ハニースデイ近く、ゴブの集落  
ゴブ少年に連れられて、キャロルはそこを訪れた。  
「父ちゃんたち、きっと歓迎してくれるから」  
「父ちゃんたち?」  
「誰がオイラの父ちゃんなのか、はっきしわかんねーんだ」  
 
かつてゴブの住処を、仲間たちと一緒に襲い、多数のゴブを殺した。  
償いに何でもする。殺されてもかまわないと、覚悟してきた。  
キャロルが正直に話すと、ゴブ少年もゴブたちも驚いた。  
 
「そんなもんは、お相子だ。そんでゴブはゴブを殺さねえ。  
 お前が息子の嫁っこなら、おめえもゴブの仲間だ」  
ゴブのボスは、ただそう言って笑った。  
「コイツの母ちゃんには、悪いことしたしな」  
ゴブボスたちは、ヒトに捕まり、薬をもられて、ヒトの娘を犯したという。  
「いっぺん抱いたらゴブでなくとも女房よ。薬のせいにゃしねえ。  
 だがワシらは、孕んだからもう用はないと放り出された。  
 女房がワシらを好いておらんことも、わかっとった。  
 だが、息子は可愛がってもろたらしい」  
ゴブ少年の気立てのよさは、母親の愛あってのことだろう。  
「だが息子もガキのころに引き離されて放り出された。  
 そしてワシらを尋ね当ててくれたんだ。  
 ワシらに想うところがあるのなら、その分ワシの孫を可愛がってくれりゃいい」  
キャロルは泣き出した。  
「オイラの子を産むのは、イヤか?」  
それはイヤではない。そうしたい。  
けれど自分は、子を産めない身体なのだと、泣きじゃくった。  
「あきらめんでいい。あきらめなけりゃ、なんだってできる。  
 母ちゃんが教えてくれた言葉だ。  
 昔母ちゃんが好きだったニンゲンが、よく言ってたらしい。  
 オイラもこの言葉が大好きだ」  
(以上)  
 

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