ジェーン・マクスウェル。通称カラミティジェーン。  
荒野の災厄娘などともあだ名される彼女は、評判とは裏腹に十代半ばのまだ愛らしい少女である。  
もっとも、彼女の活躍ぶりはベテランの渡り鳥にもひけをとらず、  
年齢ともあいまってこのファルガイア中に勇名を知られている。  
そんな彼女が、今また新しくアークティカ山中で発見された遺跡に挑んでいた。  
無数のモンスターがうごめく危険極まりない場所ではあるが、  
未発見の遺跡から発掘される遺物は何より貴重で高価な代物だ。  
お金にこだわる彼女がそれを見過ごすはずもなく、意気揚々とやってきた、のだが。  
「もー、ここのモンスターったら……しつこすぎるわッ!」  
ハンディキャノンの弾も尽き、それだと言うのにまだ入って三十分も経っていない。  
さすがにこれではどうにもならないと、ジェーンは腕を組んで考え込んだ。  
「あたしとマクダレンじゃ、火力が足りないのよね……」  
「申し訳ございません」  
傍に控えていたマクダレンは深く頭を下げる。  
ジェーンは軽く腕を振ってそれを否定すると、くるりときびすを返した。  
「お嬢様?」  
「一旦撤退よッ。こうなったら……みんなの力を借りる必要があるからねッ」  
「みんな――と申しますと、ああ……理解致しました」  
そのまま、二人は遺跡から抜け出す。そしてその足で、アーデルハイドへと向かった。  
 
それから数日後になる。  
まったく同じ遺跡に、今度はジェーンとマクダレンだけでなく、他三名の姿もあった。  
「しっかしなんだな……お前、俺達のこと体のいいボディガードかなんかに思ってないか?」  
その三名のうちの一人、ザックはどこかむすっとした表情でぼやく。  
その言葉を聞いた途端、ジェーンはきっと振り返り、人差し指をぴしりと彼に突きつけた。  
「ちゃんと見つけたお宝は山分けって言ってるじゃないッ。  
 だいたい、セシリアもロディもそれでいいって言ってるんだから、あんただけ大人げないわよッ!」  
「うッ……け、けどなぁ……」  
「ザックの負けですね……」  
なおも言い募ろうとしたザックを止めたのは、彼の仲間のセシリア。  
ジェーンに向けてちょっと困ったように笑うと、小さく頭を下げた。  
「これくらいのお手伝いなら、いつだって言ってくれれば……私達、仲間ですし……ね、ロディ?」  
三名のうちの後一人、話し合いを心配そうに見ていた少年、ロディに向かってセシリアは同意を求める。  
少年はこくんと頷き、彼女をじっと見つめた。  
少しだけ、甘いような空気が二人の間に流れる。――と、少なくとも、ジェーンにはそう見えた。  
「う、うん、うんうんッ! そ、そーよねッ。じゃあ、ザック、ロディ、セシリア、マクダレンッ!  
 いざ、遺跡めぐりに出発進行よッ!」  
ロディとセシリアの間の空気を厭うように声を張り上げると、ジェーンは先頭に立って遺跡へと進んで 
いった。  
「やれやれ……仕方ねぇな」  
呆れたようにぼやくザックもすぐに後を追う。続いてロディ達も進んでいったが。  
一人だけ、ジェーンの執事マクダレンは何か考え事をするような顔つきをして立っていた。  
「ふむ――お嬢様には差し出がましいと言われるかもしれませんが……  
 ここは一つ、余計なお節介をさせて頂くことにしましょう」  
呟いて、彼もすぐに遺跡へと潜った。  
 
探索は順調に進み、いくつか貴重な宝も発見された。  
ジェーンはほくほく顔でそれを眺めていたが、時折ふと複雑そうな顔になる。  
それは決まってロディの傷をセシリアが回復している時のことだった。  
「あ、ロディ。大丈夫ですか?」  
「……」  
「すぐ回復しますね……」  
はにかんだ表情で回復魔法を受けるロディを見ている時に限って、ジェーンは何か噛み締めるような表 
情となっている。  
脇目でそれを見て、どこか悟った表情で首を軽く振るザックはともかく、  
当人のロディとセシリアは気づいている様子はない。  
実際、回復が終わってまた歩き出そうとする頃には、  
「はい、時間食った分きびきびといかないとねッ。ロディもセシリアも、遅れないでよ」  
いつものさばさばとした顔になっているのだから。  
マクダレンは当然の如く気づいてはいるようだが、特に何事も言わず静かについていっている。  
ただ、時折遺跡の構造図を取り出して何か計算をしているようではあったが。  
 
