それは本当に偶然だった。  
夜中にふと目を覚まし覚醒半ばのままぼんやりと彷徨わせた視線は、  
窓の端を音も無く闇にまぎれる影を目聡く捉えた。  
(―あれは…)  
ほんの一瞬でも見間違えるとは思えない。  
(アルノー…?)  
そっとベッドから抜け出す。  
いくら健康体と謂えども夜の寒さの中あのような薄着で外に出るのは得策だとは思えない。  
あとがうるさくないようにとしっかりと自分も上に着込んだ後、  
手ごろな毛布を手にラクウェルは急いで後を追った。  
冷やりとした空気が冷たい肌に突き刺さる。  
 
宿屋の裏手にある誰も気付かないような昏い小さなみすぼらしい路地。  
全てを人目から覆い隠すかのように闇の濃い、  
その寂れた場所の奥にひっそりと気配を感じさせずアルノーは居た。  
声を掛けようと一歩踏み出しかけたラクウェルの足は、  
しかし―  
その場で凍りついたように動かなくなった。  
 
背を向けたアルノーの表情はここからは伺えない。  
ほんの僅かな声も彼は漏らしていない。  
それでもその背中が、握り締めた拳が、  
何かに耐えるように震えていることにラクウェルは気付いてしまった。  
 
物音を立てないように細心の注意を払い、  
ラクウェルはその場からなんとか逃れ部屋まで戻る。  
部屋に入った途端愕然と足元から崩れ落ちそうになる感覚。  
普段自分の身体を蝕むものから来る痛みとはまるで異なる胸の痛みを、  
胸の前を掻き合わせるようにしてどうにかやり過そうと懸命にこらえる。  
こんな夜中に人目につかない様にあんな場所で隠れるように―  
 
考えるな…!!  
頭の中で警鐘が鳴るのにも構わず頭は分かり切った事実を勝手にはじき出していた。  
(―何度泣いていた?!今までアルノーは何度ひとりで?!)  
決して、決して自分に気付かれないように―  
 
この街に2人が訪れたのは、  
フェルクレルングの白昼夢に関わった科学者がこの街にいるという噂を聞いたからだった。  
街の片隅に隠れるように居を構えていたその科学者は、  
ラクウェルを看てから黙って首を振りそしてその後深く深く頭を下げた。  
何度繰り返し聞いても慣れない死の宣告に静かに肩を落としたラクウェルに、  
「さて、お次は東村評判のカリュシオン様の生まれ変わりか西山の幻竜の薬か。  
しかもこちらはおあつらえ向きに花の名所があるってよ。楽しみだな。」  
忙しい忙しいと呟きながらいつも通りの声でアルノーが声を掛ける。  
「が、その前に!  
さっき街で仕入れた情報のめちゃくちゃ美味い料理が出るという宿屋に勿論行くよなッ!?」  
さも楽しみだという期待に満ちた顔のアルノーに、  
(料理が美味かろうがお前にはあまり関係ないだろうに…)と心の中で呆れながらも、  
知らずラクウェルの口元には笑みが浮かんでいた。  
そんな事は何度も繰り返されていた。  
2人きりの旅に出てからアルノーはいつも楽しそうだった。  
 
―いつしかふと気が付く。  
なんでもない道端の風景も他愛もないありふれた日常も美しく見える。  
アルノーが隣にいて、この目に映る世界は美しかった。  
 
ズキンズキンとおさまらない胸の痛み。  
自分は決して絶望した訳でも諦めた訳でもない。  
どんな事があっても最後まで足掻いてみせるとあの時に決めている。  
それでも  
もしここでこの命が尽きたとしても自分の人生は幸せだったと、  
私は心から思えるのだろう。  
 
―だが…その時に残されたアルノーは?  
 
