ネガ・ファルガイアの脅威から、ファルガイアが救われて数日が経過した。  
一度は滅びを迎えた世界も、ヴァージニア・マックスウェルらの働きにより免れ、今はこうして平穏を 
保っている。  
人々の多くはそんなことがあったとさえ気づかず、変わらない毎日を送っている。  
中には少々変わった体験をする者もいたようだが――希少なのは確かであろう。  
 
パスカーの民の生活は規則正しく、就寝時間も早い。  
神官候補ともなれば、日々の修行とも兼ねあって早寝早起きが原則となる。  
渡り鳥として世界を旅しているギャロウズはともかく、パスカーにあって修行を続けるシェーンはそれ 
を忠実に実行していた。  
世界が救われようと変わらない営みだが、かえってそれこそが平和を示しているのかもしれない。  
ともあれその日も規則正しく眠りについて、夢の中へと入った矢先に――それは起こった。  
 
「この、感触……」  
夢の中にいるという自覚がある。  
明晰夢などとも呼ばれる現象なのだが、シェーンにとって今の事態はそれとも違うと確信できた。  
「……これは、やっぱり……」  
なんとも言えない、ふわふわとしたようなこの感覚は、少し前までは慣れ親しんでいたもの。  
『夢見』。夢の中で神秘の存在と接触し、未来のビジョンを授けてもらう。  
もっとも、シェーンが信頼していた相手は実は夢魔で、都合のよいように利用されていただけだったの 
だが。  
その夢魔も、彼の兄と仲間達によって滅ぼされた、はずである。  
だが、今の感覚は。  
「まさか――」  
慌てて、周りを見渡す。『夢見』ならば、すぐにでも『夢の中の君』――夢魔ベアトリーチェが出現す 
るはずだ。  
――果たして、すぐ近くに彼女はいた。もっとも、  
「……えッ!?」  
その姿にシェーンが驚いたのも無理はない。  
いつもの黒いワンピースではなく、ドレス姿だ。いや、服装どころか、身体そのものまで構成を変えて 
いる。  
紫の肌に、グロテスクな爪。右目の眼窩は虚ろに落ち窪んでいて、中にはぼんやりと黄色く輝く光が見 
える。  
夢の中の君どころか、まさしく『夢魔』そのものといった姿なのだ。  
そして。  
 
「傷だらけじゃないですか……」  
一番シェーンが驚いたのは、そんな彼女がぼろぼろに傷ついていたことだった。  
身につけたドレスも、薔薇の飾りは剥がれ落ちて、布地もあちこちが擦り切れてしまっている。  
肌のあちこちも傷つき、血まで流れ出しているようなのだ。  
「……くッ。シェーン……貴方の夢の中だったなんて、ね……」  
苦しそうに身体を抑えながら、彼女はシェーンをにらむ。  
「な、なんで、貴方が……」  
「辛うじて消滅は免れたけれど……逃げ延びた先がここだなんて。  
 ……くす。最後まで、本当についてないわね……」  
自嘲の笑みを浮かべて、ベアトリーチェは立ち上がった。  
「……さあ、とどめをさしなさいな。もう逃げる余力さえもない。  
 貴方にとってわたしは憎い敵でしょう? くすくす……」  
そう言って、また薄く笑う彼女の姿に――シェーンは、ひどく虚しさを感じていた。  
「確かに、貴方は僕を利用して……大変なことをしたんです、よね……」  
「そう……夢の中の君なんて嘘っぱち。もうとっくに気づいていると思ったのだけどね?  
 生かしておくつもりなど無いのでしょう? なら、一思いに消滅させて欲しいものね」  
「貴方は……」  
悩みながらも、シェーンはきっとした顔で彼女を見つめる。  
「貴方は、死にたいんですか?」  
「……そうね。どうせ、わたしの夢が叶えられることなどないのだから……こんな世界にもう、未練は 
ないわ」  
ベアトリーチェは自嘲気味に笑う。  
「だったら――」  
「……ええ。好きにしなさい」  
夢魔は目を閉じると、ふうと息をついた。  
(そう。虜の手にかかって消滅するのも一興……か)  
散々利用してきた相手に消される。いかにも、魔族には――自分には、相応しい末路だ。  
シェーンとて神官としての修行を積み、瀕死の夢魔一人を葬る力くらいは身につけているはずである。  
 
少年が両手を前にかざし、意識を集中するのを薄目を開けて見ると、ベアトリーチェはくすりと笑った。  
さて、どんな力で消されるものだろうか。ガーディアンはあらゆる存在に宿り、神官はその力を行使で 
きる。  
消滅の寸前まで苦しめられるかもしれないし、一瞬で消滅するかもしれない。それはシェーンの思うが 
ままだ。  
そうして、覚悟を決めて、その時を待っていたベアトリーチェに。  
「……ファーストエイド」  
シェーンの両の手から、解き放たれた力は――  
「え……?」  
暖かく身体を包み込み、あちこち壊れていた彼女の身体を、実にゆっくりと癒していく。  
生命のガーディアン、オードリュークの手になる技。ファーストエイド――文字通りの応急処置、だ。  
「これは……どういうこと?」  
「そんなに回復した訳ではありませんけど、すぐに消滅してしまうことはないはずです」  
「そうじゃない……貴方、わたしを回復させたのよ? それが、どういうことなのか――」  
「分かってます。貴方が世界を破滅に追いやった張本人だってことも。でも」  
生真面目な表情で、シェーンは夢魔を見つめる。  
「蒼の脅威にしても――僕に助言を下さり、そして彼らの野望を阻止できたのは、紛れもなく貴方の助 
けによるものです」  
「……それは、彼らがわたしにとっても邪魔だっただけのこと。感謝される謂れなどないはず――」  
「それでも貴方のお陰でファルガイアは助かったと言ってもいいはずです。ヴァージニアさんや兄上を 
一つにまとめたんですから」  
「貴方は……」  
彼女にとって、預言者、そしてジークフリードは極めて厄介な存在であった。  
彼らを野放しにしていては、彼女の夢も阻害されてしまう。だから、それを打倒する為にヴァージニア 
らを利用したのだ。  
その点を考えれば、確かに『ファルガイアを救った』と言えなくもないが。  
「それにッ。貴方自身の野望を打ち砕いたのもヴァージニアさん達なら、  
 全ての危機は貴方の手によって救われたと考えてもいいはずですッ」  
「……それは――皮肉かしら?」  
面白くもなさそうに、ベアトリーチェは呟く。  
これもまた事実ではある。利用する為の存在だったヴァージニアらは、彼女に挑んできて――  
利用するどころか、こうして全てを打ち砕かれてしまったのだから。  
 
