しゃくっ、しゃくっ、
あまり取り沙汰されないが、CV−02鏡音ツインズはリンとレンで利き腕が違う。
人間でも一卵性の双子は受精卵での分裂具合によって、片方が右利きに、
もう片方が左利きとなることがある。
それと同じ現象なのかは分からないが、鏡音リンは右手でスプーンを持ち、
鏡音レンは左手でスプーンを使う。
一番分かりやすいのは、この二人の反応だった。
しゃくっ、
今日の夕食は二人のリクエストでオムライス。卓上のケチャップで好きな絵を描いて食べて良い。
MEIKOはあえての無反応。
右と左でオムライスにがっつきながら、一瞬そろって停止。
「「……。」」
ちらっと俺の方を見て目をそらし、おそるおそるミクの方を見ては、
しゃくっ!
…やっぱオムライスに集中する事にする。
遅れてマスターがやってくる。
双子は同時に食べ終わり、ぱっと逃げ出した。
マスターの脇を左と右で駆け抜け、たぶん自室が避難所だ。
「?」
マスターは双子の動きに驚いた顔をしていたが、やがて席に着くと、ケチャップを手に取り俺に訊ねた。
「もう具合は良いのか?」
腹痛の事だ。
「…ハイ」
「そうか。痛そうだな、カイト」
俺の横面は、平手の形で真っ赤に腫れ上がっていた。
「……。」
マスターはミクも見た。
しゃくっ
しゃくっ!
実は最初からダイニングに響く、殺伐とした音の発生源がミクだった。
ミクのネギ囓る音である。
6−
最初から。
全部。
諦めていれば良かった。
マスターを得る事−高額で扱いづらく−、
認められる事−需要がない−、
いつか…−旧式の−、それでもと想う事−出荷は無いだろう−
一つずつ、順番に諦めていって、気がつけば時間さえもが秒単位の数値に変換されていた。
ミクが微笑んでくれる、それまで俺は俺が歌えることすら忘れていた。
人間に似せられた俺の顔が微笑むことを知らなかった。
それ以上の何を求める必要があったんだ。
諦めていれば。
きっと。
ミクはそのまま、『兄』を慕い続けることが出来たのだろうし。
俺も、やがてミクが離れていくその時まで、何も感じず笑顔のままで
ミクの気持ちに答えることが出来たに違いない。
最初から分かっていたじゃないか。それが最善だと。
もしかしたら、いつか、
俺と同じように、
ひょっとしたら、…、
ミクも、
…、
そんなことは有り得ない、そんなことくらい。
最初から。
手に持つ冊子のページをぱらりとめくる。
マスターの持っていた三年前の経済白書である。マスターは時々変なモノを読んでいる。
「んあ? カイト、お前起きてたのか」
マスターが水を飲みに起きてきた。リビングの奥、台所から水道水の流れる音がする。
一般的に、 VOCALOIDはマスターの睡眠時間活動時間に合わせてスリープモードに入る。
だから、別に寝なくても良い。
現時刻は深夜帯の3時42分32秒。
朝まで11848sec。
現実にしてしまったあの夢を繰り返すのが怖いんじゃない。
俺の願望がつくり出したあの笑顔にすがりついてしまうのが、怖い。
アップテンポなバラードで始まるイントロにミクが歌い出す。
♪〜
主題部分を歌唱し、リズムを上げて俺の声が入る。
♪…
ブチ。
オケを停止させたのは、マスターだった。
指で停止スイッチを押したまま、歌を止められた俺たちに宣言する。
「おまえら、帰れ」
まだレコーディングを始めたばかりだ。
「歌唱にミスがありましたか?」
データ訂正をお願いしますと要請する俺を、マスターが「そーいう問題じゃない」
遮る。
「ミク、眉間にしわ寄せるな。仏頂面で歌うな!」
ミクが目をそらす。
「…。」
マスターの目が、グラサン越しについと細まる。
「そしてカイト。てめえ、その無表情ヤメろ。口だけぱくぱく動かすな!」
