「姉さん、やめようよッ」
「うるさいわね。いいのッ、どうせ死んだ人間は花なんか必要としてないんだからッ」
今となってはファルガイア全土でも数少ない、緑を残す町ブーツヒル。
とある二挺拳銃を使いこなす少女の故郷でもあるが、現時点では関係ないことである。
それは別の話として、今この町の墓地には数名の男女が訪れていた。
金髪の女渡り鳥に、気弱そうな少年。静かに威圧するアフロに、そして目つきの悪い猫(?)。
知る人ぞ知る――いや、大抵の渡り鳥は知っているが。
世界でもトップクラスの腕前で知られる、シュレディンガー一家だ。
「だいたい小さな花ってのは貴重品なんだから、こんなところで萎れさせるのは限りある資源の無駄遣
いよッ」
「だから、そういう問題じゃなくって……トッドさんも何か姉さんに言ってくださいよ」
一つの墓標に備えられた、白い小さな花――幸運のお守りとしても知られる、その花を。
金髪の渡り鳥ことマヤは、遠慮なしに持ち去ろうとしているようだ。
それを押しとどめているのが、気弱そうな少年であり――そしてマヤの弟でもあるアルフレッド。
更に彼が助けを求めたのがアフロの男トッドで、その騒動を愉快そうに見つめているのが目つきの悪い
猫ことシェイディである。
「いや、お嬢のなさることですから、あっしからはなんとも」
「そ、そんな……」
「ほら、トッドはアタシのことをよくわかってる。じゃ、この花はアタシのものね」
必死で止める弟を脇に追いやって、マヤはその手を花へと伸ばす。
と、その時――
「もしもし、そこな渡り鳥。そこはマックスウェルさんのお墓だが、何をやっているんだい?」
ふっと。後ろの方から、若い女性――女の子の声が聞こえた。
「え?」
振り向くと、そこにはいかにも健康そうな少女がたたずんでいる。
「……アンタは?」
「ああ、わたしはこの町の住人で、アーメンガードという」
「へ、へえ。ん、マックスウェルって、ヴァージニアの」
「知っているのか。マックスウェルさんのところの娘さんで、わたしも懇意にしているな。
で、そのマックスウェルさんのお墓から、お供えものを持っていこうとしているあなたは一体」
「アタシはマヤ・シュレディンガーで……べ、別にお供え物を盗もうとしてた訳じゃないからね?」
「――なるほど。ヴァージニアも、外でこんなトモダチを作っていたのか」
「そ、そういうこと。だからちょっとお参りに来たってことなの。勘違いしないようにね」
「……よく言うよ、姉さんも」
どうにか誤魔化して、マヤ達一行はアーメンガードと少々の歓談を行っていた。
「時にマヤさん。今日は何月何日か知っているかな」
「今日? そりゃ、6月10日でしょ」
「ああ。そして、今日もやはり記念日があるのだが、それも知っているか?」
「知らないけど」
「そうだろうな。今日は這い寄る混沌の日といって、記念日の一つだったりする」
また、唐突に記念日のことを口走る。
「……はあ。そんな日だったの、今日って」
「その通り。今日は、初めてはいよる混沌の……」
そこまで語った時点で、アーメンガードはふっと倒れかけた。
「ど、どうしたのよッ!?」
慌てて、マヤは彼女を抱きとめる。
不安そうに見つめる弟やトッドを目で安心させると、アーメンガードの頬をぺちぺちと軽く叩いた。
「はッ……この話を語ることは、何らかの原因で出来ないようだな」
「はいよる混沌の話?」
「ああ……どうも、そうらしい。いやはや、記念日のことを語れないとはわたしとしては痛恨なんです
が」
しかし、それにしても危険な話も極まれりといった状態である。
記念日のことを語りたがる少女がいて、しかもはいよる混沌のことを話そうとすると妙な症状を起こし
ている。
アルフレッドなどは、小声で
「姉さん……この子、ちょっとヤバいんじゃないかな」
などと姉に言ってしまうくらいだ。が。
そう言おうとしてマヤの顔を覗き込んだ少年は、びくっと震えるようなものを見てしまった。
姉は――笑っている。楽しそうに。
「はいよる混沌の話が出来ない……ね。へえ……外宇宙の使者と伝えられる、あの混沌が……」
「ああ、まったく困ったことだ」
アーメンガードは素直に頷いているようだが。
「これは、誘拐(アブダクション)された可能性があるわッ」
緊迫した表情で――瞳の端に笑いを残して。マヤは告げた。
「……そういえば」
先日、姉が読んでいた雑誌のことを、アルフレッドは思い出す。
月刊ミヨイ・タミアラ。銀河の戦いがどうしたとか、前世の光の戦士がどうしたとか――
そういう雑誌である。普通の人はあまり読まない類の代物だ。
そんなものを何故読むのか、と聞いたら、
「いや、連載してる小説が面白くて」
そう返された。姉らしいと言えば姉らしいが。
そして雑誌の中で、宇宙人による誘拐だの、実験だの、その類の話題が書いてあったことも思い出す。
「楽しそうに読んでたから、まさかとは思ったけど……本気で信じてるの? 姉さん」
「……ちょっとだけね」
アーメンガードに聞こえないやりとりを交わしてから、マヤは再び彼女に指を突きつけた。
「誘拐だって? それは一体どういうことだい?」
