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暗闇の中、寝台に腰掛けたゼットは膝の上に乗せたアウラの存在を堪能していた。
今夜は二つの月も星々も雲に覆われている。
家の主であるアウラはもともと光に頼れぬ身だからランプの火は灯っていない。
暖炉の火が必要な季節でもない。
時折、夜行動物の眼の様に輝くゼットの金の瞳だけが今この家の中の光だった。
彼の眼球は可視光の他に物質から生じる熱と赤外線をも標とすることが出来る。
今も周りの家具が素材の温度差による寒色の彩りを滲ませ、それぞれの輪郭をゼットに伝えていた。
その中でアウラだけが温かな色の光を纏っている。
ゼットは今、そんな幻のような世界の只中にいた。
まるで光そのものを自分の腕に抱いているようだ。
四日前の晩に歪んだ経緯で彼女と初めて体を重ねた。
初めて口付けを交わしたのはその翌日に当たる三日前の朝だ。
そして今は二度目の交わりに向けて彼女の服をはだけさせ、下着を外しているところだった。
アウラは腕を袖から抜き、腰を浮かせるなどの協力をする間にも熱い吐息を零しながらゼットの頬に触れ、髪を撫でていた。
ショーツを引き抜かれて全てが露になったアウラにくいくい、とマフラーを引っ張られる。
「ゼットさんも脱いでくれる約束でしたよね?」
「おう、オレは約束に関しては信頼できる男だぜ…ご開帳までジャストモーメントプリーズ」
アウラを膝上から隣に移し、せっせと鎧類の止め具を外し始める。
実を言うと曲者なのは防具でなく、その下の服だったりするのだ。
(特にこの脚の部分がなかなか抜けなくってな…)
彼女の隣で脱衣にもたついている状況は妙に気恥ずかしい。
なんとか脱ぎ終え、改めて自分の体を見下ろす。
少なくとも外観はニンゲンと変わらない、はずだ。体表は全て生体部で覆われている。
(いきなりビックリさせちまう事にはならないだろうが…)
腹に詰まっているのは機械の臓腑だ。
正面から抱き合えばヒトとの差異を歴然と伝えることになるのだろう。
彼女がこちらの正体に気づきながらも受け入れてくれていることはもう知っている。
よく考えれば今も使っている特殊な視力を隠すことまで気を回さなかったのもそれと悟らせる一因だったのだろう。
しかしながら、より決定的な裏付けをもう一つ与えてしまうことになると思うと…
「ゼットさん……!」
唐突に飛び込んできた体を反射的に受け止めた拍子にもつれる様に倒れこんでしまった。
「な、ナイスタックルだアウラちゃん…っていうかオレ今心の準備真っ最中なんですけどッ!?」
思わず腰を退くこちらにはお構いなしにしがみついてくる。
「これがゼットさんの体…ああ……」
顔を首筋にうずめ、やわらかい胸をぎゅうぎゅうに押しつける。
接触したところから彼女の体温が自分の体に移されて暖色に染まるのが視えた。
懸念の元である腹部もたちまち密着させられてしまう。
「あっ……」
感触に気づいた彼女から上がったのは、戸惑いでなく官能の声。
その声はゼットのためらいを不思議な満足感に取って代わらせた。
抱きしめ返しながら体を反転させ、仰向けかせた彼女に覆い被さるように座る。
片手で彼女のなだらかな肩を撫で、もう一方の手は形の良い乳房に引き寄せられ…そこまでやったところで図らずも四日前の強引に奪ったときとよく似た体勢になってしまったのに気づいた。
「…………」
己の過ちをありありと思い出してしまい手が止まる。
あの日偶然の重なり合いで彼女の自慰を目撃し、衝動が命じるままに彼女の花を散らしてしまった。
あれは全部自分の責任だ。彼女の痴態は、背中を軽く押しただけに過ぎない。
体は卑しい欲望に従い、同時進行の良心の呵責は脳裏を虚しく掻き回すばかりだった。
その良心だって、アウラが痛みからの悲鳴以外は一切の抵抗らしい抵抗をしないでくれたからこそ保てたようなものだ。
もし彼女が暴れ、拒み、許しを請うたりしていたら自分はもっと取り返しのつかないことをしていただろう。
頬を張ったかもしれない。鳩尾に拳を落としたかもしれない。
拒絶されることにさえ昂奮を高めて笑いながら犯したかもしれない。
あの時の自分はそれくらいにどうかしていた。
「ゼットさん?」
怪訝そうに問い掛けてきたアウラに顔を寄せて囁き、誓いのような口付けを額に降らした。
「これからはずっと、いつものオレだからな…」
乳房の外周をさするような愛撫を始めると、たちまち桜色の先端が尖りだした。
これまで彼女は何度も自分を想いながら手淫を繰り返したと言っていた。
その回数がどれほどのものだったかはこの感度の良さによって充分に伝わってくる。
愛しさがこみ上げると同時に、彼女の体を一から開いたのが自分でないことを残念に思う。
(ならば手では出来ないアレコレをしてあげるまでッ!…正直、オンナの悦ばせ方なぞ考えた試しはないがその辺はオレ様の第六感で後は野となれ、山の如しッ!)
