帯を緩め、着流していた布を床に落とす。まぎれていた砂が小さく床を跳ねる。
カーフが寝巻き代わりの単を取ろうとすると、何気に壁にかかっていた鏡に目が行った。
「……」
ポーズを取ってみた。
ただの気まぐれ、昔まだ村で暮らしていた頃に見た「ボディマッスル」という本の真似である。もちろん気まぐれ、深い意味はない気まぐれ、考えるように口を手で隠しながらちらちら鏡に目をやり、気まぐれだと己に言い聞かせる。
格闘技を身につけ最強を目指す男として、体にはそれなりに自信がある。
それを鏡に映してチェックするのは、なんというか、意外に……悦かった。
「ど、どこかに怪我があるかもしれなんからな……怪我は侮れん……」
誰も居ないのに言い訳をしてから、いくつかキめてみる。上腕二頭筋、腹直筋に力をいれてみたり大腿部を強調した。
自発的な行動を本人も楽しんでいる場合、おおむね誰かが止めない限りエスカレートしつづける。布や椅子、己を飾る小道具を引っ張り出してきた頃には、もはや先程の言い訳をカーフは忘れていた。
「クシャスラも入ってみるか」
護神像を振り返ると、着替える前までそばに居たクシャスラが痛いものから逃れるように遠くを漂っていた。そのまま、残念ながら筋肉の無いクシャスラは積極的に遠慮したのか、そばによらない。
「そうか。……しかし、俺もとうとうここまで」
カーフは己の筋肉を誉めたのだが、その台詞は、意味は違えどクシャスラの心の叫びと奇しくも同じだ。
部屋の中に、それぞれ温度の違う空気が流れた。
カーフは考える。これは間違いなく男がもつ上等なエロチズム。まさか気づかなかったが……。
「クシャスラ、俺の願いは最強の男になることだ」
口に出してきっぱりと宣言する。それはかつての輝かしい美しい過去、二人を結ぶ祈りの契約の、全てであった。
「俺は夜も最強の男になる」
過去は遠かった。
=
>>ブトモモキモイ
>>それはフトモモのことですか
>>筋肉来週も出るのかよ!
ワクスレ内は、現在進行形でそのエロスっぷりに惑わされつつある――カーフォイ談
<了>