相手も興味津々といった様子で身を乗り出してくる。
「はいよる混沌は、世界中でアタシ達人類を誘拐し、実験し……
そして何らかのチップを埋め込み(インプラント)していると言うわ。
アンタがはいよる混沌のことを話せないのも、きっとそれが原因ね」
「な、なんだって!」
愕然とした表情で、アーメンガードは二、三歩後ろに下がった。
「混沌は、ダイレクトヴォイスによって被害者の記憶を消し、再び日常生活に戻しているそうね。
アンタも、それによって記憶を失った……そして、今みたいな事態が起きるの」
「そ、そうだったのか……」
余程ショックだったのか、少女はがっくりと肩を落とす。
「どうすればいいんだろう? もう、わたしははいよる混沌の記念日について語れないのか?」
記念日について語れないというその一つの事柄が、随分こたえるものだったようだ。
「そうね……」
口元に手をあてて、マヤは考え込む。
「一つ……方法があるわ」
「それは?」
「……逆行催眠」
――催眠療法というものがある。
普段、人間は自分の心の底の底を見ることは出来ない。
だが、大抵の心の問題は、そんな奥の無意識の中にこそ潜んでいるという。
そこで、催眠状態になることで、心を無防備にし――自分でも忘れている想い出を呼び覚ますのだ。
後はその想い出を解消することで、心の問題を解決させる。それが、催眠療法である。
これを応用することで、完全に忘れていたはずの想い出を呼び覚ますことも可能になるのだ。
「……ってことで、その時の想い出から、混沌が何をアンタに仕込んだのかを知ればいいの」
「なるほど。それは凄いな」
胡散臭そうな顔をしているアルフレッド他は放って置いて、素直に感動しているアーメンガードにマヤ
は微笑んでみせた。
「で、どうする? あくまでアンタが望めばだけど、逆行催眠をしてあげることも可能ではあるわ」
催眠というのは、素人が手を出してよいものではないのだが――まあ、マヤである。
なりきれば、催眠くらいはお茶の子さいさいといったところだ。
「……そうだな、やっぱり記念日のことが話せないのはとても健康に悪い。
その為なら、催眠でもなんでも……やってみようと思う」
その言葉に、マヤは満足そうに頷いた。
「うん、いい覚悟ね。場合が場合ならウチの一家に招待したいくらい。
――さ、アンタの家に連れてって。流石に屋外じゃ出来ないからね」
何か特別な運命でも働いたのか、それとも単なる偶然か。
アーメンガードの家族は、まったく偶然に出かけており、丁度彼女一人で留守番をしていたところだっ
た。
その居間で、リラックスできる体勢にすると、マヤはアーメンガードの前に手をかざす。
「……じゃあ、始めるわ。アタシの言葉に、じっくり耳を傾けなさい……」
「……はい……」
段々と、アーメンガードはとろんとした目つきになっていく――
――それは、ある日の深夜。
喉が渇いて、ふと目を覚ましたアーメンガードは、窓の外を見て声にならない声をあげた。
そこには、なんとまぶしいほどに輝く物体が浮かんでいたのである。
「こ、これは! 今日は光の記念日じゃなかったはずなのに……」
驚きながらその物体を観察する。光沢のある金属で出来ていて、円状のようだが。
と、その物体は、アーメンガードに向かって一際強い光を放ってきたのだ。
「うわッ!」
あまりのまぶしさに目を閉じる。いや、その光は意識さえも持っていってしまう。
自分がどうなったのか、それを把握さえ出来ずに――彼女の意識は闇に落ちた。
次に気がついた時、彼女の身体は仰向けになって横たえられていた。
瞼を開く――と、強い光が差し込んでくる。
(朝……? 今日は何の日だったか……)
時間の感覚が掴めないまま、段々と目は慣れてくる。
あまりにまぶしいので、手をあげて顔を覆い隠そうとするが――抑え付けられているようで、動かそう
にも動かない。
「こ、これはッ!?」
ぼんやりとしていた頭がはっきりとする。
光にも慣れて、周りを見渡してみる、と、彼女の周囲には。
「なッ……ば、ばけ……」
身長は3mにも及ぶだろうか。人間よりも巨大なものが、二体ほどアーメンガードを見下ろしている。
フードのようなものに包まれた、頭部らしき場所には黄色い二つの目が光り、そしてその手は三本指で
細く伸びている。
魔獣の類とも思えない、まさに宇宙人と言うしかないような怪物が、こうして彼女を捕らえているのだ。
「や、やあ、君達。わたしに何か用事でも……」
恐る恐る問いかけるが、怪物はその言葉に何らの興味も示さないようだ。
怪物――この姿をしたものは、以前アーメンガードも写真で見たことがある。
その名前は這い寄る混沌。星の海より渡ってきた謎の存在である、という。
「無口な方達なのだな。ならわたしから一方的に記念日について語ってあげ……」
どうにかしてコミュニケーションを図ろうとしていたアーメンガードだが、混沌のうちの一体が手を伸
ばしてきたことで遮られてしまう。
三本の指のうち、真ん中の一際長いものが彼女のスカートに触れる。と、刃物を使ってもいないのに、
すぱりと切れて落ちた。