「わたしにしてみれば笑えもしない悪夢よ。そんなことを言われてもね……」  
シェーンの言葉に対して、呆れながらベアトリーチェは返した。  
「少なくとも、僕はそう思っていますから……貴方には、そんなに簡単に死んでほしくはありません」  
対するシェーンもよく言うものである。以前の彼と違って、兄やその仲間の影響を受けているのかもし 
れない。  
「……なら、いいわ。わたしを生かしておいて、それでどうするの?  
 わたしを捕らえ、従えさせるつもり? 馬鹿げた話ね。ニンゲン如きがわたしを使役しようなどと、 
思いあがりもはなはだしい……  
 そんなことをされるくらいなら、わたしは自分で自分を消去させてもらうから」  
「そうではなくて……生きて、罪滅ぼしをすることだって出来るでしょう?」  
「――罪滅ぼし?」  
この言葉には、ベアトリーチェも少しだけきょとんとする。  
「ファルガイアはこれからまだまだ大変な時期を迎えるはずです。  
 そんな時に、僕や兄上のようなガーディアンの神官は大事な役目を背負っていくでしょう。  
 だから、その助けを……貴方にしてほしいんです。  
 ファルガイアを滅ぼそうとした罪があるのなら、ファルガイアを救うことで罪滅ぼしになるはずですッ!」  
一瞬、夢魔は理解できなかったらしい。彼女にはあるまじきことだが、ぽかんと口を開けてしまう。  
 
それでもデジタルな彼女の思考はすぐに理性を取り戻し、シェーンの言葉を理解して――かえって、言 
葉を失った。  
「……ば……馬鹿、な……」  
魔族に助けを求めるニンゲンなど、聞いたこともない。――いや、預言者はニンゲンだったが。彼らは 
例外として。  
しかもシェーンは彼女が騙してきた相手――どう考えても、こんな無茶な話はない。  
「……そんな下らないことをわたしが信じると、本気で思ってるの?」  
「はいッ」  
「……どこまでもお人よしね。シェーン……所詮ニンゲンも魔族も、他人を利用することしか考えてい 
ないのよ?  
 例えば、そう――仮に貴方の言うことが本当だとして。わたしが貴方に従ったとするわ。  
 そこで、わたしが貴方を裏切って、またファルガイアの想い出を奪ったら――貴方はどうするのかし 
ら」  
「……それは」  
「信じられるはずがない。だから、わたしだってそうよ。  
 貴方がわたしを騙して、利用しようとしていると――そう思うのが自然でしょう?  
 だからね、シェーン。本気でも嘘でも、わたしはそんなことに従うはずが――」  
 
「……僕は貴方を信じたいです」  
「――え?」  
「確かに、僕は貴方に騙されて、夢見をやっていたのかもしれません。  
 だけど、最後の一つを除けば、その結果は何時だって正しかったはずですッ。  
 それなら、確率から考えても信じて問題ないはず――」  
「それは……」  
何故だろうか。ベアトリーチェは、半ば意地になってでもシェーンの言葉を否定しようとしている。  
素直に従ったふりをして、自分の言葉通り後で裏切ってもよさそうなものなのに。  
「……それは、わたしと貴方達ニンゲンの利害がたまたま一致していただけのこと。  
 信じるなんて、そんなこと……下らない感傷に過ぎないじゃない……」  
「僕は信じたいんです……あの夢の中の君――いえ、ベアトリーチェさん……貴方を。  
 いつも夢に出てくる貴方はどこか寂しそうで、僕は助けてもらうばかりでは嫌でしたから……」  
「……演技よ。そう思わせて、貴方を騙す為の」  
「だったら、僕は喜んで騙されますッ!」  
シェーンの言葉を聞くうちに、彼女は。  
本当に何故だろうか――自分の思考ルーチンに強い負荷がかかっていることを感じていた。  
信頼などという言葉は、はるか昔に削除した部分だというのに。  
夢魔という存在は、魔族の中でも一段低級であったから。削除されない為に、他人を利用するしかなか 
ったのだ。  
「……シェーン、貴方は……」  
素直に彼の言葉に乗って、この場を切り抜けてしまえばいいのだ。後でなんとでも誤魔化せる。  
今まで散々に人を利用し、欺いてきた彼女の思考は、はっきりとそう告げている。  
それなのに、廃棄したデータの奥深くから想定外のエラーがもたらされているようで。  
「ですから、ベアトリーチェさんも……僕を信じて、助けてください……ッ」  
「……でも、それは……わたしは、だけど……」  
発生した自己矛盾に、ベアトリーチェの言葉が迷う。  
 