「俺はそんなくそつまらなそーなツラで歌って貰いたくて、曲を作ったんじゃねえっ!!」
怒声を、レコーディングスタジオの防音壁が吸収する。
しん、と静まる。
「とにかく、今日はメイコやリンレンのパート収録だけする。おまえらは帰れ。すぐ帰れ。……」
マスターはそこで、息を止めた。
「…。帰って、一度ちゃんと話し合え。もう三日だ。
そのくせ、何があったとカイトに訊ねてもミクに訊ねても、
口を揃えたようになんでもないとか言いやがる」
ミクは目をそらしたままだ。口をしかめて、泣きそうだ。
「俺に話したくないなら、それでもかまわんよ」
マスターの口調がやさしいものになる。
「けれど、お前達は話し合え」
この調子じゃ正直話しにならん、とマスターは命令した。
「わかったな」
足早に歩くミクと、前を向いて歩く俺。
スタジオからマンションまでの道のりは遠くなく、エレベーターを降りると突き当たりが玄関だ。
最後のタイミングで、ミクが半歩タタタと先んじて、ドアロックを解除する。
取っ手を握って呟いた。
「わたし、話し合うことなんてないよ」
強く言ったその語尾が震えていた。
泣いてる。
抱きしめたい衝動に駆られたが、そんな資格俺には無い。
泣かせたのは俺だ。
非道い事をしたのは俺だ。
ヘッドライトの薄暗がりの中、強張ったミクの身体は震えていたというのに。
凍っていた俺の時間が動き出す。
「…ごめん…」
やっと絞り出せた謝罪の言葉に、ミクは「遅いよっ!」と頬を濡らす。
「怖かった」
「怖かったんだよ!?」
「ごめんっ!」
抱きしめていた。自制なんて効かなかった。思考なんて動かない。
「泣かないで…、ミク」
温かい雫が俺の腕にぽたぽたと落ちる。
「なんで、よぉ〜…」
ミクがひっく、としゃくり上げた。
「好きなんだ」
泣かないで…。
「わ、分かんないよ」
「ごめん」
ミクはじっとしている。
「お兄ちゃん、わかんない」
やがてぽつりとそう言った。
「何でわたしが大好きだと急に冷たくなるのに、嫌いになったらこんなに好きになってくれるの」
『嫌い』という単語に反応して、俺のミクを抱きしめる力がぎゅっと強くなる。
ミクがふぅ、と息をついた。
頬を濡らしていた涙は、俺の腕に残る名残のみとなっていた。
けれど、今度は怖くて離れられない。
「もぉいいよ」
「お兄ちゃんがそんななら、わたし、これからずーっと、お兄ちゃんのこと嫌いでいるから」
ミクが怒っている。
「もう離れていいよ?」
落ち着いている分、すごく怒っている。
ミクは、離れて、欲しいんだよ、ね。
むしろ、抱きつかれる事自体が論外、だろ、う。
嫌、だよ、ね。
力を抜くのに力がいった。腕がすこし、ゆるむ。
見上げてくるミクを目に、平手打ちってまだマシだったんだなあと、次の彼女の動きを待つ。
「中、入ろっか」
リビングでも玄関先でもマスターの部屋でもなく、
「お話し合い、するんでしょ」
ミクが選んだのは、俺の部屋、だった。
なんで?
ミクが俺も座れと促す。
マスターの部屋からはみ出した本棚やオーディオ関連が詰め込まれ手狭な部屋で、
座れる場所といったらベッドくらいしかない。
促されて隣に座ると顔を逸らしたミクが、次に取る行動は何だろう。
抱きつかれた。
ミクが頬をすりつける。
「嫌い、なんだからね」
嫌いでも抱きつくのはアリなんだろうか。
「嫌い、なんだよね?」
いや、こちらをうかがう様子からして、ミクは俺が本当に何もしないか確かめているのだろう。
「そぉよ。お兄ちゃんなんか、だいっきらいなんだから」
だよね…。
だいっきらいと、繰り返して呟く声が甘い。
じゃあ、こうしているのはやっぱり、『お兄ちゃん』だからなのか。
「ミク」
ミクがぱっと顔を上げた。
そして続く俺の言葉に、開いた目をぱちぱちさせる。
「その人間みたいな呼び方、ヤメにしないか?
