!JUMP!』  
 
青年が低域のイコライザーを捻り観客を煽ると、  
嬌声が一斉に湧き上がり、オーディエンスがぶつかり合うように飛び跳ねる。  
 
スピーカーから叩きつけられるキックにルカの体が震える、絶頂しそうなくらいキモチイイ。  
 
ルカァァァァ!  
 
ファンの悲鳴にも似たコールに包まれ、ルカは歌う、  
そう、彼女は今やすべてを手に入れたのだ。  
 
この日のために、この瞬間のために、なんだってやってきた。  
 
後ろ指を刺されようとも構いはしない。  
たぎる野心が、そう、うそぶく。  
 
おしまい  
 

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