あんなにも、帰ってきたかったこの世界。  
ここが、私の生きる世界。  
望んだものは全てここにある。  
ただ、あなただけがいない。  
 
街を染めるイルミネーション。  
仲むつまじそうに腕を絡めあう男女を、視界の隅にもう何度も見送った。  
肩に置かれた手にはっとして振り返るが、追い求める少年の面影には似ても似つかない。  
「お断りしますわ」  
やはり寂しそうに見えたのだろうか、と己の状態に消沈して、少女はうつむいた。  
ふわり、と羽毛のようなものが視界をよぎる。  
ふわり、ふわりと。  
「……雪……」  
手のひらで受け止めると冷たく溶けて消えていく。  
ああ、あの人は、雪を知っているだろうか。  
「レオさん……」  
我知らず、つぶやいていた。  
愛しい言霊にはっとした。  
 
その響きさえ寂しさを募らせるから、無意識に避け続けてきたのに。  
「レオさん……レオさんっ!」  
数ヶ月ぶりに口にするその旋律の愛しさに、ずっと堪えてきた涙が零れ落ちる。  
 
唐突にしゃがみこんで泣きじゃくる少女を、人々は遠巻きにして通り過ぎるばかりだ。  
神と呼ばれた少女は、本当は、恋を知ったばかりの一人の少女。  
恋する少年に会う術も持たない、小さい存在。  
 
凍える肩に、雪が降り積もる。  
冷たさに、震える。  
 
その時ふと、少女はあたたかさに包まれた気がして顔をあげる。  
かすかな焔の匂い。  
あわてて見渡すが、どこにもそれを思わせるものはないのに。  
 
少女は、花のほころぶような笑みを浮かべた。  
「あなたなのですね……」  
遠く離れても、少年は思いを届けてくれた。たしかに感じた。  
 
「どうか、あなたもしあわせでいてください」  
少女は祈った。その祈りは遠い遠い未来へ、たしかに届くものと信じて。  
 
※  ※  ※  
 
「……?」  
鈴の転がるようなやさしい声に、名前を呼ばれた気がした。  
まさか。あの少女はもうこの世界にはいないのだから。  
けれど、そんなこともあるのかもしれない。  
少年は、ふ、と笑うと胸に拳を当てて、空に向かって宣誓した。  
「オレは、あんたの事をずっと想っている」  
二度と会えなくても、想い続ける。  
だから、どうかしあわせでいて欲しい。  
 
ふいに、やわらかな花のようなかおりがしてすぐに風にさらわれていった。  
レオは、また歩き始める。  
思いは届いていると信じて。  
 

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