「ま〜りあ〜べる〜」  
奇妙なほどの猫なで声で、青い髪の女性がゴーグルをかけて手に機械を持った少女に話しかける。  
マリアベル、と呼ばれた少女は、ゴーグルをあげてその女性を見る。それから、鬱陶しそうな声で答え 
た。  
「なんじゃ、アナスタシアか」  
「なんじゃってことはないでしょ」  
「見てわからんのか? わらわは今、こうしてゴーレムの整備を行っておる。お主と遊んでおる暇はな 
い」  
実際、マリアベルの前には巨大な機械仕掛けの人型がそびえたっていた。  
バルバトス――魔弾の射手という異名で知られた遠距離砲撃型のゴーレムである。  
こんな高度な機械を整備できるのは、このファルガイアでも一握りしかいない。  
それは種族とも言い換えられるが、その種族は今や一人しか残っていなかった。  
ノーブルレッド。人間を遥かに上回る超技術の所有者であり、謎めいた生態の異能者である。  
このマリアベルは、ノーブルレッド唯一の生き残り。ゴーレムを扱える、たった一人の存在なのだ。  
「そんなの後、後。面白い道具見つけたから、一緒に遊ばない?」  
「……アナスタシア。お主な……」  
マリアベルはくるりと振り向いた。  
青い髪の女性……アナスタシアは、何かを隠し持つように手を背中に回して軽く笑っている。  
「こうして平穏な時こそ、次の戦に備えねばならぬのであろうが。遊ぶなんぞと悠長なことは言ってい 
られぬぞ」  
「でもねえ……」  
アナスタシアは、少しだけ心配そうな顔になる。  
「マリアベル、ちょっと働きすぎじゃない? あいつは……しばらく姿を現してない。  
 前の戦いでの一撃が効いたみたいね……多分、後一週間くらいは出てこないはずよ。  
 だったら、今くらい休んでないと、次にあいつが現れた時にマリアベル倒れちゃうわ」  
「うむう……」  
 
指摘通り、マリアベルはここ数日徹夜で働いていた。  
何故なら――今のファルガイアは、焔の朱に包まれ、明日にも滅びてしまいかねないから。  
焔の災厄……ロードブレイザーが、世界を焼き尽くさんと猛威を振るっているのだ。  
ほとんど全ての人々が諦め、抵抗することさえ忘れてしまった、そんな中で。  
それでも希望を失わず戦い続ける者が、ここに二人いる。  
それがマリアベルと、そしてアナスタシア。災厄以前から友人だった二人は、戦いの中でますますその 
信頼を深めていた。  
 
ロードブレイザーとの戦いは熾烈を極める。  
ノーブルレッドが誇る超科学の産物、戦闘機械ゴーレムも次々に大破、撃滅され、それでいてロードブ 
レイザーには有効打を与えていない。  
それでも、足止めできるだけ通常戦力よりは役に立っているのだから辛い話である。  
マリアベルがこうして徹夜でゴーレムを整備するのも、ロードブレイザーとの戦いを睨んでのことであ 
ろう。  
この戦いに敗れたが最後、ファルガイアから全ての生命が失われてしまうのだ。  
気負うのもまったく無理はない話、ではある。  
「……だからって、マリアベルが倒れちゃったら、どうしようもないわよ?」  
「そりゃ、もっともなんじゃがな……」  
アナスタシアは、そんなマリアベルを心より心配しているらしい。  
事実マリアベルの顔は、元々血の気が薄かったために今ではげっそりと衰えているようにすら見える。  
「さりとて備えを怠る訳にはいかぬ。アナスタシア、お主の心遣いは感謝するがな。  
 わらわは今や唯一のノーブルレッドよ。この星を守るためなら、身の一つや二つ惜しくは――」  
「……私は、マリアベルを失いたくなんかない」  
「……む……」  
アナスタシアは――俯いている。その表情はマリアベルには見えないが。  
 
「私、マリアベルのこと、大好き。例えロードブレイザーを倒しても、マリアベルがいなかったらそん 
な世界望まない……  
 他のみんなだってそう。私は……今のファルガイアが好きだから、戦ってるのに。  
 ねえ、マリアベル……」  
「う、むむむ……」  
「お願い……無理しないで。私も頑張るから……ね、もうちょっと、休んで」  
「お……お主が、そう言うなら、な。仕方あるまいて……」  
やれやれ、とマリアベルは首を振る。顔がほんのり赤いのは……気のせいか。  
ゴーグルを外し、手に持った機械の電源も落として――ノーブルレッドの少女は、思い切り背伸びをし 
た。  
「う……むむ。ふう。やれやれ、やはり細かい作業は目と肩に来るのう」  
「お疲れ様」  
一転して、アナスタシアはぱっと顔を上げてにこにことした笑顔になった。  
「して……そういえばお主」  
そんなアナスタシアの豹変ぶりに少しだけ眉を顰めつつ、マリアベルは言う。  
「面白いものがどうしたとか言っておったの。なんじゃ、それは?」  
「んふふ〜……それなのよ」  
にま〜、と、いたずらっ子のような笑顔でアナスタシアはマリアベルを見た。  
「な、なんなんじゃ」  
「これ……何だと思う?」  
後ろ手に持っていた『面白いもの』を、アナスタシアはさっと差し出す。それは、  
「なッ……なななななななななッ!?」  
「面白いでしょ〜」  
棒状の物体、ではある。その先に向かうにつれて紡錘のように膨らみ、先端は収縮しているが。  
マッチのような形状の、それをもっと随分大きくしたような――  
有体に言ってしまえば、男性器を模した道具であった。  
 