「ああッ! 母さんに怒られてしまうんだが、その、君達もこういうのはやめてくれないだろうか」
そう言っても、やはり混沌は聞く耳を持たない。
更に指が滑る――と、今度は下着まで切り落とされてしまった。
「な、何をしようとしているんだ、君達?」
陰毛もそこそこに生えている場所が晒されてしまって、宇宙人相手でも少しばかり恥ずかしくなる。
更に外気に晒される感触に戸惑っていると、混沌は再び指を伸ばす。
細長い指の先端は、無造作にアーメンガードの膣口に当てられた。
「……え?」
その目的が見えず、戸惑うアーメンガード。しかし次の瞬間、
「えッ……あ、い、くぅッ!?」
つぷ――と、濡れてもいないそこに、指が押し込んできたのだ。
「や、い、痛ッ……な、何をッ」
相変わらず、混沌はアーメンガードの言葉など存在しないように振舞っている。
指をくいくいと膣内で動かすと、彼女の身体にはなんとも言えない痛みが走るのに。
「く、ふぅッ……」
しばらく入り口のあたりをかき回されてから、混沌はまたあっさりと指を引き抜いた。
「う……ん……」
どうにか解放されて、アーメンガードも一息つく。
だが、混沌は彼女を見下ろしたまま、今度は注射器のようなものを取り出してきた。
「ま……また、何か……」
抗議しようとしたアーメンガードに。
混沌は、指を期用に動かすと――注射器を、彼女の腕に突き刺した。
「痛ッ!」
ちくりとした痛みが走る。
アーメンガードも注射が好きという訳ではないから、その痛みは恐怖を思い起こさせる。
その上注射器から何か液体が身体に入ってくると、恐ろしさもますます増えるというものだ。
「や、やめてくれ、わたしは何もしていないのにッ……」
抗議する声も弱弱しい。
そして、謎の液体は注射器からアーメンガードの体内に全て注入され――針は、すっ、と抜かれた。
「……あ、え?」
すぐにアーメンガードの身体に異変が起きる。
「な、なんだ?」
体中から力が抜けていくようだ。考えることも、段々億劫になってくる。
「あ……え、え……?」
とろんとした感触が身体を包み、全てがぼんやりともやに包まれていくようなのだ。
やがて表情までもとろんと弛緩したアーメンガードに、混沌は再び指を伸ばした。
また幼い秘所に指を突き入れられる――が、今度は痛みも何も無い。
「あ……れ? わたし、何、が……」
ぐいぐいと指は押し込まれ、男性を知らない秘肉は宇宙人の指によって踏み荒らされていく。
それでもなお、アーメンガード本人には痛みなど伝わってこないのだ。
「……え、え? あ……れ……」
混沌は、指をもう一本入れてきた。相変わらず痛みはない。
二本の指は膣内で好き勝手に動き始めている。
肉壁を嬲るようにぐいぐいと動かされ、膣口からはとろりと血、そして――透明な液体が流れ始めた。
「……ん、あ……」
ぼんやりとした、快感のようなものが膣内から伝えられてくる。
その反応を見て、混沌は膣内の指の動きを速めていく。
くちくちと、まだこなれていない膣肉を細長い指先が蹂躙する。
「あ、ん……ふぇ……」
今の自分の状態も忘れ、アーメンガードの顔は快感に蕩けてきた。
更に混沌は指を伸ばし、子宮口をその指でつつく。
「はんッ……ん、ひぅ……」
身をよじらせるアーメンガードだったが、不意に混沌は指を引き抜いた。
くちゅ、と。入れた時とは違って、湿った音が響く。
「あ……なんで……」
ぼんやりとした快感に侵されていた少女は、まだ足りないとでも言うように不満そうな声を漏らす。
それを埋めるというのでもないのだろうが、今度は混沌は銀色に光る謎の棒状のものを取り出した。
そうして、やはりそれをアーメンガードの入り口に押し当てる。
「それは……ちょっと、大きすぎるんじゃ……」
流石に不安になるが、這い寄る混沌の思考は人間に推し量れるものでもない。
彼らは、躊躇いも無く――太いそれを、アーメンガードのヴァギナに突き刺した。
「――う、あッ」
ずん、と身体中に鈍い感触が走る。
注入された液体のせいで、ほとんど麻痺していた感覚も、この重い痛みを完全に消すことは出来なかっ
たようだ。
「うくッ……んッ」
ぐいぐいと、棒は膣内に侵入していく。
「う、うぅッ……く、あッ……!」
そんな金属の塊でさえ、少女の膣壁はぎゅうぎゅうと締め付けてしまっている。
奥へ奥へと強引に押し込まれる、冷たい金属の感触は、アーメンガードの目覚めたての快感を別の方面
から刺激した。
「ふぅッ……ん、あッ……」
一番奥まで金属棒が押し込まれると、ようやく混沌はその手を止める。
そして、棒から指を離すと、近くにあった機械をなにやら操作し始めた。
「はぁッ、んッ……ふう……」
アーメンガードは、胎内を埋める巨大なものの感触に、はぁはぁと荒く息をつくだけだが。
――しばらくして、這い寄る混沌は機械への操作を終えたらしい。
再び棒に指を戻すと、今度は一気に――
「あ……ひ、ひぁぁぁぁぁッ!」
引き抜いた。
全身に走る衝撃で、アーメンガードは脳まで突き抜けるような快感を受けてしまう。
「ん、ふぁ、あ、ひぅッ……うッ……」
ぴくぴくと身体を痙攣させる彼女を、混沌は黄色く光る瞳で見下ろしている。