とりあえず乳輪の外側辺りにそろそろと舌を這わせてみる。
「んんっ……」
アウラの口からもどかしげな呻きが漏れる。
「ん……んっ…」
乳頭を舌に当てようと身を捩りだしたが、ゼットの手が膨らみの付け根を固定しているので上手くいかない。
いいように焦らされ身悶える彼女の声に泣きが入りだしたところで初めて先端に歯先を食い込ませてやる。
「あふぁっ……!」
待ち焦がれた刺激を与えられ、背中を仰け反らせて硬直した彼女をさらに追い立てるべく強く吸い上げる。
もう一方の乳首も指ですり潰すように捏ね回していると、不意に切羽詰った声が上がった。
「お願いです…こっちにも……ください……っ!」
何事かと身を起こすと、彼女は自らの秘裂に手を伸ばす。
「ゼットさんにしてもらうほうが絶対に気持ちがいいから…自分では触らずにずっと我慢していたんです。そしたらこんなに熱く…」
人差し指と中指で広げて見せられ、その言葉が誇張でないことを知る。
暗闇の中でくっきりと姿を現したそこは充血した鮮肉と同じ、熱い色の光に塗られていた。
たまらない気持ちになり、割れ目全体を舌で覆うようにむしゃぶりついた。
「はぁぁ………っ」
切なげな嬌声を聞きながら、そのまま動かずにまばらな柔毛と中心の湿った花弁の感触を口内で味わう。
こんなに繊細な部分を乱暴に扱ったのかと思うとつくづく四日前の自分を張り倒したくなってくる。
破瓜の傷はちゃんと癒えているだろうか? 一旦口を離して人差し指を慎重に差し入れてみる。
「あっ……くぅぅ…」
入り口の内周をぐるりととなぞると彼女から子犬の様な鳴き声が上がった。
続けているうちに割れ目の上端に浮かび出した小さな肉芯に目が止まる。
あの夜のアウラがこの辺りをショーツの上から激しくなぞり立てていたのを思い出した。
試しに舌で撫ぜ上げるように舐め出したとたん、甲高い叫びが漏れた。
「ゃん!そ、そこはっ…あっ、あっ…」
「弱点発見ッ!てやつか?ならばセオリー守って一点集中突破と行かせてもらうぜッ!」
「そんなっ、んあっ!はっ!ひゃうっ…!」
規則的に動かし始めた舌が牝芯を擦り上げる度に裏返った声が上がる。
「ああぁぁぁ……っ!」
痙攣と脱力。あっさりと昇りつめさせてしまったらしい。
間を置かずに指先で周りの皮を広げて全体を剥き出しにし、先を尖らせた舌を押しつける。
「やっ!わたしっ……まだっ…」
痺れが収まらないままの所に重ねられる新たな刺激から逃れるべく身を起こそうとするアウラ。
しかしゼットの手はあらかじめ太股の付け根をがっちりと固定していて牝芯の位置は1ミリたりともずらせなかった。
「はあぁぁっ……!」
立て続けの快楽を味わわせたところで解放し、彼女の秘所を眺める。
散々舐り尽くした花珠はくっきりと肥大し唾液にまみれて淫猥に光っていた。
花弁の間から溢れた蜜でシーツに大きなシミが出来ている。
そのしどけない光景に再び劣情が燃え上がり、今度は右腕全体で彼女の腰を拘束して陰唇に口を付ける。
「!ゼットさんっ…それは、もう、やめっ…ああぁっ!許して…くださ……ぃ」
両手でシーツを掻き毟り、金髪を振り乱してもがきだしてもアウラがゼットの腕から外れられるわけはない。
人間が彼の腕力を上回った事例はないのだから。(グッズによるチートはノーカン)
ゼットは彼女を口唇で犯すという行為にすっかり病みつきになっていた。
舌を膣口に入れても、染み出た蜜を喉を鳴らして飲んでも、彼女の体は敏感に反応を返してくる。
空いた左手を伸ばして張り詰めた乳房を揉みほぐしてやる頃には息も絶え絶えになっていた。
仕上げとばかりに牝芯を強く吸い上げるとアウラは声の無い三度目の絶頂を迎えた。
「ひどいですっ……!」
果てた表情を見たくて顔を覗き込んだとたん、しゃくりあげながら抗議されてしまった。
