第11.5話 竜二くん“禁じられた遊び”する
ハア… ハア… ハア…
スコップを抱えた青年が深夜の山中を歩いている。
(おまえはただ、この死骸を捨ててくりゃいいんだ、竜二)
やくざの情婦らしき女を、竜二は誰にも知られぬ山中に埋葬してきた。たやすい仕事だ。
ようやく乗ってきた車にたどりついた。あとはトランクにスコップをしまって帰るだけ――
「あの、すみません。小さい男の子を見ませんでしたか」
突然声をかけられて、竜二は心臓が飛び出すほど驚いた。
背後に立っていたのは和服姿の若い女だった。連れがはぐれて迷子になったのだという。
こんな山道に、和服の娘と子供が二人きりで?
いや、それどころじゃない。この女にスコップと車のナンバーを見られた――どうする?
葛藤は一瞬だった。竜二は無我夢中で女の後頭部にスコップを振りおろしていた。
アスファルトに大輪の紅い花を咲かせて、女は動かなくなった。しばし茫然としたのち、
竜二は女の死骸を抱えあげた。こいつも、埋めなければ。
絶命したばかりの死体は、まだぬくもりを保っていた。血の臭気にまじって、髪の香りが
ふんわりと鼻腔をくすぐった。なぜだかひどく懐かしい感じがした。
意識を失った肉塊は、生きた人間より何倍も重く、運びづらい。悪戦苦闘しているうちに
着物の裾が大きくはだけた。まぶしいくらい白い太股に、竜二はごくりと息を飲んだ。
動揺した拍子にバランスが崩れ、輝きを失った瞳が恨みがましく竜二を見つめる。
「うわあっ!」
頭が真っ白になった。殺してしまった。自分の手で殺してしまった。
僅かに残った生命のぬくもりを求めるかのように、竜二は着物の胸元をあばき、
まだやわらかな乳房にむしゃぶりついた。そして――
ハア… ハア… ハア…
スコップを抱えた青年が深夜の山中を歩いている。
ようやく乗ってきた車にたどりついた。あとはトランクにスコップを――
「あの、すみません」
竜二が悲鳴をあげた。たった今自分が山中に埋めたはずの娘が、頭から血を流し
ながら背後に立っているではないか。そうか、とどめが不十分だったんだ。土中
から這い出してきたに違いない。竜二はもう一度スコップを振りあげて念入りに
彼女を撲殺し、山中へと運んだ。
今度こそ、死んでるよな。竜二は女を抱きしめ、弾力をなくしつつある肌に夢中
で舌を這わせた。女の身体が次第に冷えていく。そして――
ハア… ハア… ハア…
「あの、すみません」
頭蓋を陥没させ、見るかげもなくなった女がそこにいた。竜二は泣きながら何度
も何度もスコップを振りおろすと、なにかに憑かれたような勢いで彼女の身体を
むさぼった。いい加減にしてくれ。許してくれ、助けてくれ。助けて――加護女。
血まみれの両腕がやさしく竜二を抱きしめた。
「小さな男の子……竜二くんを探しています。本当はいい子なんです」
加護女、加護女なんだな? 哀しいとき、寂しいとき、いつも幼い自分を抱きし
めてくれた優しくてちょっと奇妙なお手伝いさん。どうして忘れていたんだろう、
この香り、このぬくもりを。竜二は少年のように泣きじゃくった。
「ごめんよ加護女。俺、加護女にひどい事を……」
つややかな唇がその言葉を遮った。
「心配ないわ竜二くん、死体遺棄だけなら重い罪にはならない」
うなだれた竜二は、加護女の顔をまともに見られなかった。
「……ごめん、加護女。あと死体損壊も少々」
「……。」