あの日……
私はいつもどおり友達の真由を待っていたの。
今日こそ、真由に相談しようと思った。
もう、耐えられなかったの。
もう……
少女はこのことを誰にも相談できずにいた。
もう、どれほど永い間その行為が続いていたか。
そして、その日もそれは起こった。
少女が学校から帰宅すると、リビングに父親がいた。彼はひどく酔っているようだった。
「と、父さん……」
少女は身を固くしたが、父親は何も言わずビールの缶に口をつけている。
肩の力が抜けて、ため息をつくと台所へと向かった。夕飯の支度を、と冷蔵庫を覗く。
突然、背後から抱きつかれた。
「きゃっ!?と、父さん!?」
父親だった。
驚いて、制服の上から胸に触れ、太腿をなぞる彼を突き飛ばす。
彼は血走った目で、不機嫌そうに少女を眺めた。少女の態度が気に喰わなかった、そんな印象である。
少女は小さく呻いて、俯いた。
「ふん、純情ぶりやがってよ。わかってんだろうが」
父親は、少女に向かって足を踏み出した。
少女の秘密――それは、父親に犯されていること。
拒否することはできなかった。許されなかった。
「や、やめてください!このようなこと、いけません!」
「口答えしてんじゃねぇ!」
「――っ!」
父親に殴られて、少女はテーブルに叩きつけられた。起き上がろうとするところを、後ろから父親が抱きついてくる。
「ったくよぉ、いっつもやってることだろうがよ」
襟元から手を差し入れ、荒々しく胸を揉んでくる。逆の手が、スカートの中へと伸びる。
痛みと恐怖で身体が震え、少女は抵抗できなかった。それに、抵抗は無駄なことだと十分過ぎるほどわかっていた。
「はんっ、さんざん揉んでやってんのに、成長しねぇ胸だよな」
痛々しいほどに乳房のふくらみを揉みしだき、押しつぶすように突起を弄られる。そのたびに、嫌悪と惨めさが心に渦巻く。
「ぃ……ぃゃ……」
聞き取れないほどのちいさな拒絶の言葉が、少女の唇から漏れた。
父親の手がショーツの中に潜り込み、湿り気を帯びない割れ目を撫で、肉芽を弾いた。
こみ上げる吐き気。身を震わせる嫌悪感。少女の視界が滲んだ。
「ぜんぜん濡れやがらねぇな、くそ。おい、気持ちいいんだろ。なあ、気持ちいいかって聞いてんだよ、答えろ」
少女の髪を掴んで、冷たいテーブルに無理やり押し付けてきた。
震える喉から、声を絞り出す。
「は……はい……」
「だったら、ちっとは濡らしてみせろよ、なぁ!」
制服の上から、胸のふくらみを鷲掴みにされる。薄手の布に爪を立て、引きちぎらんばかりに荒々しく揉みあげられた。
少女の口から苦痛の呻きが漏れる。痛々しい、愛撫とも呼べない陵辱を、唇を噛み締めて耐えた。
不意に、ショーツが引き下げられた。背後からファスナーを下ろす音が聞こえ、少女の顔から血の気が引く。
そして、不快な温もりをもつ塊が、少女の秘所に押し当てられた。
「ぁぁ……ダ、ダメです……ダメ……」
少女の言葉も虚しく、忌むべき肉塊が少女の中へと沈み込んだ。
「ひぎぃ、んぐぅぅっっ、かはっ!」
張り裂けるような苦痛に、少女の瞳から大粒の涙がこぼれる。
まるで湿り気を帯びない膣口は異物の進入を拒むが、父親は力任せに腰を沈めた。
「ぅぐ、ゃめ、くぅ!い、いたぃ……」
ミチミチと音を立てて、彼女の奥底にまで杭が穿たれた。
激しい痛みに、小刻みな呼吸を続ける少女。流れ出た涎と涙が、小さな池を作っていた。
休む間もなく、父親が腰を動かし始めた。
血が滲むほど唇を噛み、少女の指がテーブルを引っ掻く。
快感など、微塵もない。あるのは苦痛と絶望のみ。
瞼をきつく閉じ、忌むべき行為が過ぎ去るのを耐えるしかなかった。
「く、濡れてねぇと、さすがにキツイな」
言いながら、腰を前後に動かす父親。
少女の身体が、感じることはない。今までも、一度としてなかった。だが、この男はそんなことはお構いなしにこんな行為を繰り返している。
そのうちに、生理反応として愛液が分泌されたのか、それとも膣壁が張り裂けたのか、往復は徐々に滑らかになっていった。だが、痛みはまるで治まりはしなかった。
「ったく、気ぃ利かねぇオンナだな。おい、ちっとは感じろよ。喘いでみろよ!」
「…………」
感じるはずなどなかった。激しい痛みしかない。押し黙った少女の頬を、涙が伝う。
「おら!なんとか言えよ!」
髪の毛を掴まれ、無理やり引き起こされる。涙に咽びながら、震える声を出した。
「ぅぐっ……気持ち……いい…です……ぅっ」
無理やり搾り出された、感情のこもらない言葉。自らの発した言葉に、少女の心は惨めさに打ち震えた。
薄っぺらな言葉が気に入らなかったのか、父親は舌打ちひとつして少女の髪を離し、その身体をテーブルに叩きつける。
父親は欲望のままに腰を振った。少女の華奢な身体に覆いかぶさりながら、未発達な乳房を掴み、皮膚が張り裂けそうなほどに握りつぶす。
少女に顔を近づけ、舌を伸ばした。涙で濡れる少女の頬に舌が這いずる。
たまらない吐き気が喉元まで溢れる。惨めさに胸が張り裂けそうだった。
やがて、父親の腰の動きが早まった。その動きに、少女は父親の欲望が弾けるのを悟った。
「あっ、だ、ダメです……中は、中だけは!」
少女の言葉に耳を貸す気配すらなく、父親は激しく腰を打ちつけた。
少女の顔から血の気が引く。必死で懇願した。だが、とまらなかった。
そして、父親は少女の中に、自らの欲望を吐き出した。
「――っ!」
自分の中に流れ込んでくる、生ぬるい感覚。
少女は恐怖に震えた。
どっと涙が溢れ、呼吸が止まる。
ずるり、と父親が肉棒を引き抜く。少女の白い太腿を、白濁した血の色混じりの精液が伝っていく。
「はぁ、はぁ、……ふぅ、悪くなかったぜ」
父親は少女に向かって二言三言何かを言って去っていったが、少女の耳には届かなかった。
誰もいない、夕日の差し込むリビングで、崩れるように少女は腰を落とした。
とめどなく溢れる涙が、ぽつぽつと床に落ちる。
「どうして……」
少女はひとり、呟いた。
「どうして私だけ、このような……」
もう、私は耐えられないのです。
どうして私だけ、このような目にあわなければならないの?
私は、こんな世界にいたくない。どこか、誰も知らない世界へ……
今日こそ、真由に相談しよう。そう決めました。
「真由、遅いですね……」
遅刻しそうな時間になっても来なかったから、電話しようとした。
そのとき、声が聞こえた。
『…い……来…』
真由のではない、暗くしめった声……
『来い失猿!来い!』
そして気がつけば――
――知らない場所にいた。
「此処は……何処なの……?」
―――終わりす。