「わたしばっかり、こんな…っ。ゼットさんを一人でするときの道具にしてるみたいじゃないですか。ひとつに、なりたいに…」
こっちは楽しくて夢中になったまでなのだが、彼女は自慰の手伝いをされたように受け取ったらしい。
「ス、スマン。可愛かったからつい…。そうだな。気持ちイイだけじゃ駄目だよな…」
涙を指で拭ってやってから、彼女の善がり声を満喫することですっかり硬直していたものを秘裂に押し当てた。
先端を押し込んでからゆっくりと貫いていく。
「くあっ……あっ…あああああっ……ゼットさん…ゼットさん……ああっ」
膣道は狭かったが潤沢な愛液のお陰で順調に深部へ到達した。
四日前は感覚が邪欲に狂わされていた所為でよく味わえなかったが奥は入り口に比べてやや固く、慣らされていない青い感触だ。
せわしない呼吸が収まるまで動かないように努めつつ、彼女が苦しんでいないか確かめる。
「アウラちゃん…痛くないか?」
「大丈夫です。でも…ごめんなさい…ゼットさんのことも良くしてあげたいのに…力が、入りません……っ」
前戯の段階で一方的に三回もイかせてしまったのだから無理もない。
「だから…もう、ゼットさんのお好きなように……動いて…っ」
頷き、互いの両の手指を絡み合わせてから抽挿を開始する。
好きなようにとは言われたが、最初は彼女の反応に気を配りながらゆっくりと動き出す。
「ん……あっ…いい、です。すごく……」
彼女の声に体温が押し上げられていく。
目を閉じていてもわかる。今、自分の全身は彼女から移った熱が行き渡ったかのように熱く色づいているだろう。
交合は次第に激しくなり、繋がっている部分の水音が闇の空間を染めていく。
「やっ…はっ……わたし、もう…っ!」
彼女にも自分にも限界が訪れてきた。
「ゼット、さん…一緒、に…んむっ!」
彼女の言葉さえも貪るように唇を奪いながら、渾身の力で突き入れた。
「んーーーーーーーっ!」
達したのは彼女の方が僅かに早かった。
快楽に震え続けるアウラを引き寄せながら、迸る全てを彼女の中に放った。
狭い膣内を一瞬で染め上げ、溢れた分がシーツを汚す。
細い指が結合部に伸び、とろりとした白濁を指で掬った。
「これがゼットさんの…」
親指と中指の腹を擦り合わせて感触を確かめている。
「とても、温かいです」
彼女は目を細め、汗の滲んだ頬には美しい微笑みが浮かんでいた。
「少し…怖いです」
腕の中のアウラが涙声で言う。
「こんなに、幸せすぎて」
「そうだな…オレ達はファルガイア一のシアワセ者だ」
金色の髪を優しく撫でてやっているうちに彼女への感謝が自然に出た。
「ありがとう」
そして。
「ありがと、な」
二度目の礼は窓の外、漆黒の夜空に向けたものだった。
守護獣でも、惑星ファルガイアでもなく。
宇宙をもひっくるめたこの世界そのものへの感謝だった。
予定通り、日が昇るか昇らないかの時間に目を覚まして体を起こす。
昨夜は同室の少年と老け顔がいびきをかき出してからこっそり抜け出して来ていたのだ。
アウラに黙って出て行くのは気が引けるが、今すぐテレポートジェムで戻れば彼らが起き出す前にあちらの寝床に戻れるだろう。
「もう行ってしまうのですか?」
「へっ!?起きてたのかッ!?」
「この前はもっとゆっくりしていってくれたじゃないですか。皆さんが街から出る時間までに合流できればいいって」
「いや、あの後はオレもあいつらもそれなりに気まずい思いをしたんでな…やつらが寝こけてる間に往復できるならそれに越したことは…」
「でも、ここがこんなになったままでは…」
そこまで言われて初めて、彼女の指先が局部に置かれていたことに気づいた。
反射的にガバッと掛布を剥ぐとそこははっきりと膨れ上がって天を向いていた。
(こ、これはいわゆる成人男性(オトナノオトコ)の朝の現象ッ!?こんなとこまでニンゲンに近かった覚えは無いぞオレの体っ!?)