「――その傷」  
「……え?」  
ファーストエイドで少しは回復したものの、まだベアトリーチェの身体にはひどい傷が残っている。  
「まだ、痛むはずですよね。なら、僕がせめて……」  
「何を……シェーン、貴方……」  
そっと彼女の元に近づくと、シェーンはまず夢魔の右の手を取る。  
そのまま顔を近づけて――親指の先を、口に含んだ。  
「ッ!?」  
今の彼女は、戦う為の姿。夢魔として、人とかけ離れた姿をしている。  
肌の色や落ち窪んだ右目もそうだが、何よりおぞましく見えるのはその両の手。  
全体としては小柄な少女なのに、手だけはグロテスクに大きく爪も尖っている。  
そんな怪物そのものの手だというのに、シェーンはこうして爪の付け根あたりを口にしているのだ。  
「あ、貴方ッ……な、何をしてッ……!?」  
狼狽するベアトリーチェをよそに、神官候補の少年は舌先を彼女の指に這わせる。  
ぺろぺろと、飴でも舐めるかのように。夢魔の指は彼の唾液で濡れていく。  
「や、やめなさいッ。何のつもりか知らないけれど、こんな馬鹿げたことをして……」  
唐突に指を舐められる。意味が理解できなくて、彼女らしくもない困った声をあげた。  
すると、シェーンはふっと口を離し、にっこりとした顔を向ける。  
「傷がついたら、舐めておけば治るって。兄上から教わりました」  
「それは――そういう意味じゃなくて……あ」  
一方的に言うだけ言って、彼はまたベアトリーチェの指を口に含んだ。  
ぺろぺろと舌を動かして、親指全体に唾液をまぶす。  
「んッ……それは確かに唾液には消毒成分もあるけれど、こういう時にすることでは……くッ……」  
無理やり振り払えないこともないのだが、それをするのはどうも躊躇われる。  
困惑したまま、シェーンの舌が指を濡らすのを眺めている――と。  
「やッ……シェーン、貴方ッ……」  
触れるもの全てを引き裂くような今の彼女の手でも、指先は鋭敏なのは普通の人間と変わりない。  
そんな場所を舐められると、なんとも言えない気分になってしまう。  
 
親指全体を舐めると、ようやくシェーンは口を離した――が。  
「ふぅッ……」  
「じゃあ、続いていきますね」  
「……なッ……い、いや、そんなことはしなくても――ん……」  
すぐに、人差し指を口にしてしまう。  
「だ、だから……シェーン、舐めても傷が癒される訳ではないの……」  
厳しく咎めることも出来ず、やんわりとした注意になってしまって――やはり、シェーンはやめようと 
はしない。  
結局、ベアトリーチェは戸惑ったままで、自身の指を咥える少年を見つめるしかない。  
 
親指、人差し指。それだけではなく、右手全ての指を舐められて、ようやくシェーンの舌から解放され 
た。  
ずっと困惑したまま見つめていたベアトリーチェは、少しだけ呼吸が荒くなっている。  
「……どう、ですか?」  
小指から口を離した少年が、そんな彼女を見つめて言う。  
「ん、ふぅ……ん。何度も言ったのに……」  
「はい?」  
「……そもそも」  
紫色の肌だけに、あまり目立たないのだが――少しだけ、ベアトリーチェの顔は赤くなっているようだ。  
「手の先なんて、そんなに傷ついてはいない。舐めたって、わたしが癒されるはずがないじゃない……」  
「あ……ごめんなさい」  
「……それ以前に、舐めたから治るというものでもないと、何度言えば――」  
「だったら、この辺を舐めます」  
言葉を途中で遮って、シェーンは彼女の首筋に顔を寄せた。  
「え……?」  
夢魔は目を見開いて――咄嗟にどうすることとも出来ず、彼の行動を許してしまう。  
「ん……」  
固まってしまったベアトリーチェの首筋に。少年は、そっと舌を這わせた。  
 
「――ひぅッ」  
びくりと身体が震える。首筋は、なんといっても敏感な場所だ。  
それに構わず、シェーンは舌を動かし、首の周りから肩にまで舐めていく。  
「や、シェーン、貴方ッ……んぁッ……」  
これには流石に夢魔も動揺して、慌てて手をシェーンに近づける。  
鈍く光る爪が伸びて、これを振るえば傷ついた今の自分でも少年一人を切り裂くのは可能なはず。  
――だが、爪を突き立てようとしても。何故だかその手は寸前で止まり。  
「……あ、んッ」  
首筋から、肩の近くまで舐められる感触に、力がずるずると抜けていく。  
「シェーン……ん……」  
代わって、両手を彼の背中に回し。  
ぎゅ、と――  
すがりつくように、強く抱きしめる。  
「あ、え……は、はいッ……」  
それに応えるように、シェーンも舌に力を込める。  
肩にかかる髪を払って、その傷ついた肌を舐め――  
舌は首筋に戻ると、更に上って夢魔の顔に辿り着く。そして。  
「……んッ」  
シェーンの舌――そして唇とベアトリーチェの唇が、不意に重なる。  
暖かい少年の唇に、少しだけ彼女の目もとろんとする。  
「む……んッ」  
肌を舐めていた時と同様、シェーンの舌はベアトリーチェの唇をも舐める。  
しっとりとした舌を感じて、更に夢魔の瞳から険しさが消えていく――直前に。  
「……ッ!」  
ひどく慌てた様子で、身体ごと相手を振りほどき、背中に回した手もほどいて後ろに下がってしまう。  
「わ、わたしは何をッ……く……」  
一方のシェーンは、残念そうな瞳でベアトリーチェを見つめた。  
 
「シェーンッ……あ、貴方、自分が何をしたのかわかっているの?」  
「ですから、その傷を少しでも癒せたら、と」  
「……だったら」  
片手でシェーンを制すると、ベアトリーチェは軽く指を鳴らす。  
――と、その身に纏うドレスが消えて、紫色の裸体が曝け出された。  
「あ……」  
一瞬少年は目を背けようとしたが、しかしなんとか踏みとどまる。  
そんなシェーンにくすりと笑うと、また薄く笑いながらベアトリーチェは口を開いた。  
「ほら、わたしのこの姿――魔族の姿。ニンゲンなどとは程遠いでしょう?  
 肌の色も何もかも……これを見て、それでも癒すなんて下らないことを言うつもり?」  
「……それは……」  
確かに、シェーンの視線はさ迷って、ベアトリーチェの身体を見られなくなっている。  
「見たくもないでしょう? こんなバケモノの姿はね。  
 事実貴方はそうやって、わたしを見ようともしていない……」  
「ち、違いますッ」  
「違わないでしょう。魔族とニンゲンは相容れないのだから、そんなこと――」  
「ぼ、僕はッ!」  
その言葉には、少年も強く言葉を返した。  
「あ、貴方の……そんな、裸なんて、その……き、綺麗で……その……」  
「……綺麗」  
「い、いやらしい目で見てしまいそうで、だから……」  
「……シェーン、貴方……本気で言っているの?」  
「は、はい」  
しばらく、ベアトリーチェは考え込む。  
シェーンが純情なのは分かっているのだが、それにしても今の自分はどう見ても怪物の姿だ。  
悪夢を見せる為の姿なのに、綺麗と言われても――対処に困る。  
いやらしい目で見るも何も、怖がってもらうのが本来なのだが。  
――と、そこで。ふと彼女はある『嫌がらせ』を思いついた。  
 