その瞳からは、ファルガイア人では考えもつかない何かが見えてくるようだ。
そして、混沌はまたしても奇怪なものを取り出してきた。
今度も注射器のようだが――その大きさは、血管などに注射するものとは見えない。
随分と大きく、また中に入っている液体も何かどろっとしていて薬ではないようである。
「ま、また、わたしに妙なものを……?」
怯えるアーメンガードの――膣口に。今まで、金属棒が入っていた場所に、混沌は注射器の先端を入れ
る。
そのまま中の液体を注入しはじめる――と、生暖かいものが少女の膣内に侵入していく。
「え、き、気持ち悪ッ……や、やめッ……う、ふぁッ」
注射器に満たされた液体は、そのままどろどろとアーメンガードの膣内を侵し――更に、子宮へと流れ
込む。
ちょうど人肌ほどに暖められた生暖かな感触が、彼女の理性までも暖めていくようなのだ。
「や、な、やぁッ……え、ふぁ、くッ!」
どろっとした何かは、奥へ奥へと流れ込み――とうとう、全てが胎内へと収められた。
「う……ひ、ひっく……」
気持ち悪さが身体全体に広がって、アーメンガードは年齢相応に怯える。
と、注入を終えて、持っていた注射器を放した混沌は、その指を彼女の頭へと伸ばした。
「う……え?」
指先には、銀色に光る謎のチップらしきものがある。
それが、アーメンガードの額に触れる――と、チップは溶けるように彼女へと吸い込まれてしまった。
「あ……あッ……」
意味がわからなくても、何か恐ろしいことをされたという実感がある。
がくがくと震える少女の顔を、混沌は光る目で見つめ――
「〜〜〜〜〜!!」
「……あぁぁぁッ!」
言葉では言い表せない奇怪な音声を放つ。それは、脳の奥まで届いて、全てを揺さぶるような重低音だ。
響く声の揺さぶりで、すぐにアーメンガードは意識を失い――
「で、その声のせいで全部忘れちゃってた、って訳ね」
逆行催眠の全ての過程を終えると、マヤは腕組みして考え込んだ。
「まさか、本当に誘拐されて、しかも埋め込み手術までされてたとはね。
這い寄る混沌のファルガイア侵略……ここまで進んでたとは思わなかったわ」
アーメンガード本人は、今は静かに眠っているようだ。
「さて……アル。これは一大事だわ……この子の言葉によれば、胎内に妙なものを流し込まれたってこ
とだけど」
「ら、らしいね」
一応、傍で聞いていたアルフレッドも、そのことは覚えている。
「ミヨイ・タミアラによれば、這い寄る混沌は百魔獣の王の育成を行っているとされているわね。
そして、恐らく――この子の胎内に注がれたのは、百魔獣の王の卵細胞……
この子は、ラギュ・オ・ラギュラの母胎にされかけているのよッ!」
「……ええええぇぇッ!?」
驚いたアルフレッドの声で、アーメンガードは目を覚ます。
「ん……ふう。で、どうだったのかな、わたしの記憶というのは」
「ええ……気をしっかり持つのよ? つまりね……」
「な……なんてことだ……」
流石にショックが大きいらしく、アーメンガードは唖然としている。
「わ、わたし、この年でもう妊婦になってしまったのか……しかも百魔獣の王の。
正確な日時が分かれば、ちゃんと記念日にしてたのに……」
「……なんか、アンタ嘆く方向性が違ってるわよ?」
「気にしないでくれ。わたしのポリシーみたいなものだ。それにしても、困ったな。
ラギュ・オ・ラギュラなんか出産したら、わたしは死んだりしないだろうか?」
「……多分死ぬわね。でっかいし、アレ」
一見落ち着いてはいるが、随分深刻な話ではある。
「ああ、齢14にして儚くも散ってしまうのか、わたし……これでは記念日を広めるという夢も果たせ
ないで……」
がっくりと肩を落として、アーメンガードは嘆く。
「……お気の毒様です」
ほとんどついていけなかったアルフレッドも、こういう時はなんとか慰めの言葉を出した。
しかし、だからといって彼女が助かる訳ではない。
「……助かる方法はあるわ。アタシ、前に『百魔獣の王』って本読んだことがあるの。封印図書館で」
そんな時に、またマヤは口元に手をあてながら呟いた。――しかし、本当に何でもよく読んでいる彼女
ではある。
「ほ、本当にッ!?」
「ええ……ただ、この方法はちょっと……ね。問題なんだけど……」
必死になって問いかけるアーメンガードに、マヤは少々口ごもりながら答える。
「問題って、助かるならなんでもしよう。もちろん報酬だって払うとも。運命の箱舟教団特製カレンダ
ーだ。色々載っていて為になる」
「……そんなのはいらないけど、方法ってのは、ね……」
言いながら、ちらりとマヤは弟を見た。
「え?」
「百魔獣の王は、ファルガイア最強最大の生物。ただ、あまりに強いが為に、成長するまでは極めて不
安定な存在なの。
卵細胞の時なんて、それこそ少しの異変でも崩壊する可能性があるっていうわ。
人間の体液がかかるくらいでも、あっさりと……ね。
ただ、それをガードする為に混沌は特殊な溶液も一緒に流し込んだんだろうけど……」
ほとんどアーメンガードはついていっていないが、それでも必死に聞いている。