「お、お主なんちゅう代物をッ……な、何が面白いかッ! このバカチンがッ!」  
「そんなに怒らなくても……だいたいこれ、このノーブルレッドのお城から見つけたのよ?」  
「な、なんじゃと?」  
「マリアベルが機械いじりばっかりしてて暇だったから……倉庫漁ってたの。  
 そしたらこんなの見つけちゃってね〜。ノーブルレッドもちゃんとやることやってたんだ〜」  
「こ、高貴なるノーブルレッドはそんな下衆な道具なぞ作りはせぬッ! お、おおかたお主の性質の悪 
いいたずらであろうッ!」  
マリアベルは顔を真っ赤にして反論する。  
まあ、自分の知らない大人のおもちゃが家にあった、などと言われたら当たり前の反応かもしれないが。  
しかし、アナスタシアはちょっと困ったような、それでも悪戯好きな笑顔でそれに答える。  
「でもここに……ほら。『アーミティッジ製作』って掘り込んであるわよ〜?」  
「……ぬなッ!?」  
アーミティッジ。マリアベルの姓もまた、アーミティッジ。  
「……これ、マリアベルの家族か……マリアベルのご先祖様が作ったってことよね?」  
「なッ……そ、それ、はッ……ば、バカなッ……」  
「しかもこれ、すっごい性能らしいのよ。マニュアルも一緒にあったんだけどね。えーと。  
 『基本的に、これは女性が使用する道具である。  
  己のクリトリスの部分に接合部を近づけると、ナノマシンによって擬似的な男性器として機能する 
 ようになる。  
  使用者の遺伝子データを読み取り、精液を分泌することも可能である』……だって。  
 すっごいわねえ、ノーブルレッドの技術って」  
とくとくとアナスタシアは語るが、マリアベルは真っ白になって燃え尽きていた。  
「わ、わらわの父上……母上……ご先祖様……な、なんちゅう代物を……」  
「いいじゃない、面白いんだし〜」  
「……ええいッ! アナスタシア、ただちにそれを渡せッ! 今すぐ処分してくれるわッ!」  
マリアベルの目に光が戻った、と思ったらすぐに処分を要求してきた。  
しかし、やはりアナスタシアはにんまりと笑ってその手を拒む。  
 
「駄目よ〜。勿体無いじゃない。せっかくだし……ね、マリアベル?  
 私とあなたで……使ってみようか?」  
「……はて、耳が遠くなったか? 今お主なんと……」  
改めて、アナスタシアはにっこりと笑った。  
「マリアベルと私で、これ使ってヤってみない?」  
「……えーと、じゃな」  
ノーブルレッドの少女は、額に手をあててじっくりと考え込んだ。  
数分ほど、黙考を続ける。  
その間もアナスタシアはにこにこと笑っていたが、ともかく。  
「……アナスタシア」  
「なぁに?」  
ポシェットをごそごそと漁ると、ノーブルレッドの少女は白い薬草のようなものを取り出す。  
「……ほれ。仙草アルニムじゃ。悪いことは言わぬ……明日までに治しておくのじゃぞ」  
「別に、どこも悪くないわよ? 私」  
「……頭が悪い」  
「むッ……し、失礼ねッ!」  
これには、アナスタシアもむうっと頬を膨らませた。  
「どうして頭が悪いのよッ!」  
「こんな馬鹿げた道具を使うとか言うところに決まってるじゃろッ!」  
「せっかくの貴重な道具でしょッ!」  
「お、お主自分の言うておることを理解しておるのかッ!?」  
「もちろんッ!」  
「う、うむむ……」  
 
この路線ではどうやってもアナスタシアを説得するのは無理と悟って、マリアベルは声を和らげる。  
「……よく考えてみい。わらわとお主は女同士なのじゃぞ」  
「男同士じゃこんなの使えないわよね〜」  
「……そういう問題じゃないわい。そ、そのじゃな、同衾というのは……本来男女の営みで……」  
「遅れてるわね〜。時代はなんでもありよ」  
「お、お主は抵抗ないのかッ! わらわとそのようなッ!」  
「まあ、ちょっとはあるけど……」  
うん、とアナスタシアは軽く考える。  
「でも、それ以上に――マリアベルと『そういうこと』してみたいかな、って気持ちもね」  
「た……たわけッ! わらわはまだこんなに幼いのじゃぞッ!?」  
「かもしれないけど……」  
ふふ、と、後に聖女と呼ばれることになる女性は微笑んだ。  
「マリアベルだって……ホントはそういうのに興味あるんでしょ?  
 なんだかんだ言って、私と猥談すると随分嬉しそうに盛り上がるくせに」  
「ひ、人聞きの悪いことを言うでないわッ!  
 わ、わらわはお主が強引に卑猥な話をするから、仕方なく付きあっとっただけでッ……」  
「嘘は駄目よ? 興味津々なくせに」  
「嘘も何も――」  
言いかけて、マリアベルは、はっ、と息を呑んだ。  
 
「そッ……」  
「そ?」  
「そういう問題ではないわいッ! 危うく誤魔化されるところであったが……  
 問題点を列挙していくぞ? まず、そもそもなんでそんな……睦み合いなどせねばならぬのか。  
 次にお主とわらわは女同士。根本的に道義に反しておる。  
 更にわらわはまだ幼い。そのようなこと、出来るはずもあるまい……」  
「だってやってみたいんだもの」  
「お主は駄々っ子かッ!?」  
「マリアベル……心は大人なんでしょ?」  
「ぬッ……そ、そりゃ、お主らニンゲンに比べればのう」  
「そうよねえ。私よりもうずっと年上だもんね、マリアベル。  
 だったら……肉体的にはともかく、精神的には問題ないでしょ?」  
「そ、それはッ……」  
「肉体的にだって、この道具を使うなら問題なし。  
 これ……マリアベルが付ければいいのよね。マリアベルにこれ使ったら流石にまずいけど、私にだっ 
たら問題ないし」  
「む、ぐッ……」  
たたみかけるように、アナスタシアの反証は続く。  
「何より――私、マリアベルともっと深く仲良くなりたいな、って」  
「深く……って、今でも……」  
「そうだけど……でも、ちょっと、ね……」  
ここにきて、アナスタシアの顔が少しだけ翳った。  
 
