「やめろ! やめてくれぇ! ぐふっ」  
 アルノーの叫びは、固い安全靴の一蹴りで遮られた。  
 屈強な軍人が、アルノーの両手両足を締め上げ、身動きが取れない。  
 向かいに立つ軍人は、アルノーを見下ろして嗤う。  
「ゆっくり見てな」  
 向こうでは、ケモノじみた顔をした複数の軍人たちが、ラクウェルの服を乱暴に剥ぎ取っていく。  
 かつてアルノーたちが、煮え湯を飲ませた男たちだ。  
 男たちは裸体となったラクウェルが、女らしい特徴に乏しいことをあざ笑う。  
 だが、男たちのケモノじみた欲求を、そのままラクウェルに注ぎ込みはじめた。  
 
 ジュードたちと別れて数週間。ラクウェルの体調は、急激に悪くなっていた。  
 男たちを退けられぬほどに。  
 そんなラクウェルを護ると誓ったアルノーは、自分の非力を痛感した。  
 
 男たちが去ってしまうと、アルノーは意識のないラクウェルをベッドへ運び、ぬれタオルで精液まみれの身体をぬぐった。  
 その途中、ラクウェルは意識を取り戻した。  
「情けない顔をするな」  
 そしてアルノーを求めた。  
「抱いてくれ。この傷つき壊れ汚れた身体でよければ」  
「そんなこと言うなよ」  
 アルノーは、ラクウェルを全身全霊の優しさをこめて、そっと抱いた。  
 
 数週間後、ラクウェルが妊娠していることが、判明した。  
 まだ堕胎も可能であったし、ラクウェルの体力だけを考えても、その方が妥当だった。  
 命を縮め、母子共倒れになるだけだと、医者はいった。  
 だがラクウェルは、産むことを望んだ。  
「アルノー。お前の子だ。間違いない。私にはわかる」  
 そして二人は、それを信じた。  
 

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