さっき見てしまった背中が頭に焼きついて胸を締め付ける。  
いつも楽しそうにみえた。そこに希望をもらった。  
ただ独りで朽ちて逝くのだと諦めていた自分の手を引いてくれた人。  
………本当はずっとどこかで考えていた。  
こんな身でも未来に繋げられるものはないだろうか?  
アルノーに残せるものはないのだろうか?  
それはアルノーのためだけじゃなく純粋に自分のための願いでもあった。  
手を握ってそっと抱きしめて体温を分け与えてくれてキスをして、  
それ以上はただの一度も手を出そうとはしなかった。  
それだけで充分過ぎるくらい満たされたけど。  
ズキンズキンとおさまる様子をみせない胸の痛み。  
痛い  
痛い  
イタイ  
いたい  
 
そばにいたい―  
 
ごく遠慮がちなノックの音でも扉はすぐに開かれた。  
「ラクウェル?どうした?眠れない?」  
いつもの顔でいつもの声で、  
先ほどの光景など微塵も感じさせないアルノーが立っている。  
「……起きていたのか?」  
「いやなんか腹が減って目を覚ましちまってな。  
実はこうこっそりと台所から食べ物を失敬して…」  
悪戯がみつかった子供のようにきまり悪げに笑って頭を掻く。  
―アルノーは嘘吐きの天才だね!  
いつかそう言ったのはジュードだったか。  
「入ってもいいか?」  
「どうぞどうぞ、残念ながらもう食っちまったけどな。  
…ってえーと…こんな夜更けに男の部屋にオンナノコ1人で来られると実は結構アレなんだが…」  
俺の理性がトカなんトカブツブツと軽口を叩きながら部屋に招き入れてから、  
アルノーはどこか思い詰めたようなラクウェルの雰囲気に気が付いた。  
「ラクウェル?」  
「…」  
「どうした?何かあったのか?」  
只ならぬ様子に嫌な予感が胸を締め付けたが押し隠しラクウェルの言葉を待つ。  
 
やけに長く感じられた沈黙の後、  
「…アルノー…お前に頼みたいことがある。」  
意を決したように顔を上げてそう口を開いたラクウェルの様子は  
やはりどこかいつもとは違ってみえた。  
「?…いいぜ。なんだって聞いてやるよ。」  
我ながらすごい安請け合いだとは思ったがそれでも紛れもない本心だったから、  
彼女の綺麗な空色を揺らぐことなく見て言う。  
今までこんなふうに改まって頼み事をされたことなどなかったから、  
それがどんな無理のあるものでも笑って叶えてやろうとそっと覚悟を決める。  
「…そうか…うん」  
少し安心したようにうなずいてからほんの少しの逡巡の後、  
「………が…ほしい…」  
「え?」  
「……お前の子供が欲しい…」  
掻き消えそうな彼女の声がそれでもやけにはっきりと耳に届き部屋の静寂に落ちた。  
 
「はッ、はい?」  
思わず引っ繰り返ってしまった声が明らかな動揺を物語る。  
鋭いはずの自慢の思考がずいぶんゆっくりとその意味をアルノーに伝えた直後、  
ドクドクとこめかみの辺りに身体中の血液が全て集まったかのような感覚を覚えた。  
「まッ待て、ちょっと!お前意味わかって…」  
思わず口からついて出てしまった言葉半ばでアルノーは口を噤んだ。  
あのラクウェルが冗談の類で口にするような言葉とは思えない。  
何よりもまだやけに耳に残る先程の掻き消えそうな声の語尾が震えていたことが、  
事態をアルノーの頭に急速に飲み込ませた。  
「…すまん…ちょっと待ってくれ…」  
落ち着こう落ち着こうまずは落ち着かなくてはと誰よりも自分に言い聞かせて、  
アルノーは大きく息を吸い込んでから俯いたラクウェルの瞳をもう一度覗き込む。  
「その……お前は大丈夫なのか?」  
「…ああ…知っての通りのおぞましい身体だ…  
…だからお前の気は進まないかもしれないが…」  
「そういう事じゃないッ!!そんな事言っているんじゃないッ!  
俺を見くびるのかよッ!違うだろッ―?!  
俺はお前の身体に負担が掛かるんじゃないのかって聞いてるんだよッ!!」  
言葉を遮る様に激昂したアルノーの怖いくらい真剣な眼差しと、  
乱暴に掴まれた肩の痛みがひどくラクウェルには温かかった。  
「…ああ…知っている…ありがとう…」  
ラクウェルは小さく微笑むと静かにアルノーの震える手を取った。  
 