やがて、遺跡の最深部と思われる一段広い場所へと一行はたどり着いた。  
奥に、仰々しい石像や剥き出しの機械に包まれて、一つの宝箱が置いてある。  
「あれが、この遺跡に眠る一番価値のある宝物。なんでも、魔族が作り出した秘密兵器らしいんだけど 
……」  
こころなしか、ジェーンの声も小さい。  
宝から漂ってくるただならぬ気配が、彼女をして怯ませているのだろうか。  
「……とにかくッ! ここまで来て、あれを取らないってワケにはいかないでしょ……  
 あれ取って、それでハッピーエンドよね……」  
足取りはおっかなびっくりと言った様子だが、それでもジェーンは宝箱に向けて歩み始めた。  
「――と、お嬢様。一つ申し忘れていた事が御座いました」  
「なッ……何、マクダレンッ!?」  
後ろから不意に声をかけられて、ジェーンはつんのめる。  
「これは失敬を……ともあれ、この宝の周囲には罠が仕掛けられているようなのです」  
「罠?」  
「は。少々込み入った罠でして、いささか厄介かと」  
淡々と告げるマクダレンに、ジェーンは苦々しそうな顔をする。  
「そーゆーコトは早く言ってよね……で、解除できる?」  
「無論のこと……ですが、解除方法がやや特殊でして」  
「早く教えて」  
「は……」  
主の言葉に頷くと、マクダレンは不意にロディを見る。  
「……?」  
「ロディ様のお力をお借りする必要が御座います。  
 具体的に申しますと、15歳以下の二名の方が宝を取れば罠はそもそも発動せず、無事に切り抜けら 
れるとか。  
 ロディ様の特殊な事情は承知しておりますが、聞くところによれば目覚められてから15年程とのこ 
と……  
 この場で、確実に15歳以下と呼べるのはお嬢様だけで御座いますし、  
 また諸々を考慮しなければロディ様も該当なさるかと存じ上げます。  
 そこで、お嬢様およびロディ様のお二方によって、かの宝を入手なさるのが最良かと」  
 
「……えっと、よくわかんないけど……ロディとあたしの二人なら、あれが手に入る、ってことなの?」  
「左様で御座います」  
説明を終えると、マクダレンを除く一同はぽかんとした顔つきになった。  
「なんか……妙なトラップだな」  
「そうですね」  
「この遺跡は特殊な遺跡のようですので、それも致し方ないかと……」  
マクダレン本人は実に自然体である。なので、他の一同も納得するしかない。  
そういうことならと、ロディもジェーンの隣に立った。  
「じゃ、改めて……いくわよ、ロディッ。お宝目指してッ……」  
「――と、お嬢様」  
また歩き出そうとした瞬間、後ろから声をかけられる。  
今度はつんのめるだけでなく、思い切り前に転んでしまったが。  
「い、痛……もうッ! なんなのマクダレンッ!」  
「これは失敬……申し訳御座いません。ただ、お嬢様には一つお持ちになられて頂きたい道具がござい 
まして」  
「道具?」  
「は。これなのですが」  
マクダレンが取り出したものは、随分と大きなバッグであった。  
「何、これ? なんかでっかいけど」  
「万が一、トラップが発動した時に備えましての保険でございます。  
 この解除方法で間違いはないのですが問題が一つありますので……」  
「ロディ……?」  
「は。ロディ様の年齢が目覚められてからのものとなれば問題はないのですが、  
 ご誕生なされてからとなると話は違って参ります。過去の大戦から換算致しますと、軽く1000年 
をも越えてしまうとか。  
 万が一そのようなことになればお嬢様とロディ様をむざむざ危険に晒すことになってしまいますので、  
 私としても不本意なこととなります。  
 そこで、いざという時に備えて諸々必須な道具を揃えて置きましたから、ご安心なさってくだされば 
……」  
「はー、準備いいなあ、おっさん」  
傍で聞いていたザックが感心したような声を漏らす。  
 
「恐れ入ります」  
「……じゃ、これ持ってればいざって時も安心、なワケね……オッケー。  
 じゃあ今度こそ、行くわよロディッ!」  
今度こそ、ロディも頷いて一緒に宝箱目掛けて歩き始めた。  
そして、二人同時に床に一歩足を踏み入れた瞬間。  
「……え?」  
床が瞬時に消え去った。  
そのまま、両者ともに地下深くへと落下していく。  
「ま、マクダレンッッッ!? 話が違ッッッ……」  
長く尾を引く悲鳴を残して、ジェーンとロディは消えてしまった。  
セシリアとザックはじと目でマクダレンを見つめている。  
「これは……ふむ。失敗でしたな」  
「そッ……それで済ませるなよッ!」  
 
「ご安心ください。先ほどお渡しした道具が御座います」  
それにしても、マクダレンは変わらず落ち着いている。  
「あ、そういえば……」  
「あの中には発信機など仕込ませていただきました。  
 どこかへお嬢様とロディ様が消えられてしまったとしても、ただちに発見することが可能です」  
「ほ、ほう……」  
「では、すぐにそちらへ向かうと致しましょう」  
落ち着き払った様子でマクダレンは歩き始めた。  
ザックとセシリアも後をついていく。  
と、その部屋から出る直前、マクダレンは小声で抜けた床に向けて呟いた。  
「ご健闘をお祈りしております……お嬢様」  
 