「それなら、シェーン――わたしを癒すと言ったわね?」  
「……ええ」  
「……わたしはね、データによって形作られた存在。言ってみれば想い出によって生きているの。  
 つまりわたしのダメージとは、データの欠損に他ならない……  
 さて、それならどうやればデータ欠損を補えると思う?」  
「す、すみません……あの、僕、あまりロストテクノロジーは詳しくなくって……」  
くす、と夢魔は笑う。  
「……ニンゲンのデータを貰って、それを改変して……そうすれば、わたしを修復できるかもしれない。  
 だからね、貴方が本気でわたしを癒したいのならば……貴方のデータを、わたしにくれるかしら」  
「データ……って、どうやって――」  
「簡単な話よ。……わたしを、抱いて御覧なさい」  
「抱いて……ええッ!?」  
案の定、うろたえるシェーンに――ベアトリーチェはまたくすくすと笑いかける。  
「本来子作りの行為だけど、あれは多大なデータのやりとりにもなる。  
 今のわたしはとにかくデータが壊れているから、修繕するにはそういうのが必要でね……  
 やってくれるかしら? シェーン?」  
「そ、それは、その……」  
「出来るはずがないわよね。わたしは魔族。綺麗などと言ったところで、本質的には違うわ。  
 こんな外見のバケモノを抱くことなど、とてもじゃないけど無理――でしょう?」  
「……僕は……」  
「ニンゲンと魔族が分かり合うことなんて出来ないの。……もう、だから諦めなさい。  
 わたしはね、別に滅んでも構わないんだから、こんな茶番はもうやめて――」  
「……きます」  
「――素直にわたしを滅ぼ……し……」  
「抱きますッ……それで、貴方を助けられるのならッ」  
「て――って、シェーン……」  
 
「生贄の祭壇で、僕は兄上に助けられて……それで、決めたんです。僕も誰かを助けたい、って。  
 それで今、貴方を――僕が沢山お世話になった貴方を助けられるんなら、やりますッ……なんでもッ」  
「え……な、ちょッ……」  
「……行きますッ」  
そう言って、シェーンは強く――裸のベアトリーチェを、抱きしめた。  
「ま、待ちなさい、何も本当にする必要は……んッ」  
先ほどと同じように、少年はその舌を彼女の肌につける。  
まず肩から。そしてゆっくりと下りていき――  
控えめに膨らむ、ベアトリーチェの乳房に。その湿った舌は辿り着く。  
「んぅッ! あ……シェーン……本当に、わたしを……」  
膨らみの先端、色づいた赤い突起に口付けてから、シェーンはベアトリーチェに顔を向け――はっきり 
と頷いた。  
「それで貴方を癒せるのなら――僕は、何でもしますッ」  
「……なら、一つ……注文があるの」  
彼女の瞳は、今ではひどく戸惑って、シェーンを見るにも伏目がちになってしまっている。  
「わたしの本性を知って――貴方を利用していたことも知って。  
 それでも……わたしを本当に信頼して、助けてくれるというのなら……  
 ニンゲンの恋人にでもするように、わたしに想い出を与えてくれるかしら……?」  
「……約束します」  
「なら――貴方に任せてあげる」  
呟いて、ベアトリーチェは両手でシェーンを抱き寄せた。  
すぐに、彼も先ほどの続きとばかりに右の乳房に舌を這わせる。  
いつもの黒衣の時よりも、この夢魔の姿の時はそれなりに年齢が上とは言え、控えめな大きさであるこ 
とは変わりない。  
そんな弾力のある夢魔の膨らみを、シェーンはゆっくりと濡らしていく。  
瞳を閉じて、ベアトリーチェはその行為をじっと受け止める――  
「……ん……」  
 
シェーンの舌使いは、何も技巧を凝らしたものではない。  
それでも、そのざらりとした感触が肌の上を走り、乳房にぐっと押し付けられるたびに。  
「くぅんッ……」  
ぴりぴりと――全身に走る軽いものが、ベアトリーチェに言い知れない昂揚感を与える。  
一方のシェーンは、はっきりと言い切ったもののまだ少しだけ不安そうな顔をして、それでも必死に舌 
を動かしている。  
そうして膨らみを舐めていくうちに、再びその先端へと少年は口をすすめた。  
――そして。ぺろ、と、軽く突起を舐める――瞬間。  
「うぁぅッ!」  
びく、と、大きく夢魔は身を震わせた。  
「あ……だ、大丈夫ですか?」  
心配そうに問いかけてくるシェーンに、ベアトリーチェは息をついてから、視線を返す。  
「……問題ないわ。続けて」  
それならばと、また一心不乱に舌を動かす。  
「んんッ……く、はぁッ……」  
少し舐めただけでも、彼女はたまらなそうに声を漏らす。  
まだ不安なところはあったが、シェーンはぺろぺろと右の乳首から乳房、そしてまた舌を動かして左の 
膨らみを舐める。  
同じように舐め続け、再び先端を刺激して――  
「……んぁッ!」  
小さく震える彼女の反応に、必死になって舐め続ける。  
 
「あ……ん、うッ……」  
ベアトリーチェの両の手は、シェーンの背中でかたかたと震えている。  
切り裂くだけでなく叩き潰すことも可能なその手は、今は目の前の少年へとしがみつくだけの支えでし 
かない。  
胸の膨らみと先端を舐められていると、身体中がぴりぴりと震えてしまうのだ。  
「やッ……あ、んッ……ふぅッ」  
――そうして、ベアトリーチェの吐息が荒く、不規則になってきた頃に。  
「はぁ、んッ……え?」  
「……ベアトリーチェ、さん……」  
シェーンは――乳房から、ゆっくりと舌を下げていった。  
 