「…本当はずっと考えていた。  
未来に繋げられるものを私はこの手で生み出せないだろうか、と。  
未来に向かって歩く未来を紡いで行く命を。  
あの時大人達が身を呈して私達に託してくれたものを、  
私達自身で切り開いた道を同じように私も次に託せる者になりたいのだ。」  
アルノーはただ黙って聞いている。  
「アルノー、私は決して身体を治すことを諦めたのではない。  
それでももしこの身体でも許されるのなら  
私はお前と生きた確かな証を、お前に残せるものが欲しい。  
それはこれから生きて行く上で、誰のためでもなく自分自身のためにだ。  
例えそれがこの身体の寿命を早める行為であったとしても……。」  
淡々と語る静かな声はしかしラクウェルの決意が揺るぎないものである事を伝えていた。  
「…お前が私の身体をずっと気遣ってくれて何もしないことは知っている。  
私とてこのような事がどう身体に影響するのか分らない…本当は…怖い…  
この行為も結末も…お前に……この身体を見られることも…。  
だが……他でもないお前が私に大人になるという希望をくれたから…。」  
それから…としばらく逡巡した後、  
ラクウェルは目を逸らしひどく言い難そうに付け加えた。  
「…本当はそんな事とは別に…私はお前が…  
…だから…そのただお前だから……そばに…その……」  
手に力が篭もるのと反対に声は段々と消え入りそうに小さくなっていく。  
 
そんなほぼ意味をなさない言葉の羅列をどうして自分はこんなに都合良く補完して、  
その意味を汲み取ることができるのだろうとアルノーは思わず苦笑いを漏らした。  
一つ大きく息を吐き、  
いつもより頼りなげに見える肩を腕の中にそっと抱き寄せる。  
「なんだって聞いてやるって言ったもんな…。」  
驚いたように顔を上げたラクウェルの髪を優しく指で梳く。  
冷たいはずなのにこうするといつでも自分を熱くさせる細い身体。  
「うん……俺もラクウェルの子供が欲しい……。  
…ってか健全な男なんだから当たり前に本当はずっとお前のこと抱きたかった…。」  
悪びれずに純粋な自分の気持ちを口にしながら静かに腕に力を込める。  
「本当に……いいんだよな…?」  
おとなしく凭れ掛った腕の中でラクウェルは小さく頷いた。  
「…もし身体が辛くなったら絶対に言えよ?  
……俺のなけなしの理性を一生分総動員してでも止めてやるから。」  
「…アルノー………ありがとう…すまない…」  
「あやまんなって。俺がそうしたいんだからさ。」  
 
部屋の灯りを吹き消すと部屋は一瞬で闇に落ちた。  
だがしばらくすると月明かりが部屋の中をぼんやりと明るく照らし、  
互いの姿と表情を思いの外はっきりと相手に伝える。  
「…アルノー…少し後ろを向いていてくれ。」  
それに気付いたラクウェルがアルノーに声を掛ける。  
「えッ?俺に脱がさせてくんないの?」  
「―ッ!ばッ、馬鹿者!ふざけるなッ!大人しくあっちを向いてろ!」  
思いっ切り不満そうに言うアルノーにラクウェルの顔に血が上る。  
「……………。」  
仕方なくラクウェルに背を向けると部屋に沈黙が落ち、  
衣擦れの音だけが妙にはっきりと聞こえてきて思わず意識をそれに集中させてしまう。  
なにか居た堪れないような空気が急に今からする行為への現実感を与え、  
落ち着かない気分になりながらもアルノーは先程のラクウェルの言葉を思い出していた。  
「なぁラクウェル?」  
「な、なんだ?まだだぞ。」  
「俺に…その…身体見られたくないようならさ、別に無理しなくて良いぜ。  
全部脱がなくたってまあこう…いくらでもやりようってあるしよ。  
お前が嫌なら俺は別に構わないから。」  
「…………」  
「…ラクウェル?」  
「………………見て欲しい…」  
「え?」  
「…お前には……ちゃんと見て欲しいのだ…全部。……怖いのも本当だが…  
見て…くれるか…?」  
「……分かった。全部見せて。」  
腕をそっと引っ張られる。  
振り向くと一糸纏わぬラクウェルが俯き佇んでいた。  
 