「その溶液は、あくまでアーメンガード……アンタの体液から保護するためのもの。
外部からの刺激には弱いはず……つまりッ」
びし、とマヤはアルフレッドを指差した。
「男性の精液を注ぐことで、ラギュ・オ・ラギュラの卵細胞は崩壊してしまうのよッ!」
「……えええぇぇぇぇッ!?」
今まですっかり蚊帳の外だったアルフレッドが、また大声で驚く。
「……は、え? じゃあ、わたしが助かるには……」
「だれか、適当な男性と……一発ヤっちゃえば、それで助かるわッ!」
「……なんとまあ」
一人で納得しているマヤはともかく、アーメンガードとアルフレッドは呆然とするばかり。
「ううん……わたし、初めてなんですが」
「でも命には代えられないでしょ」
「……それはその通りだな」
もとい、アーメンガードはあっさりと納得している。
「でしょ。さて、となると問題は誰とヤるかってことなんだけど、希望はある?」
「特には……いないな。いや、一応ブーツヒルの若い男というとニールなんかがいるが、彼はちょっと
遠慮したいからな。
どうせ一生に一度なんだから、やっぱり想い出に残るような相手がいいし」
「想い出ねえ。なら、そう……うちのトッドってのはどう?」
「あのアフロさんか……」
「そう。想い出に残るでしょ?」
しかし、アーメンガードの顔は固い。
「確かに想い出には残りそうだが、それがいい想い出かどうかは……」
「ふうん。いい男なのに……じゃあ、どんなのがいいのよ?」
「そうだな……」
「……って僕ですかッ!?」
アーメンガードの寝室に、彼女と、それからアルフレッドの二人だけがいる。
「ああ。君はなかなかの美形だし、わたしもどうせやるなら年代が近い方が好ましいからな」
「そんな……ぼ、僕の意志は……」
「君の姉のお墨付きだぞ? やる時はやる子だって」
「……そういう問題じゃあんまりないと思うんですけど……」
「なんだ、そんなにわたしとするのは嫌なのか?」
アーメンガードは、上目遣いでアルフレッドを見つめてくる。
「え……あ、いや、そういうんじゃなくって、ですね……」
「まあ、仕方ないかな。わたしもそんなに容姿に自信がある訳じゃないですし。
ああ、君には責任はないんだ。わたしが這い寄る混沌のせいで怪物に寄生されて、挙句おなかが膨れ
て死んでしまっても。
君には一切の責任はないが、せめてわたしが死んだら小さな花の一つでも供えてくれ」
「あの……えっと……その」
人のよいアルフレッドだけに、そう言われると気が重くなる。
性欲などとは関係なしに、やらなければいけない――と、心に重くのしかかってくるのだ。
「ああ、心残りは記念日のことだけだ。
それもきっといつかはわたしの遺志をついで、世界に広めてくれる人物が現れると思えば……
……ふぅ」
じわ、とアーメンガードの瞳の端に涙がたまる。
「う……わ、わかりましたッ! やりますッ! やらせてもらいますッ!」
耐えかねて、とうとうアルフレッドは叫んだ。
「――よし、じゃあ早速しよう。わたしも脱ぐから君も頼むぞ」
今までの態度が嘘のように、アーメンガードはさばさばとした様子でそう言う。
「……へ?」
更には、衣服に手をかけて、ボタンを外し。アルフレッドの目をまるで気にする様子もなく、あっさり
と上着を脱いだ。
おまけにスカートまで脱いでいく――と、下着だけになった彼女に慌ててアルフレッドは声を出す。
「な、なんでそんな、脱いでるんですかぁッ!?」
「なんでって、脱がなきゃ出来ないだろう。それくらい知っているぞ、わたしは」
「そういう問題じゃないです……」
と、下着だけになったアーメンガードは、ふと自分の胸元に目をやり――ぽっと頬を染めた。
「あんまり見ないでくれ。恥ずかしいからな」
「あんな風に脱いでからそんなこと言っても……」
「君も男性だから、狼になりたいだろう気持ちは分からないでもないんだが」
「……そんなこと言われても、その、困ります」
どうも話が噛み合っていない。そのせいか、アーメンガードはふうとため息をつく。
「君は真面目にわたしを救ってくれるつもりはあるのか?」
「そりゃありますけど、あの……どうも変ですよ、この状況」
「変かな」
「変です」
困った顔をして立ちすくむアルフレッドに、なにやら考え込んでいるアーメンガード。
少年少女の、ある種微笑ましいと言えば微笑ましい、かもしれない状況ではある。
「……うん、やっぱり中途半端なのがよくないんだな。全部脱いでしまおう」
言うが早いか、またあっさりと彼女は下着まで脱いでしまった。
全体的にややぽっちゃりとした印象があるが、ただ年齢と比べると随分グラマーな方ではある。
そして。アーメンガードは、一応胸を隠すように腕を組んで、上目遣い気味にアルフレッドを見上げた。
「結構スタイルには自信があったりするんですよね、わたしって」
「……ま、まあ、そう……です、ね」
「さ、君も脱いでくれ。わたし一人ばっかりというのは恥ずかしいじゃないか」
「は、はぁ」
頭の片隅では何かおかしいと警告を発しているものの、結局アルフレッドは流されるまま服を脱ぐ。
すぐに彼も裸になって、そこに来てようやく困ったように顔をしかめた。
