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「うれしいです。こんな早い時間から一緒にいられるなんて…」  
「ああ。今日は一日中一緒だぜ」  
ベッドに腰掛け、互いの舌を撫で合うような口吻を交わすゼットとアウラ。  
太陽の光がくっきりと差し込む時刻にもかかわらず、彼らの瞳には情欲の光が満ちつつあった。  
「たくさん、可愛がってくださいね」  
性行為の主導権はどちらかが一方的に掴んでるわけではない。  
ゼットがアウラを快楽責めで骨抜きにする日があれば、アウラの積極性がゼットをたじたじとさせる日もある。  
今日のアウラは前者を望んでいるということだろうか。  
「まかせろ。オレとしても今日はちょっとばかり特別気分だからなッ!」  
 
宿を出た今朝、ゼットはARM使いの少年に往復分のテレポートジェムを差し出された。  
「明日、決着をつける」  
彼の視線は朝の空に白く浮かぶ新しい月―マルドゥーク―に向けられていた。  
「だから、今日は彼女のところへ」  
見回せば他の仲間たちも明日の同時刻にここに集合することを確認しつつ、各々の行き先を定めていた。  
ザックはミラーマ、ジェーンはコートセイム。エマはガルウィングを駆って各地の同窓や元夫の所に顔を出すらしい。  
「セシリアはアーデルハイドと修道院。俺は…おじいさんのお墓に」  
 
これが最後の一日かもしれない、とかいう類の悲壮な決意をしている訳では断じてない。  
あの寡黙な少年の提案と指揮の元、なんだか色んな準備だか人助けだか寄り道だかの末に百魔獣の王まで倒してしまった自分達がみすみす玉砕するとは思えない。  
(そうでなくったって六人がかりでボコりに行くんだもんなあ…ダンナには悪いが)  
しかしボコった後が問題だ。  
ジークフリードのことだからまたどんな保険という名の暴挙を用意していることか。  
ほぼ出力最大のダークネスティアの輝きが地に降り注ぐところは自分もこの目で見ていた。  
蒼の騎士の思惑は今や種を同じくするゼットにさえ理解不能だった。  
勝てる確信があるのに未知への不安が拭えないという微妙な心持ちだったが、とにかく今日はありったけの優しさを込めて彼女を抱くつもりでいた。  
しかし。  
「お願い、聞いてもらえますか? “とっておきの技”の中でやってみたいものがあるんですけど…」  
「おう。まだだいぶ残ってたよな」  
少々変わった趣の体位や小道具の詰め合わせと言えるそれらを全種制覇しようと意気込んだこともあったが、普通に睦み合うだけで満たされる自分を自覚してからはうやむやになっていた。  
「床の上でするんです。服はなるべくつけたままで」  
「…………」  
 
 
「はぅ…ゼットさん……」  
アウラの目であり、優れた感覚器官でもある手を掴んで指の間を丹念に舐め回すと切なげな喘ぎが漏れる。  
結局、クローゼットの奥から出した予備のシーツを床に敷き、自分は鎧類を脱ぐという条件付きで承諾した。  
アウラの望む事なら何でも聞き入れたいのが本音だが、彼女の体にはたとえかすり傷一つでも付けさせたくないのもまた本音だった。  
(最終回間際、愛するオンナに気合の入った告白をしてから戦場に赴くヒーローは生還率激減だと聞く。ここは敢えておイタの高めな行動に走っておいたほうが安全かもしれん)  
誘惑に負けてしまった自分に言い訳しつつ掌や甲にも舌を這わせる。  
もう片方の手は胸に添えているが服に隔てられて感触を味わいきれないのがもどかしい。  
しかし今の自分にとってはがっつくようなことでもない。  
既に何度も夜の逢瀬を重ね、彼女の体で自分の指と舌が触れたことのない場所はなくなっていた。  
それにじわじわと高まってゆくアウラを見るのもまた楽しい。  
「はあぁぁぁっ!」  
人差し指と中指を強めにしゃぶると同時に乳首をつまんでやったとたん、身をこわばらせて軽く昇りつめた。  
「胸と手だけでイッちまったのか……?」  
「はい…ゼットさんの舌、冷たくて気持ちいいです……」  
「…そっか。でもすぐに熱くなるぜ」  
最近の彼女は自分達の種の違いを言外に、しかしことさらに強調することが多いような気がする。  
そしてそれを自らの刺激の源として貪欲に求めている事にもゼットは気づいていた。  
 