「……ロードブレイザーは、強いから……怖いの。本当は戦いたくなんかない……」  
「アナスタシア……」  
「それでも、戦わないと……私の好きな人、世界、みんな無くなっちゃうから……  
 今だって、怖くて逃げ出したいくらい……でも」  
「……むう」  
「マリアベルが……みんながいるから、私戦っていられる。だから……  
 もうちょっと、その私の力の源と、仲良くなってもいいんじゃないかなあって」  
「う……む……」  
「……嫌なら、仕方ないから。マリアベル、怒らせちゃったら……」  
「……ああ、わかったわい……構わぬ」  
「……え?」  
「ヤってもよい、と言うておるのじゃッ! 二度も言わせるでないわッ!」  
顔を真っ赤にしながら、マリアベルははっきりと叫んだ。  
途端、俯いていたアナスタシアの顔がまたぱっと輝き、そのままマリアベルを抱きしめる。  
「ふふッ……ありがと、マリアベルッ!」  
「お、お主……ひょっとして……」  
「これだから、マリアベル大好きよ……」  
「……演技かッ! 全部ッ!」  
マリアベルを抱きしめたまま、アナスタシアはふるふると首を振る。  
「一部本音も混ざってるわよ? んー、でも結構演技入ってたかな……」  
「ひッ……」  
卑怯者ッ――と、マリアベルは叫ぼうとしたのだろう。  
だが。  
「ひきょ……むぅッ」  
「んー」  
その直前に、アナスタシアが唇をマリアベルのそれに重ねていたため、声にはならなかった。  
 
演技にしろ何にしろ、一度言ったことを覆すなどノーブルレッドの誇りを汚す行為。  
というより自棄になっていたのだろう。アナスタシアとヤる、というのを結局拒否はしなかった。  
彼女はいつもの漫画走りで自分の寝室へと向かう。  
「ちょ、ちょっとマリアベル、そんなに急がなくても大丈夫だってば」  
アナスタシアはその少し後を遅れてついていく。  
マリアベルがいくら急いでも足の長さの差で簡単に追いついてしまうのだが、  
ノーブルレッド本人は顔を真っ赤にしたまま無言で走り続ける。  
やがて、城の一段奥まった場所にある、マリアベルの寝室に二人ともたどりつく。  
「ここに来るのも久しぶり――っちゅうのはなんかアレじゃのう」  
「最近、生活リズムメチャクチャだからねえ……」  
「昼夜を問わず暴れまわる災厄めが悪いんじゃ。とはいえ、本来わらわの寝室と言えば棺おけなんじゃ 
がな……まあよいわ」  
部屋の中央には、天蓋付きのひどく豪奢なベッドが置かれている。  
マリアベル一人で眠るにはいかにも広すぎる程で、アナスタシアと二人でそこに並んでもまだまだ余裕 
がある。  
「じゃ、私身体洗ってくるから」  
「うむ……」  
寝室にあつらえられた、簡易浴室にアナスタシアが向かう。  
「……うむう。なんでこんなことになるやら」  
腕組みしてマリアベルが考え込んでいると。  
「ね〜、一緒にお風呂に入らない〜?」  
浴室からそんな声が聞こえてきた。  
「い、一緒って……い、いらんわッ!」  
「女同士じゃないの〜」  
「こッ――これからおかしなことをするというに、そんな余裕などないわッ!」  
「あら、そう? 残念ね〜」  
アナスタシアは、実にのんびりした様子でもある。  
一人で困惑しているマリアベルとはひどく対照的だ。  
「なんでわらわ、あんなのと友人になったのかのう……いや、わかってはおるが……ううむ……」  
うんうん悩み続けて、それでも答えは結局出ることはなかった。  
 
アナスタシアとマリアベル。人間とノーブルレッド。  
その二人は、ベッドの傍でお互い裸身を晒していた。  
「相変わらず、マリアベルったら綺麗な身体してるわねえ……ホント、真っ白。もうちょっと日焼け… 
…するのは無理か」  
「当たり前じゃ。……お主も、まあ、人間にしてはそこそこ綺麗じゃな」  
「ありがと」  
とはいっても、アナスタシアの身体にはあちこちに細かな傷がついている。  
当然の話だ。彼女は、毎日のように戦いを続けているのだから。  
マリアベルだって、それは例外ではない。  
回復の技で、どうにか目立たない程度に癒されてはいるものの、戦いの傷跡は確実に二人に刻まれてい 
る。  
もっともそれを知っていたからこそ、二人とも綺麗だ、と。そう言ったのだろうが。  
「……で、どうするのじゃ?」  
「そうね〜……」  
一瞬だけ考え込んだ後、アナスタシアはその手でマリアベルの身体に触れる。それは、まだ膨らみかけ 
てもいない部分から。  
「マリアベルはまだまだつるぺたよね〜。無理もないんだけど。私は、まあ、そこそこだけどね……」  
ぺたぺたと遠慮なくアナスタシアは撫で回す。  
「つ、つるぺたってな……当たり前じゃろうがッ。まだ幼いんじゃから……」  
あまり愛撫という様子でもない。単に遊んでいるといった感じだが。  
「う〜ん。これからに期待よね……」  
「あと数千年もすればの……それなりにはなるじゃろ。母上から判断するに……」  
「私はそれまでちょっと待てないけどね……ナイスボディなマリアベル見たいんだけどな……」  
それから、マリアベルを横にして股間の部分に目をやる。  
「ああ、やっぱりこっちもまだまだ未発達ね〜。まだつるっつるだし……」  
「……あ、あんまり変なところばっかり見るでないわい」  
「……んー」  
ぺろり、とアナスタシアはそこを舐めてみた。  
「ひぅッ……き、気持ち悪いのう、なんか」  
「うーん。やっぱり早いかな……」  
「じゃから言ったのに……」  
ふう、と二人ともため息をつく。  
 
