「ラクウェル」  
強く抱きしめてくる腕に、激しく求められているのを知る。  
ちょっとだけ不安で、だけどそれ以上にアルノーにそうして貰いたくて。  
だけど、懸念する事がある。  
「アルノー、始めに言っておく。私の身体は綺麗なものじゃない」  
「・・・傷跡?」  
「うん。自分でも見慣れるのに時間がかかった」  
外気に晒されるのを異常に拒むのも当然の、見た目も手触りもよろしくない肌。  
左肩から胸にかかる大きな傷跡と、火傷の跡が所々に点在するこの身体を。  
「・・・見られたく、ないな」  
見た者がどんな感想を持つか分かりきっているし、こんな身体に触れたいと思う人はいないだろう。  
だからこそ、特に、アルノーには。  
「そう言われてもねぇ。オレはラクウェルを抱きたいの」  
「な・・・ッ」  
ばっと音が立つくらいの勢いで見上げれば、綺麗な顔に面白いと書いてある。  
多分耳まで赤くなっている私を、くつくつと喉の奥で笑って楽しんでいるこの男が憎らしい。  
「・・・お前というヤツは・・・」  
むっとしている私を宥める、頬や髪を撫でる大きい男の手。  
小さく落ちてくる、キスを一つ。  
「何も変わらないよ、オレは」  
ひょいと抱き上げられて、隅にあるベッドに座らされる。  
「アルノー・・・」  
「黙って」  
見下ろしてもやっぱり綺麗な顔が近づいてくる。  
触れてくる唇はいつもよりも格段に甘くて、情欲の味がする。  
服を脱がされて直接感じる外気に強張る体を、アルノーの手が宥めるように伝う。  
傷だらけの上を優しく撫でる、暖かい手。  
「キズ、痛い?」  
問われて首を横に振ると、良かった、とアルノーは笑った。  
 
何も、変わらない。  
私の醜い体を見ても触れても。  
アルノーは初めから、『私』の全てを承知して側にいてくれている。  
何度も言ってくれていた事を、理解していなかったのは私の否だ。  
 
私はこんなにも、アルノーに愛されている。  
 
「・・・すまない」  
「ん?」  
「変な事、言ってしまった」  
「謝る事じゃねェよ。気にするなってのが無理だろ?」  
「アルノー・・・」  
「それに、お前が何を考えているかなんて分かるっつの」  
「剃刀のように鋭く?」  
「そうそう」  
「ふふ」  
「笑うな」  
目じりを軽く舐められて、瞼を落とした隙に首筋を吸われる。  
ゆっくりと鎖骨を辿って下に落ちていくアルノーの舌使いに、勝手に身体が反応してしまう。  
「・・・ん・・・や・・・」  
両の胸を好きなように弄られて、自分でも驚くくらいの高い声。  
合わさった視線の先に、女の私が見とれるくらいの艶やかな翡翠の目。  
さっきよりも、もっと強く求められているのが分かって、胸が苦しくなる。  
 
熱に浮かされたみたいに朦朧とする意識。  
瞼の裏を焼く緋色。  
四肢が麻痺していく感覚。  
背筋を這い登って脳裏を焼く快楽。  
 
そして、初めに感じたのは灼熱。  
貫かれる痛みと、彼の質量。  
 
「・・・・っ・・・。ラクウェル」  
 
両の手の指を絡めて、彼の手の大きさを感じて。  
自分の体であるのに、勝手に動く腰。  
 
熱に狂わされていく。  
 
「や、も・・・!ん、ああああ・・・!」  
 
脳裏で、火花が散ったと思った。  
 
 
髪を撫で鋤いてくれる手の心地よさに、目を覚ます。  
ゆっくり瞬いてみて、額に触れてくる唇がくすぐったい。  
アルノーの胸に擦り寄って、抱きしめてくれる腕。  
聞こえる、お互いの息遣い。  
 
最後の最後でも、明日途絶える命だとしても。  
アルノーに会えて良かった。  
 
終  

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