ゼット×アウラ・悲劇性あり 
 
「―結界はこの通り完全に復活しています。像自体はまだ壊れたままですが、アーデルハイドのゼルテュークス碑を直した建築家さんに来ていただければきっとここも…」 
午後のセントセントール。 
アウラは盲目を物ともせずに街を訪れた男を先導しながら口を動かしていた。 
他の街に出ているときのゼットは現金を稼ぐだけでなく、この街に新しく住んでくれる人間を募る活動にも積極的に勤しんでいる。 
テレポートジェムが普及し始めたお陰もあり結界復活の噂をおっかなびっくり確かめに来た人間は何人かいたが、定住にまで至ってくれる者はまだ一人もいなかった。 
それでもゼットは「この街にオレ様とアウラちゃんが出会う前以上のエクセレントな繁栄をプレゼントしてやるぜッ!」と諦めることなく宣伝活動を続けてくれている。 
だからここに人が来てくれてから後の段階は自分の頑張り次第とばかりに張り切って案内を続ける。 
「施設も民家も、順番で掃除していますのでちゃんときれいです。お試しの滞在をご希望でしたらすぐにでも…」 
この街が街としての機能を取り戻し、物と金銭が巡るようになればゼットが他所で働く必要がなくなって毎日を共に過ごせるかもしれないという打算もなきにしもあらずだ。 
ふと、さっきから男が無言でいることに気づいてはっとする。 
彼も単に直った結界を好奇心で確かめに寄っただけの旅人なのかもしれないのに、話を聞かずに一方的に捲し立ててしまっていた。 
(わたしったら、ゼットさんに似てきてるのかしら…) 
気を落ち着けて相手の用件を確かめてみる。 
「あの、新住人募集のお話を聞いていらしてくださったのでしょうか?」 
「いや」 
自分の頭よりだいぶ高い位置から降ってくる声と、剣と共に生きる者が纏う独特の張り詰めた空気で長身の渡り鳥だということは察していた。 
(初対面の時のザックさんに似てるかも) 
まだこの街が健在だった頃にロディ、セシリアと共に訪れたザックに「一途だが傷つきやすい心の持ち主」と言い当てたら少し寂しげな笑い声を返されたことをなんとなしに思い出す。 
しかしこの連想が、アウラの本来持つ相対した人間の本質を見抜く力を鈍らせてしまっていた。 
既に信頼している人物のイメージを重ね合わせてしまったことでこの状況に最低限必要な分の警戒心までもを解いてしまったのだ。 
せめて、この男がザックに似てるとして何故「初対面の」という条件付きでそう感じたかを追求していれば気づけたかもしれない。 
彼の心に暗く燻る「復讐」という名の黒い炎に。 
「この街に、魔族に足開いて生き延びてる淫売がいるって聞いたんでなッ!」 
後ろ髪を乱暴に引っ張られ、そのまま地面に突き飛ばされて倒れてしまってはもはや全てが遅かった。 
 
「い…やッ! 何するんですか!」 
腕を掴まれ、圧し掛かられる恐怖にアウラは怯えた声を上げた。 
(あ、あれ、を…ッ) 
混乱しながらもこの事態から逃れる手段が自分の首にかけてあるのを思い出す。 
が、手足をばたつかせる抵抗も空しく硬い地面に押し付けられてしまった。 
背中が擦り剥ける痛みに身がすくんだ隙に片手一つで両手首を纏めて掴まれ、頭の上の位置に拘束されてしまう。 
おそらく男にとっては利き手ではない方の手だろうに、どんなに力を込めても振りほどけそうにない。 
アウラは自分がどうしようもなく非力な存在であることを悲しいほどに思い知らされた。 
男は器用にもう一方の手で懐から短剣を取り出し、切っ先をアウラの襟に引っ掛ける。 
「ひッ…」 
かなり刃物の扱いに長けているらしく、魚の腹でも捌く様な無駄のなさで服を下着ごと縦一文字に切り裂かれた。 