部屋の中でそこだけ浮かび上がって見える程色素の薄い白い肢体には、  
薄闇でもはっきりと分かるくらい大きく深く爛れた傷跡がいくつも無残に刻まれていた。  
とうに壊れているのだ、といつしかラクウェルが言った身体。  
そのあまりに痛ましくはっきりと刻まれた痕に思わず息を呑み、  
だがアルノーは目を逸らす事なく真っ直ぐに見つめていた。  
「これが私の身体だ。」  
ラクウェルが寂しく言う。  
「…アルノー…」  
「…俺が…触っても痛まないか…?」  
「大丈夫だ。今は少し引き攣るくらいでそれ自体に痛みはない。」  
「…そうか。良かった…」  
ようやく息を吐き出すことには成功したが、  
カラカラに乾いた喉からなんとか発した語尾の震えを消すことはできなかった。  
ラクウェルを確実に今も蝕み続ける深い傷―  
自分ではどうやっても癒すことができないそれを心底呪いながら、  
代わりに大事に包み込むようにラクウェルの身体を抱きしめる。  
「お前がどう思っていようと、  
俺はおぞましい身体だなんて馬鹿な事ひとかけらも思わないからな…。」  
「……うん…」  
ラクウェルの手がそっとアルノーの背中に廻された。  
 
限りなく大切なものを扱う手付きでラクウェルの身体をベッドに横たえ、  
アルノーは体重を掛けないように気を使いながら覆い被さった。  
頬に手を伸ばすとラクウェルはぎゅっと目を閉じて、  
怯えたように身体を硬く強張らせた。肩が小刻みに震えている。  
…………  
……  
――いくらなんでもその反応はちょっと傷付く…  
「ラクウェル?」  
「な、なんだ?」  
「確認するけど俺のこと嫌な訳じゃねえよな?」  
「あ、当たり前だ…嫌じゃない。」  
「もう少し身体の力抜いて…?」  
「ど、どう…?  
すまない…その…経験がないのだ……どうすれば良いのか分らない……。」  
ほんの少しアルノーが考え込んだ後―  
突然手を掴まれそのままアルノーの胸に押し当てられてラクウェルは酷くうろたえた。  
「なッ何を?!」  
――ドクドクドクドクドク  
早鐘のように早く激しいアルノーの熱い鼓動が手の平を通して伝わって来る。  
「な?かっこ悪ぃけどさ、俺もすごい緊張してるんだって。」  
きまり悪げに笑うアルノーとその温かい音に、  
ラクウェルの身体から緊張がゆっくりと解けていった。  
「優しくする…大丈夫だから。」  
そのままゆっくりと深く唇を塞がれた。  
 
「アルノー…」  
「ん?」  
「その……メリハリのない身体ですまなかったな……」  
「――――ぶ」  
すぐ耳元で笑われてラクウェルの頬に血が上った。  
「笑うな!貴様という奴はッ…!」  
「だ…だってお前…そんな事!気にしてたのかよ…ッ!!」  
「わ、悪かったな…!お前が派手めできつい系の女が好みだって!」  
「は、はい?」  
「前にギャラボベーロでだな……ええい笑うなッ!」  
肩を震わせて笑い続ける男をそれこそ殴ってやろうかと思った途端、  
「…………かわいげ有り過ぎ…」  
笑いを含む声に耳元で囁かれて耳朶を軽く舐め上げられた。  
思わず身を竦めるとその柔らかさを玩ぶように唇が耳を甘く食んだ後、  
そのまま首筋をなぞるようにゆっくりと下に向かって這わせられる。  
「…ん……っ…」  
アルノーに触れられた所から熱を移されたかのように冷たいはずの身体に熱が灯る。  
その不思議に切ない感覚に戸惑いラクウェルはただぎゅっと目を瞑った。  
 
掌を微かな胸の膨らみに伸ばしそっと包み込むように柔々と動かしながら、  
その先端には触れずにすべらかな肌の感触を楽しむ。  
鎖骨辺りを彷徨わせた舌を少しずつ片方の乳房に這わせると、  
堪えたような息が少しずつ小さく開いた唇から切なげに漏れる。  
まだぎこちないラクウェルの身体がピクリと反応するのが分かった。  
ほんのり色付く薄紅の先端をなぞるように舌で舐め上げる。  
「や…っ……」  
今まで感じたことのない刺激に肌が粟立ち、  
声を押し殺していたラクウェルの唇から艶のある声が漏れる。  
もっとその声が聞きたくてほんの少し立ち上がった先端を唇に含むと、  
舌で包み込むようにして転がす。  
もう片方は手で包むように揉みしだき指で先を摘み上げて優しく捏ね廻した。  
「…んっ…っふ…あんっ…あ…」  
細い身体がだんだんと色付き快感に耐えるように震える。  
唾液で濡れて硬くなった突起に軽く歯を立てると身体がビクッと跳ねた。  
いつも凛とした年齢より落ち着いて見えるラクウェルの、  
腕の中で戸惑う表情も初めての愛撫に震える柔らかい華奢な身体も、  
一歳差の女の子のそれでしかなくてアルノーは急に又心拍数が上がった気がした。  
 
