私の緩んだ右手から杖がこぼれ落ちる。  
紋章魔法の詠唱中に夢魔エリザベートの鋭い一撃を受け右肩から肘までを深く切り裂かれ、その痛みのため思わず杖を握る手がゆるんでしまったのだ。  
私は負傷した右腕を庇うように逆の左手を伸ばし杖に飛びついた・・・  
しかし、一瞬左手を伸ばすために体を捻った分、  
エリザベートの方が速く杖に伸ばした私の左手を彼女のピンヒールが容赦なく踏みつける。  
「薄っぺらなアンタなんかに負けるわけないじゃない」  
勝ち誇ったエリザベートは私の手を踏みつけた足に一層力を込める。  
「・・・ッ!」  
踏みつけられた左手の甲から血が滲み痛みは確実に体に無力感を刻み込んでいく。  
・・・だけど  
私がここで負けたら・・・  
自分の痛みよりもロディが目覚めないことの恐怖、  
なによりも彼女にロディを渡したくない!  
私は踏みつけられた左手に力を込めるとエリザベートの足元から力任せに引きづり出す!  
熱のような感覚を伴った激しい痛みが左手に走る。  
が、構っていられない!  
血塗れの手で杖を握ると私は呪文の詠唱に入る。  
「ふ〜ん・・・そんなに大事なんだ」  
エリザベートのどこか私をからかったような声でも気にしてられない!  
「じゃあ、こんなのはどう?」  
私はエリザベートの状態に左右されない無属性魔法デヴァステイトの詠唱を終え魔法を発動さようとした時、  
「虚無のしる・・・えッ!」  
周りの景色の変化に気づいた。  
 
思わず私が魔法の発動を中断してしまった風景。  
それは、懐かしい・・・風景。  
アーデルハイドの宿屋。  
まっすぐお城に帰る気になれず、なんとなく食事をとりに入った宿屋。  
そして、一見頼りなさげに見えるまだあどけなさの残る少年。  
そう・・・私はここで初めてロディに出会った・・・  
・・・でも、  
私の居るはずの場所、そこに私は居ない・・・  
そして、代わりにエリザベートが・・・  
そして、ロディにはエリザベートに話しけかける。  
「嫌です!ロディ!」  
思わず私は必死で手を伸ばし駆け出す。  
ちょっとした出会い。  
だけど、私には最も大切な思い出の始まり。  
例え夢でもそれを否定されたくない!  
しかし、ロディは私の手をすり抜けエリザベートと共に行ってしまう。  
私がロディに手が届かず、悲しみからか悔しさからかしゃがみ込むと  
いつの間にか私の背後に回り込んでいたエリザベートが  
私の首から右肩に腕を廻し  
グチャ!  
「・・・あッ!」  
その細い指から生える鋭い爪で私の肩の裂傷を弄びながら  
耳元に優しく囁く  
「ねえ?ただの夢だと思っている?  
 でも、夢に逃げ込んできた今のこの子には夢が全てなのよ」  
「ッ!」  
半ば解っていた・・・  
だから、先程あれだけ必死になった・・・  
「ほら・・・今度は何かな?」  
 
エリザベートは相変わらず私の傷を弄びながら残った手で前方を指さす。  
燃え盛るアーデルハイドでのベルセルクとの戦い  
ミラーマでの食事  
ガーディアン神殿の試練  
ロディの中の私との思い出が次々と塗り返られて行く・・・  
私の居た場所が全てエリザベートに変わっていく・・・  
「もう・・・止めて下さい・・・もう・・・」  
耐え切れなくなった私の口から哀願の言葉が漏れ、同時に瞳から涙があふれてくる。  
「そうね・・・じゃあ、そろそろ次で止めてあげようか?」  
エリザベートのその言葉と同時にまた景色が変わる。  
一面の雪景色に・・・  
「・・・ッ!ここはッ!」  
自分の血の気がひくのが判る。  
「ここだけはッ!ここだけは止めてくださいッ!!」  
初めて自分の気持ちを自覚した場所。  
初めて公女でなくセシリアとして決心した場所。  
ゼノム山  
いつか私がロディを守る。  
そう決心した場所。  
「お願いですッ!何でもしますからッ!」  
私はそこを汚されたくない一心で必死でエリザベートに哀願した。  
「何でも?」  
相変わらずからかうように優しく囁くようにエリザベートが聞き返す。  
「お願いします・・・ここだけは・・・ここだけはッ!」  
「そうねえ・・・」  
少しエリザベートは考え込むと  
「やっぱりダメ。  
 だって、どうせもうアンタはアタシおもちゃなんだから」  
エリザベートの言葉と  
同時に転がって来た大岩からロディがエリザベートを庇い、  
そのまま二人はもつれながら転がる。  
 