 
落ちたロディとジェーンは、ずぶぬれになって震えていた。  
床の抜けた先には、地下水脈らしき水が流れていたのだ。  
そこに丁度どぼんと落ちて、落下のダメージは少なかったものの二人とも寒さに震える羽目となる。  
「ここってアークティカだし……さ、寒いわよね……」  
北方に位置するこの周辺では、夏でもひやりとした空気が流れている。  
ましてや地下深くともなれば、その寒さはひとしおである。  
「ね、ね、ロディ。なんか、いい道具ない?」  
「……?」  
言われて、手持ちの道具をごそごそと漁る。しばらくして、ロディは一つのアームを取り出した。  
「あ、ナパームフレア……ロディあったまいいッ☆」  
「…………」  
照れた顔になって、ロディは少し俯く。ともあれ、すぐにそのアームから火を放射した。  
近くにあったものを適当にかき集め、そこに着火。どうにか暖をとってみる。  
「ふう……一息つけたわね」  
「…………」  
「あ、そうだ、マクダレンがくれた道具、いいのないかな?」  
水の中に落ちたにも関わらず、バッグの中が濡れている様子はない。  
防水性のものらしいが、こんなところまで準備のいいことである。  
「マクダレンにはありがとって言っておかないと……あれ?」  
ごそごそと漁っているうちに、ジェーンは一枚の紙を見つけた。  
「えっと……」  
「……?」  
綺麗な筆記で何か書かれているようだが、ロディからは見えない。  
いや、読んでいるうちにジェーンが隠すように紙を抱え込んで、どうやっても見えないようにしている 
のだ。  
しかもジェーンは読みながら時折顔を赤くしたり、悩んだような顔になったりする。  
不審に思って、ロディが軽く肩を叩くと、  
「ひゃッ!? あ、ロディ……今、ちょっと……その、忙しいから……」  
露骨にうろたえて、やんわりと拒絶される。  
「…………」  
仕方ないので、少年は一人で焚き火にあたっていた。  
 
やがてジェーンは紙を読み終えたらしく――細かな字で書かれていたとはいえ、時間がかかりすぎたよ 
うな気もするが、  
とにかく紙をまたバッグにしまうと、妙に明るい声を出す。  
「えっと……ほら、あたし達ずぶぬれになっちゃったじゃない?  
 このままだと火にあたってるって言っても風邪引いちゃうでしょ。  
 だ、だから、その……服、脱いだ方がいいよね、ロディ?」  
素直に受け取って、ロディはこくんと頷いた。しかし、ふと疑問のある顔になる。  
「あ、大丈夫大丈夫。このバッグにでっかいタオルが入ってたから、服が乾くまでそれにくるまってれ 
ば……」  
納得して、ジェーンが差し出したタオルを受け取ってみる。  
確かに大きなタオルだ。元々それほど身体の大きい方ではないので、十分包むこともできる。  
早速服を脱ごうとして、ふとロディはジェーンを意識した。  
ここで脱いだら、思い切り見られてしまう。  
「……ッ!」  
急に少年の顔が紅潮する。と、ジェーンもそれに思い当たったのか、咄嗟に  
「あ、あたしはあっち見てるからッ……」  
くるりと振り返って、ロディから目をそむけた。  
「…………」  
ようやく少年も一安心して、ずぶぬれの衣服を脱いでいく。  
 
タオルにくるまった後、まだあさっての方向を向いているジェーンの肩を控えめに叩く。  
「……あ、終わったんだ。じゃあ、今度はあたしの番……ロディ、見ちゃダ……えっと……あ、やっぱ 
りダメだからねッ」  
一瞬迷ったような箇所があったが、ともあれロディはその言葉に素直に従う。  
ジェーンの服は随分水を吸っていたらしく、衣擦れの音も妙に水っぽい。  
なんだかどぎまぎしながらじっとロディは待っていたが、やがてジェーンから小さく声をかけられた。  
「もう、いいよ……」  
鼓動を早めながら、ロディは恐る恐る彼女の方を向く。  
……ちゃんと、タオルにくるまっているようだ。  
全身すっぽりと包み込んで、肌の出ている場所は顔くらいしかない。  
「…………」  
これなら、目のやり場に困ることもないだろう。  
ほっと安心して、ロディはようやく落ち着いて焚き火にあたった。  
 
しばらく、二人とも無言になる。  
もっともロディは普段からあまり喋らないので、単純にジェーンが黙っているだけなのだが。  
そのジェーンは、ちらちらとロディを眺めては顔を伏せ、どうも落ち着きがない。  
「……?」  
気にしていいものかどうか、ロディもちらちらとジェーンを眺めてみる。  
と、二人の目線があった。  
途端、ジェーンの顔にさあっと赤みが走る。  
「あ、あのッ……」  
慌てて何か言おうとするが、声にならない。  
結局、微妙に気まずい空気のまま、三十分ほどが過ぎた。  
その時になって、ようやくジェーンは何かを決めたらしい。  
一度深呼吸すると、まっすぐにロディを見据えて、小さく呟いた。  
「……ねえ、ロディ」  
「?」  
「あの……ロディって、好きな人……いる?」  
「……ッ?」  
急な問いかけに、ロディの方は少し頭を捻って、答えようと……して。  
「……」  
「あ、いいの、わかってる……みんな、だよね? このファルガイアに生きてるみんな。  
 そういう人だったよね……ロディは」  
先に言われて、ロディは口をぱくぱくさせた後に頷いた。  
 
