「ぬぅおおお……我だけが滅びはせぬ、滅びはせぬぞぉ……」  
 カ・ディンギルへと戻る亜空間の中、ジーク・ツヴァイの断末魔が響く。  
 守護獣の巫女とその戦士達の猛攻に、如何なジーク・ツヴァイといえどその膝を折るしかなかった。  
「ファルガイアは、私たちが守り抜きます!」  
 疲労困憊の極みでも、セシリアの声には力が宿っていた。他の者たちも、傷つき疲れ果てながら、瞳の光はいや増しに輝いている。  
「ウォォォォォッ!」  
 ジーク・ツヴァイの絶叫に亜空間がひしゃげ、揺らぎ――戦士達の視界と意識を白く染め上げた。  
 
 かすかなうめきと共に、セシリアは意識を取り戻した。頭を振りながらぼやける視界を整えて。  
「なっ?!」  
 肉の触手に満たされた空間に息を呑む。グロテスクな触手たちの蠢きと、漂う異質な臭気がセシリアの嫌悪を誘う。  
「ここは、一体?!」  
 どう考えてもカ・ディンギルではない。亜空間の崩壊に巻き込まれたら命は無いというのがジークのセリフだが、これは更に常軌を逸していた。  
「クカカカカ……ようやくお目覚めですか」  
 聞こえた声に硬直する。ノロノロと顔を上げれば、そこには白い魔族がいた。魔族四天王が一人にして、悪辣な罠を仕掛ける智謀の将。  
「――アルハザード……。どうして……」  
 カ・ディンギル上層部で、確かに彼は打ち倒したはずだった。なのに、なぜ。  
 セシリアの疑問に、アルハザードは白いフードに本体を隠した姿でまた嗤い。  
「覚えておいでですかな?ダークネスティアによる守護獣の星命ライン寸断作戦」  
 守護獣によって封印されたマルドゥークへの道、カ・ディンギル。その封印を解くために、魔族たちは「涙のかけら」の反存在、ダークネスティアを作り出し、見事作戦を成功させてのけた。  
「あの時、ジークは最大出力での稼動を命じましたが、本来ならそこまでする必要は無いのです」  
 魔族の目的は、ファルガイアを自身の故郷とすること。だが、ジークの支持は、ファルガイアへのダメージを更に大きくする結果を生む。故郷を得るためにマザーに反逆したジークにしてはおかしい。  
「気にかかったので、様子を探ることにしたのですよ。私のコピーを作っておいてね。まさか、ジークがマザーに喰われていたとは想像していませんでしたが」  
 つまり、セシリアたちが倒したのは。  
「まがい物、だったのですね?味方さえも欺いて……」  
 うめくセシリアに、アルハザードは頷いて、更に後を続けた。  
「まあ、嘆くことはありませんよ。アレは私と同じ能力ですので。それはともかく、面白い展開になりましたな」  
 怪訝な顔をするセシリアに構わず、アルハザードは宙を漂いながら、  
「我らはもはやマザーもナイトクォーターズも失い、残るは私と、行方知れずの道化に処刑者のみ。しかしあなた方もすでに戦う余力は無い」  
 その瞬間、セシリアの全身を悪寒が貫き、アルハザードの言葉はそれを加速させた。  
「早急に同胞を増やすにはお仲間を改造すればよし。守護獣の巫女を使えば、守護獣も洗脳、というべきか、ともかくこちらに堕とすことも可能。更にはARM適性のある娘を使えばマザーの複製実験も出来そうですね」  
 言葉と共に、床や壁、天井から伸びた触手がセシリアを絡めとり、宙に浮かべる。触手は全体に粘液に覆われ、気色悪い感覚をセシリアに伝えてきた。  
 
「ひっ!」  
 かすかな悲鳴を上げるセシリアを正面から見据えて、アルハザードは嘲笑を浮かべた。  
「なに、快楽を刺激する香も立ち込めておりますので、しばしすれば恐れも消えましょう。存分にお楽しみください、お仲間と同様にね」  
