《美しさは罪》
彼のことを、便宜上村人Aと呼ぶことにする。
村人A(便宜上)は、高鳴る胸の鼓動に息を荒くしながら、それを凝視していた。
雪のように白く、すらりとしたシルエットが美しいそれ。
興奮におののきながら、武骨な指を伸ばす。
きめの細かい肌触り。
たまらず、手のひら全体でなでまわす。
触れているだけで、えもいわれぬ官能が湧き上がる。
ほどよい肉付き、下に行くにつれて細くしまっていく。
吸い付いてくるような感触に、何度もなでずにはいられない。
至福の時間……
彼は思わず声をもらした。
「ああ……売りたくない……」
「なにバカなこと言ってんだ、村人A(便宜上)!」
水をさすように、村人B(便宜上)がつっこみを入れる。
「俺ら砂大根農家が砂大根売らずになにを売るっつーんだ」
そういって、村人A(便宜上)の手から、砂大根をひったくる。
「いんや、これだけは駄目だ!」
さらにそれを、村人A(便宜上)が村人B(便宜上)の手から取り返す。
「やっと、やっと完成しただよ。理想の砂大根が……」
村人A(便宜…)は、砂大根を抱きしめ、ほおずりした。
その目には、涙すら浮かんでいる。
「ヨキ先生のおみ足そっくりの砂大根が!」
村人B(便……)は、やれやれと肩をすくめると、またも容赦なく砂大根を取り上げる。
「……なんでそんなにこだわるんだ……」
村人B(べ……)は、理解できないと思いながら、砂大根をまじまじと見た。
確かに、美しくはあるが。
「だって、だってよう……世間じゃ、『大根足』って言ったら悪口だべ!おら、それが許せなかっただよ……だからおら……大根がかわいそうでよう」
村人A(b……)の目から、大粒の涙がとめどなくこぼれ落ちる。
村人B(略)は、その涙をそっとぬぐって、こういった。
「お前って……ほんと、バカなやつだよ」
村人A()、砂大根を愛しすぎた男。
おわり