屋外で肌を晒される屈辱にアウラの体が震える。 
「なるほど、顔はガキでも立派に娼婦だな」 
手足のラインや全体的なシルエットには子供らしさが残るものの、胸から尻にかけての曲線は明らかに男を知った女のそれだった。 
また、アウラの肌は雪のように真っ白だが乳首と秘所の奥から僅かに垣間見える粘膜は鮮やかな充血の真紅に染まっている。 
ただ一人の愛する者にしか許したことのない体であると同時に、異種族からの淫虐を毎晩でも喜んで受け止める体でもあるのだ。 
貞節と貪淫という相反するものの両立が生んだコントラストによる得難き美しさ。 
しかし憎しみに曇りきったこの男の目ではその価値を感じ取れようはずもない。 
路傍の石くれでも掴むような手つきで乳房を荒々しく握り潰しにかかる。 
「うあぁぁぁ…ッ! ごめんなさい、ゼットさんごめんなさい! ごめんなさい…ッ!」 
たった一人にしか許したくない肌を穢され、断末魔同然の悲痛な叫びが零れる。 
「乳ぐらいでこの世の終わりのような声出しやがって生娘でもねえ癖に! 死ぬよりはましだろうがッ!!」 
ざくり!と短剣が首筋すれすれの位置で地面に突き立てられる。 
「俺の、相棒はッ…あの日アーデルハイドで胴体を真っ二つに切られて…そのまま炎に焼かれてったんだ…ッ」 
「それはッ…ゼットさんがしたわけでは…!」 
冬眠装置から目覚めたのは騎士達よりもかなり遅れてのことだったから国の襲撃に参加させられず、目覚めた後の任務も悉くロディ達に妨害されたお陰で結果的にこの時代の人間は一人も殺めていない。 
今はそのことを心から良かった思っている…としみじみ語ってもらった時の記憶はまだ新しい。 
だがそれをこの場で説明できたとしても情況が好転するはずもないのは明白だった。 
深い悲しみと憎悪がびりびりと電流のようにアウラの精神を苛んで、理屈で鎮めることなど決して叶わないものであることを突きつけている。 
アウラはもうどうすればいいのかわからなかった。 
このような強烈な憎しみがゼットに向けられていることがただ悲しくて、涙を流すしかなかった。 
 
あれからどれほどの時間が経ったのか。 
乳房は休みなく視線と掌に犯され続け、膝で踏まれて動けなくされた足の間には男の逸物が繰り返し擦りつけられる。 
一種の素股を強制されている状態だった。 
首筋に刃物を添えられ、恐怖で血の気も体温も退ききったこの状態で濡れるわけもなく。 
腿の内側で男の性器が徐々に固さを増していくおぞましい感触と、カラカラに乾いた粘膜を摩擦される痛みが与える地獄をなすすべもなく味わわされていた。 
「やめて…もう、許してください……痛、い…ッ」 
「痛くて当たり前だッ! 善がらせる気なぞ毛頭ないからなッ!」 
実際、この男を突き動かしているのはあくまでも憎しみであって性欲ではないのだろう。 
股間のものが今の硬度に至るまでかなりの時間を要していたし、乳房を掴む手にも感触を愉しんでいる様子はない。 
彼の一番の目的は己の欲望を遂げることではなく、アウラの心身に苦痛を刻むことなのだ。 
それでも肉体を守るための生理現象なのかアウラの秘所には僅かばかりの愛液が滲み出つつあった。 
見計らったように乳房から離れた男の指先が花弁の端を押さえ、アウラへの入り口を拡げ始める。 
「確かめてやるぜ…魔族を咥え込んでる女ってのはどんな具合なのか」 
「い、いや…お願いです! それだけはッ! それだけは―」 
これまで戯れにすりつけられるだけだった亀頭が左右の襞を分けにかかってくる。 
男の先端が膣口の位置を探り当てた瞬間、アウラは全身に火がついたように暴れだした。 
「いや嫌、嫌あぁぁぁぁッ!!」 