 言葉と共に、肉の壁が蠢いて隣と繋がり。  
「ヒャアァァァン!」  
「あ、ああっ!」  
 2人の嬌声がセシリアに聞こえた。ジェーンとエマが、やはり触手に絡め取られ、いいように弄ばれていたのだ。  
 大の字のようにされたジェーンは、スカートの裾や胸元、背中の開いた部分から細身の触手が侵入して胸やお腹、太ももの付け根辺りを蠢いているのが、ドレス越しに見える。  
 エマは、航海の安全を祈願する船首の乙女像のように両腕を後ろ手に締め上げられ、軽く仰け反った姿勢で、上半身のジャケットや緑色のインナーを引きちぎられ、巻きついた触手に胸を責められている。  
「ジェーン、エマさん!2人とも、しっかり!」  
 セシリアの呼びかけに、2人はかすかに反応したが、それ以上に触手の動きが激しかった。蠢きが一瞬激しくなるや、2人の口からは快感交じりの悲鳴が上がる。  
 そしてそんなセシリアも触手たちに攻め寄せられる。黒いタイツを引きちぎりながら足を登り、上着を止めている赤い紐の隙間から素肌の胸元に侵攻し、首筋からそっと絡みつき、顔を汚していく。  
 その粘液に含まれた媚薬成分に、セシリアも意識もほどなくキレがなくなっていった。  
「あっ……ふあぁ……」  
 自分の口からこうも容易く艶声が出るとは。  
 そんな羞恥心も効果なく、セシリアの身体からも力は抜け落ちていった。  
 
 エマは、バツイチとはいえ人妻であった女性である。夫とは趣味や性格の不一致などから別れはしたが、夫婦の営みと言うのも実は知っている。  
 だからこそ、か。彼女はこの触手陵辱に真っ先に陥落してしまった。牝としての悦びを刺激され、かつて夫に愛撫され、感じさせられた記憶がフラッシュバック。身体がその快楽に反応し、あとはまっさかさまだ。  
 すでに女陰からは愛液が溢れ出し、じわじわと迫る触手たちを濡らしているし、責められた乳首はピン、と尖り、細い触手の液でテラテラと光っている。  
 逆に、耐性もあったといえる。エマはこの最悪の状況であっても、現状打破のための計算を欠かさなかった。いつかは分からないが、状況が変化したら即対応出来る様に。それがいい女の条件だと彼女は信じていた。  
「ほほう、なかなか粘りますな」  
「っ、若い女3人の姿を見て、平然と、していられるのは、どうなのかしら」  
 アルハザードの声にこれだけ返せるのも、エマの強さと言うべきか。だが、アルハザードにしてみればただ手強いというだけだ。  
「はて、あなた方は魔獣たちの発情期の姿に欲情しますかな?この触手たちは、私がニンゲンを研究して作った代物なので、あなた方を快楽に落とし込むのは当然ですが、私があなた方の痴態に反応するとは思わないでいただきたいですな」  
 そう返されて、エマも黙り込む。歯を食いしばって耐える姿をしばしアルハザードは眺めていたが、やがてふむ、とうなり声を上げた。  
「ARMへの適性や守護獣への干渉力はありませんが、その精神力と強さと知識量はあなどれませんな。では予定通り――」  
 言うや、触手たちの動きが変わる。乳房を締め上げる力が強まり痛みを感じるほどになり、背中は更にきつくそらされ、眼前には触手たちが鎌首をもたげていく。  
「――即席ですが、我らの同胞になっていただきましょう。名前は……メガネ・プロフェッサーでは安直過ぎますかな」  
 センスのないネーミングに、しかしエマは答える余裕はなかった。眼前の触手たちが一瞬膨らんだように思えた次の瞬間、それらは白い液体を放っていた。  
(うそっ、まさか、精液?!)  