「そうじゃなくて、その……一緒にいたい、女の子、その……恋人にしたい子なんだけど……」  
「ッ!?」  
今度は驚いて返答が出来ない。  
好きな女の子、と来たものである。  
「やっぱり、セシリアと……お似合いだよね、ロディ……」  
「…………ッ?」  
「いつも一緒だし……あたしより、ずっとロディのこと知ってるんだろうなって思うから……」  
「…………」  
「でもね……」  
そこで一旦言葉を切ると、ジェーンはすうっと深呼吸した。  
それから、改めてじっとロディを見つめる。  
「あたしも、ロディのこと好きなんだ……」  
「ッッ!!」  
突然の告白。  
何を答えていいものか、頭までもが空白になってしまう。  
それを知ってか知らずか、ジェーンは小さく続ける。  
「好きだけど……ロディと一緒にはいられないから……だから、諦めようって……思ってた。  
 でも、ロディが他の人と一緒にいると、なんかもやもやってしちゃって……」  
「………ッ」  
「だからロディ……このままじゃ、あたし諦められないから……  
 今だけでいいの。あたしのこと、恋人にしてくれない?  
 一度だけでいいから……そんな気分味わってみたら、きっと……」  
「ッ!!?」  
その言葉に、ロディは露骨にうろたえた。  
返事をすることも出来ず、口を開いたり閉じたりするだけしか出来ていない。  
ジェーンはそんなロディの答えを聞こうとじっと待っていたが、段々じれったくなってきたのか、  
「……なら、これなら……どうッ?」  
思い切って立ち上がり。  
ぱらり――と。  
身にまとっていたタオルを落とした。  
 
「……ッッ!!?」  
ロディは思い切り狼狽してしまう。  
ジェーンは、ひどく恥ずかしげに顔をうつむかせながら、それでも裸身を少年の前に晒したのだ。  
両手は密かに陰る股間の辺りを覆い隠すようにしている。  
ただ、そのせいでまだ発展途上と言うべき控えめな乳房はロディの視線に晒されてしまっているのだが。  
「ッ……」  
肝心のロディは、目を離すことも出来ないでいた。  
目をそむけなければいけない、そう思っていてもジェーンの健康そうな裸体に釘付けになってしまう。  
その視線を感じて、彼女の鼓動もひどく早まってくる。  
「恋人がすることって言ったら……こ、こういうこと、よねッ……  
 まだちょっと早いかもしれない、けど……」  
言葉にいつもの勢いもなく、最後は聞き取れないほどに小さくなってしまう。  
ただ、ロディにとってはこの言葉が金縛りから自分を解き放つ合図になったようだ。  
慌てて、首をぶんぶんと振ってジェーンに冷静になって欲しいと視線で訴える。  
が、彼女は逆にロディのその目をじっと見据えてきた。  
「我がままってことは分かってるし……ロディがこんなの望んでないってのもわかる、けど……  
 お願い……今だけ、一度だけで……いいから。これからは、もうきっと……諦めきれる、から……」  
ジェーンも随分と思いつめているのだろう、瞳にはうっすらと涙も浮かんでいる。  
それでも、押し切られてはまずいと、ロディは顔面蒼白になりながらも必死でぶんぶんと首を振る。  
「どうしても……駄目? ねえ……」  
「ッ……!」  
彼女の身体は、小さく震えている。  
こんな彼女を見るのは初めてだ。いつも、明るく朗らかだったはずなのに。  
もう、ロディの方でも心配するほどに、その姿は頼りない。  
しかし、なおも必死で思い直すように少年が押し留めていると――  
「……っくしゅんッ」  
「?」  
「……っぺしょッ!」  
盛大なくしゃみが飛んできた。  
 
「さ、寒すぎるのよ、だいたいッ……」  
「…………」  
どうも、震えていたのも涙ぐんでいたのも、寒かったから、らしい。  
それを知って、ロディはほっと胸を撫で下ろした。  
この調子なら、今の告白だってどうにか誤魔化せるかもしれない――  
「やっぱ……こんなのあたしに似合わないわッ! もう好きにやるからねッ!  
 だからッ……ロディ、ちょっと我慢してなさいよッ!」  
――というのが、途方もなく甘い認識であったというのには、少々気づくのが遅すぎたようである。  
「ッ!?」  
「あたしばっかり裸だから寒く感じるのよね。ほら、ロディもさっさとタオル脱いで」  
ほとんど強引にくるまっていたタオルを剥ぎ取られてしまう。  
呆気に取られていたロディには、抵抗することさえままならない。  
「……ッ」  
「わッ……ロディ、結構……たくましいんだ……」  
全体的に均質の取れた身体つきだ。無駄なく筋肉がついている、ように見える。  
ただ重アームを使いこなす彼にしては、それでもまだ貧弱にすら思えるのだが。  
もっとも、そんなことはまじまじと見つめているジェーンには関係ないようで、  
純粋に同年代の少年の綺麗な身体に感心しているらしい。  
 