「……で、こうなる訳か?」  
「だってマリアベルを感じさせるっての無理っぽいんだもの」  
「……なんでわらわがせねばならんのじゃ、こんなこと」  
アナスタシアの股間に顔を埋めて、マリアベルはぶつぶつとぼやいている。  
「だいたい舐めろとかなんとか言われてもさっぱりわからんわい。  
 わらわを何じゃと思っておるのか、このたわけは」  
「マリアベルって愚痴っぽいわね……なら、仕方ないから……ちょっと離れてて?」  
「うむ?」  
アナスタシアは秘所をわざとマリアベルに見せ付けるように、股を開いている。  
随分と大胆な格好ではあるが、もう自棄になっているマリアベルにはどうでもいいようだ。  
もちろん、自分からそうやっているアナスタシアはまったく頓着ないらしいが。  
「自分である程度やって見せるから……」  
「じ、自分で、か……」  
「うん」  
とりあえず、アナスタシアは右手でクリトリスを弄り始めた。  
「うッ……ん……」  
マリアベルはごくんと息を呑む。  
自分で自分のいやらしい場所を弄る親友。  
目をそらそうにも、ちっとも離すことが出来ない。  
「……や、やあねえマリアベル。そんなにじっと見つめてたら……」  
「……えッ」  
「い、いつもよりちょっと感じてきちゃうッ……」  
さら、と、少しだけアナスタシアの秘所から愛液が流れ始めた。  
まだまだ少量なのだが、マリアベルにはなかなか刺激が強い光景でもある。  
 
「ふうッ……」  
今度は、左手の人差し指をその流れ始めた場所にゆっくりと入れてみる。  
「マリアベル……まだ、見てる?」  
「そ、それは……」  
「うん……視線、感じちゃうわね……」  
くちゅりくちゅりと、卑猥な音がマリアベルの耳のも聞こえてくる。  
「な、なんか変な気分になってくるのう……」  
「ふふ、マリアベルも感じてる? んんッ……」  
アナスタシアは、わざと見せ付けるように指の動きを早くした。  
もう一本添える指を増やして、ますます音を高くする。  
「ああッ……マリアベルに見られてると、感じちゃうッ……」  
やや芝居がかった口調なのだが、経験の少ない――いや、皆無のマリアベルには効果十分。  
「な、なんじゃ、この気分……」  
ドキドキと胸は高鳴っている。興奮しているのは確かだ。  
くちゃくちゃと、ますますアナスタシアはいやらしい音を立ててくる。  
「マリアベルッ……ちゃんと見ててッ……」  
「う、うむむむッ……」  
いつしか、マリアベルもまた自分の秘所に手を伸ばしていた。  
まだ幼いはずのそこが、少しだけ柔らかくなっている、ような気がする。  
「……アナスタシア」  
小声で名前を呼ぶと、アナスタシアは小さく微笑んでそれに答えてくる。  
「マリアベルッ……気持ちいいッ……」  
「うッ……」  
ぴりりと、マリアベル自身にも微妙な刺激が走った。  
 
アナスタシアは相変わらず自慰を続けていて、わざとマリアベルに見せ付けるようにぐちゅぐちゅと弄 
っている。  
「マリアベルッ、マリアベルッ」  
艶のかかった声で名前を呼ばれると、ますますマリアベルも妙な気分になってしまう。  
「な、なんか……わらわ、おかしいぞ……」  
「……ふふ。マリアベル、可愛い……」  
少し楽しそうに自分を慰めつつ、困惑しているマリアベルをアナスタシアは優しく見つめている。  
見ていると、恐る恐るといった様子でマリアベルも自分の秘所を弄り始めているのだ。  
「ああ、マリアベルが見てると気持ちいいッ……」  
「へ、変なことを言うでないッ……」  
マリアベルは、入り口のあたりを撫でるだけで身悶えている。  
ちょっと考えて、アナスタシアは優しい声で呟いた。  
「……そこのちょっと上。クリトリスも弄ってみたら?」  
「え、何を……」  
「アドバイス、よ……」  
これまた恐る恐るといった様子で、マリアベルはそっと助言に従ってみる。  
 
軽く、そこに触れた瞬間。  
「ひうぅッ!?」  
「……どう?」  
「な、なんか……き、気持ちいいのかどうかもわからぬ、が……す、凄い……」  
「マリアベルも……案外、大人っぽいじゃない……」  
それから、アナスタシアは変わらずマリアベルを挑発するように自慰を続け。  
マリアベルは、恐る恐る自分を刺激しつづけ。  
くちゅくちゅくちゅ、とお互いの秘所から音が立ち、城の寝室に密かな和音を奏でる。  
「あ、マリアベルッ……」  
「う……アナスタシア……」  
二人ともが、お互いの名前を呼んで。  
「ふうッ……ね、一緒にイきましょッ……」  
「行くってどこに……ふあああッ……」  
アナスタシアが一際激しく指を動かしたのを見て、つられてマリアベルも覚えたての動きを早くする。  
そして――  
「はあッ……ん、いいッ……!」  
「あ、アナスタシア……ッ!」  
アナスタシアは、ぴくぴくと全身を痙攣させて。  
マリアベルは、目をとろんとさせたまま。  
二人ともが、一つの区切りを達成した。  
 