戒めの刃が首と頬を傷つけるのも構わず身を捩りまくる。 
火事場のなんとやらで片足が男の下から抜け出し、胸の辺りを強く蹴飛ばした。 
この場の挿入は免れたものの、反撃に激昂した男によってすぐに腕ずくで元の体勢に戻されてしまう。 
「往生際が悪いぞ! この状況をひっくり返せると思ってんのかッ!? くそ、もう乾いてやがる…面白くないが結局こいつが要るな」 
コートのポケットから取り出した小さな瓶の栓を口で開け、中身をアウラの恥毛の上にぶちまける。 
「ひゃッ!?」 
敏感な部分に降りかかった液体の冷たさに思わず声を上げてしまう。 
それでもこの一瞬、手首への拘束が緩みかけたことを見落とすことはしなかった。 
素早く首元を探り濃桃色のケープだった布切れの下から銀の鎖を手繰り寄せ、それに通された小さな縦長の物体を口にくわえて力いっぱい息を吹き込む。 
ぴろりろ、と、この場に全くそぐわないコミカルな音色が響いた次の瞬間、自分に圧し掛かっていた男が勢いよく引き剥がされ、 
一拍おいた後に向こうの地面に思い切り叩きつけられる音が聞こえ…地獄と化していたこの地が再び、自分にとって世界一安全な場所に立ち返ってくれたことを悟った。 
 
「…………」 
気がついて一番最初に目に入ったのは彼女の白い肌だった。 
使い物にならなくなった衣類を全て取り除けられ、ベッドに腰掛けた小柄で華奢な裸体。 
自分の手には桶の水に浸してから絞ったタオルが握られており、どうやらそれで彼女についた傷と汚れを拭ってやってたらしい。 
一番出血の酷かったであろう首には既に包帯が巻かれており、左側の頬にも大きなガーゼが貼ってあった。 
微かに消毒液の匂いが漂う。 
空白同然だったゼットの自意識に先ほどの悪夢がよみがえってきた。 
 
服を切り裂かれ、首周りを血濡れにして横たわるアウラが視界に入った時は目の前が真っ暗になった。 
愛する少女が辱められながら殺されたとしか見えない光景に考えるよりも早く男の首根っこを掴んで力いっぱい地面に叩きつけ、彼女を抱き起こす。 
「ゼットさん……ッ」 
涙混じりだがしっかりとした声。 
命に別状無しと確かめられたことで絶望は退いたが、入れ替わりでどす黒い炎のような憎しみが心を埋め尽くした。 
躊躇いなく愛刀を抜いて男の方に向き直る。 
「てめぇ…ッ! 闇討ちの相手ならオレだろうがッ! 彼女は関係ねぇだろぉ…ッ!!」 
血も一緒に吐き出るかのように吼えるとよろけながら起き上がった男が刺すような視線を返す。 
「黙れ……ッ! 貴様が一番こたえる手段を選んだまでだッ!」 
「野郎…ッ」 
ぎりり、と歯を鳴らして一歩踏み出ようとした瞬間、 
「よしてください! わたしはもう大丈夫ですから…ッ」 
肌を露わにしたままのアウラが膝立ちで後ろからゼットに縋りついていた。 
男の憎々しげな視線がアウラの方へと移る。 
その目に宿っていたのは劣情ではなく軽蔑だった。 
自分の所為でアウラが汚いものでも見るかのような視線を浴びせられているという現実が。 
ゼットの胸を深く、深く抉った。 
 
ここから後のことは上手く思い出せない。 
二度と彼女とこの街に近づくな、と男に言い放ってたような気がする。 
かと思えば体が再び勝手にあの男に斬りかかりそうになっていたのをアウラが必死で押し留めていた映像も浮かぶ。 
こんな具合に記憶が断片化、そのうえ順番の前後が曖昧になっているのも無理はなかった。 
罪無き彼女が傷つけられた理不尽さや、魔獣よりも性質の悪い存在の侵入を許した結界の無能さ。 
何より彼女をこんな目に遭わせてしまった自分…。 
とにかく様々なものへの怒りで気が狂いそうだったのだ。 