アウラが自身を反転させ、四つん這いになった。  
スカートをたくし上げながら上半身を低め、後ろからの交わりを求める体勢を取る。  
「こちらから…いらして下さい」  
いつも付けている物よりも布地の少ない形のショーツはじっとりと湿っている。  
その頼りない布も彼女が自らの指で脇にずらし、綻びかけた縦溝が姿を現した。  
交わり始めたばかりの頃はぴたりと閉じていた秘部だが、今は微かに外側にめくれた肉がいやらしく覗く。  
少し脚を開かせるだけでぱっくりと桃色の入り口が開き、さらりとした愛液が太股に筋を描いて伝い落ちた。  
周辺の茂みも僅かに濃くなってきているように思う。  
「やっぱりそこ…汚くなってしまっていますよね…」  
視線を察知したアウラが小さな声で言う。  
見えなくとも自身の体の変化を感じ取り、恥じ入っている様子だ。  
「汚いもんか。オレと繋がり易くなるために変わってくれてるだけだろ?」  
指を入れると、とろけそうに暖かな襞が吸いついてくる感触。  
小さいながらも充分に男を悦ばせる成熟した女性器となっていた。  
ニンゲンは、変化する存在だ。  
今は見えていない乳房だって最初の頃より明らかに大きさを増したし、薄いピンクだった乳首はゼットが幾度も愛しているうちに中央に鳶色が混ざりつつある。  
「オレが、オトナのオンナにしてるんだよな」  
花弁に唾液を絡めこむように舐め、ぐちゅぐちゅと音が立つようにしゃぶってやる。  
「やぁ……っ…」  
彼女を鋭敏な聴覚から犯す術もすっかり手馴れたものになっていた。  
たちまちアウラの腕は力を失い、胸から上ががくりと崩れ落ちる。  
尻だけを高く突き上げた、雌の獣のような格好。  
「ゼットさん…もう、準備できてますから早く……」  
「ああ、こっちも準備万端だ」  
ファスナーを下ろし、先の宣言通りすぐに熱くなっていた分身を取り出して彼女の内に飲み込ませた。  
 
密着感のある膣内を味わい続けてどれほどの時間がたっただろう?  
ほとんど着衣を乱していない所為で出没運動を繰り返している箇所のみに直截な刺激が集中している。  
それはアウラも同じらしく、もはや性器以外はどうなっても良いと思っているかのように上半身を支えようとする意思を見せない。  
これではシーツを敷いてあっても下手をすれば顔や手が擦り切れてしまうだろう。  
行為による揺れを少しでも抑えてやるべくゼットは彼女の腕を掴んでみた。  
自然と覆い被さる姿勢になった瞬間、発作的な欲望が湧き上がってきた。  
アウラの腕を押さえ込んだ手に重心を移動させて自分の質量の全てで圧し潰してしまいたい…!  
(やっぱりこの体勢ヤバイ。変なスイッチ入る…)  
苦労しながら呼吸を整え、自分の中のどす黒い波をやり過ごす。  
考えないように努めていたが、やはりこのシチュエーションは非常にマズイと思い知る。  
日の高い時刻。床の固い感触。力で屈服させているような体位。繋がる所だけはだけた服。  
合意の証となってくれるのは彼女の下に敷かれているたった一枚の布だけで。  
まるで強姦じゃないか、と思ったゼットの心の声を聞いたかのようなタイミングでアウラが口を開いた。  
「独りだった頃は…いつか突然こんな風に犯してくれればいいのに…って、そんなことばかり考えてました。わたし、おかしいですか…?」  
「アウラちゃん……」  
正常か異常かの二択で迫られたら、自分達の関係は異常だと答えざるをえないだろう。  
異なる血肉を持つ者同士であることを知りながら交わい、時にはこうやって加虐被虐の趣さえ顔を覗かせる。  
実際、今彼女は体勢のみならず言葉での蹂躙も望んでいるからこんなことを言っている。  
おかしい、いやらしい、とでも罵ればすぐに嬌声が上がり肉の道は締めつけを増すだろう。  
そして自分もかつてない程の快楽を味わえるだろう。  
しかしそれに応える訳にはいかない理由がゼットにはあった。  
 