「……はあ、はあ……あ、アナスタシア……」  
「マリアベル……可愛かったわよ……」  
アナスタシアの方から、マリアベルにキスをする。  
舌を絡めての大人のキス、だがマリアベルも素直にそれに応じた。  
「ふふ」  
いとおしそうに、アナスタシアは小さなノーブルレッドを抱きしめる。  
「ふう……おかしい……わらわ……」  
「おかしいってことはないわ……自然なことだもの……って、人間じゃそのくらいの年齢だとちょっと 
不自然よね……  
 ま、まあ、実年齢は私より年上なんだから……やっぱりおかしくないわ」  
「……よくわからぬが」  
まあいいじゃない、とアナスタシアは言いくるめる。  
それから、ベッドの傍においてあった例の道具を手にとった。  
「じゃあ……これ、使ってみる?」  
「う……」  
どうにも、慣れないマリアベルが見るとグロテスクな代物である。  
「でもマリアベルお得よね〜。これ使えば、男の子の快感が味わえるみたいだし……」  
「そ、そうなのか?」  
「女の子のとはまた一味違うって言うしね。いずれ、マリアベルも女の子の方を味わうんだろうし……  
 なかなかいないわよ、そういう人」  
「……どーも、お主の言うておること、どっかおかしい気はするぞ」  
「まあ気にしないで」  
押し切るように、それをマリアベルに近づけていく。  
「う……や、やっぱり、つけねば駄目……か?」  
「だってこれを試すためにこういうことしたんだもの……ここまで来て、ね?」  
「わ……わかったわい……」  
戸惑いながら、アナスタシアから受け取った擬似性器を自分のクリトリスに押し付けてみる。  
「……ん?」  
触れた瞬間、ぴりっとした刺激が走った気がする。が、それだけだ。  
自分にくっついたりといったことは何も起こらない。  
 
「アナスタシア?」  
「ああ、なんかパスコード言わなきゃ駄目らしいのよね。じゃ、ちょっと失礼して……」  
マリアベルの股間につけられている、それに向かって小さくアナスタシアは呟いた。  
「……………………き」  
「え?」  
アナスタシアの呟きが終わった瞬間。  
「う……うあッ!?」  
ぞわり、と。  
クリトリスの周囲に、何かが吸い込まれていくような奇怪な感触が走る。  
「き、気持ち悪ッ……」  
「わあ……」  
あっという間に、マリアベルの股間には立派なものがくっついてしまった。  
「な、なんちゅう代物じゃ、これは……」  
「さすがノーブルレッド……本物そっくりねえ……」  
戸惑うマリアベルには構わず、アナスタシアはそのペニスをぺたぺたと弄り始めた。  
「うわ、生暖かいッ。さっきまで金属っぽく冷たかったのに……」  
「こ、これ」  
変なものを付けられて戸惑うマリアベルに構わず、アナスタシアは少し楽しそうにそれを弄る。  
「大きさは結構なものよね……うーん。このくびれなんかホントによくできてる……」  
「あ、あんまり触ると……くッ」  
「さわり心地は……えッ?」  
ぺたぺたと弄くっていたら、突然マリアベルに生えたペニスがびくんと跳ね上がった。  
直後に、白い液体がそこから発射されてしまう。  
「ほッ……本当に、射精までするんだ……」  
これにはアナスタシアもびっくりしたらしい。  
手にかかった精液をぬぐいもせず、呆然とまだ精を吐こうとしているマリアベルのそれを眺めてしまう。  
 
「う、ううう……ま、また変な気持ちになってしもうた……い、今のは……」  
「今のが射精……男の子の快感ってヤツね……にしても、ちょっと早いわよマリアベル」  
「そういわれても、じゃな……」  
困ったようにマリアベルは頭を掻く。  
「こんなの初めてなんじゃから。加減もなにも出来る訳がなかろうに」  
「それもそうだけど……まあ、いっか。じゃ、本番行ってみる?」  
「本番……というと……」  
「もちろんッ。私とマリアベル、夢の合体、ってやつね」  
露骨な表現に、マリアベルはまた顔を赤くする。  
「お、お主と……」  
「うん。それが最終目的だもん、ね?」  
「……うむむ……」  
この期に及んで、マリアベルは悩んだように頭を抱えた。  
「どうしたの?」  
「や、やっぱり、こういうのは、じゃな……不自然っちゅうか……」  
「……もう。まだそんなこと言って」  
「あ、当たり前じゃろうがッ……」  
「そんなこと言うマリアベルには……」  
にっ、とアナスタシアは不敵に笑う。  
それに一瞬戦慄したマリアベルだが、そんなことはアナスタシアには関係ない。  
すぐに、ベッドの上に無理やり仰向けで寝かされてしまった。  
「こ、これ、何をするつもりじゃ」  
「マリアベルがやってくれないなら……私がやっちゃおうかな」  
「な、何と……ッ!?」  
右手でマリアベルのペニスを掴んで、自分の秘所へと誘導する。  
 
「じゃあマリアベルの大事なもの……頂きますッ」  
「や、やめ――」  
つぷっ。  
わずかに音が響いた、次の瞬間。  
「うッ……うああああッ!?」  
ずん、と、アナスタシアの奥にマリアベルのそれが届いた。  
びゅるるるッ!  
同時に、その先からまた白い液が飛び出してくる。  
「うあッ……ま、マリアベル……また……」  
「ひッ……ひぁッ……」  
中に熱い感触を受けて、アナスタシアが少し呻いた。  
一方のマリアベルは、また声も出せずにあえいでいる。  
 
「やっぱり早すぎるわね……」  
「あ、うあ、あ……」  
胎内にマリアベルの放ったものを感じて、アナスタシアはちょっと困ったように呟く。  
「敏感すぎるのかしら? マリアベル、まだちっちゃいし……って、あれ?」  
ぼやきかけて、ふっとアナスタシアは怪訝そうな表情になる。  
「……まだ、固い……ひょっとして……」  
「……う、う……」  
呆然としているマリアベルは放って置いて、アナスタシアは少し腰を回してみた。  
「ひぁぁッ!」  
それだけでまたマリアベルは悲鳴をあげてしまう。  
が、それには構わずアナスタシアは膣口を締め上げたりもしてみる。  
「ひ、ひうッ……」  
「ちょっと我慢しててね……」  
アナスタシアはマリアベルを責め立てる。  
アナスタシア自身も、少女の身体には不釣合いなサイズのそれに中を揺さぶられて快感があるが、自主 
的な動きはないのでそれ程でもない。  
もっともマリアベルにとってはもう意識も飛びそうなほどの快感で、また。  
びゅるるるるるるッ……  
 
