六限目終了のチャイムと同時に、1年B組学級委員長、松田の号令が教室に響いた。  
「きりーつ、れい。ありがとうございました」  
ザワザワと皆が帰り仕度を始める中、松田も鞄を机に乗せ、教科書を詰めていく。  
「松田」  
ふと呼ばれ、顔を上げればつい先刻までこのクラスで授業をしていた、物理教師カーフが目の前に立っていた。  
およそ教師らしからぬ威圧感を惜しみなく纏わせて、彼の鋭い双眸が彼女を見下ろしていた。  
怯みながらも、なんとか返事は返す。  
「は、はい、なんでしょう」  
「先日の実験レポート、このクラスは昨日までに提出しろと言っていた筈だが。出していないのはお前だけだ」  
「え、でも、私は明日までと聞いたのですが・・・」  
カーフが期日を発表した日、丁度松田は風邪の為に欠席していたのだ。  
隣のクラスの真由から聞いた話では、レポート提出日は確かに明日の筈。  
「それはC組の提出日だろうが。言い訳は聞かん、放課後物理室に来い」  
ちなみに、真由は言わずもがなのC組である。  
「そんなっ」  
「すっぽかせばそれなりの対処をするまでだ」  
有無を言わさぬ調子で言い切ると、カーフの白衣が扉の向こうへと消えていった。  
知らず、重い溜息を吐く。  
カーフはこの学園で最も怒らせたくない人物・できれば近寄りたくない人物・生徒への愛情が  
微塵も感じられない人物ランキング、それぞれのランキングで栄えある一位の座を欲しいままにしている教師である。  
そして、忘れ物・レポート未提出の生徒には厳しいノルマを課す教師ということでも有名である。  
とある生徒には、物理の教科書を忘れた為にたった一人で学園中のトイレ掃除を  
させられた者もいるとか。  
「あちゃあ、やっばいのに捕まっちゃったわね。そういえばあんた、あの日休んでたもんねー」  
「ごめんね、てっきり松田も締め切り日知ってるとばかり・・・・」  
恐る恐る二人の様子を遠巻きに見守っていた友人達が、心配げに寄ってくる。  
「いいんです、ちゃんと聞きにいかなかった私も悪いですし」  
健気に答える松田に、友人達は口を噤むしかなかった。  
 
「失礼します」  
控えめにノックして、物理室のドアを開く。  
夕暮れ独特のくすんだ朱色を背に受けて、窓を背にカーフが佇んでいる。  
白衣が真っ赤に染まる中、彼の表情は逆光の為窺うことはできない。  
「逃げなかったことは褒めてやる」  
「はあ・・・」  
逃げるなと脅したのは自分だろうに。  
おもむろに一歩、カーフが足を踏み出した。  
どんな重い罰が課せられるのかと、薄い肩をすぼめる。  
「そんなおびえんじゃねえ。そうだな・・・とりあえず、そこの机に座れ」  
「え?どうし」  
「座れ」  
「・・・・・・わかりました」  
つくづく、この男の強引さを実感する。授業の時も生徒の話をまともに聞くことなどない。  
この男の場合、相手が生徒に限らず、他人の話は耳に入らないようだが。  
大人しく机に腰掛け、スカートが短いため前にいるカーフに中が見えないようにと、両膝をこつん、と合わせた。  
「口を開けろ」  
わけがわからないながらも、逆らっても無駄だと思い緩々と口を開く。  
カーフが白衣のポケットから何かを取り出したかと思うと、控えめに開かれた松田の口内に布のようなものが突っ込まれた。  
「むぐ・・・っ!?」  
驚いて吐き出そうとするが、かなわない。  
これが猿轡だということに、後頭部に当たる布の感触で気付く。  
「へんへぇ・・っ!?」  
「叫ばれて声が漏れりゃあ後々面倒になるからな」  
唇の端を上げて、にやりと笑む。  
そのまま、パニックと恐怖で小刻みに震える華奢な体を机に押し付けた。  
 