 それは当たらずも遠からず。液体で、媚薬効果や意識の鈍化効果を持ち、更にはニンゲンの血液とよく似た性質ゆえに人の身体に染み込み、ジワジワと無機生命体たる魔族へと変貌させる代物。魔銀ミスリル液である。  
 精液と違って受胎能力は無い――魔族を産むのはマザーの特権だ――が、ニンゲンを魔族に変えるその性質をアルハザードは好んでいた。エルミナの亡骸をミスリル液に漬け込んでレディハーケンしたのもいい思い出?だ。  
 その白濁液に顔やメガネを汚され、咄嗟に目を閉じた刹那。エマはその瞳をカッと見開いた。胸元に走った激痛に恐る恐る顔を下ろすと。  
 エマの豊満な胸。その乳首に、触手がつきたてられていた。  
「えっ、ええっ?いや、なに、こんなの?!」  
 頭の片隅にあった逆転の計算式も掻き消えるほどの驚愕に、しかしアルハザードは涼しい声で返す。  
「いえ、体内からミスリルに漬けているだけですが」  
「〜〜〜!」  
 心底からの怯えと痛みに返事も出来ぬうちに、触手たちの動きは激しさを増していく。すでに太ももまで触手の群れに包まれ、まるで食べられたようになっている。その中では触手たちが蠢動し、エマの身体に快楽を与えている。  
 乳首を犯している触手は、細い代物であったが、それが出入りを繰り返すうちに太さと堅さ、熱さを増していく。乳首は大きく広がり、有り得ない感覚にエマの思考は次々と麻痺していく。  
「ひっ、ひあ、ひああっ!」  
 もはや悲鳴なのか呼吸が笛のようになっているのかも分からないエマの声に応えるように眼前の触手も、下半身をむさぼる触手も、乳首を突き続ける触手も動きを激しくして、そして、遂にその瞬間を迎える。  
 昂ぶっていったものがたどり着く頂点。すなわち、絶頂。  
「ひあああああっ!」  
 エマが全身をピンッと硬直させた次の瞬間。ドバアッと擬音が聞こえるほどのミスリル銀が放たれた。  
 それは腰から下をくまなく包み、エマの知的であった表情を白く染め上げ、そしてその乳首からまるで母乳のように吹き上がり、エマの中を侵食していった。  
 脱力したエマに構わず、その触手たちは動きを再開し始めた。エマを、完全な白に――魔族に染め上げるために。  
 
 ジェーンに襲い掛かる触手たちは、ミスリル銀を放つのに溜めが無い。その腕を這い回るたびに、太ももや腰を締めるたびに、胸元を愛撫するたびに。白濁液を少しずつ放ち、ジェーンを染めていく。  
 おかげですでにジェーンの身体は濡れぼそり、オレンジ色の衣装も身体にべったりと張り付いたようになっている。小ぶりな膨らみも、その頂点の勃起が分かるほどだ。  
「くそ、アタシが、こんなことでぇ……」  
 頭の中を焼いていく快感に、孤児院の子供達の、父親の、自分を送り出した老執事の顔を思い出してこらえているが、息は絶え絶えもいいところ、純潔たる膣内からは愛液が染み出し、触手に舐め取られている感触が伝わってくる。  
 情けなさや惨めさに涙が浮かびそうになるが、それも堪える。流せば触手が顔に這いよってくるのは目に見えていた。  
 その顔の前に、アルハザードはゆったりとやってくる。途端にジェーンは強気な表情を取り戻した。せめて屈しないという意思を見せようとして。  
「ふむ、そういえばあなたとは随分と顔を合わせていましたな。その節はどうも」  
「はんっ!ホント、いやらしい、悪巧みをっするわよねっ!」  
 コートセイムの住民に魔獣の種を植え付けておいて、シェルターに篭ったと同時に発芽、周囲の人を襲わせたり、シェルターを無防備にしたりする。アルハザードの策謀でコートセイムの人々が負った傷は、心身ともに深い。  