あの後の首尾がどうあれ、今こうしていられるということはちゃんと追い払えたということだろう。 
自分にはあの男の心臓を串刺しにするよりも優先すべき行動が山ほどあり、意識が飛んでいてもそれを忠実にこなしてくれていた自らの頭脳のデジタルな領域に感謝する。 
とにかく、今はそのやるべき事をきっちりやるしかない。 
なにやら透明な液体で汚された彼女の下腹部にタオルを滑らせ、丁寧に拭き取っていった。 
(どっか残りは…と) 
そういえば脱がせた服の背中の部分が大層破けていた気がする。 
そう思ってアウラの隣に座りながら彼女の背中を覗き込み… 
(……ッ) 
予想していたよりずっと痛ましかった。 
両の肩甲骨の辺りに酷い擦り剥き傷が刻まれていたのだ。 
ただ擦り剥いたのではない。これはつけられたばかりの傷の上にまた、新しい傷がいくつもついた痕跡だ。 
おそらく押し倒され、闇雲にもがいて抵抗した際に同じところを何度も…。 
唇を噛み締め、消毒液をまぶす事さえ憚られるその傷にそっとタオルを押し当てて血と泥を吸い取る。 
「ゼットさん」 
不意にアウラから声をかけられて少し驚いた。 
先程まで彼女はずっと顔を俯けて押し黙ったままだったのだ。 
涙を必死で堪えているのだと分かっていたからゼットも敢えて声をかけずにいたのだが。 
「助けに来てくれて、ありがとうございます…あの笛のおかげですね」 
「あ、ああ。アレな」 
ある日のエマの戯れによって生み出された小さな笛。 
ゴーレムを呼び出すオカリナの仕組みを解析、応用して発明されたものだ。 
まるで犬笛のような形状のそれを初めて見た時はアウラ以外に所有されようものなら絶対叩き壊してやるとさえ思ったものだが。 
「今ならオレの腹の中一日フリー見学券プレゼントしてもいい気分だぜ…」 
「今度またエマ博士のところに行ってお礼を言いましょうね。役に立った理由を聞かれたら困りますけど…」 
互いに努めて明るい声を出す。 
重い空気を断ち切るために言葉を切り出してくれたアウラの気持ちを無駄にしまいと軽い調子を続けることにした。 
「さっ、今日のところはぐっすり眠ってくれッ! オレ様もうアウラちゃんの傍を離れやしないから安心快眠保障済みッ!」 
寝間着を取りに行ってやろうと彼女に背を向けて箪笥に向かったその時… 
背後でどさりと音がした。 
慌てて振り向くとアウラがベッドから転がり落ちていた。 
「アウラちゃんッ!?」 
床に倒れたまま股を両手で押さえながらうずくまり、細い体はガクガクと震えている。 
さきほどまでやや青褪めていたはずの顔は真っ赤になっていた。 
駆け寄って抱き起こすと熱く荒い息が頬に当たる。 
「ゼット、さん、助けて…ッ」 
手で塞がれた秘所からは異常な量の愛液が溢れ出している。 
「抱きしめ、てッ…入れて、くれ、ないと…気が、狂ってしまい、そう……ッ!」 
 
彼女の内股を拭ったときに、その手の潤滑剤か何かだろうとは思っていた。 
しかしこんなにも凶悪な催淫作用を持つだなんて予想外だ。 
それとも単に粘膜から直接吸収してしまったのが悪いのだろうか。 
(かけられた場所が場所だしな…) 
今すぐ他の街に飛んで医者に診せた方がという理性的判断も働かないわけではないが…。 
「ゼットさん…ゼット、さん……お願いです抱いてくださいッ…何してもいいですから…ッ!」 
瞬間的に理性の大半をごっそり削られた様相で、既に性奴的なまでの色香を撒き散らしているアウラを他のオトコの前に連れて行く気になどとてもなれやしない。 
