目を開けた瞬間、一面の緑が広がる。  
砂漠化した世界にごく僅かにしか存在しない筈の植物が、世界を覆っているかに見えた。  
これはどうしたことだろう、とレオは思案する。  
自分は確か、蜘蛛の糸の一室で就寝していたはずではなかったか。  
しかし草原は錯覚に過ぎず、眼をしばたたいたレオは、それがすぐ鼻先に迫る毛束だと知る。  
「あら。お目覚めになられまして?」  
こくんと首を傾げて微笑む神に、レオは驚いて声も出せない。  
なぜならば、彼女は就寝中のレオの上に、馬乗りになって彼の顔を覗き込んでいたから。  
「何、を」  
心臓が跳ね上がり、口の中が乾いているのを感じながら、レオは神を問いただそうとする。が。  
「何も仰らないで」  
幽玄を感じさせる仕草で、神はレオの唇に指先をあてがった。  
「すべて、私に任せていてください。ね?」  
神の指先が離れるのと入れ替わりに、神の唇が触れた。  
指先が触れていたのと、同じ場所に。  
 
神は、その唇から紡ぐ清楚な言動とは裏腹に、実に巧みな動きでレオを翻弄した。  
淫らな気配を纏い迫る彼女を押し戻そうと試みはしたが、小枝のように華奢な少女を手荒く扱うのは躊躇われて、  
結局、レオは神のなすがままだ。  
たおやかな指先はゆったりとレオの分厚い胸板を這い回り、耳朶や首筋を撫でては跳ねるレオを見て、  
彼女は優雅に含んで笑う。  
かたや、防人となったその日から頭痛に絶え間なく苛まれてきたレオには、そのような経験を積む余裕など無く。  
しかしそんなことを口に出せるはずもなく、ただ本能的に、たどたどしく、神の求めに応じていった。  
神の柔らかな唇に口を塞がれ、ぬるりとした舌に唇を嘗め回されて背筋が震える。  
起き抜けの生理現象がにわかに欲求の強さを増し、それを神に悟られたくなくて、レオはそうっと膝を立てた。  
「だめ」  
レオの動きは神に読まれていたのか、彼女は寂しがる子供のような眼で、レオの膝を押さえた。  
「隠しては、だめ」  
 
服の上から乳首を爪弾いて、レオが小さく声を上げるのを合図に、神の手がするりと膝の間に侵入する。  
「もう、こんなになさってたんですね」  
ブランケットや衣服越しの、遠い愛撫はそれでも甘美で、型を取るかのようにきつくしごかれた。  
「……や…めろ…っ!」  
口先だけの抵抗。心の何処かで、形は違えど、彼女とこうなることを望んでいたことは否めない。  
「お出しになります?」  
耳元で舐るように囁かれた言葉は、この上ない誘惑だった。  
しかしレオの矜持は首を縦に振ることを許さず  
「さっさと、退け……!」  
「まあ」  
神は悲しげに眉根を寄せたが、その指は相変わらずレオの中心を掴んだままだ。  
ひっくり返った逸物の、裏筋を的確に爪の先で掻きながら、神は言う。  
「此処を、こんなにされているのに?」  
それでも上気した顔で神を睨め付けると、彼女は悩ましげに溜息を吐いて、身を翻した。  
 
「………あ………」  
本当に行ってしまうのか、と思わず手を伸ばしてしまうのは、やはりその続きを期待していたのか。  
修行が足りない、と内なるレオは自信を叱咤する。  
だが神は、するりとした動きでレオの予想を大きく裏切った。  
彼女は、レオの足元からブランケットの中へ潜り込んできたのだ。  
「…………!!」  
もぞもぞと人の形に盛り上がったブランケットの、神の頭とおぼしき場所が不意に位置を低くする。  
同時に襲いかかってきた感覚に、レオは思わずせり上がった声を飲み込んだ。  
「や、め……神?!」  
慌ててブランケットを剥ぎ取ると、既にレオの逸物を取りだし、愛撫する彼女と眼があった。  
「ほら、もうおへそにぴったり張り付いてますわ」  
慈愛に満ちた微笑はふんわりと柔らかく、だがそれは堪らなくなるほど淫靡でもあった。  
神を止めなくてはと思う心と、快楽を共有したいと思う心が、レオに迷いを生む。  
その隙をついて、神はレオの脚の間へ顔を埋めた。  
 
「……っ……ぁ………!」  
限界近くに達していたレオの逸物を、神は易々と喉の奥までくわえ込み、ゆっくりと頭を上下させ始める。  
舌がねっとりと絡みつき、硬く浮き上がった血管をねろねろと舐っていく。  
「よせ……っ、きたない、だろ……」  
逸物がはち切れそうで、切なく顔を歪めるレオに、神はそこから口を離し、にっこりと笑った。  
「そんなことありません。だって、レオさんのですもの」  
そう言って先端に丸く滲んだ液体を唇の先で吸い取って、再び唾液をまぶし始める。  
もう我慢の限界に追いつめられたレオの腰は勝手に蠢いて、自分で止めることが出来ない。  
女一人に弄ばれている現実に恥辱を思い知らされながら、レオはこの快楽に逆らえないでいた。  
 