「この腕で、でっかいアームを使いこなしてるのね……あたしにはあんなの使えないけど……」  
興味深そうに、ロディの身体を撫で回していく。  
「……ッ……」  
手を跳ね除ける、などということは、勿論ロディに出来るはずもなく。  
ぺたぺたとジェーンに好きなように触られて、どうも妙な気分になってきた。  
「それで……あ」  
上半身を撫で回していた彼女がふと下を見た時に、思い切り『それ』が目に入る。  
例によって勢いに呑まれていたロディには隠す余裕もなく、結果ぴんと勢いよく上を向いたものがジェ 
ーンにはっきりと見られてしまった。  
「う、うわぁ……」  
さすがに彼女も息を呑む。  
「お、男の子って……こうなってるんだッ……」  
ぺたぺたと触られたり、そもそもジェーンの裸を眺めていたせいで、知らずロディも興奮していたらし 
い。  
随分と固くなっていたペニスは、はっきりと自己主張をしてジェーンの目を離そうとしない。  
「…………ッ」  
「え? 恥ずかしいの? ダメダメ。アタシばっかりおっぱいとか見られてるんだから、不公平じゃな 
いッ」  
そっちが勝手にやったのに、と、ロディはちょっと恨みがましい目を向ける。  
災厄娘の名で呼ばれる少女は、その名の如くそんな視線はまるで意に介さずに、今度は固くそそり立っ 
た少年の男性自身を手にとった。  
「ッ!」  
「な、なんか、熱いわ、これ……」  
そのまま、ゆっくりとそれをしごき始める。  
 
「!?」  
「これって、刺激すると気持ちよくなるんでしょ? 聞いたこと、あるから」  
「ッ……!」  
焦るロディに対し、ジェーンは恐る恐るものをいじる。  
知識も経験もほとんど無いせいか、それは決して快感のつぼを突くようなやり方ではない。  
むしろ適当に弄くられているようで、されている側には快感も何もないはずなのだが。  
ひんやりとしたジェーンの手が敏感な先端を撫でたり、軽く根元を抑えられるたびに、どことなくぞく 
っとするような気持ちがロディの背中を走った。  
仲間の少女が、自分の恥ずかしい場所をじっと眺めて弄んでいる。  
そんな事実だけでも、ロディの心にじわりと刺激を与えてくる。その上、彼女の与える直接的な刺激も 
伝わって、  
「ど、どんどんおっきくなってるッ……」  
更に自分がいきりたってくるのを抑えることは出来なかった。  
ジェーンはそれでもしばらく手でロディをいじっていたが、ある程度大きくなった時点でそれを止める。  
「……?」  
「……そういえば……こういうのも、男の子って気持ちいいんだよ、ね?」  
言うや否や、彼女は口を広げて十分に固くなったロディのペニスを含んだ。  
「ッ!!?」  
「むくッ……」  
まず舌でそれを舐めてくる。  
ざらっとした感触が敏感な先端から伝わってきて、思わずロディは身をよじらせてしまう。  
「ぷは……ねえ、どう? ロディ? 気持ちいい?」  
尋ねられて、少年は若干朦朧としながらもこくりと頷く。  
それを見て、ジェーンも嬉しそうに口淫を再開した。  
 
「むッ……んくッ……」  
「ッ……」  
ぺろぺろとロディのそれを舐め続ける。  
何かに耐えるような顔でじっと少年は受け止めているが、身体を支える手がぴくぴくと震え始めた。  
「んーッ……んッ!?」  
その時、咥えている先端から妙な味の液がとろりと出てきて、否応無くジェーンはそれを飲み込まされ 
る。  
「んッ……やだ、変な味……こ、これが……精液ってやつ、なの?」  
「…………」  
軽くロディは首を振る。一応、自分のことなのだからそれくらいは知っているのだ。  
「へ、へえ……そ、そうなんだ。じゃあ、続けても大丈夫よね……」  
戸惑いながらも、ジェーンは続ける。  
段々と舌の動きも慣れ始めて、こっそりと鈴口を突っついてみたり、くびれた部分を舐めてみたり、色 
々趣向を凝らしてみる。  
「ッ……ッ!」  
少年のそれはぴくんと震えて、しっかり返答してくれる。  
ロディがしっかり気持ちよくなってることに嬉しくなり、ジェーンはくすっと微笑んだ。  
それでも続けるうちに、ぴくぴくと咥えているそれが震え始める。  
「んッ……?」  
「ッ、ッ……!」  
「んんッ……」  
どうしたのかとジェーンも疑問に思うが、わからないまま続けている、と。  
どくん――と、咥えているペニスが脈打った。  
「んんッ!?」  
「ッ!!」  
驚く間もなく、口の中で熱い液体が弾け飛んでくる。  
「んあッ……」  
思わず唇を離すと、ロディの先端から白い粘液が弾けて顔に飛び散ってくる。  
「や、やだッ……何、これッ……あ、熱ッ……」  
顔全体に白い点々が散って、ジェーンは顔をしかめる。  
「…………ッ」  
一方のロディは、出したことでひとまず虚脱していた。  
 