 聞けば、セントセントールでも似たようなことをしていたという。アルハザードの悪辣さは、ジェーンはある意味身を持って知っていた。  
「なに。私は力に優れるわけではありませんので、こうした悪知恵を働かせねばならないのですよ。クカカカカ」  
 ジェーンの皮肉に平然と返すアルハザードの顔に、ジェーンは唾を飛ばしたが、それは金の仮面に当たるのみ。アルハザードもクカカと嗤うのみだ。  
 だが、それと同時に触手たちが動き出す。ジェーンの身体を一層固定するや、服の下から、服を引きちぎりながら触手が飛び出した。  
「!」  
 あっという間に、ジェーンは白いタイツと手袋しか身につけない裸身と化す。しばしの硬直。そして、  
「キャアアアアア!」  
 顔を羞恥で真っ赤に染めるジェーンの悲鳴。そしてその隙を逃さず、一本の触手がジェーンの股間に狙いを定めた。  
 
「えっ、やあああっ!!!」  
 触手に固められた状態なのに、ジェーンは足をぎゅっと閉ざすことに成功した。粘液に濡れていたのと触手たちの不意をつけたらしい。それを見て、アルハザードが首を傾げる。  
「おや?なにか不都合でも?」  
「あ、あるに決まってるでしょ!その、こういうのは、好きな人と――」  
 触手に捕らえられた状況で言うようなことではない夢物語だが、アルハザードは興味を持ったらしい。更に言ってくる。  
「ふむ?ニンゲンの男女は、男根と女陰を結合させて性交渉すると聞いていますが――尻の穴だったのですか?」  
「って、そっちかーい!いや、て言うか、そこは入れる場所じゃなくて――っ!」  
 より一層ドツボに嵌るジェーンを無視して、アルハザードはため息1つ。  
「腸からミスリル銀を体内に吸収してくれれば魔族化はスピーディなのですがね。なにせあなたにはただの魔族ではなくマザーとなってもらうつもりですので」  
「な、に……を」  
「ARMは我らと酷似した性質を持つ精神感応活性化型金属を用いています。つまりARMの適性が高いものほど、魔族への適性も高いと言えます。あなたはARMを振るえ、しかも成長途上で改造する余地があり、あまつさえ女性です」  
 アルハザードの説明の一方で、再びジェーンを大の字にした触手が、今度はジェーンの顔を狙い始める。  
「高位の魔族とした上でマザーの魔族増殖能力を加え、同胞の生みの親、新たなマザーとなっていただくつもりなのですよ」  
 言葉が終わると共に、呆然としたジェーンの口を太い触手が犯す。それはジェーンの口を蹂躙し、更に進む。  
(うそ、うそ、うそぉっ!)  
 声は出せない。触手はジェーンの喉を犯し、さらに進んでいく。上向いたジェーンの喉は、外から見ても触手の蠢動が見て取れた。  
 やがて触手は、ジェーンの胃袋に到達。そこを一応の最奥部と決めたのか、今度は一気に口元まで引き抜き、休まずにピストン運動を開始した。  
「うー、うごぅ、げほぉ、おごう!」  
 あまりに苛烈な責め立てにジェーンの瞳から涙が溢れるが、触手たちがそれを舐め上げる。ジェーンの顔に向けて触手の群れが並んでいく。  
(あ、あああ……)  
 脳裏に浮かんでいたコートセイムの“家族”の顔が薄れていくほど、触手の動きは激しくジェーンの体内を犯して行く。  
「まあ、貴方からのリクエストもありましたので、まずは、食事同様口からと言うことでいきましょう」  
 アルハザードの無情な宣告と同時、触手たちが動きを止める。それが解放であることをジェーンは直感した。  
 ドブンッ!  