不意に、神の唇と舌がその動きを止める。  
もう少しで射精できたのに、ともどかしく思って神を見ると、神は上体を起こして制服を脱いでいるところだった。  
迷いのない動きで脱ぎ捨てられた制服の下から、陽に焼かれることを知らない白磁の肌が露わになる。  
彼女は上半身を覆う全てとショーツだけを取り去って、レオの手を取った。  
「ちっちゃくて、物足りないかもしれませんけれど……」  
頬を赤らめて、神はその胸元にレオの手を導く。  
日に焼けて節くれ立った指の間から、花のような紅色の乳首がつんと背伸びしている。  
レオの手にすっぽりと収まってしまう乳房は柔らかで、追いつめられたレオは触っているだけで達してしまいそうだ。  
「そのぶん、こちらで頑張りますから……ね?」  
レオの意志などお構いなしに、神はすっと腰を浮かせ、あっという間にレオと繋がる。  
「んんっ……」  
「っ、あ……うわぁぁっ……!?」  
生まれて初めて女と繋がったレオにとって、限界まで堪えた逸物を膣にくわえ込まれるのは衝撃と言っても良かった。  
挿入した途端、堪えていたものが一気に噴出する。  
「あっ……レオさん……!」  
歩く馬の背のように、レオの腰が激しく上下に揺れ、その度に神の中へレオの白濁が吹き出していく。  
意識が飛びそうな絶頂の快感に、神の胸から離れた片方の手が、訳も分からず何かを掴む。  
それは、神の手だった。  
 
「大丈夫……怖くありませんから」  
脳髄に突き刺さるほどの悦楽に狼狽するレオを優しく宥め、神の指がレオのそれと絡み合わされる。  
レオのそれよりいくらか冷たい指先が、きゅっと彼の手のひらを握りしめてきた。  
「動いても、よろしいですか……?」  
尋ねる神が小首を傾げると、レオの腹の上で若草色の髪が踊る。  
ようやく絶頂の余韻が引いて落ち着いたレオは、取り乱した己を羞じながらも頷いた。  
「好きにしろ」  
「はい」  
丈の短いスカートに隠れて見えないが、繋がりあったそこが不連続に締め付けられるのを感じて、レオは神を見上げる。  
膝で身体を支え、神はゆっくりと、その肢体を揺らしていく。  
「んっ……あぁ…」  
神の胸に添えられたままの手のひらが、彼女の手で円を描くように回される。  
うっとりと目を閉じた秀麗な面は、清楚な少女のそれから、情欲に濡れた女のそれへと塗り替えられていく。  
 
繋がった場所はにゅるにゅるとレオを包み込み、先だって自分が吐き出したものと混じり合って粘ついていた。  
「あぁっ……レオさん……すごくステキ……」  
一度吐き出しているというのに、レオの中心は衰えるどころか、もう発射の準備を整えている。  
体の中でレオをしごき立てながら、神がのしかかってくるのが見えた。  
「レオさん……」  
幾ら名を呼ばれても、もうレオには彼女を呼ぶことが出来ない。  
懸命に唇を噛んでいなければ、また情けなくも喘がされてしまうのが分かり切っていたからだ。  
「我慢しなくて……っ、いいん、ですよ? あ、っ……ん、ふぅ……んう」  
噛み締めたレオの唇に唇を寄せ、神は喘ぎ喘ぎ、レオに縋る。  
とうの昔に乱れきった上着を脱がせられ、汗ばんだ肌が露わになると、神の素肌が寄せられる。  
肌が直接触れることが、こんなにも心地よいものかと、レオは神の胸から手を離し、彼女を抱きしめた。  
ごく間近で揺れる瞳に吸い込まれるようにして、レオは自ら神の唇を啄んだ。  
 
その頃にはレオの身体も無意識に快楽を貪るべく動き出しており、神は下からの突き上げに甘く鳴いた。  
「イイ、ですっ……レオさん…もっと、もっと動いて…くださいっ……!」  
二人が舌を絡ませると、神の淡いふくらみがレオの胸板に押しつけられ、尖った先端が擦れ合う。  
蜘蛛の糸は温度も湿度も一定に保たれているはずなのに、この部屋だけが湿って暑い気がした。  
レオの逸物が膨らんで、絶頂が近いことを知らせてくる。  
それを感じ取ったのか、神は繋いだ唇を解いて誘った。  
「レオさん……一緒に、イきましょうね……?」  
彼女に潤んだ瞳で迫られて、否と言えるはずもない。  
レオは半ば意地で声を殺していたが、神の締め付けが急にきつくなったことで、それも叶わなくなる。  
「ぅ、あ! あ、あぁっ、神……ぃ!」  
レオの腹の上で踊る若草の髪と、その向こうでくねらされる腰。  
汗ばんだ二人の肌には、神の頭髪が互いを繋ぐように張り付いている。  
「レオさん、レオ、さんっ…!」  
神の胎の奥で、レオは二度目の精を吐き出し、また神は子宮に流れ込む精の熱さに、レオの肩を咬んだ。  
 
レオが目を開けると、部屋に射し込む陽は既に傾き、白い室内を赤く染めていた。  
衣服に乱れはなく、どうやら酷い淫夢を見ていたらしい。  
これも修行が足りないからだと、レオはかぶりを振り、その瞬間にちくりとした痛みに顔をしかめた。  
上着を脱ぎ捨て、痛みの走った肩を見るべく、レオは浴室へと向かった。  
 

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