「これで三度目ッ……やっぱり、熱いッ……!」  
「ま、またあッ……あ、アナスタシアッ!!」  
どろどろとアナスタシアの膣内にマリアベルの粘液が流し込まれてしまう。  
「……ふうッ……」  
一息ついたアナスタシアは、改めて胎内の感触を確かめてみて……こくんと一人で頷いた。  
「やっぱり……」  
一方、度重なる快感に目を白黒させているマリアベルに対し、そっと耳元で告げる。  
「大変よ、マリアベル」  
「……う……な、なんじゃ……」  
「あなたのそれ……もう三回も出したのに、全然小さくならないの」  
「……え?」  
「普通、男の子って出したらしばらくは小さくなるのよね。体力ある子にしたって、ある程度時間が経 
たないと回復しないもの。  
 だけど……あなたのそれ、出してもずっと固いまま」  
「ど、どういうことなんじゃ……?」  
「つまりね……」  
何度射精しようが、決して衰えはしない。何故なら、そのペニスは作り物、だから。  
擬似的に身体に接合していようと、作り物であることに変わりはない訳だ。  
「……だから……やろうと思えば、一晩中ヤってることも……」  
「な……なんとッ……」  
あまりのことに、マリアベルは少しめまいを起こす。  
「で、では、どうするのじゃ? 終わらないとは……」  
「まあ、きりのいいところで終わらせるってのが現実的なんでしょうけど……」  
ふむ、とマリアベルは頷く。だが。  
「でもマリアベルちょっと敏感すぎるし……私があんまり気持ちよくなれないのよねえ……  
 いっくら回数があるっても、一回一回がこれじゃあ……」  
「う……す、すまぬ」  
「もうちょっとこらえて、私も気持ちよくして欲しいんだけどなあ……」  
ゆるゆると胎内のマリアベルを締め付けながら、流し目で彼女を見つめる。  
「むう……わ、わかった。どうにか、努力してみる……」  
「頑張って、マリアベル」  
 
「ふッ……くッ……」  
ずちゅっ、ずちゅっ、ずちゅっ。  
ゆっくりと、ではあるが。  
マリアベルは、わずかずつ腰を突き上げていた。  
「うん……いいわよ、マリアベル……」  
あまり相手を刺激しすぎないように、アナスタシアの動きはゆっくりだ。  
それでも敏感過ぎるマリアベルには随分辛いようなのだが。  
「うッ……ま、また出そうに……」  
「あら……じゃあ、ちょっと休憩、ね……」  
一旦、動きを止める。  
アナスタシアはまだまだ余裕があるらしく、わりと平然としているが、下のマリアベルはほとんど限界 
ぎりぎりである。  
荒く息を吐きながら、朦朧とした目で身体の上の友人を眺めている。  
「ううう……どうにもこういうのは慣れんわ……」  
「う〜ん。どうにかならないかしらねえ……」  
考えていたアナスタシアは、ふとマリアベルの顔を見た。  
口がしどけなく開かれて、はあはあと息をついている。  
「……ん?」  
その口の中の、きらりと光る犬歯――人間のそれよりも遥かに鋭く長い――を見て、ふっと思いついた 
ように呟く。  
「……ねえ、マリアベル?」  
「な、なんじゃ……?」  
「あんまり、そこばっかりに意識が集中するから、敏感になっちゃうのよね?」  
「そッ……そう、かのう?」  
「多分それが原因だと思うの。特にノーブルレッドって人間より鋭いところあるし……」  
考え込んだまま、アナスタシアはふっと小さな笑みを口元に浮かべる。  
「つまり、別の部分に意識を集中させればいいってことになるわね」  
「むう」  
「で、別の部分って言うと……」  
そっと指を伸ばし、マリアベルの口元に触れた。  
「ねえ……私の血、吸ってみない?」  
「……何ぃッ!?」  
 
「お主な……どこまで無法なことを言えば気が済むのじゃ」  
「おかしいかな?」  
「おかしいも何もッ……それが何を意味するかわかっておるのかッ!?」  
「いや……ちょっとくらいなら、私がノーブルレッドの眷属になっちゃうようなことはないでしょ?」  
「ま、まあ、そりゃ少しならの。じゃが……」  
「最近栄養不足気味でしょ? 私は――、一応栄養だけならちゃんと取ってるし……」  
「し、しかしな。お主とて前線で戦う戦士じゃろうが。迂闊に血など吸っては……」  
反論を繰り返すマリアベルだが、アナスタシアはめっとでも言うように指を一本彼女の目の前に出した。  
「なッ」  
「お姉さんの言うことは素直に聞くものよ? さっきも言ったけど……マリアベル、最近働きづめなん 
だから。  
 戦ってる時以外はそれなりに休んでいられる私より、下手したら消耗大きいはずよ?」  
「う……むう……」  
「それに、この仮説が正しければ……私も気持ちよくなれそうだしね〜」  
「結局それかい」  
はあ、とため息をつく。やっぱりアナスタシアには敵いそうもない、とある種の悟りのため息か。  
「……うう。わかったわかった。吸えばいいんじゃろ、吸えば」  
「そうそう、素直が一番よッ」  
そう言うが早いか、早速繋がったまま身体を起こしてマリアベルを抱き上げる。  
身長の関係で、首筋にまで牙を届かせるのは少しマリアベルには無理な姿勢になってしまうが。  
「ううむ……誇り高きノーブルレッドの口付けを、こんなところでする羽目になろうとは」  
「こんなところだからいいんじゃない」  
はあ、とまたため息をついて、改めてマリアベルは牙を首筋に這わせた。  
「で、では……本当によいのじゃな?」  
「うん。たっぷり吸ってね?」  
「たっぷり吸ったらややこしい事態になるわい。むう……ええい、もう自棄じゃッ」  
せーの、と小さく呟いて。  
マリアベルは、思い切って――アナスタシアの血管に、その牙を付きたてた。  
 