胸から下りて、その舌はお腹のあたりを舐めていく。  
そんなに敏感な場所ではないが、濡れた感触が肌を走るのはやはり身に染みる。  
「あ……はぁ、ん……シェーン……」  
あまり強く抱きしめてしまうと、その手で彼を潰しかねないから――  
快感の行き場に困って、ベアトリーチェは吐息を漏らした。  
「……あの」  
「……え?」  
そうやっているうちに、シェーンの頭は随分低い位置に来ている。  
お腹を通り過ぎて、更に下――ベアトリーチェの、隠された場所に。  
「ここを……その、舐めて……」  
「……ん、任せるって……言ったはずよ……」  
「じゃ、じゃあ……失礼、します……」  
恐る恐るといった様子で、シェーンはその薄い繁みと、奥の肉の襞に舌を這わせる。  
――瞬間。  
「ひッ……うぁッ!?」  
びくッ、と、今までより大きく彼女の身体が跳ねた。  
「あ、ご、ごめんなさッ……」  
「……ち、違うわ……大丈夫、だから……」  
慌てた様子で、ベアトリーチェはそう言う。  
「い、いいんです……ね?」  
「何度も……言わせないで」  
ともあれ、再びシェーンは舌を動かす。  
もう一度、赤い肉壁を舐めてみる――  
「うぁッ!」  
――と、また彼女はびくんと全身を震わせた。  
 
「ほ……本当に、大丈夫なんですか?」  
「……ちょっと、待って」  
はぁはぁと、ひどく荒く息をつきながら、ベアトリーチェはその身を横たえた。  
仰向けになって、息を整える。  
「……少し、立っているのが辛くなってきたから。続けて、シェーン」  
「え、ええ……」  
体勢が変わって、シェーンはその顔を彼女の股に差し込むようにして、また舌を伸ばす。  
今度も、彼女の中を軽く舐めた途端、  
「ふぁぁッ!」  
ぴく、ぴく、と大げさな反応が返ってくる。  
「……あの……」  
「い、いいから続けなさい……」  
「……はあ」  
困惑しながらも、シェーンは舌を動かす。  
「ひぁッ! う、んぁッ!」  
あまり奥まで舐めるのは躊躇われて、入り口の近くだけを刺激する。  
それでも、  
「あぅッ……くぁ、んうううッ!」  
実に大仰に、ベアトリーチェは喘ぎを漏らしているのだが。  
「……こんなに……こんな、おかしい……」  
時折、そんな呟きも聞こえてくる。  
ともあれ、彼女の秘所から流れ出る液体を舐め、そして肉壁も舐めていく――  
「ああぁッ! や、ん、ふぅあッ! こんなにッ……や、ん、くッ……!」  
――なんとも、大きな反応ばかりが返ってくるのだが。  
なるべく気にしないようにして、ぺろぺろと舌を動かし、膣口を刺激する。  
声だけでなく、彼女はびくびくと震えて、シェーンの舌を耐え続ける。  
「うぁッ……あ、ひッ……」  
とろとろと、流れ出る愛液はどんどん量を増していっているようだ。  
 
――ベアトリーチェの反応の大きさも、続けていくうちに慣れてきた。  
「あぅあッ! ふぅッ……んあッ!」  
「……ええと」  
もう気にしてもしょうがないと悟って、シェーンは――突然、一気に舌を突き刺し。奥を舐める。  
「――ぁ……え、ああああぁッ!?」  
その瞬間。  
ベアトリーチェは、今までになく背筋を反らせて――  
ぐ、ぐ、と、差し込んだ舌にも、彼女の中の痙攣が伝わり――  
「あぁ……や……ん、あ……」  
大きく身体を震わせた後、夢魔はぐったりと倒れこんだ。  
「あ、だ、大丈夫ですかッ!?」  
慌てて、シェーンは舌を抜いて、彼女に問いかける。  
と、身を起こしたベアトリーチェは、気だるそうな瞳でこちらを見た。  
「……おかしいわ……」  
「お、おかしい?」  
「……こんなに敏感になっているはずはないのに。少し舐められただけで達するはずが……」  
「え……」  
まだ息は荒いままで、夢魔はシェーンをじっと見つめる。  
「……もう、いいわ。どうも、準備は完全に整ったみたい……」  
「あ……え?」  
「……貴方の想い出を。わたしに……頂戴」  
そう言って、彼女は再び仰向けになり――くい、と手招きした。  
「それはッ……つまり……」  
「……来て」  
言われて、シェーンはごくんと息を呑んだ。  
 
正面から、覆いかぶさるようにシェーンは身体を重ねる。  
丁度お互いの性器が重なる位置に動くと、小柄な彼女の頭はシェーンの首筋あたりに位置してしまう。  
「ほら、早く……」  
「は、はいッ!」  
慌てながら、少年は自らのペニスを調整していく。  
慣れている行為ではないし、どうも見えづらくて、なかなか入り口に届かない。  
「……まだ?」  
「ごめんなさい、そのッ……」  
「……なら、いいわ」  
呟くと、ベアトリーチェはその手をシェーンの股間へと伸ばした。  
ごつごつとした手ではあるが、それは優しくペニスを包み込む。  
「……う」  
「ちゃんと動かしてあげるから――」  
言いながら、夢魔の手によって潤んだ秘所へとシェーンは導かれる。  
くちゅ、と軽くくっついたあたりで――彼女は手を離した。そして、じっとシェーンを見つめる。  
「さあ――入れて」  
「……ッ」  
言われるままに、ずちゅ――と水音を立てながら、シェーンのペニスはベアトリーチェの秘肉に包まれ 
ていく――  
「――あ……」  
彼女の中は。  
少し潜っただけでも、激しく収縮し、奥へと誘ってくるようだ。  
その上肉襞は包み込むように動き、まだ入り口から少しだというのに精を絞ろうとする。  
「……くッ」  
一瞬、出してしまいそうになったが――なんとかシェーンは耐えた。  
「じゃ、じゃあ……進みますね……」  
声に出して言わないと、すぐ暴発してしまいそうだったから。  
返事が返ってくることも期待せず、そう告げた――のだが。  
 