教師である筈の男からの突然のこの仕打ちに、頭がうまく回らない松田の首筋に舌を這わせる。  
ねっとりとした、肌に絡みつく感覚に背筋が粟立ち、純粋な嫌悪感が松田の脳内を支配する。  
「んーーー!!んんぅーーー!!」  
手足を力の限りに振り回し、男の体を拒絶する。  
だが、それしきのひ弱な抵抗ではカーフはびくともしない。  
容易く松田の両手首をおさえつけ、低く囁いた。  
「お前、自分の立場がわかってねえようだな。いいか?・・・・これは罰だ」  
無骨な手でセーラーをたくし上げる。  
夕陽に染まった滑らかな肌と、ブラジャーに覆われた小ぶりながらも形の良い胸があらわになる。  
松田はあまりの羞恥に目を硬く瞑った。  
放課後の学校で、机上で猿轡を噛まされて辱めに耐える女生徒、というのはなんともいえない背徳感を煽る。  
ブラジャーをずらすと、淡く色づいた乳首が外気に晒される。  
それを指の腹で押しつぶすように転がして弄ぶと、少女は逃げるように細い体を懸命に捩った。  
それを許さず、力を込めて引っ張ってやると、喉の奥で小さく悲鳴を上げた。  
「んんぅ・・・!」  
「大人しくしてろ」  
そう言うや否や乳首を口に含み、舌で捏ね回す。  
空いた手はスカートへと潜り込み、下着の上から割れ目をなぞると、白い腿がピクピク、と震えた。  
「お前、よく一人でヤってんだろ」  
「ふ・・ぁ・・っ?」  
「もう濡れて来てやがる。学級委員長は実は淫乱だったらしいな」  
カーフの嘲るような笑いに、松田は聞きたくないとばかりに首を激しく横に振った。  
「まぁ、んなこたどうでもいいが」  
一気に下着を膝まで引き下ろしてやり、つぷりと指を入口に沈めると、松田の口から無意識に甘い息が漏れた。  
「っ・・・・」  
ぬぷ、と粘着質な水音が放課後の物理室に響き、続いてカーフの無骨な指が肉壁を擦るように動き始める。  
 
「ん・・・っ・・ぅう・・っ」  
すすり泣くような甘い声が、出したくも無いのに漏れてしまう。  
いつもの自分の指でするときとは全く違う感覚に、意識せずとも腰を浮かしてしまう。  
下の方はきゅうきゅうと己の指を締め付けてきている癖に、力が入らないのか両手をだらりと広げて  
荒い呼吸を繰り返す松田の様子に、カーフはほくそ笑むと、噛ませていた猿轡を外してやった。  
「いいか。今叫んで人が来れば、恥をかくのはお前自身だ」  
「せん、せぃ・・・」  
涙で潤んだ瞳が、カーフを見上げる。  
「なぜ、なんですか・・・?」  
どうして、このようなことを。  
その真摯な問いには答えず、指を抜くと、両足を机に乗せM字に開かせる。  
右足首に申し訳程度に下着が引っかかっているのが、やけに扇情的だ。  
スカートが捲れ、惜しみもなく曝け出されたその部分に、カーフはおもむろに顔を寄せた。  
「ひぁ・・・っ」  
舌で入口を割り、唇が陰核を啄ばむ度に、松田の体がビクリと痙攣する。  
「だ、だめ・・っ・・・そん、な、そんな・・・とこ・・っ!」  
限界が近いのか、切羽詰って上擦った声。  
カーフの肩に手を乗せ、弱弱しく引き剥がそうとするが、それを無視して更に強く陰核を吸い上げられる。  
「あぁあああっ!!」  
ビクビクッ、と弓なりに背を反らし、イってしまう。  
足は開いたまま、だらりと力を失った肢体に、カーフの体が圧し掛かった。  
 
 
 
なんなんだ、これは。  
レオ・エディアールは、目の前で繰り広げられる信じられない光景に、ただただ立ち尽くすしかなかった。  
2年の彼は、クラスの担任にカーフへプリントを渡して欲しいと頼まれたので物理室の前へとやってきたのだが。  
僅かに開いていたドアから、妙な声と気配を感じ、何の気なしに隙間から中を覗き込んでみれば、  
カーフの後姿と、机の上に開かれた白い足、そして机に散らばる見覚えのある緑の髪――――  
「いいか。今叫んで人が来れば、恥をかくのはお前自身だ」  
「せん、せぃ・・・」  
聞き覚えのありすぎる、声。  
机上に組み敷かれた女生徒が誰か理解した途端、レオの頭の中は真っ白になった。  
急速に心を押しつぶそうとする苦い感情に反して、荒い息遣いと響く水音に体が熱を帯びていくのがわかる。  
「あぁあああっ!!」  
”彼女”の嬌声が鼓膜を震わせた。体中の血液が、一点に集中していく。  
思いを寄せる少女と他の男との情交を出刃亀して、その上それに興奮までして。  
「畜生・・・っ」  
情けなさと何とも言えぬ憎悪が、胸の内に渦巻いて止まない。  
今すぐに出て行って止めたいが、体が動かない。  
ジッパーを降ろし、松田に圧し掛かったカーフの腰が彼女の小さな尻を叩きつける度、松田のくぐもった声が聞こえる。  
「ふ・・ぅ、・・・ぅ・・っ」  
あぁ、もう駄目だ。レオの中で、何かが弾けた。  
目だけは隙間の向こうから逸らさぬまま、膝立ちになってベルトを緩める。  
ズボンを下ろし、すっかり猛った己の男根を握る。  
熱い。  
「・・・・ぅ・・・・ぁ・・」  
空いた腕をドアに押し付け、前屈みの姿勢になる。  
ドアの向こうから聞こえてくる喘ぎ声と、独特の水を打つ音。それに合わせて、動いてしまう自分の手。  
「・・・・・くそ・・っ」  
薄暗い夕闇の中、廊下に曇った悪態が響いた。  
 
 
終  
 

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