「痛ッ……」  
ちくりとした感触がアナスタシアの首筋に走った瞬間、マリアベルに据え付けられたペニスがどくんと 
脈打つ。  
「ん、んッ……」  
中で一際大きく震えたように感じられる。  
アナスタシアは、血を吸われるという奇妙な感覚を味わいながらも、膣内での変化もまた感じ取ってい 
た。  
「ま、マリアベルッ……な、なんか急に凄くなったわねッ……」  
慌てて、腰を動かし始めた。  
「んーッ!」  
きゅうきゅうと締め付けられて、中のペニスはぶるぶると震える。  
マリアベルもまた、血を吸いながら夢中で腰を動かし始めた。  
「あ、マリアベルッ……」  
お互い、奇妙な快感に小さな感動さえ覚えてしまう。  
アナスタシアは――  
「や、なんか、変ッ……力が抜けちゃうッ……」  
どくどくと首から生気が失われていく、そんな奇怪な感触と、  
「うあッ……そ、それにちょっと激しッ……」  
急に力強くなったマリアベルの動きが膣壁を擦る感触で、たまらず悲鳴をあげる。  
噛み付いているマリアベルも、言葉こそ出ないが全身をひくひくと痙攣させながらアナスタシアを愛し 
む。  
「ん、んん、んんッ」  
こくこくと生暖かい血潮が喉奥に流し込まれていく。それは、身体の全体が満たされるような美味しさ 
だ。  
同時に、股間に生やされた擬似ペニスも、アナスタシアの肉の味を求めて激しく震える。  
「んんッ……」  
上ではとろとろと血を飲み干し。  
「はあッ……す、凄いわ、マリアベルッ……」  
下では、ぐちゅぐちゅと繋がった場所が音をたてる。  
牙から零れた血がそこに垂れて、少しだけ赤い色が混ざった愛液が流れ出る。  
アナスタシアの膣内は、混乱したように激しく収縮し、中に収めたマリアベルを離さないように締め付 
けを強めた。  
「ひッ……んッ……!」  
その快感を味わって、またマリアベルもびくんと身体を震わせる。  
アナスタシアの血と肉を味わうように、上と下で激しい律動は続く。  
 
「あ、はッ……ま、マリアベルッ……も、もう、もうちょっとでッ……」  
「んッ……」  
アナスタシアの目から、少しだけ涙が零れた。  
悲しみの涙ではない。マリアベルが与え、そして自分から奪われていく血が生み出した、歓喜の涙。  
「ん、んッ……」  
「マリアベル……美味しい? ねえ、私……」  
その問いに、マリアベルは腰の動きと、それからこくんと小さく頷く頭で答える。  
「う、うれしッ……あ、いぃッ……」  
もう、アナスタシアの方にも余裕はない。  
必死でマリアベルの上と下の攻撃に耐え、しかし限界はやがて訪れて。  
「あ、い、いっちゃうッ……マリアベルに吸われながらいっちゃうッ……」  
「んッ……!」  
ぐちゅっ、ぐちゅっ。  
マリアベルもほとんど限界を迎えつつあった。  
満たされていく血の味が、ますますペニスをいきり立たせる、ような気もする。  
「んんんんッ……」  
「……ぁッ……ま、マリアベルッ……もう、もうッ……」  
二人のやりとりはとうとう臨界を越えて、そして。  
「んーーーッ!」  
「うあッ……いッ……気持ちいッ……!」  
びゅるッ……るッ……  
だくだくと、マリアベルの擬似ペニスから、アナスタシアの胎内を埋める白い精が吐き出された。  
同時に、ぴくぴくと膣内も震え、アナスタシアの絶頂の訪れを告げる。  
「んッ……あ……」  
「……ッ」  
ノーブルレッドと人間。二つの種族は、ほとんど同時にその頂へと登りつめた。  
 
「……ふうッ……なんか、病み付きになっちゃいそうねえ」  
マリアベルを抱きしめたまま、アナスタシアはふっと呟く。  
ともあれ、ゆっくりと牙が抜かれる。  
「……ん」  
「う……ちょっと痛いわね……」  
真新しい傷口から、少しだけ血が流れ出てきた。  
その小さな二つの穴を、マリアベルはぺろぺろと舐めてみる。  
「ま、マリアベル……ちょっと、くすぐったいってば……」  
「……せっかくの血じゃ。勿体ないであろう」  
「ちょっとなのに……案外、しっかりしてるわねえ」  
やがて血も止まり、ようやくマリアベルは顔を離した。  
それから、すぐにアナスタシアと繋がっている下の方も引き抜く。  
「あら、せっかちねえ」  
「……も、もう終わったゆえ、構わぬであろうが……」  
冷静になると、余計に気恥ずかしいらしい。  
「ああ、もうッ。とにかく……こんな珍妙な代物、いつまでもぶらさげていたくないわッ。  
 さっさとこれを取り外すぞッ!」  
「そうねー……」  
 
マリアベルは、すぐに手で無理やり外そうとする。  
が、神経部分にまで影響しているためか、そんなことをすると痛みも走ってしまう。  
「うッ……こ、これ、アナスタシア」  
「んー?」  
「ど、どうやって外すんじゃ? これは」  
「ああ、つけた時とおんなじよ。パスコードを言えばいいの」  
「なら、早くせい」  
催促されても、なぜかアナスタシアは動かない。  
「……ど、どうしたんじゃ?」  
「それがね……付けるのは別に他人でもいいんだけど、外すのは本人が言わないと駄目らしいのね」  
「ややっこしいのう」  
「作ったのはあなたの親族でしょ。私に言われても……」  
「むう……まあよい。ならわらわが唱えるだけじゃ。さっさとパスコードとやらを教えぬか」  
その言葉ににんまりと笑うと、そっと耳打ちなどする。  
アナスタシアの言葉を聞いた途端、マリアベルの顔はまたかあっと赤くなった。  
 