「あ……な、なんッ……でッ……」  
その相手は、またひどく狼狽しているようなのだ。  
「あ、あの?」  
「こんなッ……くッ……」  
「……と、とにかく……」  
ひとまずは気にせずに、ゆっくりと突き入れていく。  
「……うくッ」  
肉を押し分ける抵抗が激しい。  
しかし、一度通った場所はざわめき、包み込んで、もっと奥へと誘ってくる。  
相反する反応を受けながら、シェーンはどうにか腰を進めていった。  
――それに同調するように、  
「あぁッ……や、うぁぁぁッ!? な、こんなッ……ひぁぁッ!」  
「……くッ……」  
ベアトリーチェも、また激しい反応をしている。  
「すごッ……こんな、大きッ……ぐ、くふぁッ!」  
「……あ、あの……」  
半ばまで彼女の膣内を貫いたが、なんだか彼女が心配になってくる。  
入れているだけでも、ペニスに与えられる刺激は大きいから、シェーンもあまり無事ではないのだが。  
「……つ、続けてッ……ん、んぁぁッ!」  
動きを止めたら、そんな風に言われてしまった。  
「……あ、はいッ」  
慌てて、また、ぐッ、と奥へと突き入れる。  
その肉の抵抗も激しいが、ペニスを包む肉壁はもっともっとと要求してくる。  
元々小柄な彼女の膣内なので、要求されるままに貫くと――  
「あ……そ、そこがッ……や、ひぁッ!」  
奥の奥――進んでいたシェーンのものが、はっきりと遮られる。  
子宮口にまで届いたことが、その感触によって確かめられた。  
 
「ここが……限界ッ……」  
「や、う、くッ……シェーンッ……ん、あ……はぁッ……」  
ベアトリーチェの息はひどく荒い。  
右の目は落ち窪んで、その輝きを見ることは出来ないが、左の目はとろんとしている。。  
「こんなに……感じるなん、て……」  
上にあるシェーンを、その瞳がぼんやりと見つめた。  
「……続けます」  
「え、ええ……ん、くぅッ……」  
短く言葉を交わすと、またシェーンはペニスを抜いていく。  
今度は、ぎゅっと捕まえているように肉襞が動き、引き抜こうとするシェーンを捕まえるようだ。  
「う……くッ……す、凄いですッ……」  
「ん……あ、貴方のもッ……や、ひぅッ……」  
紫色の肌は赤みを増して、全身が熱くなっている。  
吐き出す息も熱く、悩ましいものになって、胎内の熱さを少しでも外へ吐き出そうとしている。  
それでも、抜かれていくペニスと、膣内の摩擦は熱さを次々と生み出して、吐き出しても吐き出しても 
熱は収まらない。  
「んくッ!」  
そうして、ようやく入り口にまで戻ると、少しの解放感からベアトリーチェは息をついた。  
「……それじゃ、一気に……」  
「……ええ」  
二人ともに息を整えると、シェーンはぐっと腰に力を込めて――  
ず、と。今度は、一息に奥まで貫く。  
「うぁぁぁぁッ!」  
やはり、ベアトリーチェの反応は激しい。が、今度は躊躇わず、またシェーンは一息に抜いていく。  
「んぅッ……あ、シェーン……もっと……んッ……」  
「……はいッ!」  
その言葉を皮切りに。  
今までの勢いとは桁違いに、シェーンは強く――激しく、抜き差しを行う。  
シェーンのペニスと、ベアトリーチェのヴァギナは噛みあい、擦れて――ぐちゃぐちゃと音を立ててい 
く。  
 
奥まで貫いてから、再び引き抜く。  
それだけの行為の繰り返しで、細かな技も何もあったものではない。  
未熟なシェーンはともかく、ベアトリーチェはそのあたりも細かく出来るはずなのだが、彼女も何かし 
ようとはしない。  
いや、出来ないでいるのだ。  
「うぁぁあッ、……な、すごくッ……う、ふぅあッ!」  
膣内で暴れるシェーンがもたらす快感が大きくて、彼女自身が対応できていない。  
「ぼ、僕もッ……ッ!」  
肉壁はこなれて、激しく抜き差しを繰り返されることで分泌される愛液が掻き出される。  
多量の愛液によって、段々と抵抗は緩やかになるものの、それでもやはりお互いが感じる抵抗は大きい。  
入っていく時には引きつるほどに締め付けて、抜いていく時も離さないように強くペニスを絞る。  
「あッ……はぁ、くッ……あ、うッ……! わ、わたしッ……もうッ……」  
――二人とも、限界は早いうちに訪れた。  
それ程に、お互いが相手から受ける快感は強いのだろう。  
「僕もッ……で、出ちゃいそうでッ……」  
「んッ……く、な、中にッ……」  
そう言いながらも、ぐちゅぐちゅと動きは止まらない。  
ベアトリーチェの胎内を、シェーンはぐいぐいと貫き続ける。  
「あ、貴方の想い出ッ……ひぁッ! わ、わたしにッ――」  
「うッ……あ、くッ!」  
その動きが、ずッと奥まで届いて、二人が密着した時に。  
びゅるッ……びゅッ。  
言葉通り、夢魔の膣奥――子宮口を通って、彼女の胎内へ。  
びゅるるッ……と、白く熱い『想い出』が、注ぎ込まれていく。  
「あぅッ……ん……はぁ、出てる……ッ」  
ベアトリーチェの手はゆらりと揺れて、全身から力が抜ける。  
「はぁッ……はぁ、はぁ……」  
出したシェーンも、あまり体重をかけないように気をつけながら、彼女の上に覆いかぶさった。  
 