「うー……これが精液、ってやつ? なんか、思ったよりも気持ち悪い……」  
申し訳なさそうな顔でロディはジェーンを伺う。  
それでも、軽く彼女は首を振り、改めてにっこりと返してきた。  
「ううん、平気。ちょっとびっくりしただけ……あ、ロディ……」  
笑顔で言っていた彼女だが、途中から少し驚いたような顔になる。  
不思議に思って少年がきょとんとしつつ、ジェーンの視線の先を追う、と。  
そこには、出した直後なのに隆々といきりたつロディ自身がある。  
「や、やっぱりロディって凄いんだ……」  
「…………」  
どうも複雑な表情でロディはその賞賛を受け取る。と、またジェーンはそこを口に含んだ。  
「ッ!」  
「んッ……」  
ぺろり、と一舐めしてから、顔を上げる。  
「変な味……だけど、これがロディの味……ね、もう一回、大丈夫よね?」  
「……」  
短く逡巡して、こくんと頷く。  
「ありがとッ。ロディの味……覚えておきたいんだ……」  
呟いて、ジェーンはまたせっせとロディのペニスに舌を這わせ始めた。  
「ッ……」  
二度目のせいか、少しは鈍感になっている。  
それでも、少女の与える快感は、彼女が慣れるごとにその強さを増して、差し引きゼロ……いや段々と 
快感が勝ってきているようだ。  
 
「……ん……」  
今度はジェーンも唇を使ってペニスを刺激してみたり、工夫を凝らしてロディに奉仕する。  
ロディの味を覚える、そんな理由でジェーンは必死で彼に快感を送り込んでいるのだ。  
「……ッ……」  
「ん、んッ……」  
唾液と先走りで少年のものはすっかりべとべとになっている。  
それでも、ジェーンは嫌がりもせずに懸命にロディを刺激し続ける。  
「ッ、ッ……ッ……」  
「……む、んッ……」  
やがて、少し長い時間の後に、またロディは切羽詰ったような視線を下のジェーンに向けてみる。  
「……んッ、わかっら……」  
軽く頷いて、少女はより刺激を強める。  
すぐに、ロディはまたぴりぴりとした感触を背筋に走らせて、ジェーンの口の中に、それを放つ。  
「んくッ!」  
「……ッ!」  
 
こくん、と、今度は漏らさずにロディの熱い体液を飲み干す。  
ただ、それでも小さな口には収まりきらず、少しずつ唇の端からこぼれてしまっているのはご愛嬌とい 
うべきか。  
ともあれなんとか飲み干した後、手でその余りもぬぐい、どうにか全部ジェーンは喉に納めた。  
「苦くてなんか変な味……でも、これがロディなのよね……」  
「…………」  
「うん、覚えた。……もうきっと忘れないから」  
ふふ、とジェーンは微笑む。どこか、ほんの数十分前とは違う大人びた印象を受ける笑み。  
 
「じゃあ、次……今度は、あたしの身体に……ロディのこと、覚えさせて欲しい……」  
「……!」  
それの意味するところは、恐らく一つ。  
事実ジェーンは脚を広げて、うっすらと茂みに覆われたそこをロディに向けた。  
もう、その場所はとろんと潤みを帯びている。  
「こ、ここッ……ねえ、見てる……?」  
「…………」  
頷いていいものかどうか。ロディは戸惑いつつ、目を離せずにいる。  
「あたしも、ちょっと変な気持ち……なの。ね、ロディ……し、して……くれる?」  
「……ッ!!」  
とうとう、来た。ジェーンは明らかに、『それ』を望んでいる。  
ここに来て、またロディにとっては迷うような事態になってしまったのだが。  
「……もう、じれったいわッ。早くしてくれないと、怒っちゃうからねッ!?」  
「ッ……」  
急かされて、慌ててロディはペニスをその場所へと這わせる。  
すぐには入らず、入り口の周辺、そして少し上の突起を少しずつ刺激してみる。  
「あ、ぃッ……そ、そんなことッ……」  
「……?」  
「き、気持ち、いい、けどッ……ね、早く、早くしてッ……」  
ジェーンは、少しでも早くしてもらいたいらしい。  
流れ出す愛液も量を増し、ひくひくと震えてロディを待ち焦がれている。  
「…………ッ!」  
覚悟を決めて、少年は自身のそれを思い切ってジェーンの中へと侵入させていった。  
 
「……ッぁ……」  
「…………」  
意外にあっけなく少女の中へとロディの肉の剣は収まる。  
が、その直後。  
「いッ……い、痛ぁッ……!」  
「ッ……?」  
「い、痛い痛い痛いッ! ろ、ロディのッ、ひぅッ……!」  
愛液の助けはあっても、ロディの滾ったペニスは少女にはひどく大きすぎる。  
元々、成長途上のジェーンの中はまだ狭いのだ。しかも彼女は初めて、でもある。  
「痛いよぅッ……ロディッ……」  
「……ッ……!」  
涙もぽろぽろと流して、ジェーンはつらそうに訴える。  
ついさっきまでとは大違いだが、笑う余裕などはない。  
「う、くッ……お、お腹がッ……」  
息をすることさえ辛そうに、ジェーンは必死でロディにしがみついている。  
明らかに快感とはかけ離れた表情から、少し慌ててロディは腰を引く。  
半分ほど抜けたあたりで、ジェーンは少しだけ息をついた。  
 