とにかく押さえつけの姿勢から離れるべく、両手で胸を抱き上げて乳房への愛撫を始めてみる。  
服越しでも分かるほどに固く膨れた乳首の感触が掌の中央に伝わってきた。  
もしかするとさっきまで床に擦りつけて快楽を得ていたのかもしれない。  
彼女自身の重みがかかって強く押しつけられてくるふくらみを努めて優しく刺激する。  
だが…いつのまにか胸をまさぐる手は何か―例えば血―をなすりつける様な動きになっていた。  
(だからッ、そういうのがマズイんだろうが! オレまで流されてどうすんだよ!)  
慌てて手を離しかけるとアウラの泣き出すような叫び声が上がった。  
「やめ、ないでぇ…っ! もっとつよく、つかんでください…! つぶれる、ぐらいにっ…!」  
まただ。彼女は求めている。  
ゼットの指の、鋼の骨格の感触を。そしてその強靭な握力に潜在する血と暴力の匂いも。  
本当はすぐにでも与えてしまいたい。そうすればアウラの全てが簡単に手に入るのはもう分かっている。  
魔族にはニンゲンの心を虜にし破滅させて喰らうのを好む種もいた。  
戦闘種の自分達にとって、淫魔と呼ばれたそれらは夢魔と並んで蔑視の対象だったのだが、今のゼットは彼らの欲求を理解してしまいそうだった。  
そう、魔族には様々な種類がある。  
全てが鋼で構成された者、魔獣に似ている者、そして夢魔達のように肉体そのものさえ持たぬ電気信号のみの存在もいた。  
たまたま、自分はその多岐に渡る中の一種類…ヒトに似た肉と皮を被せたタイプとして産み落とされただけだ。  
彼女を自分に溺れさせるという事は、化け物に犯されることに味を占めさせるという事だ。  
 
そしてゼット自身もまた、溺れかけている側だった。  
アウラへの愛しさが増すごとに、魔族として本来欲する暗い喜びまで彼女を介して満たしたくなってしまう。  
愛情という光に包まれながら育った彼女が、大戦の返り血にまみれた自分に汚されていると考えるだけで脇腹から股間にかけてぞわりとした快感が走ってしまう。  
優しさと清らかさそのものであるかのようなこの少女を、ゼットのことしか考えられない色情狂に作り変えるのも可能なのだと思うと本当にそうしてしまいたくなる。  
「落ち着け。痛いのはイヤだろ。な?」  
とってつけたような言葉を搾り出して彼女を抱きしめ、その首筋に顔をうずめる。  
そうすることで自分の気も静めるつもりだったのに獣のような己の牙がアウラのうなじを掠めた瞬間、そのまま突き立ててやりたくなる。  
(彼女の体は傷つけたくないんじゃなかったのかよオレ!しっかりしやがれッ!)  
口を閉じ、身を起こして首を大袈裟に振る。  
上半身をひねって振り向いた彼女の淡い瞳に失望の色が浮かんでいるのが見えた。  
噛んで欲しかったのに。  
そう思っているのは明らかだった。  
一番に望んでいるものが得られないのだと悟ったアウラの目からみるみる涙が溢れ出す。  
そして狂ったように自ら腰を滅茶苦茶に振り出した。  
「壊してぇっ!わたしを壊してくださいぃ……っ!」  
「!?っくぅ……ッ!」  
内部で先走りと混ざって撹拌された愛液が飛び散る。  
「初めての、とき、みたいにっ…!」  
しゃくりあげながらの懇願。  
理性を飛ばしかねない激しい快楽に歯を食いしばって耐えながらゼットは震える手を伸ばし…彼女の頭を、撫でた。  
「あ………」  
アウラの体から力が抜け、繋がり始めの時と同じような体勢になって大人しくなった。  
今度は痙攣する横隔膜をいたわる様にその背中をさすってやる。  
こうすることによってなだめているのは彼女というより、むしろ自分の心だ。  
息を落ち着かせた後、手は再び頭へ。  
さらさらした髪に掌を滑らせていると、やがてアウラの膣壁が徐々にうごめきだす。  
「ぁ……ぁ……ぁぁ…」  
腰を軽く揺すってやり、そのまま穏やかな絶頂へ導いた。  
彼女が静かに達すると同時に自身も欲望を解放する。  
自分でも呆れるほどおびただしい量の精液が溢れ、彼女の体とスカートの内側を汚した。  
 