ならば女医はどうかと記憶を巡らせてみたら常時死の匂いを纏いながらアーデルハイドの病院を仕切るあのシスターの顔が真っ先に浮かんでしまい、結局この案もぶるぶると首を振りながらの全面却下となった。 
何はともあれ抱き上げた彼女をベッドの上に戻してやる。 
シーツの上にへたり込んで座りさめざめと泣き出したアウラの傍らで、ゼットはいつも事に及ぶ時と同じように鎧パーツを外してファスナーを下まで降ろし、前をくつろげてみたが体はまだ彼女の「入れてほしい」との要求に応じてやれる状態にはない。 
とりあえず彼女のそこに指を挿しいれて慰めてやることにした。 
ゼットのそれなりに無骨な指を三本、一度に抵抗なく迎え入れた花弁はくったりと脱力したまま、それでも物足りなそうに蜜を垂れ流し続ける。 
全身に力が入らなくなっているらしいアウラがゼットに身をもたせかけてきた。 
抱きしめようと腕を回しかけたところで背中の傷が目に入り、これでは痛かろうと腰に手を回すだけに留めた。 
首筋も包帯に阻まれ、そこを舌先で愛撫するという普段当たり前のようにやっている行為さえ叶わない。 
ニンゲンである彼女の体が傷つくということは自分達の間をこんなにも隔ててしまうのかと痛感する。 
ならばせめてと、てらてらに濡れた唇に口付けると口腔に温かそうな唾液がたっぷり溜まっているのがわかった。 
思わず舌を突っ込んで掻き回したくなってしまったが頬の傷に障るだろうと気づき、慌てて顔を離したらとてつもなく寂しそうな顔をされてしまった。 
「ごめんなさい…わたし、無理言ってますよね」 
「?」 
「見えなくても自分がどんなにひどい状態かわかってます。髪は砂だらけだし、顔も手足も傷だらけで…。 
それに……ついさっきまで知らない男の人の…を押しつけられていて……ッ。ゼットさんがそんな気分になれるわけ無いのに…ッ!」 
「!?バカ言うなよッ! さっきの挙動不審はただ傷に沁みる真似をしたくねーからで…ッ、それにこんなことぐらいでアウラちゃんを欲しくなくなれるほど清らかじゃねーぞオレ様はッ! ……ま、今すぐにってのはさすがに無理だから、その…ちょっと手伝ってくれれば助かるぜ」 
アウラの手を自分の股間に導き、肉の茎を軽く握らせる。 
「んッ…」 
小さく唾を飲み込む音を喉から発し、すりすりと手を動かし始めてくれた。 
二人寄り添いながら座った状態でしばらく互いの性器を弄りあう。 
絡みつく指とすべすべした掌の心地よい感触。 
毎度のことながらこんな小さな手に淫らな奉仕をさせている背徳感にぞくぞくした感覚が背筋を登って来る。 
手の中のゼット自身を順調に勃ち上げてみせたアウラが熱っぽい表情でこちらを見つめてきた。 
本当はちゃんと視力があるのではと錯覚するほど強い情熱と哀願を湛えたその瞳に魅入られたようにゼットは頷き、アウラの腹を抱えて彼女を四つん這いの体勢に導く。 
その拍子に新たに零れた愛液がぽたぽたとシーツに水玉を描いたのを見たらもう堪らなくなり、そのまま獣の体位で一気に貫いた。 
「あはぁぁぁぁ……ッ!?」 
「ぐ…ッ! これ、は……ッ!?」 
アウラの膣は待ち望んだものが与えられた瞬間、さっきまでだらしなく弛緩していたのが嘘のように喰らいついてうねり、ゼットの擬似男性器を貪るように味わいにかかる。 
それは上の口が食物を咀嚼し嚥下する様を連想させる程に激しい収縮運動で、結合部である花弁の縁は赤子が飴をしゃぶるような水音まで立てながら愛液の泡を産み続けていた。 
「うぅ〜……ッ!」 
自らの肉体が自分の意思と関係なしに浅ましく振舞いだした惨めさにアウラが蹲って泣き声を上げる。 
「ア、アウラちゃんは、何も、悪く、ねーから…」 
あまりの快感に意識を持っていかれそうなのを堪えつつ、彼女を宥め諭す。 