「あの、やっぱり僕がこんなことをしなきゃならない理由が、ですね」
「助けてくれないのかい?」
「……そうじゃないんですけど」
「まあ君の要望は追々考えていくとして、とりあえずその手をどけてくれ」
アルフレッドの手は、自らの性器を隠すようになっている。
やはり恥ずかしいものは恥ずかしいのだろうが、アーメンガードは遠慮なしに言う。
「お父さんのそれは見たことはあるが、他の人のは初めてなんだ。知りたくて当たり前だろう」
「う……で、でもッ」
「わたしも胸を隠すのをやめるから。それで対等な条件になるな」
――こういう時に弱いのがアルフレッドの悲しい性だ。長年姉と共にいたせいか。
「は、はい……はぁ……」
ため息まじりにその手を離す。現れたのは、まだ完全に硬くなっている訳でもない、半勃ち程度のペニ
ス。
アーメンガードも両手をどかして、うっすら日に焼けた乳房をアルフレッドに見せ付けた。
「ほほう、なるほど。そこそこの大きさといったところか」
「へ、変な論評しないで下さいッ」
じっくりと記念日少女はそのペニスを眺める。
美少女――というよりは可愛い、と言うべきか、とにかく少女にそこを見られると、アルフレッドも興
奮しない訳でもなくて。
その上に、彼女の素肌を眺めると、急激にとは言えないがペニスが持ち上がってきた。
「……こうやって眺めていても進展しないな。よし、適当にやってくれ」
「適当……って、言われても。あんまり僕だって詳しくないんですけど」
ぎこちない手つきで、アルフレッドはそっとアーメンガードの乳房に手を伸ばす。
あまり刺激しないように、ゆっくりと揉みしだく――
「ん……なんか、変な感じだな」
「そう……ですか?」
また乳房を指先でこね、歪ませ。段々と強く揉んでいく。
まだ少女の域から抜け出す気配もないアーメンガードの年齢だから、その乳房は柔らかさよりもまだ弾
力の方が大きい。
それでも、大きさ自体はなかなかのものだから、揉みしだくうちに手先から伝わる感触が心地よくなる。
「なかなか……ん、気持ちいい……みたいだ……ん、ふぅ」
「……はいッ」
優しく、けれども力強く。
手の中で乳房の形を変えながら、アルフレッドは懸命にアーメンガードを悦ばせようと努力する。
「ひゃうッ……ん、くぅんッ……」
その結果は、彼女の吐息となって返ってきた。
そうやって、乳房をこね回し、更に乳首も摘み刺激を続ける――と、アーメンガードは不意にぺたりと
ベッドに座り込む。
「ふうッ……なんだかこう、身体が暖かくなったというか、なんとも言えない気分だ……」
「あ、あの……こ、こんな感じで?」
「ああ。上手だな、君」
「そ、そうかな……」
「とりあえずわたしは気持ちいい。……で、その、なんというか」
段々と声が小さくなる。彼女がそういう態度を取るのは、なんだか珍しい。
「その……だな。何か、零れてきたみたいで……」
「え。……あ、もしかして――」
目をこらすと、足の付け根――その密かに陰る部分から、僅かにとろりとしたものが流れているのが伺
える。
零れ出している液体。彼女が感じている証拠だ。
「こっちの方も、その……色々して欲しいな」
「……わかりました」
まず、指でそっと撫でてみる。
一瞬彼女は震えて、また視線を戻した。
その反応を確認すると、アルフレッドはやはりゆっくりと指先で秘所を撫で、入り口付近をじわじわと
刺激していく。
「はぅッ……く……ん、んッ」
鼻から抜けるような喘ぎで、アーメンガードはその刺激を受け止めている。
それと共に、潤っていた秘所からはとろりと液が零れ出し、彼女の昂ぶりも見て取れる。
「少し、強くしますね」
指先に力がこもり、入り口を軽く押しながら撫でていく。
とろとろとしたものが指に絡みつき、じわりと濡れて滑りを増す。
「くぅん……ッ」
子犬のような喘ぎが漏れて、アーメンガードはその身をよじってアルフレッドの指に耐えた。
段々と愛液の量も増し、彼女の声も艶がかかり――
軽く息を呑むと、アルフレッドは入り口から少しだけ指を奥に進める。
「あぅッ」
更に激しく身をよじった、が――
「あ、あのッ、もしかして……痛……」
「ん……そんなことはないが……はふ……」
――痛がっている様子はない。
少しほっとして、アルフレッドは指をくにくにと動かしてみる。
膣口から僅かに潜っただけだが、そこはもうとろとろに濡れていた。
指を動かすと、それに伴ってぴちゃぴちゃと液が零れていく。
「ひぅッ、ふ、うんッ……」
段々とアーメンガードの声も絶え間なくなってきて、アルフレッドは自身も興奮してきているのを自覚
する。
指の動きはそのままに、秘所にそっと顔を近づけて――やや上にある膨らみを、舌で舐めてみる。
「くふぁッ! あ、そこッ……は、んッ!」
「ここも、気持ちいいところ……ですよね」
段々と指は奥へ入り、かき回す動きも大きくなる。
「うぁあッ、あふッ、ひッ……」
大胆に動かしても、彼女は痛がるどころか快感に喘いで、その声がクリトリスを舐める舌に力を与えて
いく。
そうやって、二つの責めが頂点に達しようとした時――