ロディに庇われたままの姿勢でエリザベートは四肢から力が抜け落ちたように崩れたままのセシリアにあくまで優しく囁くように声をかける。  
「ねえ?そろそろ、この子もらっても良い?」  
もらう?  
大切な人の中から一つ一つ自分の消える絶望感が支配した  
セシリアの頭では一瞬、その意味を計りかねる。  
・・・が、  
すぐにその意味はエリザベートの行動により明らかになる  
。  
大岩からエリザベートを救い立ち上がろうとしたまだ半端に立ち上がっただけの不安定な体勢のロディの腕をエリザベートは自分の方に思いっきり引き寄せその唇を奪う!  
「・・・ロディッ!」  
衝撃的な光景にセシリアが身を乗り出す。  
その急激な動きにより右肩の激痛が体中に走り腕が体を支え切れずに崩れ落ちる。  
「もうッ!うるさいなあ。  
 でも、仕方ないよね?  
 そうやって声だけでも出して心配してるフリすれば、アンタは満足出来るんだもんね」  
「そ・・・ッ、そんな私はッ」  
「じゃあ、なんでこの子は此処に居るの?  
 アンタがホントにこの子を受け入れられるなら、ここに逃げてくる必要もなかったんじゃない?」  
「・・・ッ!」  
セシリアは言葉に詰まる。  
あの時  
ロディの体の秘密を知り  
魔族かも知れないそう思った時、ザックに怒鳴られなければ本当に自分がロディを傷つけてなかったかと言われれば自信がない。  
ううん、それだけじゃない  
本当に魔族であってもロディはロディのはずである。  
にも関わらずロディがホムンクルスであり魔族でないと知った時、安堵した・・・  
それはロディという個の否定ではないのだろうか?  
そんな自責に悩むセシリアを横目にエリザベートは再びロディの口を求めつつ、彼の服を脱がしていく。  
もともと、自分を受け入れてくれる存在を求めて夢に逃げ込んだロディの方はそんなエリザベートのあくまで優しい行為を拒むことなく一枚一枚と脱がされていく。  
 
何も出来ないセシリアの前で  
ロディの服を脱がしたエリザベートはいつの間にかロディと体を入れ換え、エリザベートが上に覆いかぶさる形で自分の服を脱ぎつつ啄むようにロディの体に無数のキスを浴びせていく。  
そして、そのキスの度にまったくの受け身のロディの体も序々に反応してゆき、その体の変化は離れた場所に居るセシリアの目にも見えて取れる程に雄々しい物であった。  
「もしかして、見ているだけで感じてない?」  
「ッ!」  
ロディの体に見とれていたセシリアに掛けられたエリザベートの唐突な声は彼女本人さえ気づかなかった体の変化を自覚させ、それを自覚したセシリアの顔がみるみる紅潮していく。  
「そッ・・・そんな事ありませんッ!」  
必死で否定するが  
「まぁ、どっちでも良いわ。  
 アンタはこの子をたっぷり味わってから相手をしてあげるから、今はね・・・」  
心の手折られた今、その精神の力を紋章を通し力に代えるセシリアはエリザベートにとって敵でない。  
まして、ここは精神の力そのものとも言える夢の中である。  
エリザベートは安心してロディに集中する。  
長めの尖ったエリザベートの指がロディの首筋から赤い筋をつけつつ少しづつ下がって行き、その指が胸をなぞった時ロディが歯を食いしばるような、しかし明らかにそれとは違う表情をする。  
「ロディ・・・」  
初めて見るロディの表情。  
それはセシリアの先ほどから感じる疼きのような感覚を一段と強くすると同時に、どうしようもなく強くセシリアの心に湧き出る気持ちを自覚させ、  
その気持ちはエリザベートの指がロディのモノを掴み  
エリザベートの彼女自身に導こうとした時に  
「嫌ですッ!ロディッ!!」  
止められない声となって溢れ出た。  
今のロディの記憶の中に居ない今の自分の声の声は届かないかもしれない。  
それでもセシリアは何か大切な気持ちは彼女の声として溢れ出、  
ダメージを受けた身体をつき動かす。  
 