「いつもみたいにいっぱいイッてスッキリすれば元通りだって、たぶんいや絶対ッ!」 
アウラは完全に被害者だというのに彼女自身が悪いことをしたかのような罪悪感など感じて欲しくなかった。 
快楽に翻弄されながらも少しずつ前後運動のリズムが合わさってきた頃、涙で濡れた顔で振り向きながらアウラが呟く。 
「よかっ、た…ゼットさんが、間に合ってくれ、て…ッ」 
ゼットを呼べぬまま、あの男の前で薬の効果を迎えてしまった場合の悪夢を想像したのだろう。 
しかしゼットにとってはこれはとても間に合ったうちに入れられるものではなかった。 
アウラに二度も蹂躙の恐怖を味わわせてしまったのだ。 
彼女は既に、ゼットの衝動的な「裏切り」によって心の準備なしに体を開かされた経験がある。 
あの時点で究極的に「あってはならないこと」を彼女の身に降りかからせてしまったのだから二度とこのような目には遭わせないと誓っていたのに。 
それなのに再び自分が原因でこんなことを引き起こしてしまった。 
 
自分が過ちを犯したあの時は。 
破瓜の痛みと異種族に手折られるショックにもかかわらず彼女は抗わなかった。 
睦言も口づけもない、残酷な初行為を最後まで受け入れてしかも翌朝には微笑みさえ浮かべてそれを許した。 
しかし今の彼女の首筋と頬は命を、或いは美貌を失う可能性すら推し量らなかった行動によって血を流し、背中の皮は服ごと擦り切れ、手足にも暴れたときに飛び散った細かい砂利で生じたであろう無数の細い切り傷が浮かんでいる。 
アウラは自分以外のオトコには死に物狂いで抵抗したのだ。全身の生傷がその証だった。 
背中の傷痕を見ていると、アウラの全てが完全に自分だけの所有物であるかのような錯覚に陥りそうになる。 
傷ぐらいでアウラを欲しくなくなるなどできない、という先程の言葉は本心だ。 
それどころか自分はアウラが傷ついているからこそいつもより欲情してしまっている。 
身も心も深く傷ついたばかりの彼女に対して追い討ちをかけているかのような行動に精神が引きずられ、サディスティックな情動が沸き上がる。 
(こんなときなのに、オレは…ッ) 
どれほどアウラへの愛情が深まっても魔族としての本質が消えるわけではない。 
本気で欲しくなれば腕ずくに走らずにいられないし、血を見れば気が昂ぶる。 
嗜虐心や支配欲や独占欲… 
魔族のオスとして持つあらゆる悪徳を彼女にぶつけずにはいられない。 
気がついた時にはゼットの動きはアウラへの労わりを捨ててしまったかのように激しくなっていた。 
「オレの…だッ!」 
抑えきれぬ本音が口から零れ出した直後、腕の中のアウラの体温がかっと上がった。 
それが引き金となってまだこの快楽を味わっていたいという欲望が、今すぐ射精してしまいたいという欲求に負けた。 
自分の内面の穢れがそのまま顕現したようなドロドロした感触の粘液を彼女の胎に流し込む。 
「ああぁぁ………ッ」 
感極まった声で鳴きながらアウラが背筋を反らせる。 
爪先をぷるぷると震わせ、傷の刻まれた背中はぴくんぴくんとしきりに痙攣を続けた。 
彼女の内側はゼットの精で更に滑りが良くなり、先端を最奥点である子宮口にぐいぐいと容易く押し付けられるまでになった。 
「オレ以外のオトコになんて、二度と触らせるもんか……ッ!!」 
もはや薬による苦しみを和らげるという目的は関係なくなっていた。 
射精が終わってもなお欲望は醒めず、抜くこともせずに彼女の腰を掴んで固定しアウラを玩弄し続ける。 
「あぁ…すご、いッ……」 
アウラの方はもはや腕にも足にも己を支える力は残っておらず、うつ伏せの大股開きまま膝を曲げ、蛙のような品の無い姿を晒しながらゼットを受け止め続けている。 
