「アッ…はぁん……ぁ…ッ」
ベッドの白いシーツの上、アウラは丸裸の姿で艶声を上げていた。
手の中にはピンク色のコード付きローターが握られている。
小さな卵型の形をした振動部の先を秘芯に押しつけるという行為だけをひたすら続け、それですでに何度も絶頂を繰り返していた。
だいぶ前、ゼットが留守の間にこの街を訪れてくれた行商人は女性だった。ただ一人生き残って暮らし続けるアウラをギルドが気遣ってくれたらしい。
ありがたく下着や生理用品などを補充した後、お茶を出してもてなした。
女の商人を珍しく思ったアウラが色々と質問するうちにおしゃべりが弾み、いつしか互いの恋人の話題にまで発展した。
その流れから「実はこういう商品も扱っているんですよ」と取り出されたのがいわゆる大人のおもちゃだった。
好奇心もあって、とりあえず一番安いのを試してみようと買ってしまったのがこれだった。
使用してみると思いがけないほど便利だった。指で弄るよりもずっと早く快感を高められる。
以来、ゼットが不在の間に身体が疼くとついこれに手が伸びるようになってしまった。
「はぁっ…ゼット、さん……」
ゼットの唇がすぐそこにあるかのように口を開けて舌を突き出す。
快楽の波がまた高くなって背筋がピンと伸びる。
軽く昇りつめると同時に陰唇から蜜が滲み出した。
指先でくちゅりと塗り広げながらうっとりしたため息を吐く。
自分を慰めるときに浸るのは、ゼットと一番激しく交わったあの日の記憶と決めてある。
裸の肌から伝わる気温が現在の大まかな時刻を教えてくれる。
あの時も今と同じように、まだ日が高かった…。
魔族だ、とはっきり告げられて。それでもいい、と伝えたら抱き上げられた。
家の中に戻り、扉が閉められると抱き上げられたままで唇を合わせられた。
舌を深く絡め、唾液が流し込まれる。
強烈な欲望が込められたキスだった。
口内に溜まった唾液を嚥下すると微かな薬品臭が鼻の奥に広がって、彼が無機の身体の持ち主であることを深く実感する。
そして自分は、これからこの身体に犯し抜かれるのだ。
望み通りにしてくれると言った。
この前は泣いて乞うても得られなかった物が、今から与えられるのだ。
舌はもちろん頬の内側から上顎まで、口の中を隅々まで舐められるうちに頭の芯がくらくらし、全身がくったりと脱力したところで床に下ろされた。
座り込んだまま、ゼットがマフラーと上半身の防具を外してファスナーを下ろす音に耳を傾けていたら突然手を掴んで引き寄せられた。
そして熱くいきり立った肉棒が頬に押し付けられる。
「この通りさっそく暴発寸前でな。とりあえず一回抜いてくれ」
求められるままに口を開け、一気に頬張った。
舌全体を使って硬く張った裏筋を精一杯に舐めしゃぶる。
その間、壁に背を持たせかけたゼットはアウラの髪を梳くようにもてあそんでいた。
やがてアウラの頭を両手で抱え込むように引き寄せ、亀頭をさらに咽喉の奥に進める。
言外に「飲め」と命じていた。
いつもは射精の瞬間になると腰を引いて逃げるゼットが初めて取る行動だった。
自分も両腕で彼の太ももにしがみついてその瞬間を待つ。
程なくして彼の先端が爆ぜ、熱い液体がアウラの口腔を満たした。
「んくっ…んっ……」
慣れた匂いの粘液が喉を降りていく。
舐めたことは度々あったが直接飲み干すのはこれが初めてだった。
溢流の治まった竿が唇から抜き取られた拍子に少し零してしまった。
顎を掴まれて上を向かされる。
ふ、とゼットが満足げに笑った気配がした。
次の瞬間には再びアウラの体を抱え上げ、部屋の中を大股で移動した。
どさりと背中から着地させられ衝撃と痛みが走る。
無造作に放り投げられた先はテーブルの上だった。
ワンピースの胸元が乱暴に左右に引っ張られ、ボタンのどれかが弾け飛んで床に落ちる音がした。
スリップがずり下げられて露わにされた双乳を、硬い手袋が填められたままの手にわしづかまれる。
