カッ、カッとハイヒールを鳴らしてアンは廊下を歩いていた。
「すっかり忘れてたわ…日本じゃバレンタインは男性にチョコレートをあげる日だったなんて」
時間は既に午後11時をまわっていた。家に帰ってから気付き、急いで戻って来たのである。
「…別にレオンの事が好きって意味じゃないけど、最近アイツ頑張ってるみたいだしね…この前もランキングに入ったらしいし」
何の歌かは知らないが、ランキングに入るとなるとかなり良い歌なのだろう。アンはレオンが歌を練習する姿を想像し、一人微笑した。
「ま、たまにはスイーツ(笑)とかあげてやっても良いわよね。別にレオンの事が好きって意味じゃないけど」
自分が2回同じ事を言ったのに気付かないまま、アンはレオンがいるスタジオに向かった。
そしてスタジオの前。微かに開いたドアからは音が漏れている。そのドアをアンは勢い良く開けた。
「レオ…」
「チーッチチッチッオッパーイ、ボインボイーン!」
「…レオン」
「もげっもげもげ…ってうぉ、アン!?」
ようやくアンの存在に気付いたレオンは慌てて伴奏のテープを止める。しかし時既に遅し。
「アンタ…なんて歌を歌ってんのよ!最低!」
「ちょ…誤解だ!これは俺のプロデューサーが歌えと…」
「何言ってんのよ!にやけて歌ってたクセにこの変態!!もう知らない、私帰る!」
「待て!話せば分かる!つーかお前何しに来たんだよー!」
その後夜遅くまで、外人ボーカロイドの騒ぎ声スタジオ内に響いていたという。