「う、あ……ま、まだ痛い……けどッ……こ、こんなだったなんてッ……」  
「…………」  
止めようか、とロディは視線で訴える。だが、その目を見た途端にジェーンは涙を止めた。  
「じょ、冗談じゃないわッ……こ、こんな痛いだけの思い出なんか、あたし認めないんだからッ。  
 ……でも、しばらくこのままでいて……お願い」  
止めることを拒絶されて、仕方なくロディはきゅっとジェーンを抱きしめた。  
「ん……ロディ、あったかいね……」  
痛みを必死で堪えながら、ジェーンもその温もりにすがる。  
ぽろりと零れてくる涙は、そんな彼女の強がりの証だろうか。  
と、ロディはそっとその涙を舌でぬぐった。  
「あ……」  
そのまま、唇を彼女のそれに合わせる。  
「ん……」  
「……」  
少しだけ、自分の出した白濁のおかしな味はするけれど、それよりもジェーンの涙と思いが伝わってくる。  
「あ、ありがと、ロディ……」  
「…………」  
 
やがて、荒かったジェーンの息も少しずつ整えられてきた。  
「はぁ、はぁ……ね、ちょ、ちょっと動いてみて……」  
「…………」  
恐る恐るロディは腰を揺らしてみる。  
「痛ッ……」  
相変わらず、ジェーンにとっては激痛のもとでしかないようだが。  
「うー……やっぱり、初めてじゃ気持ちよくならないのかな……」  
「…………ッ」  
ロディだって経験豊富な訳ではない。そんなことはまだ分からないのだが、多分それは正しいと思える。  
「要するに……すべりが良くなれば、痛みも少しは減るはず、よね?」  
「?」  
「……ね、ロディ。今から、あたしのこと気にしないで……その、やってみて」  
「ッ!?」  
「……せ、精液、出してくれたら……その、少しは……」  
「……!!」  
あまりに強引な理屈である。そもそも滑りとかそういう問題なのだろうか?  
しかし、疑問を現そうにもジェーンは強く言葉を重ねてくる。  
「やらないよりはマシでしょッ。今のままじゃ、ずっとダメなんだからッ……ね、やってよ、ロディッ」  
「…………」  
仕方なく、ロディは腰を動かし始めた。  
「いッ……ん、なんでも、ないッ……」  
ジェーンの辛そうな顔を見ると、どうしたって遠慮してしまうのだが。  
それでも、結局彼女には逆らえず――それに、正直を言えば、ロディ自身はひどく気持ちよかったのだ。  
未熟な肉壁はペニスをぐいぐいと締め付け、離そうとしない。  
与えられる刺激は、彼女の覚えたての口技よりも遥かに大きいのだから。  
だから、最初は恐る恐る、時間が経つにつれて大胆にロディは突きこみを深く、早くしていった。  
 
「いッ……んッ……く、つッ……」  
必死で耐えるジェーンと、少しずつ快感にそれを忘れてしまうロディ。  
きゅうきゅうと締め付ける秘肉の感触に、彼女の心配も段々と薄れてきた。  
「ッ、ッ!!」  
そうして、ジェーンを責めるうちに、段々と腰のあたりに甘い痺れが漂ってくる。  
ペニスはますます膨れ上がって、細かな振動をはじめた。  
「い、痛ッ……んッ……」  
ジェーンは相変わらずだ。ロディが動きを速めたことで、ますます痛みを感じている。  
それでも、わずかに違った感触を味わっているらしく、表情がやや緩んでいるが――ロディの目には入 
らない。  
そして、すぐに。  
「…………ッッ!!」  
ロディは、三度目の破裂をした。  
びゅ、びゅるびゅるびゅるッ。  
なおも激しい勢いで、ジェーンの膣奥にロディの液が注がれる。  
「あ、熱ッ……熱くて、なんかッ……これッ……」  
不意に膣内に走った感触に、ジェーンも思わず声をあげる。  
「…………」  
しばらく、二人とも固まったままでいて。  
「う……あ……あ、なんか……ちょっと、痛くなくなった……みたい」  
ふう、と息をつきながら、ジェーンも小さく呟いた。  
 
「じゃ、じゃあ……また、やってくれる? ロディ……あ、ひょっとして、三回もやったから、もう?」  
「…………」  
どうにも複雑なのだが、三度も出しても、まだ。  
「……あ、き、聞くまでもなかったみたいねッ……」  
誰より、胎内でそれを感じているジェーンには、まだロディが力を滾らせていることがよくわかった。  
「やっぱりロディの体力って凄いんだ……パーティの壁ってのは伊達じゃないわね……」  
「…………」  
こういう時にそれを褒められるのもなんだか奇妙である。  
が、ともかく、ロディにしてもここでやめるのは気味が悪い。  
今度こそジェーンに苦痛ばかりを感じさせてはならないと、ゆっくりと腰を動かし始めた。  
ずちゅ……くちゅ。  
精液が膣内を満たしたせいか、少し滑りがよくなってきている。  
「うッ……ん……ちょっとだけ……痛くなくなった……みたい……」  
ジェーンの顔からは、少しだけ苦悶のそれがなくなっているようだ。  
ロディも少し安心して、少しずつ少しずつ動きを速めてみる。  
「ん、んッ……」  
完全に痛みを無くしている訳ではないのだろう。快感に喘ぐ、という様子はまるでない。  
それでも、僅かずつ生まれ始めた快感にすがって、ジェーンはロディの突きこみを受け止める。  
「いッ……ん、ロディッ……」  
「……ッ」  
ロディもまた、滑りがよくなった分純粋にジェーンの膣肉を味わうことが出来る。  
彼女も僅かながら快感を感じ始めたせいか、中はよりロディを歓待すべく複雑に絡んでくるのだ。  
くっちゅッ……と、水音も段々大きくなってきた。  
再び、ジェーンの中から愛液が漏れ出して来ているらしい。  
「あぅッ……ロディッ……ん……」  
「ッ……」  
 