 触手たちが溜めていたミスリル液を解放する。しかも先端からだけではなかった。ジェーンを襲った触手たちは、なんとその全体に放出孔を持ち、そこからも大量の白濁が溢れたのだ。  
 ジェーンの顔も美しい金髪も、細い手足も白く染まる中、ジェーンの腹は淫靡さよりも残酷さを示している。  
 腹がボコリ、と膨らんだのだ。あまりの変化にジェーンの腹に千切れた様な傷が生まれるが、ミスリル銀には治癒効果もあったのか、次第に傷は薄れていく。だが、その腹はスレンダーなジェーンには似つかわしくないぼて腹となった。  
 口からも白濁液をゴボゴボと吐き出しながら、白目を剥いてジェーンは意識を手放した。だが、触手たちは我関せずとばかりにジェーンをいたぶり始めた。  
 
 一糸纏わぬ姿にされて、セシリアは触手に全方位を囲まれた。  
 足を大きく広げられて、M字に開脚させられて、女性の部分が晒されたその姿にセシリアは顔を羞恥でただただ真っ赤にしていた。  
「ああ、なんという――破廉恥な!」  
 吼えるが、触手たちに理解する知能も無ければ理解する道理も無い。吸盤のような触手の先端をセシリアに突き出すと、その胸に食いついた。  
「はああっ?!」  
 セシリアの悲鳴に答えるように、乳房全体をくわえ込んだ触手の口は、その中の無数の繊毛で乳首を弄り、固めて尖らせる。弾力のあるこぶで乳房全体を刺激し、口全体で胸をまさぐり倒す。  
「くはっ、ああん、ふあぁ!――ひゃあんっ!」  
 もう片方、空いた胸には触手が腕のように伸びて、これをこね回す。餅のように柔らかく形を変えられて、セシリアの身体を切ないような感覚が襲う。  
(ああ、ダメ。ここで流されては……)  
 ここで屈したら、これまで戦ってきたことが全て無駄になる。ファルガイアから希望がなくなり、魔族の蹂躙を許すことになるだろう。  
 国としてまとまって行動できるのはセシリアの故郷、アーデルハイドのみ。あとは各地の町や村が連絡も取りあう事もできずに点在している状態。  
 対して魔族は、そもそも世界的には復活が知られていない上に、単独でも町を滅ぼすくらいは出来る。ここで魔族を止められなければ、ファルガイアは魔族の物になってしまう。  
「そんなことは、させませんっ……」  
 なんとか意思を保つが、波のように訪れる快楽がその固い意志をジワジワと崩していく。  
「さて、あなたをどうするか。説明しておきましょうか」  
 
 そんなセシリアを文字通りモルモットと見ながら、アルハザードは悠然と話を始める。  
「どう、とは?」  
「ファルガイアは守護獣によって保たれる世界。守護獣が滅んでは星も滅んでしまいますが、守護獣どもは我らを排斥しようとするのみ。なんとも排他的ですな」  
「あなた、方の、暴虐を見れば、当然、でしょうっ」  
「さて。まあそれはともかく。ようは守護獣をこちら側に引き込めればどうにかなるわけですな。あなた方の持つミーディアムを通して我らの気配を注ぎ込み、守護獣の意識に干渉していけば、いずれ守護獣も我らを受け入れるでしょう」  
「な、何ということを!」  
 セシリアが叫ぶが、アルハザードは意に介さない。  
「反存在を生み出すというのも手ですが、星を支える守護獣の性質が変わりすぎれば、どんな環境変化が起こるか私にも分かりません。なら、単に守護獣に考え方を変えてもらえれば万事収まりますのでね」  
 そう言い放ち、アルハザードは触手に命令を下した。  
「巫女たるあなたを我らの色に染めて、その胎内でミーディアムを汚していただきます。なに、赤子を孕むよりは辛くないでしょう」  
「なぁっ?!」  
 アルハザードの声と同時、触手たちがセシリアの女陰を貫いた。破瓜の鮮血が溢れるが、お構い無しに触手はセシリアの子宮の奥の奥まで貫ききった。  
「いっ、ぎゃあああああ!?」  
 白目を剥いて絶叫するセシリアを完全に無視して、触手は一度入り口まで戻り、再び最奥を突く。セシリアの腰の骨がガツン、ガツンと打ち据えられ、痛みがセシリアを覚醒させ、また失神させる。  
「あっ、はぁぁぁ」  
 やがて、セシリアの口から艶っぽい声が流れ出す。痛みに耐えかねた精神が、逃げ場を求めて意識を飛ばし始めたのだ。  
(だめ、だめ、だめぇ)  
 途切れ途切れな思考で耐えようとするが、身体はすでに肉欲に溺れ始めている。そして、それを察した存在がいた。  
(ラフティーナっ?!)  