ぐにぐにと無遠慮に揉みしだかれ、先端には舌と唇が吸いついてきた。
舐め転がされ、限界まで硬く尖らされると今度は前歯で甘噛みされてほぐされる。
「あふッ…はぁぁん……あ…あぁぁぁッ!」
その行為はまるで玩具を扱うかのように執拗に繰り返された。
ひりつくまで舌と歯に苛まれた乳頭がやっと解放されると今度はスカートがたくし上げられる。
ショーツの股布に指が通されたかと思うとそれは勢いよく引っ張られ、次の瞬間には腰周りを一周するだけの意味の無い布片となっていた。
膝裏を持ち上げられて開脚させられたところでゼットの声が上から降ってきた。
「こりゃあ…弄らなくても大丈夫だな」
自分の淫裂が十分すぎるほどの潤いを湛えている事を思い知らされた。
先ほどの胸責めの時点で既に出来上がっていたし、今も辱めを受けている以外の何ものでもない格好をさせられたことによってじわじわと湧き上がってきているのだ。
「じゃ、とことんオレの好きにさせてもらうからなッ!」
「ひッ!?やぁぁぁん!あッ…あッ……ああ…!」
アウラの了解を待たずに焼けるような怒張が侵入してきた。
後はもう本当に、ゼットの思うがままだった。
膣壁がすり剥けるかと思うほどの勢いで擦り、アウラが共にイこうがイくまいが好き勝手に精を放つ。
最初は胸と顔に浴びせられ、次は髪へ大量にかけられて、後はひたすら胎の中に注がれた。
両手を掴まれて捕らえられ、過ぎる快楽から身をよじって逃れることすら叶わない。
子宮口を壊れそうなほどがんがんに突きまくられても悲鳴と嬌声を上げることしか出来ない。
このまま本当に壊されて、子を宿せぬ身体にされてもかまわないとさえ思った。
ゼットが破壊衝動に身を任せるのと同じように、自分も破滅願望の虜になっていた。
短い気絶が何度か訪れ、時間の感覚は完全に狂ってしまった。
ゼットが動きを緩めた頃には靴の片方は滑り落ちて脱げていたし、髪の端に留めていた飾りも取れてしまっていた。
「嬉しそうな顔しやがって…魔族のオレにメチャメチャにされるのがそんなにイイのかよッ!」
「はい…」
何の抵抗も無しに肯定の返事をした。
この性癖はもうとっくに自分で認め、受け入れている。
「こういうヤられ方も、一人でするときに想像してたのか?」
「はい…ゼットさんが来てくださらなかった日はこんなことばかり考えて…」
「いやらしい……なッ!」
「ああぁぁぁっ!!」
無尽蔵に等しい体力と腕力を持つゼットに易々と持ち上げられ、組み敷かれて彼の気が済むまで解放されずに嬲られる。
異界にして異星の種である彼の精で体の内も外も穢され、身も心も支配される。
ずっとこれが望みだったのだ。
「お願い…です…次は、どうか一緒、に……」
奴隷の様に情けを乞う。
「じゃ、もっと魔族らしい抱き方をしてやるかなッ!」
瞬間、ゼットの腕に抱きすくめられ、乳房に尖った物が当てられ…
「あーーーーーーーーーーーっ!」
かつてない衝撃を伴う絶頂だった。
彼を人外たらしめる証の一つである牙が突き立てられたのだ。
精液が内腿を伝う感触と同時に味わう血の滲み出る感覚。
食い殺されながら犯されているかのような刺激に痙攣がとまらない。
「これでもう…ニンゲンのオトコじゃ満足できねえな」
血を舐め啜られながら言われ、朦朧とした意識のまま答える。
「初めからゼットさんじゃなきゃ駄目です…愛されるのも犯されるのも、ゼットさん以外の人じゃ嫌ぁ…」
「オレもアウラちゃんじゃなきゃダメだ…」
「それなら私のこと、いつでも好きにしてください。私の体、全部ゼットさんの物です…」
「……全部、か」
「うん…?」
奥まで埋め込まれていたゼットの分身に急に去られて不安になったがそれもつかの間。
「そんなこと言ってるとこっちの初めてって奴も貰っちまうぜ?」
後ろの菊に指が入ってきた。
異物感に躊躇したのはほんの一瞬だった。
(初めて……)