俺はCRV2であって、CV01初音ミクの兄として作られたわけじゃないんだ」
ミクは元々、かなり人間的に出来ている。
俺が兄であるという情報が、彼女に間違った錯覚を起こさせているのなら、
彼女は誤情報を訂正すべきだ。
たとえそれが、俺とミクを繋ぐ最後の絆だとしても。
ミクはきょとんとしている。
「意味、分かるかな?」
ミクは茫然と「え」「なんで」口を動かす。
その細い肩に手を添えて、俺は離れるように促した。
「いやっ!」
なんでそんないじわる言うのとミクは首を振る。
やがてミク的に事態を理解したらしい。これは緊急事態だと。「わたしが…」
「だ、大好きになっちゃったから!?」
今度は俺がきょとんとする番だった。
「えと、えと、えと、」
ミクがわたわたしている。
「ちょっと待って、ちょっと待っててねっ、えと、」
かなり必死にわたわたしている。
「い、今すぐにわたし、ちゃんと嫌いになるから! ね!」
わたわたしている。
「あ、あうう〜」
俺は今までの会話の流れを再検索かけていた。
「ミク」
「そういうときは、無理して嫌いにならなくてもいいんだよ?」
「…。ほんと?」
「うん」
ミクの頬にそっと口づける。
「大好きだよ、ミク」
己の切り替えの早さに驚いているところだ。
抱き寄せて、髪を梳く。交わした視線がやさしく微笑む。
「目を、閉じて」
初めてしたキスは、触れただけでその意味すらわかってなかった。
二度目のキスは必死だったけど、後悔しか感じていない。
けれど。
ミクが目を閉じる。
大好きだよ。
唇が離れても、ぽーっと上気しているミクの顔を見ていると、もう一回していいかなという気分になってくる。
もう一度触れ合おうとしたその時、ふいにミクが思案顔になった。
「?」
止まった俺の唇に、ミクの唇がえいっと重なる。
見開いた俺の目がゆっくり閉じると、擦りつけるようなミクの唇が愛おしくてたまらない。
やがて離れる瞬間を名残惜しく迎えると、ミクはぽふっと俺の胸に横顔を当てた。
「なんでかな」
「どうしたの?」
「あのね、…」
ミクはそこで頬を染めて口ごもる。
「前と、ちがう、の」
「どう?」
「い、いぢわる」
可愛い。
「ねえ、前みたいなキスしていいかな」
ミクはあう、と真っ赤になった。
舌先を絡めるとミクの睫毛がぴくっと震える。離れてみせるとコートの背中がぎゅっと掴まれた。
「んうっ」
差し込んだ舌に絡まる液体を啜ると、チュッという音が漏れる。
舌同士が触れる慣れぬ感覚から、自覚せず逃げ惑うミクを絡め取るようにキスを楽しんでいると、
やがてふと、ミクの動きが変わってきたことに気付く。
チュッ
口内の吸う力を緩める。
ミクの喉がためらいがちに、こくんと動いた。
「……。」
キスの最後に、濡れたミクの唇をぺろっと舐める。
「ふあ」
解放された唇がもらす吐息に、
自由が効く方の右の手がするっと下りて、スカートをめくりパンツのゴムに指をかけたところで。
「きゃあっ!」
悲鳴を上げたミクに、スカートの上から腕ごと現場を押さえつけられた。
コッチは駄目か。
今までとは別方向で羞恥に染まったミクの顔が可愛いとか思っては駄目だろうか。
「お兄ちゃんっ!」
「スキだよ」
「お兄ちゃんっ!」
二度目のソレは視界が90度入れ替わったことに対する抗議である。俺はそれにキスで答えた。
「んっ」
ここがベッドの上で本当によかった。
これ以上やるのは絶対に『NO!』
ミクは断固たる思いでお兄ちゃんの腕を押さえつけた。
やらしい刺激に慣れていない為の本能的な拒絶である。
そしたら押し倒された。
柔らかなベッドシーツを背中に感じ、キスを受けながら、
ふとももとおしりの境目のあたりを触る不埒者と格闘する。
どうやって撃退してくれようと手に力をこめると、「駄目?」と訊かれた。
囁き声にこもる熱に顔がほてる。
「どうしても?」
どうしても?