先端が存在を主張しだした2つの小さな膨らみを弄りながら、  
アルノーが片方の手を身体に沿って這わしていく。  
―と柔らかな肌には似合わないザラリとした異質の感触があった。  
「――ッ!」  
ラクウェルがぎゅっと身を竦める。  
深く大きな傷跡――  
「痛く…ないんだよな…?」  
そう確かめて労わるようにそっと指で触れる。  
彼女はくすぐったそうに小さく身を捩っただけで抵抗しなかった。  
それでもシーツを握り締めた手が依然小さく震えている。  
そっと唇をそこに落とし何度も何度も愛しげに舌でなぞる。  
そんなことで傷が身体が癒える訳じゃないけれど―  
こうしているとほんの少しでもラクウェルが楽になる様な気がして、  
まるで神聖な儀式かなにかのように祈るように舌を這わせていった。  
「……は…ぁ…アル…ノー…」  
おそらく自分でも気付かず名前を口にしたのだろう。  
顔を上げると我に返ったように赤くなってラクウェルが恥ずかしげに顔を背けた。  
伏せられた長い睫毛が少し濡れているような気がした。  
 
脇腹を撫でるようにして手を下にずらしていくと、  
それを察したラクウェルが反射的に足を閉じようとする。  
その前に身体を足の間に割り込ませて太腿を伝いその奥に手を伸ばす。  
そっと指を這わせるとそこは既にしっとりと濡れていた。  
「……っ!」  
ビクッと身を強張らせ思わず手から逃れようとする腰を押さえ、  
割れ目の部分に指を這わせなぞり上げるようにゆっくり動かす。  
「…んっ…ん…っあ…ん」  
だんだんと力が抜けていく柔らかい太腿を大きく開かせ頭を埋める。  
「…だっ…駄目だ…アルノー…そんな所……いやッ…!」  
羞恥に顔を赤らめ力が入らない腕で肩を押し返そうと身を捩るが、  
頼りなく肩に縋り付く様がまるでもっととねだっているようで逆にアルノーを煽る。  
構わず秘裂に舌を滑らせるとラクウェルの腰が跳ねた。  
「やっ…あ…っ…」  
割れ目を何度も舐め上げ徐々に深くしていくと少しずつ蜜が溢れて出てくる。  
ピチャピチャと音を立てて舌を這わせながら一番敏感な所を探り当てた。  
「ああぁっ…ん」  
その部分を舌で舐め上げ擦るようにして蠢かしていくと、  
ラクウェルの背中が弓なりに反り手がシーツを強く掻き抱いた。  
下の割れ目も指でクチュクチュと弄びながら、  
舌使いに反応して徐々に硬くなってゆく突起を舌で弄り吸い上げる。  
「…や…っあああぁっ!」  
熱に浮かされるような底知れぬ快楽に追い詰められて、  
ラクウェルは訳もわからないまま軽く達していた。  
 