「んッ……くぅ……」  
膣奥に吐き出された精液を感じて、ベアトリーチェは息を吐く。  
「……これで、その……傷は、治ったんですか?」  
「ああ……そうね。貴方の想い出を元にして、破損したデータの修復を行う……ある程度は、上手くい 
ったけれど」  
言いながら、その手を自分の口元にあてる。  
「……まだ」  
「え?」  
「まだ足りないわ……もっと、貴方の想い出を貰わないと」  
「た、足りない……って、その」  
口ごもるシェーンに、ベアトリーチェはくすりと笑った。  
「……いいでしょう?」  
「は……い」  
ああ言った手前、断るのは考えられない。  
それに、シェーンにしても――  
(……こ、これであまり気持ちよくなるのは、失礼なような気もしないでもないけど……)  
――そんなところである。とりあえず問題はないようだ。  
 
「それで、その……」  
ようやく呼吸を整えてから、シェーンはふっと声をかける。  
「何かしら?」  
「今度は、もっとよく貴方の顔を見たいんです、けど……」  
「……顔を?」  
今の体勢でも、そんなに見えなかったという訳でもないのだが。  
「まあ、いいわ……貴方に任せると言ったのだから」  
 
身体を起こして、座り込んだシェーンの上にベアトリーチェがまたがる形になる。  
これなら確かにお互いの顔が近づいて、よく見えると言えば見える体勢だ。  
「ふぅッ……」  
体勢を変えるだけでも、膣内でペニスが擦れて緩やかな快感を生む。  
ため息に似た喘ぎを吐いて、ベアトリーチェはシェーンの胸に体重を預けた。  
「じゃ、じゃあ――もう一度、僕の想い出を」  
「……そう。わたしに、頂戴――」  
呟くと、そっと夢魔は腰を動かす。  
「うッ……く」  
気を抜いていたせいか、シェーンはその摩擦が招く快感に魂を持っていかれる気分になる――が、  
「ぼ、僕もッ……が、頑張ります」  
どうにか誤魔化して、こちらもゆっくりと突き上げる。  
「んッ……」  
先ほどの勢いに任せた動きとは違うが、それでも濡れた膣肉の中で固く滾ったペニスは暴れ、擦れあう。  
ぐちゅ……ぐちゅ。接合部の音も、ゆっくりだが響き始めた。  
「はぁ……ん……」  
勢いよく突き上げることは出来ない。それでも、小柄なベアトリーチェの奥まで届いて、子宮口を軽く 
突く。  
更に、ベアトリーチェ本人は腰をゆるやかに回し、円運動で互いを高めようとする――  
「やッ……ぁ、んッ……」  
「き……気持ちいい、です……」  
「わたしも……ね……はぁッ……ふぁ……」  
掠れるように囁く夢魔の声が、神官候補の耳に響く。  
それと同じくらい、二人の繋がっている部分からは、ずちゅッ、ずちゅ、と水音が聞こえてくる。  
二つの音は絡み合い、それとともに彼女の胎内のペニスも膨れて――更に、固くなっていく。  
「くぁッ! ……ん、また大きくなったわね……んぅッ……」  
「あ……は、はぃッ……つッ」  
その固いものは、ますます夢魔を突き上げて――少年の上で、彼女の身体全体をゆらゆらと揺らす。  
 
――そんな時に、ベアトリーチェがそっとシェーンの耳元に唇を寄せた。  
「ねえ、シェーン」  
「……え?」  
まだ、二人の腰の動きは止まらない。ぐちゅぐちゅと動いて、たまらない快感をもたらしている。  
「……貴方は、本当にわたしのことを信じてくれているの?」  
「……ええ」  
「だったら、わたしは――」  
ずんッ、と、シェーンは強く突き上げた。  
「ふぁッ! ……ん、わたしも……貴方のこと、信じて……いいの?」  
「……ええッ」  
くちゅ、ぐちゅ、とベアトリーチェの腰が複雑な軌道を描く。  
接合部からはぽたぽたと愛液、そして精液が零れて、夢の中の地を汚す。  
「本当に、ん、くッ……あ、い、いいのね? 貴方のこと、信じても……」  
「僕は……」  
シェーンは、そっとベアトリーチェの首筋を舐めた。  
「ひぅッ」  
「……僕は、絶対に裏切りませんから……ずっと貴方にッ……」  
「……わたしは、それなら……」  
それと共に、ベアトリーチェは耳元から顔を離し――  
そのまま、シェーンの唇に。自分自身のそれを重ねた。  
「んッ!」  
「……ふぅッ」  
夢魔の唇から、少年の唇に。そっと舌を伸ばす。  
「ぁぅッ……」  
それに応えて、シェーンもまた舌を差し出した。  
お互いの舌が絡み合って、唾液も交換されていく。  
ずちゅッ、ずちゅッ、と、一方では繋がっている場所から大きな音が流れ出る。  
突き上げるシェーンに、横の動きを加えて膣内を刺激するベアトリーチェ。  
舌と舌が絡み合うと同時に、ペニスとヴァギナの絡み合いもまた激しさを増す。  
 
ベアトリーチェの唾液が、舌を伝わってシェーンの喉へと流し込まれる。  
そして、彼女の膣内もまた震えて、きゅうきゅうとシェーンのペニスを強く締め付けていく。  
「……ふはッ」  
「あ……」  
流石に息が辛くなってきたのか、シェーンがふっと舌を離した。  
「ごめんなさッ……い、くッ……ふ、ぼ、僕、そのッ……」  
「ん、いいわッ……それは、もう完了したからッ……」  
「完了……って、くぅッ!」  
また、膣内での蠢動が激しくなった。  
柔らかく、熱く、それに狭い彼女の膣壁が、シェーンを捕らえて搾り取ろうとする。  
「う……ぼ、僕、またッ……」  
「え、ええッ……わ、わたしも合わせるからッ……!」  
言葉を交わすと、ずんッと強く突き上げた。  
「ッああッ!」  
ベアトリーチェの身体が、その衝撃で跳ねる。  
それだけでは止まらず、ずんッ、ぐッ、と何度も強く下から貫いて――  
「……うぁッ! ん、はぅんッ! や、ひぅッ――」  
「な、中が熱くてッ……」  
「シェーンッ……強くてッ……凄くッ……あ、うぁぁッ!」  
そうして、何度も何度も身体の奥――子宮を持ち上げるほどに強く突いて。  
ぐっちゅッ、ぐっちゅと音は激しくなり――  
「あ、あ、ひぁ、あッ……や、うぁッ!」  
再び、ベアトリーチェの一番奥を貫いた、その瞬間。  
「あぅッ……ん、シェーンッ……わたしッ……や、ああああッ!」  
ぎゅ、と、両手をシェーンの背中に回し、強く抱きついて――  
同時に、膣内では絡みつく肉壁が激しく収縮し、ペニスをちぎらんばかりに締め付ける――  
 