ぐちゅぐちゅと、ロディとジェーンの奏でる音は高くなってくる。  
「いッ……ん、ロディッ……」  
ジェーンの受ける快楽も、痛みに勝りつつあるようだ。  
あるいは、渡り鳥の旅の中で鍛えられた身体が、より早く痛みに順応しようと自分を誤魔化しているだ 
けなのかもしれない。  
そうだとしても、今ロディがくれる快感は確かなもの。そう、ジェーンは信じている。  
「う、いッ……い、いいよ、ロディッ……」  
「……!」  
快感を訴え始めたジェーンに、ロディも少し嬉しくなってペニスをより力強く突き入れてみる。  
「くッ……ん、ああッ……」  
ずちゅずちゅずちゅッ。  
音の間隔が短くなり、代わりにジェーンの喘ぐ声が長くなってきた。  
勢いよくロディは中をかき乱し、そのたびにジェーンは叫ぶ。  
「ひッ……あ、んッ……」  
「ッ……!」  
そうして、二人の快感が段々と一つになっていく。  
「あッ……ああああああッ……」  
ジェーンの声が長く遺跡の地下に響き渡り、その声が消える前に――  
「ッッッ!!!」  
ロディのそれ、も。  
四度目で、そして一番――  
びゅるるるるるるるッ!  
量と粘度の多い、白い液を吐き出した。  
 
「う……ぅん……」  
まだ繋がったまま、ジェーンはくったりと身体を弛緩させた。  
彼女を刺激しないように、そっとロディはペニスを抜く。  
精液と愛液で大分薄まっているものの、そこにはジェーンの純潔の証が絡み付いている。  
「…………」  
しばらく所在なさそうにしてから、とりあえず力を失ったそれをたらりと下げた。  
「あ……ふぅ。気持ちよかった……ありがと、ロディ」  
「…………」  
これにはこくんと頷く。  
「……ん、じゃ、綺麗にしないと……ね……」  
覚束ない足取りで、ジェーンは例の大きなバッグの元へ向かった。  
がさがさとそこを漁ると、中からは別のタオルが出てくる。  
「ホント、準備いいんだから……はい、ロディ」  
ロディにも手渡して、二人で身体を整える。  
それから、乾かしていた服を着込むと、どうにか二人ともに人心地がついた。  
「ふうッ……じゃ、そろそろマクダレン呼ぶわね、ロディ」  
「……?」  
「んっと……これ、発信機が入ってたみたいでね。呼ぼうと思えば、最初から呼べたみたい」  
「ッ!?」  
「ま、まあ、気にしない気にしないッ。ロディ優しいから、もちろん気になんかしないでしょッ?」  
勢いよく言われると、ロディにはこくんと頷くしか選択肢がない。  
 
それから、マクダレンやザックを呼んで、しばらくの時間が出来る。  
その間、二人とも無言だったが、やがてそっとジェーンは口を開いた。  
「……そういえば。最初に、今だけ恋人になって、って――言ったんだよ、ね」  
「…………」  
それが全ての発端でもある。もちろんロディも覚えていたが。  
「そうしたらロディのこと諦めきれるって……そんなこと。だけど、ね……その」  
「?」  
「やっぱりさ……」  
少し顔は俯いて、迷っていたようなのだが、それでもきっぱりとジェーンは顔を上げた。  
「諦めるなんて、無理みたいッ☆」  
「ッ!」  
「うん、でも今日こんなことしたからって、恋人気取るつもりないからッ。セシリアやマリエルに悪い 
もんねッ。  
 だから……これからも、あたしロディのこと諦めないからねッ!」  
彼女はにっこりと笑った。  
「…………」  
反応しようにも、どうにもできない。  
いつもの明るいジェーンが戻ってきて、それが嬉しいつもりもあるにはあったけれど。  
大きくため息をついて――ロディは、深く人生について考え込む羽目になった。  
 
ちなみに。  
「マクダレンッ……今回は良かったけど、あんまり勝手な真似はしないでよねッ」  
「申し訳ございません。お叱りは謹んでお受け致します。無論、このように主人を危機に落としたこと 
は万死に値することも……」  
「ああ、いいからいいからッ。……うまくいったし」  
「それは何よりでございます、お嬢様。そうそう……くだんの財宝も、勿論回収済みでございます。  
 ザック様やセシリア様には、空振りであったとお伝えしておきましたので……」  
「……よしッ。それで帳消しッ」  
初めから、仕組まれていたことであったのは――結局、ロディには気づかれることはなかった。  
 

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