「ん……っ」  
思わず洩れてしまった自分の声が、まるで自分の声ではないみたいで恥ずかしい。  
慌てて顔を離そうとしたのに、あごをつかまれて逃げられなくなっていた。  
また唇が重なる。  
角度を変えて何度も。  
唇を割って入ってきた舌が熱くて、息苦しくなる。  
「ん、アルノー…」  
「何?」  
必死に彼の胸を押し返していると、ようやく唇を離してくれた。  
アルノーの瞳には余裕の表情。  
ずるいと内心思う。  
「ラクウェル?どうしたんだよ?」  
アルノーは不思議そうな顔をしつつも、また顔を近づけてくる。  
「ちょっと待てッ!」  
ラクウェルは慌てて両手で彼の口を押さえていた。  
「何だよ」  
不機嫌そうなアルノーの声。  
ラクウェルは視線を泳がせつつ、言葉を捜した。  
「おかしく、なるんだ。アルノーのことしか考えられなくなるみたいで……」  
アルノーはずるい。  
慣れないキスに、唇の感触と熱さに、こんなにドキドキしてるのは自分ばかりではないだろうか。  
「こんな時に敵に襲われたらひとたまりもない」  
 
アルノーは何も言わない。  
おそるおそる彼を見ると、目の前のアルノーの顔が、笑いを含んだものになっていた。  
「笑うなッ!」  
恥ずかしいやら悔しいやらでそっぽを向くと、慌てたアルノーが顔の前に回りこんできた。  
「ごめんごめん。笑ってないって!」  
「………」  
アルノーを睨むと、慌てた顔で弁解を始める。  
「いや、ほら、ラクウェルがさ、かわいいなあと思ってただけだって!」  
また歯の浮くようなことを…。  
「ホントだってッ!それに俺だって、こうしてるとラクウェルのことしか考えられなくなるんだぜ?」  
 
急に手を引かれた。  
気がつけば、背にアルノーの手が回っている。  
耳元にアルノーの声。  
「もし敵に襲われたら、俺が盾になってやるよ。そのぐらいは出来ると思う、多分…」  
「それは困る」  
そう呟くと、アルノーが吹き出していた。  
「ま、でも宿屋でそうそう襲われることもないだろ。だからさ」  
 
また、顔を上げさせられる。  
近づいてくるアルノーの顔に、ラクウェルは瞳を閉じた。  
 

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