「……ちょッ……う、はぅ……ん、ちょっと、待って欲しいんだが……」
アーメンガードは、アルフレッドに静止の言葉をかけた。
「あ、はい」
慌てて指と舌を止める。
「……ふう。凄いな、本当に。こんなに気持ちいいとは思ってませんでした、はい」
「それは……僕も良かったです」
「で、だ。……そろそろ、してくれないか?」
「え」
言いながら、アーメンガードは身体を起こし、四つんばいになってその尻をアルフレッドに向ける。
「は、はい?」
「こういうのが正しい交尾のやり方なんだろう?」
「いや、そんなことないですけど」
「だって、犬の交尾はこうやるって本に書いてあったぞ」
「そりゃ犬はそうでしょうけど。……ま、まあ、いいのかな、これで」
問題が無い――訳でもないが、挿れること自体には問題はない。はずである。
「それなら、早く来てくれ。わたしも、これで結構我慢できないんだ」
「じゃ、じゃあ……行きますよ?」
「うん」
戸惑いながら、アルフレッドは自分のペニスを彼女の秘所に近づけていく。
すっかりとろとろになって、開いているそこは案外あっさりと見つかり。
位置を確かめてから――アルフレッドは、ずっと腰を突き出した。
「……ふぁッ!」
くちゅッ……と、軽く触れ合った音の直後に、ずぶずぶとペニスは彼女の膣肉を割り開いて入っていく。
「う、うわッ……こ、これッ」
亀頭を包み込んだ熱い肉は、潤いによって柔らかくこなれている。
その感触がたまらず、アルフレッドは遠慮なしに突き入れてしまう。
「あ、思いっきりやっちゃったッ……」
奥の奥に入れてから、アルフレッドは自分のやったことに気づいたようだ。
そもそも男性経験のまるでないアーメンガードに、このように強く突き入れる。
「す、すみません、アーメンガードさ……ん?」
――が。
「くぅッ……ん……え? 何か……問題でも? ふぅッ」
「あ、あの、痛くない……ですか?」
「いや、ちっとも……あ、もっと奥に……ッ」
まるで痛がっていない。それどころか、明らかに快感を受けている。
「……はじめて、ですよね」
「それは、まあ、人間相手ならな」
「……え? に、人間以外、って……」
「……わたし、這い寄る混沌のお陰でその。……そういうことをされた、はずだが」
「あ」
アルフレッドは忘れていたようだが、そもそもアーメンガードへの逆行睡眠によってその辺は明らかに
なっているのだ。
混沌の怪しげな手術により、彼女の処女は散らされ、挙句胎内に妙なものを宿らされている。
「だから、別に激しくしてもらっても多分大丈夫」
「……い、いいんですよね、ホントに」
「ああ。わたしも、そっちの方が嬉しいからな」
なんとも複雑怪奇な事態ではある。
それでもアルフレッドはどうにか割り切って、アーメンガードの腰を掴むと――
ずちゅッ。
「ひぁああッ!」
一気に奥まで貫いた。
「ちょっと、乱暴になりますね……ッ」
声をかけると、アルフレッドはまたすぐ引き抜いていき、入り口近くまで来たところで一気に打ち込む。
「はぅッ、あッ」
それだけでは終わらず、激しい勢いで抜き差しを始めた。
アーメンガードの膣肉は、その出し入れにも順応し、愛液を垂らして応えていく。
「あう、あ、あッ、奥ッ……ん、奥まで、来てるッ……」
実に心地良さそうに、彼女は喘いだ。
アルフレッドの方は、これが彼女を助ける為と分かっていても――
いや、もうそんなことは頭から抜け落ちて、ただ激しい交わりが生み出す快感に酔いかけている。
ぱんぱんと、お互いの腰が打ちつけあって音を響かせる。
一方で繋がっている場所からはぐちょぐちょと生々しい音が響き、その激しさを物語っているようだ。
「ぼ、僕ッ……アーメンガードさん、のッ、中ッ――」
「んッ……あ、わたしもッ……ひ、くぅんッ」
二人ともに余裕はなくなっている。
アルフレッドの若いペニスが、アーメンガードのまだ熟れていない秘肉を抉り、愛液と先走りを溢れさ
せていく。
彼女の腰を掴む手にも力が入って、その跡が赤く残ってしまうが――そんなものは誰も気には留めない。
「あう、あ、くぁぁッ! ん、奥ッ……一番奥、突いて、くッ……ひゃうッ!」
「……ん、はいッ……ッ!」
かき回す動きから、単純な前後動――それでも、敏感になったそこはお互いを高めていく。
「あぁぁ、や、ひ、あッ――ん、そ、そこがッ……あッ」
膣肉の上部を擦ると、アーメンガードは口から涎を垂らして歓喜する。
完璧にコントロールできるものでもないが、アルフレッドもどうにか腰を動かして彼女の快感を引き出
し――
やがて、ペニスの先に何か集まってくる感触が現れてきた。
「あ、僕ッ……そろそろッ……」
「な、なら……ぁ、い、一番奥にッ……だ、出してッ……」
「……そッ……そう、しまッ……すッ」
本来の目的は、一応忘れた訳ではないから。
ストロークを大きくとって、突く度に子宮口を擦り上げるようにアルフレッドは動きを整える。
それが、アーメンガードにもまた快感となり。
「くッ……で、出ますッ……」
「んッ」
ずっちゅ、ずっちゅと溢れる音も高くなり、そして――
びゅるるッ! びゅるッ……びゅッ!