「私…こういうときどうするか知ってます」
おもむろに舌を伸ばして近づけてくるのを見て思わず逃げ腰になったが。
「ア、アウラちゃん。そんなことする必要はアゥ」
握りこまれてしまった。
いささかの逡巡もなく舌先で竿に触れ、根元から先へ唾液で線を描くように舐め出す。
動きは画一的で口に含むこともない拙い口淫だが、それは見ているだけでゼットの体に電子の律動を駆け巡らせ、無駄な電圧で思考回路が狂いかねないほど淫靡な光景だった。
「くぅぅぅ……」
もちろん触覚的な刺激も残酷なほど心地よい。
もはや漏れてしまう声を噛み殺すのがやっとの状態だ。
今の自分はさぞ情けない顔をしているだろう。
なすがままになっていると急に舌の動く調子が変わった。
子猫がミルクを舐める様にぺろぺろと先端の裏を重点的に刺激しだした。
「やややヤバイ!それマジヤバイから!離れッ……!」
ぱたっ…ぱたぱた…
大量の白く熱い液体が彼女の前髪を汚し、顔にも垂れていく。
「わ、悪い!ぶちまけるつもりはなくって…いや、されたら出すしかないものだけどッ…こんな派手に…と、とにかくスマン!」
「じゃあ、お風呂…一緒に入ってくれますよね?」
上目使いにこちらを向いたアウラはいたずらっぽく笑った。
長方形の浴槽の中でゼットは言葉もなく赤面していた。
石鹸の泡を纏ったアウラの白い胸が腹筋の辺りから胸部へとせり上がり、また元の位置に戻っては再び伸び上がってくる。
水位の浅い湯につかりながらこれが延々と繰り返されていた。
アウラは顔周りを軽く流した後、石鹸を自らの上半身に塗りつけ…ごく自然に抱きつくような流れでこの行為にゼットを誘い込んだのだった。
彼は大人しく浴槽の側面に背を預け、この唐突な奉仕をぎこちなく受け入れていた。
実は入浴という行為自体にさえまだ慣れていないのだ。
食事と睡眠は生命維持に必須でなくとも、消耗した力を補充する手段として有効だからロディ一行に加わる前から嗜んでいた。
しかし湯と石鹸で体を洗うという習慣には馴染めていない。
自分の新陳代謝ペースはニンゲンのそれと比べてずっと緩やかだから必要性の実感に乏しい。
アイドルとして身なりには気を使ってきたが、それもフォトスフィアにいた頃は装置による洗浄消毒という短い作業で事足りた。
(それはそうとこの中、最初から水が溜まってたよな…)
浴槽にはあらかじめ腰から下を浸すほどの水が張られており、熱湯を加えるだけですぐに準備が整った。
妙な用意周到さが気になって彼女に問う。
「あの…ひょっとしてアウラちゃん最初からこれがやりたかったのか?」
「そう、です……んっ…“とっておきの技”の一つでっ……教えてくれたおばさん、『好きな人が出来たらやってあげなさい』って言ってました…あっ…」
答える間も動きを止めず、頬をピンク色に染め表情はうっとりしている。すっかり盛り上がっているようだ。
言葉の合間に零れる嬌声の所為もあって、ゼットの方にも彼女の興奮が伝染し始めた。
(うっ…発電器官が要りもしないエネルギーを生成しだしやがった…どっかの回路が焦げてる気がする…論理思考系統も落っこちちまうんじゃ…)
「他にもっ…靴下だけ履いてするとか…首輪をつけてするとか……いろんなのがありますから、たくさん試しましょうね…ああっ……」
(もーいいってッ!腹いっぱいッ!それ以上はっちゃけた事言ってくれるなアウラちゃん!鼻から水銀が出ちまうからッ!)
湯の温度は時間の経過によって下がっているのに、目の前で可愛らしく昂まっていく彼女の艶姿によってゼットは完全にのぼせてしまった。
浴室の窓から差し込む光で時刻はすでに朝飯時だと悟る。
こうなったらもう時間いっぱいまで翻弄されてしまおうと覚悟を決めることにした。
その頃、ロディ達は宿一階の食堂に集合して朝食を楽しんでいた。
「あの野郎、戻ってきたらどうからかってくれようか…石鹸の匂いなんか纏わりつかせてたりしたらただじゃおかねえ」
コーヒー片手に楽しみ半分、僻み半分な口調で呟くザックの隣でロディは女性陣が集まる別テーブルへぼんやりとした視線を向けていた。
幸せそうな顔のセシリアがオレンジジュースをストローで啜っている。
律儀にもチェックイン時の人数分で運ばれてきたモーニングセットは彼女が二人前を平らげることで処理されていた。
サラダのプチトマトを齧っていたハンペンがロディの視線の向きに気づいたが、例の豪快な食べっぷりに目を奪われていたのだろうと特に気にしなかった。
口数少なく、大人しい印象のこの少年の本心が明らかになるのはまだだいぶ先の話である。