「んッ…ゼットさん…また…こんなに、大き、く……ッ」 
彼女を乱暴に挿し貫く楔は再び直径を回復していき、真紅の小さな花はまたしても限界まで広げられて今にも裂けそうだ。 
とうとうあまりの勢いに肉棒が中から抜け出て同時に先端から飛沫を飛ばす。 
「んんッ!」 
瞬間、アウラからやや引き攣れたような声が上がり、ゼットは我に返った。 
「わわッごめん、ごめんなッ!」 
吐き出した体液の幾らかが彼女の背中の生傷にかかり、痛みを生じさせてしまったのだ。 
慌てて手当て用のタオルを再び絞って後始末を始めた。 
 
ふと目を覚ますと窓の外がすっかり暗くなっていた。 
一般的な生活スタイルのニンゲン達がちょうど床に就き始めるぐらいの時間だ。 
アウラの方はゼットに体を拭かれながら気を失うように眠りに就いたときと同じ、体はうつ伏せて頭は頬傷のない右側を下にした寝姿のまま目を瞑っている。 
なめらかな乳房が彼女自身の重みに押し潰されてかすかに見える様が艶めかしい。 
(そういやさっきは突っ込むばかりでこっちはノータッチだったぜ…) 
人差し指でふにふにと横から突付き始める。 
どちらかというと悪戯心のような動機でやってみたことなのだが、なんだかうっかり股間が熱くなってきた。 
「ゼットさん…」 
「うわッ!?」 
アウラがいつのまにやら目を開けていた。 
昼間とはうって変わって、慈愛に満ちた安らかな表情。 
「まだわたしのこと、欲しいですか?」 
「……ッ」 
どう答えたものかと迷いはしても、欲しい欲しくないで訊かれたら欲しいに決まっている。 
アウラは右半身を下にして横たわり自ら左足を持ち上げ、薄く淡い茂みに囲まれた花弁を差し出した。 
「…どうぞ」 
誘われるまま、肩に担ぐようにして彼女の足を抱えて身を寄せる。 
硬くなっていた先端を秘所に押し当ててみると中はもう潤っていた。 
薬の作用で愛液の決壊が起こされた状態ではなく、いつも通りのアウラの体だ。 
安心と嬉しさを感じながら自分のものをゆっくりと彼女に沈める。 
「んッ…んッ……」 
アウラが下腹に力を込めながらゆっくりと、だが懸命に腰を動かし始める。 
薬物によって強制された反応ではないアウラ自身の意思で為される締めつけ。 
彼女の体温が己の分身を優しく包み込んでくれる。 
先程のような強烈な刺激はないが、暖かな多幸感が全身に広がっていく。 
腰を動かすたびにふるふると揺れる乳房を手で掴み、強弱をつけて揉み続けているとアウラが幸せそうに微笑みながら語りかけてきた。 
「ゼットさん…これからも…何が起きても……ずっとわたしをゼットさんのものでいさせてください……」 
「……ッ!…ああ! アウラちゃんはずっとオレので…オレはずっとアウラちゃんのものだ……ッ!」 
傷で抱きしめられない体の代わりの様に抱えている彼女の足を、さらにギュッと抱え込んだ。 
結合が更に深まったところで強く腰を突き出す。 
「ひあッ…ああ……そんな、奥に…」 
目をきつく瞑りながらびくりと体を仰け反らせたアウラの中に、ゼットの高まりの全てが解き放たれた。 
 
情事の後は今度こそぐっすり眠ってもらうべく、ゼットはやはり右半身を下にして横になったアウラを支えるように彼女の腰を抱いていた。 
「アウラちゃんもしかして背中かほっぺが良くなるまで就寝フォームはこれかうつ伏せのたったのニ択? 不便なことにさせちまったなあ」 
「そんなことまで気になさらないで下さい。それに体の右側を下にして眠るのはお腹の健康にいいらしいですよ」 
「それも人体の神秘って奴かッ? つくづく有機生命体は奥が深いぜ…」 