「またッ……で、出ますッ……中に、僕のッ……!」  
「来てッ……あ、ふぁうッ!」  
びゅるッ! びゅるるるるッ!  
二度目で、ますます濃さを増した、熱い粘液――精液が、下から上へと流れ出す。  
奥にだくだくと注ぎ込まれ、それは少しずつ溢れ出る。  
「く……うッ……」  
ぐったりとした様子で、ベアトリーチェはシェーンに身体を預ける。  
「う……」  
そんな彼女を抱きとめて、シェーンの方も虚脱する。  
体重を支えているのはシェーンで、自分自身も力が抜けながらもなんとか彼女を支えているが。  
「……んッ」  
不意に。  
ベアトリーチェは、そんなシェーンを――軽く押して、仰向けに横たわらせた。  
「え、あの?」  
「……もっと。もっと、貴方の想い出が欲しいの」  
そう言って、腰を上下させ始める。  
「な、もっとってッ――」  
「二回じゃまだ……もうちょっと、頂戴……」  
まるで伝承の中の『夢魔』のように、ベアトリーチェはひどく貪欲になっている。  
「……はい。僕の想い出でよろしければ、いくらでも」  
覚悟は決まっているのだから――シェーンも、そう応えて。  
そっと、両手で彼女の腰を掴むと――ず、と下から突き上げた。  
「ふぅんッ! ん、嬉しいわ……ね、もっとッ……」  
「は、いッ……僕も、貴方にッ……!」  
二度も出して、しかも今は出したばかりなのに。  
いつしか、シェーンのペニスは前よりますます熱く滾って、ベアトリーチェの膣内へ鋭く刺さる。  
 
ずちゅッ……ずちゅッ……ずちゅッ。  
その交わりは、それこそずっと――長い長い夢として、続いた。  
「はぁッ……ん、シェーン、もっと頂戴ッ……や、ひぅッ……くッ」  
びゅッ……びゅるるッ。  
精液――想い出はどれだけ注がれても、尽きることもなく。  
「……シェーン……ん、ふぁ……」  
ベアトリーチェも実に嬉しそうに、彼の精を受け続ける。  
繋がるやりとりは、一晩続いて――  
何時の間にか、シェーンは深い眠りについていた。  
 
 
――夢の中での眠りと同時に、現実での目覚めが訪れる。  
「……うん……」  
まだ外はほの暗い。早朝からの修行が日課なのだから、シェーンにとってはいつもの風景だ。  
「なんだか、いい気分だなぁ……」  
と、そこで夢の中のことに思いが至る。  
夢の中の君――夢魔ベアトリーチェに、ああいった約束をして、そして――  
「ぼ、僕は……う……」  
慌てて、下着を確かめてみる。  
とりあえず夢精しているという事態はないようなのだが。  
「……どうなったんだろう? ベアトリーチェさんは、僕と……」  
一緒にいるという約束はしたのだが、さてそれを確かめるとなると。  
「呼んだかしら?」  
「……えッ!?」  
――と。ほとんど突然に、シェーンの傍に黒衣の少女が姿を現した。  
「あ……え?」  
「……くす。何を驚いているの、シェーン?」  
「あ、貴方は……でも……」  
「貴方が、わたしが必要だと言ってくれたんでしょう? だから、こうやって傍にいてあげることにし 
たの」  
 
「そ、そうなん……ですか?」  
「ええ」  
彼女はくすくすと笑っている。が、前と違って少し明るい、ような気がしないでもない。  
「だからね、シェーン。ほら、途中で一度貴方に口付けたでしょう?」  
「あ……はい」  
「あの時……貴方の脳内に、ちょっとわたしの端末をインストールさせてもらったから。  
 貴方が望めば、いつでも現れてあげるわ」  
「は……はぁ……」  
くすくすと、実に愉快げに彼女は笑っている。  
「まあ、恩返しはしないといけないだろうし、それに……今夜から、毎晩夢の中で色々と相談もしたい 
ところだしね?」  
「そ、それって……」  
「……わたし、貴方のことを信じることにしてみたの。ニンゲンと共存するのはまだ考えられないけれ 
 ど、とりあえずは……ね。だから――」  
ベアトリーチェはそっと唇をシェーンによせる。  
けれど、その唇は実物と触れ合うことは出来ずに、すり抜けてしまう。  
「……ね。続きは夢の中でまたしましょう。これから、ずっと貴方の中に常駐してあげるから」  
「……つ、つまり……僕を、そしてファルガイアを助けてくれる、んですよね?」  
「そのつもりよ……くす――世界を作らなくても、こうやって触れ合うという手段はあったのよね」  
「そう……です、よね……」  
なんだかむしょうに嬉しくなって、シェーンもふっと笑顔を浮かべた。  
「ん……じゃあ、また……用事があったらすぐに呼んで。くすくす――」  
ひとまず、彼女はノイズと化して消えた。見送って、シェーンも満面の笑みを浮かべていた、が。ふと 
その顔が曇る。  
「……あ。そういえば……兄上や、他のみんなにはどう説明しよう」  
考えてみれば、また凄まじい難題ではある。  
ファルガイアを救うのとも同じくらい難しい話ではあるだろうが、それでも――  
彼女の力を借りれたら、多分上手く解決できるような気がして、シェーンは実に気持ちよく――朝の目 
覚めをした。  
 

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