 愛の貴種守護獣、ラフティーナは、セシリアの様子を高みから見下ろしていた。  
(違うのですっ!私はまだ屈してなどおりませんっ!だから、どうか見捨てないでくださいっ!)  
 セシリアの懇願に、しかしラフティーナは被りを振った。曰く、もはやセシリアの堕落は避けえぬ運命。そなた共々汚されるわけには行かぬ。  
 それで終わりだった。ラフティーナはいずこかへと去り、セシリアの手元にあったミーディアムはただの石くれと化した。  
「やれやれ、ファルガイアの守護獣たるニンゲンを平然と見捨てるとは……。貴種守護獣も口ほどにもありませんな」  
 ラフティーナが去ったのを感じ取ったアルハザードの揶揄にも、セシリアは抗議することが出来ない。まさしく、こうも容易く去っていくとは、だ。  
「そもそも、愛を司る存在を堕落させてもあまり意味が無いのですがね。星を保つのは、貴種ではない守護獣ですから」  
 アルハザードの声に、セシリアは絶句する。つまり、ラフティーナが去ったのは無意味なことだったということだ。  
「まあ、他の2柱も似たようなものですから、この展開も当然ですかな」  
 その声に、セシリアはようやく、ロディとザックの存在を思い出す。  
 あの2人はどうしているのだろうか。恐らく、こちらと似たような状態だろうが、もしかしたら2人は持ちこたえているかもしれない。それなら、好機を待つことも――!  
 浮かんだ希望を断ち切るように、アルハザードが空間に映像を映し出した。そこには、狂宴の様が映し出されていた。  
 
 左腕のアガートラームを除いて全裸にされたロディは、3人の女性に弄ばれていた。セシリア、ジェーン、エマだ。恐らく、ドッペルゲンガーだろう。  
 そのドッペルゲンガーも全裸である。《セシリア》はロディに馬乗りになり、その男根をくわえ込んでいる。ロディの腰の動きに合わせて《セシリア》は淫靡に舞っていた。  
「ああ、ダメだ。もうっ!」  
 普段あまり声を上げないロディのうめき声と同時に、ロディと《セシリア》の結合部から白い液体が溢れる。  
 その様子を、豊満な胸を背中にあてて胸元を弄る《エマ》が、ロディの顔の辺りに跨り、ロディに自身の秘所を舐め上げさせる《ジェーン》が無表情に見つめている。  
 と、《セシリア》がどいて《ジェーン》がロディの大きな男根をさすり上げ、《エマ》が右腕、《セシリア》が左腕に抱きついて、全身をグラインドさせて更なる快楽をロディに与える。  
 ロディの表情は、襲い掛かる快楽に何とか耐えようとしながらも、溺れていくようだった。  
 一方のザックは、《エマ》を四つんばいにさせ、《セシリア》の秘所を舐めさせながら後ろから突き上げ、《ジェーン》を傍らに立たせて女陰を弄りぬく。  
「く、おお、おぅおおおおっ!」  
 一際強く腰を打ち付けるや、《エマ》の女陰から精液が溢れ、《エマ》が力を無くすや《セシリア》をそばに寄らせてその秘所を貫いていく。  
 そこには、復讐に燃え、護るものを見出し、勇気の貴種守護獣に選ばれた剣士はおらず。ただ性欲に溺れた牡がいるだけだった。  
 
 その様子を、セシリアも、ジェーンも、エマも、虚脱した視線で見ていた。  
 特にセシリアは疲れきったというだけでなく、2人から貴種守護獣の気配が無くなっていることを感じ取り絶望していた。  
 あれほどこちらを試しておきながら、いざ自分達の存在を汚されるとなれば立ち向かうでも助けるでもなく見捨てるのが、貴種守護獣の姿か。  
 もはや全てに失望したセシリアたちに、更に触手が群がるが、もはや抵抗も何も無く、3人はその耳から触手を差し込まれる。  