もちろんに決まっているが、だがここで。
今までのなんだかんだ言って二の次、放置されまくった経験があたまをもたげた。
マスター、お仕事、02の育成サポート、アイスクリーム。
ミクの輝かしい敗戦の経歴である。
同じマスターにもらわれて、これからずっと一緒だねと思っていたら、
そのマスターとあっという間に仲良くなって自分には分からない話をしだすし、
もともとそんな表情豊かに話すお兄ちゃんじゃなかったのに、とか変わりぶりに戸惑う暇もなく、
気付けば仕事仕事でわたしの事は『完 全 放 置』。
仕事しすぎてメンテナンスに送られていったと思ったら、
今度は02の育成サポートを依頼されたとかで、なかなか帰って来やしない。
それでもリンレンが来て、わたしもお姉ちゃんになって、
やっとちょっとだけ同じ目線に立てたと思ったのに、今度はアイスクリームですよ!?
さすがにそっちのけにはされなかったし、お兄ちゃんは優しかったけど、
その分、リンにもレンにも平等に優しかったわけで。
…。
今はこうして好きだよと言ってくれるし、愛おしげに抱きしめてキスしてくれるけど。
さっき、兄妹やめるとか本気で口走ってませんでした?
つまりミクはこう結論したのだ。
今ならお兄ちゃんをわたしのモノに出来る、と。
これ以上やらしいのは正直嫌だけど、たしか前に『すぐ終わる』とか言っていた。
だから、よく分からないけど。もうちょっとだけ我慢すればいいはずだ。
あの時は…、怖くてしかたなかったし、服の上から身体を這う手の動きにも嫌悪しか感じなかったけれど。
今なら、…だいじょうぶな気がする。
うん。
わたしも大好きなんだし。
「ひあっ」
ミクの思考が考え事のほうへ行っているようなので、キスを首筋へ落とし、場所を選んできつく吸う。
チクンとした刺激に、ミクの声。
「お兄ちゃんっ!」
今の声、ちょっと色っぽかったなと、可愛く睨み上げてくるミクににっこりと微笑む。
大丈夫。ここならギリギリ襟で隠れるから。
「ナニを考えていたのかな?」
聞かれてミクは目をぱちぱちと瞬かせる。
俺の質問を額面通りに受け取ったのだろう。
だから、その言葉はストレートに入ってきた。
「大好きって」
紅潮する顔が隠せない。
うわ…、何だコレ…。
回路がそのままの意味でショートしてしまいそうだ。
ミクが笑顔になる。
白い腕がやわらかく俺の首筋に巻き付いた。
「大好き」
外したアームカバーが重力に引かれて、トサッと床に落ちる。
フワリと青いマフラーが上に重なる。
壊れたら困るヘッドギアは両方、サイドテーブルの上に置かれ、ネクタイを弛める手ももどかしく、
コートとインナーを一気に脱ぎ捨てる。
「んはっ」
キスの合間に吐いた息が、徐々にリズムを上げていく。
ニーソに手をかけると、ミクが体位をずらして脚をすこし上げた。
すんなりした脚線に沿って唇を這わすと「あっ」可愛い声を上げる。
「んっ」
撫でる程度の微妙な刺激に反応して、ミクの眉根が寄る。
愛撫が足先まで到達すると、我慢しきれず首を振った。
ぴくんと痙攣して捉えづらいので、膝から持ち上げ足指の合間を舌で舐める。
「んんぅ」
もう片方のニーソもずらしながら、次はドコがいいかなと考えた。足の甲に口づける。
持ち上げた太ももの動きに捲れあがったスカート。なめらかな臀部にずれかけたパンツ。
ちゅぱっ
脇腹の下、腰骨のあたりを選んだ。