ベッドの上、服を脱がせたアウラを自分の上にうつ伏せに乗せて寝かせた。  
アウラの寝息に耳をそばだて、彼女が深く眠ったことを確認したとたん堰を切ったように涙が溢れた。  
最近、それも短期間のうちに自分は涙脆くなった。彼女と肌を合わせた回数と比例するかのように。  
行為の間は快楽の火種だったそれは頭が冷えると残酷な現実へと姿を戻す。  
自分は魔族で彼女はニンゲン。  
この現実に付随する幾つもの不安を、アウラと愛を交わせば交わすほどゼットは無視できなくなっていた。  
例えば、命の長さ。  
幸福を感じるたびにいつか訪れる喪失に怯えるようになった。  
自分はその時、耐えられるだろうか?  
否、そもそも以前の自分と今の自分では時間の観念さえ変わってしまっている。  
1000年前は風のように飛んで過ぎ去っていたそれは今は雪のように少しずつ降り積もるものとなっていた。  
彼女を見送った後もそれまで通りに生き続ける自分というものをどうしても想像できない。  
代わりに、愛刀を自分の胸に向けて構え、そのまま動力部を貫いて事切れるという不吉なイメージの方がくっきりと浮かぶ。  
愛刀。視線が自ずと部屋の隅に立て掛けられたそれに向かう。  
余り物扱いだったにしてもこのドゥームブリンガーを賜れるだけの「ポイント」を稼いだことさえ恨めしく思うときがある。  
そしてこの愛刀にもまた、ニンゲンの血を吸わせてきた。  
これはあのフサ耳鍛冶屋にいくら大金を積んでも消すことの叶わぬ、事実という名の呪いだ。  
アウラは分かっているのだろうか?  
彼女と出会う前の自分が何をしてきて、どんな心を持っていたかを。  
アウラと言葉を交わす前の自分は彼女のことをアルハザードが撃ち漏らした獲物としか見ていなかった。  
そして、この町がゴーストタウンになっていなかったら彼女は町のニンゲン達に守られ、自分と言葉を交わすことはなかっただろう。  
多くの屍の上に成り立つ出会いだった。  
 
さらにもうひとつ。  
自分は彼女との間に子を成せない。  
子を産んで親になるというのがどんなことなのか、理解出来ているとは言えない。  
しかし渡り鳥達と共にニンゲンの町を回って出会いを重ねるうちに、それはニンゲンのオンナにとってとても大事なことなのだろうということは薄々分かりつつあった。  
果たして自分はアウラからその大事なことを取り上げても許されるほどの者だろうか?  
自分達が棚上げしている事柄のなんと多いことか!  
先の行為で彼女が求めた望みを叶えれば、アウラは棚上げしてあることを棚上げしたままゼットから離れられなくなるだろう。  
それでもこれらをうやむやにしたまま彼女の生涯を縛る真似はしたくなかった。  
今なら間に合う。自分達はまだ、離れるという選択も出来る只の「恋人」という関係だから。  
(次にここに戻ってきた日に、全部ケジメをつける)  
たとえそれで腕の中の少女と分かたれることになっても。  
(だから今日はこのまま…)  
アウラの温もりに縋るように彼女を抱きしめ、ゼットは目を瞑った。  
 

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