「あぅううッ!」
熱く滾った白い粘液が、記念日を愛する少女の奥を汚していく。
マヤの言葉を信じるなら、この熱さこそが異星人の企みを打ち消すものとなるはず。
同時に、身体の奥を染められたアーメンガードもまた。
「はぁッ……や、あああッ!」
一つの頂きに達していた。
「くぅッ、ん……」
ぐったりとした様子で、アーメンガードはその身を横たえる。
四つんばいになっていた手足も力が抜けてしまった様子で、だらしなく彼女は崩れ落ちた。
「ふ……ぅッ」
アルフレッドもそっとペニスを抜いていく。
その先端からは、どろっとした名残がぽたぽたと垂れる。
「……はぁ……ん。時に少年」
「……え、はい」
「今は何時かな」
「え? えっと……もう0時過ぎてますね……真夜中になっちゃったみたいです」
「はぁ……そうか。なら、うん――」
まだぐったりとしたまま、彼女は顔だけをアルフレッドに向けた。
「どうだろう。今日をわたしのはじめての日、ということにするのは」
「……ご自由にどうぞ」
「よし。ならそうする。……いや、気持ちよかったぞ」
「そ、それは……何よりです、僕も」
また微妙な会話になってしまったが。ともあれアルフレッドはほう、と一息ついた。
――と、その刹那。
「……んッ!?」
アーメンガードが、不意に下腹部に手をあてた。
「な、なんだか妙な感触が……」
「え、だ、大丈夫ですか?」
きゅるきゅるきゅる、と妙な音がアルフレッドにまで聞こえてくる。
「お腹が……う、くッ……」
「あ、あのッ」
「痛くはないんだが、これは……一体……」
二人が困惑していると――また、唐突な出来事が彼らを襲う。
「それこそが百魔獣の王の最期よッ!」
いきなり。まさにそう形容するしかないタイミングで、部屋の扉が開き――
「ね、ね、姉さんッ!?」
「でかしたわ、アル。これでアーメンガード……だけじゃない。ファルガイアは救われたのッ」
入ってきたのは、マヤ・シュレディンガー。今回の件の張本人というか、そのようなものだ。
二人が裸で絡み合っていても、ちっとも気にしていないのは流石というべきか。
「あ、マヤさんか。ということは、わたしは……」
「ええ。アルの精液が、今頃胎内の百魔獣の王と打ち消しあい、そして――滅ぼしているのよ」
「……なるほど」
しかし、そこでアーメンガードはふむと考え込む。
「だが、ふと思ったんだが……孵りかけの卵を割ると、ひよこのエグいのが出てきたりしますよね」
「……ああ。アレはかなりね」
「で、ラギュ・オ・ラギュラの卵がわたしの中にあったのなら、それが滅んだとしてやっぱりエグいの
が出てくるんじゃ」
ちっち、とマヤは指を振った。
「大丈夫。完璧に溶けちゃってるわ、お腹の中で。だから出てくるのは液体みたいなもののはず」
「ほほう」
「これでも勉強したのよ、アタシは。……とにかく、こうして任務は完了。アルもアーメンガードもよ
く頑張ったわ」
アルフレッドは、思い切り複雑そうな表情で頷いた。
「……ホントにこれでよかったのかなあ」
「当たり前じゃない」
「いや、これでわたしもまた記念日を広めることが出来る。凄く感謝しているとも」
――とりあえず、マヤとアーメンガードの二人は朗らかに笑った。
その翌日。
シュレディンガー一家はまた旅立っていって、残ったアーメンガードは例によって一人で墓地に佇んで
いる。
なにやら考え込んでいるようだが―ーと、そこに三つ編みの少女が近づいてきた。
「おや、ヴァージニアじゃないか」
「ええ、久しぶりね、アーメンガード。ちょっと母さんのお墓参りに来たんだけど……」
「そうか。熱心だな」
気心の知れた幼馴染だけに、ヴァージニアもアーメンガードも特に何か尋ねたりしない。
そうして、ヴァージニアは母の墓の前でよく祈ってから、ふとアーメンガードに顔を向けた。
「そういえば、今日の記念日って何だっけ?」
「……ああ、うん。今日は……わたしのはじめての日だ。いや、アレは案外気持ちいいもんですね。癖
になるかもしれない」
「へえ。……は?」
「もっとも記念日を愛するわたしにとってはそれに溺れる訳にもいかず、禁欲を貫くつもりだったりす
る。そんな決意をしたのが今朝方だ」
「アーメンガード……貴方、それは……」
「……ま、わたしも一歩ずつ大人に近づいているということだな」
どう反応したらいいのやらと額に指をあてて考え込んでしまうヴァージニアに――
アーメンガードは、したり顔で頷いた。
まったくもって、ブーツヒルの午後はのんびり暮れていくものである。