夕焼けの光が窓から差し込む部屋で、アウラはベッドの上で背を壁にもたせかけていた。
片手は胸のふくらみをつかみ、もう片方は裾がまくりあげられて露になった下着に覆われたその部分に。
「…ん……」
(ああ…ゼットさん……)
色のない世界で彼の面影を追う。
あれはまだ自警団の隠し部屋に身を潜めていた頃。何度目の訪問の時だっただろうか?
盲目の自分は声の他に相手の顔の形に触れることでも親しい人たちの個性を判別していた。だからあなたの顔にも触らせて頂けませんかと彼に尋ねたのだ。
いつもの如く一を容易く十や百にも増やす個性的かつハイテンションな口上で要するにお安い御用だという意味の承諾を返され、ずいぶんと久しぶりに人の肌に触れることが叶った。
頬は彼の性格に反して意外なほどひんやりとしていた。髪の質は今まで出会った誰のものよりも硬かった。
釣り上がった眉、大きく開いた目、まっすぐは鼻筋を辿ったところで突然、柔らかい物が親指に触れた。唇だ。
直後、大きな犬歯の硬い感触で彼の口がぽかんと半開きになっているのに気づいた。先程までは、照れくさいなーでも俺の男前ぶり、アウラちゃんにもわかるかい?とか喋り続けていた筈の彼がいつのまにか沈黙していたことにも。
あの日ゼットの形を確かめた指を、今は自分の濡れきった下着越しの秘所に這わせている。
あの後、顎の形を辿って綺麗に筋肉の張られた首筋に指先が届いた時。もう片方の手を添えたままだった頬に微かな熱を感じたのは気の所為だったのだろうか?
「んんっ! く…ふぅっ……ああっ!」
そんな不確かな記憶さえ刺激に転じてしまう自分がひどく浅ましく思えた。
自分がこの行為を覚えたのは12を越えた頃だったと思う。寝つけない夜、毛布の中で自身の体を腕でぎゅっと抱きしめたりするうちに足の間の小さな肉芽が疼き出した。なんとなく罪悪感を感じながら指先で触れた。
やがて初潮を迎える頃になると、視力と両親を失った事故以来母親代わりをしてくれてたおばさん―もう恩を返すことは叶わないが―が女性の体と男女の営みについて丁寧に教えてくれた。それで自分が夜中にしていたことの意味をはっきりと理解した。
それでも。特定の誰かを想って耽ることはなかったのに。ただ体への刺激だけを目当てに疼きを鎮められれば満足だったのだ。彼に、出会うまでは。
「どうして…どうしてこんなにしてるのに足りないの…っ!」
もう、服も下着も脱ぎ捨てたかった。彼の感触を覚えている指先で直に胸を揉みしだき、蜜を垂らしている部分にも突き入れたい。
でもそうしてしまったらすぐに拾い上げて着直すことは出来ないだろう。もどかしい快感でめちゃくちゃになっている今の自分はいつもの方向感覚を失っている。
少し前に柱時計の針に触れて時刻を確かめてあった。彼を仲間に迎えて旅立った渡り鳥達が宿を取って床につくまでの空き時間。昨日もこれぐらいの時間にテレポートジェムを使って彼は訪ねて来たのだ。さすがに二日連続で来てくれた事はないが、可能性はゼロではないのだ。
もしも。
…もしも昨日と同じように今、彼がノックもそこそこにここに飛び込んで来たら。
「ああっ…!だ、め…ぇ……っ!」
ゾクリ、と背筋に昇ってくるものがあった。
「だめなのに……そんなこと考えるなんて…っ!」
全身が反り返って痙攣し、呼吸がおぼつかなくなるほどの感覚。
組み敷かれたい。抱きしめられたい。貫いてほしい。
「あ、あっ……もうだめぇ……!いっ…ちゃうっ……!!」
犯されたい! あの人に!!
「ああぁぁぁぁぁ……っ…!」
色のない瞼の裏に白い閃光が拡がった。
体から力が抜け、両手がシーツの上に垂れた。秘所をこね回していた方の手は糸を引く蜜で汚れていた。
「……ごめんなさい、ゼットさん…」
湿りきった下着もそのままのあられもない姿のまま、アウラは涙が零れるのを止められずすすり泣いた。