1 悪夢
少女が垣間見てしまった兄と姉の男女の営み。
生々しいそれは潔癖な少女には汚らわしいものとして映る。
ショックで寝込み、心配する兄と姉の接触をも拒む少女。
眠ることも出来ず苦しむ彼女に声をかける者がいた。
「これはお嬢さん 夜中眠れずにいるのかい?
それなら僕が 魔法をかけてあげようか」
2 夢喰いバク
バクと名乗るそれは、まだ未成熟な透明さを残す少年の声だった。
自分より幼げなその声に警戒心を解かた少女は、声が導くまま心の内に溜めていた苦しいものを全て吐き出す。
少年の声はいたわるように優しく、それは怖いユメだと少女を宥めた。
「僕に任せなよ 丸ごと食べてあげよう
もう心配ない ゆっくりお休み」
バクに秘密を喋り、共有したことで、安心した少女は眠りについた。
悪夢は見なかった。
バクをすっかり信用した彼女は、次第にバク自身に興味を持つようになる。
夜の帳が降り寝台に入ると密やかに現れる声だけの存在。
きっと優しい少年の姿をしていることだろう。
少女は好奇心を抑えることができずに、バクに姿を見せて欲しいと願う。
「これはお嬢さん また頼みごとがあるって?
断らないさ これこそが僕の幸せ」
少年は夢の中でなら姿を見せてあげると少女に約束をする。
期待に胸を膨らませ、なかなか寝付けなかった少女が眠りに落ちて見たものは、細くしなやかな手足、白磁の頬、眩い金の髪、表情豊かな碧い目をした少年だった。
上品な燕尾服の袖をラフにまくったアンバランスな格好が、少年の危うい魅力を引き立てていた。
少年は少女の手を取り、夢の世界を案内する。
夜に光る一面の花畑、お菓子で出来た小人の国、蜂蜜の流れる川。
少女は夢中になるが、夜が明ければ夢から覚めなければならない。
別れを惜しむ少女がまた会いたいと願うと、少年は笑ってこう言った。
「・・・それならキスで約束しよう」
4 甘いユメ
少年のキスで目覚めた少女は、朝食の席でぼんやりとしていた。
様子がおかしい妹を兄と姉は心配するが、少女は生返事を返すだけ。
少女の脳裏にあの日見た兄と姉の行為がよぎる。しかし、ずっと感じていた嫌悪感は薄れており、いつの間にか想像上のそれで絡み合うのは自分と少年に置き換わっていた。
ユメの中の出来事なら、汚らわしいことなんか一つもない。
あの少年に触れられたら、どんな感じがするのだろう。
少女はその日の夜、家族が団欒する居間から早々に引き上げ、胸高鳴らせてベッドに入った。
少女がユメの世界に落ちると、そこは鬱蒼とした森に囲まれた蜃気楼のような白亜の城だった。
少女はその城の姫君で、望むものは全て望む前に少年によって与えられる。
広いテラスに面した姫の居室はクリーム色の家具で統一され、キラキラと輝くキャンディ細工のシャンデリアは美しい光を弾くとともに、甘い香りを部屋いっぱいに漂わせていた。
少年は全て分かっている顔で、少女の手を引き、薄衣の掛かった広い寝台へと少女を誘導する。
昼間の夢想を思い出した少女は頬を染めた。
「僕に任せなよ 全部与えてあげよう 」