「え……なにを……?」  
 迷子の子供のように尋ねるセシリアに、アルハザードは、  
「なに。お三方の快感をつなげて差し上げますよ。自我があっさり呑まれるように」  
 途端に、乳房の中を犯されるエマの、腹の中まで貫かれたジェーンの、子宮の奥まで蹂躙されたセシリアの快感が一挙に共有される。それはもはや、性感による蹂躙にして陵辱。  
「「「ひっぎゃああああああぁぁぁぁぁぁっ!!!」」」  
 3人の悲鳴が、肉の部屋に満ち溢れた。  
 
 あれからどれだけたったのか。そんなことはもうセシリアたちにはどうでもよかった。  
「クカカカ。改造の方もこれで完了ですな」  
 アルハザードの声に視線を向ければ、ロディ、ザック、エマがそこにいる。ただし、瞳に光は無く、その全身は金属や鎧と同化したようになっている。彼らはすでに意思無き魔族の尖兵と化している。  
「まあ、攻め込むのは戦力が充実してから。ニンゲンで色々と実験もしたいですし、施設の用意も必要ですな。あとはエルゥ界ですか」  
 豊かな自然のあるエルゥ界。故郷とするなら、その世界もファルガイアに再融合させておきたい。魔族の戦闘意欲はそこにあるというABYSSで満たせるか。  
 ABYSSでの戦いは、ファルガイアでニンゲンを嬲るより愉しむ者も多かろう。  
「さて、具合はいかがですかな、マザー・ジェーン」  
 呼ばれるも、ジェーンは直接には答えられない。  
「ああん、もう、来ちゃう、また、産まれるぅ!」  
 悦楽に狂った表情で、ジェーンは大きく膨れた腹を支える。そこから、胎内にいた魔族の赤子が這い出てきた。  
「ヒャアン!」  
 スイッチが切れたように脱力するジェーンから、その魔族の赤子は出てくると、すぐさまジェーンの胸に吸い付いた。  
 相応に大きくなったその乳房からは、母乳が滴り、赤子の栄養となり、その成長を促す。その赤子は、ロディに少し似ていた。  
「ふふ、あのホムンクルスに純潔を奪わせたのは正解でしたな。もはや枷も取り外されましたか。その調子で頼みますよ」  
 既にジェーンは5体以上の魔族を産んでいる。元のマザーのように無制限に増やすことは出来ないが、ロディ、ザック、ベルセルク、ジークフリードの生体データを流し込めば、それに応じて赤子が生まれてくる。  
「さて、巫女の方も進みは悪くないですな」  
「はひ……」  
 虚ろに答えて、自身の腹を見る。  
 へその辺りに突き立てられた触手から注ぎ込まれる魔族因子は、魔族の性質を持つセシリアの胎内に入れられたミーディアムを侵食していく。それは守護獣に及び、やがて守護獣は魔族をニンゲンと同様、守護する存在と認識していく。  
 その度に守護獣の悲鳴がセシリアの脳裏を焼くが、守護獣を信じきれなくなったセシリアは応えず、やがて守護獣の悲鳴も歓喜に変わっていく。すでに四大守護獣は洗脳済み、あとは他の守護獣を犯していけばいい。  
 やがて数をそろえた魔族は守護獣の加護を受けながら、ニンゲンを制圧し、ファルガイアを新たな故郷としていくだろう。  
「クカカカ……。ファルガイアの覇権などどうでもいい私が、ファルガイアを魔族の母星とするとは。皮肉だと思いませんか、ジーク?」  
 応えるもののない呟きをはきながら、アルハザードは自身の実験室へ向かう。  
 改造した植物に陵辱させているエルゥの少女、マリエルの嬌声が、かすかに聞こえてきていた。  
 
 

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