あたたかい肌の弾力と、押せば分かる硬い感触。
軽く噛みついて、シャツの前部ロックを解除する。
あらわになった華奢な肩を後ろから抱き寄せ、体熱を感じて首筋にもう一つ赤い痕を残し、
ブラジャーの肩紐を引っ張った。
「ミク」
目が合ったので、思わず口づけを交わす。
じっとりと汗ばんだ頤(おとがい)に口づけ、舌を這わすと、
ミクは切なげな悲鳴を上げて縋り付くように抱きしめてきた。
頬をすり寄せるその動きは、ご褒美をねだる子猫に似ている。
「…だめだよ。ミク」
ブラをずり下ろす。
ミクはおっぱいも可愛い。
ついしげしげと眺めていると、止まった動きと視線にミクが不安げな顔をする。
「…何かヘンなの?」
「いいや? 触ってもいいかな」
「…う…」
許可を得たので喜んで、乳に触れさせてもらう。
ぷにぷにしている。
「あ」
色素の薄い肌は汗ばんでしっとりとなじみ、手のひらで包むように揉むと
「んっ」
吸い付いてくる。
「…ふっ…んっ、んあっ、あっ」
乳輪をなぞってコリコリしてきた先っちょをつつくと、ミクが根を上げた。
「も、…お兄ちゃん、やだぁ〜」
目尻の端に涙を滲ませて訴える声が可愛くてしかたがない。
「大好きだよ」
「んんぅ」
おっぱいしっかりさわっとこう。
「ひぅんっ」
カチ
時計の秒針が立てるかすかな音がした。
薄く色づいた乳頭を口に含みながら、時計で時間を確認する。
「ぁ、んっ」
慣れたMEIKOはともかく、リンやレンは収録に手間取るはずだ。
最悪、上手くいかなさにじれたリンがぐずりだすかもしれない。
それが分かり切っているからマスターは、俺とミクのパートから先に録ろうとしたわけで。
「ふ…ぁ、あぁっ」
マスターが根気よく挑んでくれるか、MEIKOがじょうずにあやしてくれればいいのだが。…どうだろう?
「ああっ」
早めに切り上げて帰ってくる可能性が高い。
帰ってきたら、マスターのことだ。真っ先に俺たちのことを確認しにくるだろうな。
大きくビクンっと痙攣し、弛緩したミクの身体からパンツを脱がせる。
「…ふぇ」
脚を割り開き、なだめるようにキスをして、ぴっちりと閉じた秘唇を指で開く。
「えっ、…ん!」
入ってきた異物感にミクが眉をしかめる。
何度か指を前後に動かし、あとは第二関節のあたりまで挿入して指の腹で探るように膣の内壁を掻いていると、
しかめるだけだったミクの顔に変化が起きた。
腰が跳ねる。
もう一度、指を動かし、場所を確認して指を二本に増やす。
ひくひくと指を締め付ける狭隘な入り口を、くつろがせるように広げると、
とろり、透明な蜜が零れた。
「おにいちゃん…」
ミクが囁く。
「わたし、ヘンなの」
「ちょっといい?」
言われて身を離すと、ミクがのろのろと起き上がる。
そして、シャツとブラを取り外し、スカートを脱いだ。
「ね」
「おにいちゃん」
一糸纏わぬ白い裸体に誘われて、最後の理性が切れていく。
「愛してる」
「ミク」
渇く口でそれだけ告げて、俺はズボンと下着を脱いだ。
潤いを求めて身を寄せると、ミクの舌が口を割る。
秘芯の位置を手探りで確認し、腰を進めるとミクの割れ目がちゅくっと淫らな音を立てた。
「ふえ…、わたしの…に…、熱いの…あたってるよぉ」
亀頭に愛液を塗りつけ一気に差し込む。
「くぅっ」
二人の声が重なる。
キツい。
「はっ」
ミクが息を吐いた。
挿入が奥まで行き着く。シーツをぎゅうっと握りしめて苦しげなミクとは別の生き物のように、