「ッ!」  
杖を掴んだ左手に痛みが走しり血が流れる。  
そもすれば痛みと血が湧きかけた気持ちも一緒に流しそうになるのをセシリアは再び、大切な人の・・・  
ロディの事だけを考えつなぎ止め杖を支えに立ち上がる。  
「みんながロディを待っているんです・・・  
 ロディは貴方には渡しません・・・  
 それはぜったいにせったいですッ!」  
ぜったいにぜったい、  
母から教えてもらったおまじないをセシリアは自分に言い聞かせるように力を込め声に出す。  
「もうッ!まだ邪魔する気ッ!  
 いい加減にしてくれないかな?  
 力もない癖に・・・ッ!  
 もうこの子にとってアンタは他人なんだから邪魔しないでよッ!!」  
ロディを入り口に当てがった状態で予想外の邪魔にあった  
エリザベートは少し苛ついたようにロディを優しく横たえると  
セシリアを向き直しその手の中に闇を弄ぶように魔力を集めていく  
「罪の心よ・・・」  
エリザベートによりセシリアの周りに現れた闇の属性を秘めた力場スクリーミングマッドは、ようやく立ち上がったセシリアを飲み込んでいく。  
「フン、大人しくしてれば気持ちよく眠らせてあげたのに」  
闇に飲まれゆくセシリアを眺めエリザベートがどうロディを弄ぶかに頭を切り替えようとした瞬間、  
セシリアが飲まれた闇から赤き光が  
一条  
また、一条  
と次々に洩れ出しあっと言う間に闇を消し去っていく。  
「これは・・・」  
セシリアの消耗しきった力が赤い光が優しく回復していくのを感じ、同時に光の原因に対する疑問を持ったが  
今はロディを助けるのが先と判断し回復した力の全てをクレストグラフに込めエリザベートにぶつけるッ!  
 
エリザベートの消滅とともに  
ロディを閉じ込める安らぎという名の檻がまるで硝子が割れるように砕け消えていく・・・  
「ロディッ!」  
砕け消えいく世界、未だ目覚めぬロディを抱きあげたセシリアの背筋に冷たい物が走った。  
ロディの身体が冷えきって居るのだ。  
これが誰にも受け入れられない現実にロディが脅えているから?  
でも、それはロディの間違い・・・  
皆がロディを待っている。  
・・・私だってロディを・・・  
そう思ったセシリアは意を決し服を脱ぎ捨て強くロディを抱き締めた。  
夢の中で体温によって身体を暖められるかは疑問であったが、  
ロディを失いたくないセシリアは何かせずに居られなかった。  
セシリアは必死で体を全てでロディを摩り、体温と摩擦熱によりロディを暖め続けた。  
「ッ!」  
突然、セシリアの顔に先ほどの戦闘ですっかり冷めていたはずの紅潮が瞬時に戻る。  
ロディはつい先までエリザベートに弄ばれていた時のままの硬さを保っており、それがロディを抱き締めたセシリアの下腹部に当たったのだ。  
しかも、  
「ッ!・・・ロディッ!」  
触れてしまったのがまずかったのか、ロディの眉間に苦悶のしわが幽かに浮かぶ。  
そして、それは彼女がロディを暖めようとするほどにロディの苦しみが増しているように見えてしまう。  
「・・・どうすれば・・・」  
貴方の苦しみを取り除けますか?  
セシリアの胸に例え切れない程の焦燥が込み上げてくる。  
 