「お、お主ッ……」  
「いやあ、見つけた時に設定しろって書いてあったからね。冗談っていうか出来心だったんだけど…… 
あはははは……」  
「……わざとじゃろ。絶対最初からこうするつもりだったんじゃろ。相変わらずお主は……」  
「まあいいじゃない。ほら、早く唱えないと」  
うぐ、と小さく呻いた後、マリアベルは俯きながら小声でその『キーワード』を呟いた。  
「……………………き……」  
しかし、くっついたそれはちっとも外れる気配がない。  
「そんな小さな声じゃ駄目よ。もっと大きくはっきりとッ」  
「う……むむ……」  
にこにこと笑いながら、アナスタシアはじっとマリアベルを見つめている。  
「ええいッ……あ、アナスタシア大好きッ!」  
その言葉が響いた瞬間、また先ほどと同じように股間に奇怪な感触が走る。  
「ぬッ……く……」  
直後には、元通り金属で出来た擬似性器がベッドの上に転がるのみとなった。  
マリアベルの身体には、少しも跡は残っていない。  
それで少しだけほっと息をついた、が。ふと顔をあげるとにんまりと笑みを浮かべるアナスタシアがい 
る。  
「……ふふ〜」  
「お、お主……」  
「私もマリアベルのこと大好き〜」  
「だあッ……いい加減にせんかッ!」  
 
「……あ、なんかちょっとふらっとするわね」  
「ちと、多めに吸ってしまったからのう……眷属にはならぬ量じゃが、貧血にはなるやもしれぬ」  
また二人ともゴーレムの格納庫に戻ってきていたが、仕事をしている様子はない。  
さすがに、あんなことをした直後ではやる気もおきないというものだろう。  
「じゃあ鉄分取ってよく寝ないと……マリアベルはどう? これだけ血吸って、気分良くなった?」  
「それはまあ、な。お主の血はなかなかに美味じゃったし……やや不本意じゃが、大分健康にはなった 
ぞ」  
事実、マリアベルの顔色は先だってと比べて明らかに血色が良くなっている。  
やや顔が赤いのはまた別の理由だろうが、肌もつやつやとなめらかになっているようだ。  
「よかった。それにしても……結構マリアベルも積極的だったわね」  
「……お主の毒気にあてられただけじゃ」  
「毒って……そ、そうかな?」  
「当たり前じゃ。まったくお主と来た日にはつくづく下衆で……」  
「いいじゃないの、ねえ? 私はいんやらしいお姉さんなんだから」  
ちっとも悪びれないアナスタシアに、マリアベルはふうと軽くため息をついたが、すぐに苦笑混じりの 
顔に戻った。  
 
「まあ……それがお主の美徳というか、特徴じゃからのう。口にして詮無きことではあるが……」  
「ならいいでしょ。うん……それにしても、結構疲れちゃったかな……」  
くっと伸びをして、アナスタシアは立ち上がった。  
「じゃあ、私はしばらく休んでくるけど……マリアベルは?」  
「血吸ったからの。むしろ今は健康体じゃ。また整備に汗を流すとするわい」  
「大変ね……それじゃ、頑張ってね」  
ふらっと、やや頼りない足取りでアナスタシアは格納庫を出て行こうとする。  
と、入り口のあたりで、ふっと振り向き、  
「……そのうちもう一回やる?」  
「……やらんわッ!」  
「えー。男の子とはまた色々違って、結構いい感じだったんだけど……」  
「お、お主はッ!」  
「まあ、気が向いたらやりましょうねー」  
「……未来永劫気など向かぬわいッ!」  
残念そうに部屋を出て行った。  
 
もっとも。  
たとえマリアベルの気が向いたとしても、その言葉は果たされることはなかったであろう。  
この日からまもなくのこと。  
アナスタシアはロードブレイザーとの決戦に赴き――そして、二度と帰って来ることはなかった。  
 
 
あれから数百年の時が過ぎて、マリアベルも少しだけ大きくなった。  
ファルガイアという星全体も大きく様変わりしたし、ロードブレイザー以外の恐るべき危機に瀕したり 
もした。  
それでも、まだあの時の忌まわしい――というか、思い出の品は手元に残っている。  
ぼんやりと見つめながら、マリアベルは軽くため息をついた。  
「……ふう。なんじゃろうな。こんな下品な道具はさっさと処分してしまいたいが……」  
何故だろうか。どうしても、捨てる気にはならないのだ。  
「……ま、よいか。どうせもう永久に使わぬとは言え、これとて貴重なノーブルレッドの遺産の一つ。  
 また倉庫にしまっておくかの……」  
誰に言うともなく、マリアベルは一人ごちた。  
「もう一回、か。はて……応じてやるべきだったのかのう……って、そりゃないな。  
 ふむ。それ以前に、まだわらわ女の子の方、とやらを味わっておらんし……あんな思い出ばっかにな 
るのもなんじゃしな。  
 やれやれ、今になってもあやつには敵わんか……」  
少しだけ苦笑した後、機動デバイスであるアカとアオに命じて道具を倉庫に運ばせる。  
多分、もう二度とあの道具を目にすることもないだろう。  
「……さ、休憩は終わりじゃ。ファルガイアの支配者たるわらわには、まだまだやることは無数にある。  
 あまり昔にばかりこだわってもいられまい。  
 だいたい、わらわに色恋沙汰なんぞ似合わんしの。そうであろ? アナスタシア……」  
今でもどこかでファルガイアを見守っているであろう、旧友に呼びかけると――  
もう、世界でただ一人のノーブルレッドは、寝室を後にした。  
 
「……うーん。マリアベルもねえ……」  
それをどことも知れぬ場所に置する記憶の遺跡から眺めながら、腕組みしてアナスタシアはどうも困っ 
たように呟く。  
「可愛いところあるんだから、そんなに捻くれなくてもいいのに。  
 ああ、早くあの子もこう……誰かと一線越えないかしらねえ。すっごい見たいわ……  
 ……どんな顔するのかしら?」  
本人が聞いたら卒倒しそうなことを呟きつつ、アナスタシアもふふっと笑った。  
例え世界さえも分かたれた今でも――色々な意味で、この二人はまだまだ繋がっている、のだろう。 
多分。  
 

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