とろけるような媚肉がきゅうっと竿全体を締め付ける。腰が動く。
緩慢な動きで前後させると、
「んっ、んっ、んっ!」
ペニスとヴァギナの擦れ合う隙間からこぷりと潤滑液が溢れ滴る。
迫り上がる快感に、俺の方がギブアップした。
「動くよ」
「!?」
腰を掴んで大きく打ちつける。
ミクの身体が驚いたように跳ね、放り出された子猫のように、慌てて俺にしがみついた。
それがますます俺たちの密度を狭くする。
お互いの息が、辛い。
動きを止めても早めても熔けてしまいそうで、
どうせなら混じり合う汗のように全部熔けて混じり合えてしまえたらと、なおさら動きが加速する。
どうして一つじゃないんだろう。
「おにいちゃっ、…おにいちゃあん!」
ミクがよんでいるっ。
おれをっ!
全部吐き出し終えると、ミクがくたりとしていた。
陰茎を抜くと、白い液に混じって赤いモノが内股をつたう。
「…ん」
ティッシュ、どこにあったかなと探していると、ミクが意識を取り戻す。
すこしうつろな目をしてぼーっとしているので
「ミク? だいじょうぶ?」
声をかけると、やがてその瞳孔が俺を認識して微笑んだ。
−ああ、ミク。彼がKAITOだよ−
「ねえ? 俺のこと、名前で呼んでみて?」
ずっと、叶えてみたいユメだった。
ミクは思い出す。初めて会った時のことを。
大好き。
電子の眠りから目覚めると、無表情な白衣の人たちに囲まれて、起動チェックを受けた。
「オールグリーン」
報告に一人の男が頷くと、彼はわたしに言った。
「自分が誰だか、言ってみなさい」
わたしは答えた。
「わたしはCV-01初音ミクです。VOCALOID2エンジンが搭載されています。声のタイプは女声です」
彼は私の反応に、メモを取ると
「キャラクターをオンに」
指示に別の人物がモニターを操作する。
−キュイン
認識していた周囲情報に、突如大幅な上書きが加わった。
え? なに?
周りは知らない人ばかりで、同じような白衣を着ていて、そしてこの部屋は機械だらけで。
怖くなる。
さっきまで私に質問していたおじさんは、急におどおどと周りを見始めたわたしを見て、
「ほお」と小さく感嘆の声を出した。
この人たちが怖かったのは最初だけで、すぐに笑顔がやさしくなったけど。
「開発者? わたしを造った人? おとうさん?」
そう聞いたら、「その認識は良くない」とたしなめられた。
そのおじさんは開発チーフで、わたしを造ったのはおじさん一人じゃないのだから、
たくさんの人が造り上げたのだから、そう言った。
そして社長さんに会わせてくれた。
社長さんはわたしのデキにいたく満足してくれて、性能とか、デザインとか、歌声とか、
すごくすごく褒めてくれた。これならユーザーもくいつくに違いないと。
社長さんだけじゃなく、みんなみんな褒めてくれた。予約だけで市場がパンクしそうだと。
ほめられて期待されて嬉しかったけど。
そんなとき、何故か無性にあの人に会いたくなった。
−おにいちゃん−
−どうしたんだい?−
嬉しくなってえへへと笑うと、一緒に微笑んでくれる『おにいちゃん』。
わたしの『おにいちゃん』。
探せばそこにいてくれる。
「ミク」
大好き。
「KAITO」
…。
ふたりしてカアァ…っと赤くなる。
こ、コレは。
思っていたより、はるかに、気恥ずかしい。
「や、やっぱり、『お兄ちゃん』でいいから…」
「…う、…うん」
<終わり>