焦るセシリアの脳裏に、先ほどのエリザベートの行為  
ロディと繋がろうとした行為が唐突に浮かぶ。  
「・・・もしかしたら」  
あれが自分の心を  
ロディを失いたくないという心を証明出来る・・・  
理屈よりも心がそう感じる  
セシリアは意を決するとロディの唇に自らの唇を重ねた。  
触れるか触れないかの軽い口付けではあったが、  
初めてのキス。  
それだけでセシリアの心臓が破裂しそうな程に高鳴る。  
一度、唇を離したセシリアは頬に掛かった髪を手すくように軽く耳にかけ、意を決っするように一呼吸取ると、  
再びロディの唇に自分の唇を寄せ、今度は先ほどの口付けと違い深く唇を合わせる。  
「・・・んッ」  
多少の息苦しさを感じたが、セシリアは構わずに更にロディの口内に舌を差し入れていく。  
力の入ってないロディの歯は容易に開き、セシリアの舌を受け入れる。  
「・・・ん・・・あッ」  
ほんの少し、  
本当に幽かであったがセシリアの舌がふれた瞬間、ロディの舌がそれに反応したようにセシリアの舌の先を擦るように動いた。  
そして、たったそれだけではあっても初めての感覚はセシリアの全身に電撃のように走り声として洩れ出てしまったのだ。  
思わず反射的に離れそうになる唇を必死に抑え、  
セシリアはロディの唇を更に激しく求める。  
「ん・・・ん・・・」  
どの位の時間をキスに費やしただろうか  
セシリアはロディの唇から自分の唇を離すと体を起こし  
ロディ自身に優しく手を添えると、自身の大切な部分に導く。  
 
「ッ!!」  
ロディの先端が僅かに入っただけ、  
それだけであるが、初めての上に準備もしていないセシリアに今までのキスの甘い余韻を吹き飛ばすほどの激しい痛みが襲う。  
「んッ!・・・はあ・・・ふぅ・・・」  
ロディの先端のみを受け入れ腰を少し浮かした状態で、セシリアは痛みの対するために呼吸を整える。  
そして、息を止めると腰を沈め一気にロディを自身の中・・・最も奥に沈める。  
「ッ!」  
文字通り裂けるような痛み。  
あまりの痛みに硬直した体でセシリアは声も出せないまま歯を食いしばり痛みが治まるのを待ち、  
ほんの僅かだが痛みがひいた瞬間、少し腰を捻るように動いてみる。  
「んッ!」  
突き刺すような痛みがぶり返し、セシリアの目に涙が浮かぶ。  
・・・が、今度は止まらない。  
序々に自分の体に言い聞かせるようにゆっくりと動いていく。  
そして、その内  
痛みに僅かづつだが、確かに  
キスの時のような感覚が混じり始める。  
「・・・ロディ」  
その感覚に先程のキスを思い出したセシリアは、大切な人の名前を呟くと三度、その唇に自分の唇を寄せ貪るように深く口付けをする。  
「あッ・・・ん・・・」  
繋がって始めてセシリアの口から痛みに耐える以外の声が漏れ、それと同時に今まで単に捻るように動いていただけのセシリアの動きが上下し始める。  
その動きに合わせ、唇を合わせているロディの呼吸が少しづつ早くなるのが解る。  
それがセシリアは嬉しく、痛みはあったが少しづつ動く幅が大きくなっていく。  
「ッ!」  
その内に唐突にロディがセシリアの中で一層、大きくなり達し弾けるような感じをセシリアに与える。  
 
「・・・はぁ・・・はぁ」  
ロディの熱を体内に感じたセシリアは崩れ落ちるようにロディの体を抱き締め、  
その体にほのかな暖かさが戻っているのを確認すると安堵で力が抜け、覆いかぶさるようにロディに体を預ける。  
「心を強く持って下さいッ!  
 誰かを大切に思うことの出来る、貴方は誰からも大切に思われる貴方でもあるのです。  
 ッ!  
 そう・・・そうだったのですね・・・」  
ロディを見、  
そして自分に足りない事、  
気づくべき事に気づいたセシリアをラフティーナの赤い光が照らしていた。  
 

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