それは、カノンがまだ半ばは生身であったころの話。
身体を損なうたびに義体へと置き換えていくその途中の話。
血と脂と鉄と油の混じり合う臭いの充満した薄暗い場所に彼女はいた。
「その箇所の機能は損なわれておらんが、捨てる気かね?」
「このようなもの邪魔なばかりだ。月ごとに血を流し足を引っ張る」
「聖女の血を引く子を産むための器官が邪魔かね?」
カノンは不機嫌を露にする。
「聖女の血を引く子どもなら本家が産むさ」
「ならばいつも通り服を脱いで寝台に横たわれ」
血の染みついた寝台に大の字に横たわる。
太い皮のベルトが身体を寝台に縫い付ける。
もちろん今のカノンが本気を出せば、そのベルトなど引きちぎれてしまうが。
やがて男の指が、カノンの敏感な部分を這い回りはじめた。
「何をしている」
「ここを捨てたいのだろう?」
「余計なことをするな」
「触診だ」
指が内側にまで差し込まれる。
「あまり使われていない」
「うるさい」
「まもなく生理だな」
「どうでもいいだろう」
「いやよくない。必要なことだ」
無遠慮にうごめく指に、カノンは顔をしかめる。
「濡れてきた。ここは男を欲しがっている」
しかめた顔に紅が差す。
「それが必要なことか!」
男は手を止め、
「損なわれてもいない器官を捨てる俺の身にもなれ。主義に反する」
やがて男はカノンに薬を盛り、生身を眠らせ義体を停止させる。
カノンの丘をやさしく撫でながら、男はつぶやく。
「どこも損なわれてはいないのにな」
男は大勢を診てきた。
手足を失った者、はらわたをえぐられた者。
ここには望まぬ子を宿した程度の者が、来ることはない。
だが乱暴者たちにそこを修復不能な程壊された者なら幾度か診た。
そうなると、もはや子を宿す以前に、女を売って食いつなぐこともできなくなる。
「最後に俺が使ってやろう」
男は自らのそそり立った肉某を、念入りにカノンのそこに突き立てた。