日が落ちる前の悲壮さはどこへやら、いつのまにか自然にいつもの和やかな自分達に戻っていた。 
そして、そのこと自体がとてもお互いを嬉しくさせていた。 
 
翌朝。 
「依頼を途中で放り出すなんてダメです。せっかく皆さんとの間に築いた信用を壊すなんて許しませんよ」 
「で、でもな…」 
ゼットはアウラに押し出されるような形で街の外門前に来ていた。 
白い布が首と片頬を覆う様はまだ痛々しいが、彼女の顔色は昨日に比べてずいぶんと回復している。 
それどころかゼットよりも早く起きて風呂場で身を清めてから替えの服をきちんと身につけ、朝食の支度までしてくれたのだ。 
「ゼットさんはいつも通りのお仕事に戻っていいんです。昨日の事はわたしの不注意が原因なんですから」 
「違うんだッ! あの野郎とは何回か同じ酒場で顔を見たことがあって…ときどき睨みつけてくるのも気がついてたのにオレはシカト決め込んでて…ッ 
そのうえ仲良しになった連中には酒の席でアウラちゃんの事話しまくってたからあいつにまで知られちまったんだッ! 
オレのせいでアウラちゃんのことまで悪く思う奴が出てくること考えたことないわけじゃねーのにッ…なんであんなにのぼせちまってたんだろう……ッ」 
「ゼットさん」 
完全に自分の非だとばかりに嘆くゼットの顔を、アウラは両手でそっと自分の方に向けながらしっかりとした口調で話す。 
「わたしたち、祝福してくれる人ばかりじゃなくてもそれも覚悟の上で一緒になるんだって、何度も何度も確認し合いましたよね? 
それなのに二人揃ってこういう油断をしてしまったのは…それだけ普段が幸せ続きということですよ?」 
「だけど…オレはもう、アウラちゃんをひとり残して他所に行くなんて気にはなれねえよ……ッ!」 
「ずっとこの家にふたりぼっちで閉じこもって暮らすつもりですか?…それもいいかなって思う気持ちはわたしにもありますけど。 
だけどやっぱり、わたしはゼットさんらしいゼットさんが一番好きなんです。夢や目標を追いかけて駆け回る元気なゼットさんが」 
「でも…ッ」 
卑劣も辞さないほどに追い詰められた復讐鬼が昨日の男だけという保証はないのだ。 
さらに彼女の貞操でなく命を取りに来られたら今度こそ助けを呼ぶ暇もなく…。 
最悪のケースのシミュレートに顔を青くするゼットをアウラは優しく諭し続ける。 
「ではこうしましょう。今度からは街に誰かが入って来た時点でこの笛を吹きます。それでゼットさんを見て逃げてしまうような人だったら、もともと縁がなかったということです」 
「アウラちゃん…」 
「ですから今日も元気で、行ってらっしゃい」 
 
それから更に数日後。 
アーデルハイドのエマ博士は自宅のポストの中から一枚の紙切れを発見した。 
アルファベット大文字「Z」が書かれた無造作な四つ折りのそれを広げるとそこには 
『オレ様開腹調査 一日無料チケット 一回限り 紛失または破損した場合、再発行はナシ』 
更に下のほうに小さな文字で『笛の代金ッ! ありがたく受け取りやがれッ!』 
「あらあら…」 
携帯端末で体内を解析するだけでもあからさまに嫌がっていたのにいったいどういう吹き回しか。 
礼の大きさからどれほど洒落にならない事態が起きかけたかを悟れてしまうような気がするが、その辺は大人らしい配慮で追求しないことにする。 
「使用期限はないみたいね……ならば使いどころはじ〜っくりと考えさせてもらうわよ」 
眼鏡を光らせ、口元にマッドな笑みを浮かべながら地下の工房に戻っていくエマであった。 
 

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