『とーちゃんの教え。』
もれがうんと小さい時、とーちゃんから言い聞かされたことがあるす。
「シオ。男にはな、子供から大人になる瞬間ってのがあるんだ」
「しゅんかん?」
「ああ、そうだ。子供から大人になる瞬間。
大人の階段を一気に駆け上る瞬間ってのがあるんだよ」
「へぇー」
とーちゃんの言葉の意味、その時のもれにはよく分からなかったす。
「とーちゃんにもそんなときがあったすか?」
「ああ、あったさ」
「それは、いつす?」
もれが聞いたら、とーちゃんはうーんとしばらく考えてから、もれに耳打ちしたす。
「……ヨキ先生が風呂に入っているところを、覗いた時だな……」
……とーちゃん曰く。
身体の下半分が一気にヒートアップして、一瞬で大人の男になっちまったらしいす。
そんな教えをふと思い出したのは、もれと神様とプラがたどり着いた、ある村の宿でのこと。
神様は、汚れた身体をきれいにするために、今お風呂に入ってるす……。
プラも、どーしてだか一緒に。
お風呂場からは、水の音と『プラちゃん、くすぐったい』だの、『やだ、そんなとこ触らないで』だの、
神様の楽しそうな声が聞こえてるす。
時々、『あんッ…』とか、『いやっ』とか……神様はお風呂でも、儀式をしているみたいす……。
……とーちゃん。
神様のお風呂に入ってるところを、今覗いたら、もれも大人の階段を一気に上れるすか……?
「た・試してみるす……もれ……」
だって、もっと強くなりたいすから、もれ……。
ドキドキする気持ちを抑えながら、もれはお風呂場の扉を、そっと開いたす……。