未知の行為への不安よりも、もう一度ゼットによる「喪失」を味わえることへの期待の方が勝った。
その思いが顔に出たのを見て取ったらしいゼットがアウラの肩を掴んで反転させる。
テーブルの上に突っ伏す体勢になったアウラの尻を押さえ、怒張の先を窄まりに押し当ててきた。
自分の逸物とアウラの後孔を花弁から零れた精で潤し、進入の角度を注意深く定める。
この最低限の気遣いを済ませたその後に、望みの物は与えられた。
「かはぁっ……!!」
肺から追い出された空気が奇声となって口から飛び出る。
襲ってきたのはすさまじい圧迫と逆流の感覚。じりじりと拡張されていく腸壁の痛み。
背を押さえつけて圧し掛かってくるゼットの声にも焦燥が含まれている。
「ッく…さすがに、キツイな…ッ」
しかしそれ以上は何も言わず、男を受け入れ慣れた女陰にするのと同じ激しさで抽挿を始める。
今のアウラが抱かれるよりも犯されることを欲している事を理解しているから。
彼女を労わる言葉も態度も今は無要だ。
もし、今の自分たちの情事を盗み見ている人間がいるとしたらどれほど残酷な光景に見えているだろうか?
そう思うとアウラは自分の口元に浮かび上がる笑みを堪えることが出来なくなった。
体は悲鳴を上げ、目尻から涙を溢れさせ続けている。
頭はこれが痛みだということを理解している。
しかしアウラの心には全てが快楽として伝達されていた。
「ああ…ぅッ……ゼット、さん、好き……愛してます…愛してます……!」
喪失と蹂躙の痛みに酔いしれながら愛の言葉を紡ぐ。
やがて暖かな精液が直腸に注がれ、そこでとうとう全身の力が抜けて動けなくなった。
気がついたときには自分もゼットもベッドの上だった。
服は全部脱がされ、汚れも軽く拭き取られている。
傍らで抱きしめてくれながら眠るゼットも裸だ。
状況確認のためにアウラがもぞもぞ動いていても反応がないことから、さすがの彼も消耗して熟睡中らしい。
彼の胸に耳を寄せ、遅い心音を聞きながら幸福感を噛み締めた。
口も、膣も、その後ろも…
男の根を受け入れられる部分を全てゼットに捧げられた事が幸せだった。
その時のひやりとした常温に戻ったゼットの肌の感触…そしてそれで風邪をひかせまいと肩まで掛けられた毛布の温もりはアウラは今でもはっきりと思い出せる。
「はぁ………………」
さすがに疲れきってしまい、アウラは意識を記憶から現実へと戻した。
起き上がり、ローターは生暖かい愛液を拭き取ってからベッドの下に隠す。
こういう買い物をしたことはなんとなくまだゼットに言えないでいるのだ。
物が買えるのはゼットが他の街で現金を稼いでくれるからこそなのだが、それでも寂しいものは寂しいのだ。
結局、一人の時の自分がやってることは彼と結ばれる前と大して変わっていない。
しかし今の寂しさはあの頃のような、身を切るような切なさを伴う酷い物ではない。
今しがた自分が浸っていたのは妄想ではなく、回想なのだ。
もうゼットはアウラが求めるものは全て与えてくれるし、逆にアウラが差し出すものもまた全て受け取ってくれる。
指先でそっと乳房に触れ、ゼットに噛まれた所を撫でる。
そこはもうつるりとしていて痕跡を感じることは出来ない。
おそらく目が見える人間に見せても、そこにかつて噛み痕があったことはわからないだろう。
「治らない傷でも良かったのに…」
あの行為の後の朝を思い出して苦笑が漏れた。
ゼットは彼女を風呂に入れて髪を特に丁寧に洗い、傷には丹念に薬を塗ってくれたのだ。
さらに服のボタンも探し出して針と糸で縫って直してくれさえした。
絶対的は力でアウラを征服していたゼットと同一人物とは思えない甲斐甲斐しさだった。
「どっちのゼットさんも大好きですよ。だから…」
毛布を羽織って体を横たえる。
「早く帰ってきてくださいね、ゼットさん…」
あの日と同じ安らぎを味わいながらアウラはまどろみに身を任せた。