「ラクウェル…大丈夫か?」  
短い息を繰り返すくたりと力の抜けた身体に問い掛ける。  
「…ん……」  
トロンと焦点の合わない視線で見上げる潤んだ瞳。  
乱れた息を吐く濡れた艶やかな唇も熱を帯びて上気した頬も―  
「―――ッ!」  
全てが自分をいやらしく誘っているようにしか見えなくて、  
アルノーはすぐさまめちゃくちゃに貫きたい衝動を押さえるのに苦労する。  
もう下半身がすぐにでも暴発しそうに苦しいけれど大事にしたいから。  
どうせなら痛みより少しでも快楽を与えてやりたかった。  
「…身体…辛くねえか?」  
「だ…いじょうぶだ…」  
掠れた声で小さく頷いたラクウェルの太腿の内側をそっと指でなぞると、  
つい先程まで愛撫を繰り返されて敏感になった身体はピクンと反応した。  
膝を割り下にずらした指をラクウェルの奥に差し込む。  
「っ…う…ん」  
ヌルリと其処はラクウェル自身から出たものに助けられ  
さほど抵抗なく指の進入を許す。  
一度達した身体はおとなしくされるがままだった。  
狭い肉壁の間を少しずつ出し入れさせるように掻き混ぜると、  
新たな蜜が徐々に溢れ出しその動きを助け淫猥な音を部屋に響かせ始めた。  
クチュ…クチュ…クチュッ…  
「あっ…あ…あぁ…っん」  
再び熱を帯びはじめた身体に挿れられた異物の動きに合わせて、  
違和感よりも波のように襲う快感にラクウェルの細い腰が淫らに動く。  
指をもう一本増やし充分に其処を濡れさせ慣らしてから、  
指を引き抜くとツーッと透明な液体が糸を引いた。  
「…ラクウェル…いい?」  
身体をひくつかせるラクウェルの耳元で囁く。  
返事の代わりにラクウェルはアルノーの首に手を廻してぎゅっとしがみ付いた。  
 
「あああぁぁあっ!」  
押し入ってくる熱い塊の指とは比べ物にならない圧迫感と、  
身体をメリメリと引き裂かれるような鋭い痛みに、  
ラクウェルは声にならない悲鳴を上げてアルノーの背中に思わず爪を立てる。  
「―――くッ!」  
アルノーもまた己のモノを喰いちぎるかのように熱い膣にきつく締め付けられ、  
直ぐにでも達しそうになる快感を歯を食いしばって堪えた。  
時間を掛けた挿入は悪戯に彼女の痛みを長引かせるだけだろう。  
未だその半ば位までしか入っていない硬くそそり立った自身を、  
捻じ込む様にラクウェルの抵抗する狭い奥へと無理矢理突き入れる。  
プツと何かが裂けるようなような感覚の後勢いのまま圧迫する中に咥え込まれた。  
「はっ…あっ…!」  
苦しそうに絶え絶えに息をするラクウェルの頬を零れる涙を唇ですくう。  
「…ラクウェル…力…抜け…っ大丈夫だから…!」  
苦痛に顔を歪め何とか息を整えようとするラクウェルを  
落ち着かせようと何度も髪を撫でては口付ける。  
しばらくしてどうにか息を落ち着かせつつあるラクウェルを覗き込んだ。  
「大丈夫…か…?」  
必死に痛みに堪えながらそれでも彼女はアルノーを見上げて小さく微笑んだ。  
 
ドクンドクンと脈打つ熱い塊が自分の中で脈打つ感覚に、  
身体を裂かれるような痛みと共に、  
なぜか泣きたくなるような満たされた気持ちをラクウェルは感じる。  
「アル…ノー……だいじょう…ぶだ…」  
それを見て取ると試すように少しずつゆっくりとアルノーは腰を動かし始めた。  
意識が飛びそうな痛みの中 脈打つ熱に急かさるような感覚と、  
なるべく痛みを伴わないようソレが少しずつ中で蠢かされる微弱な動きに、  
ラクウェルの中から徐々に蜜が漏れ苦痛以外の声が混じり始める。  
「あっ…あぁ…っん」  
その声に促される様にアルノーは少しずつ動きを速めていく。  
咥え込まれた自身は絡みつく狭い肉壁にぎちぎちに締め上げられ、  
あまりの快楽にすぐにでも暴発しそう に硬く誇張しきって苦痛をもたらすが、  
彼女自身から出る血と体液の混じりに助けられなんとか動かす。  
グチュ…グチュッ…グチュ…ッ  
「…あっ…あ…んっ…ああっ…っ!」  
徐々に乱れるラクウェルの表情と喘ぎ声に煽られるように、  
アルノーの快楽も急激に押し上げられた。  
「ごめ…ちょっ…ヤバイ…!」  
身体を起こすと貪るように唇を重ねて思わず欲望のまま一気に腰を突き上げる。  
「んんっ…!あっ…やっ…んっ…ああっ…ん…アルノ…アル…ノー…!!」  
そのまま激しく腰を打ち付けられながら、  
舌を絡められ口内を侵され下の敏感な所もアルノーの手で弄られて、  
いつしかラクウェルは無意識に自ら腰を淫らに動かし昇りつめていった。  
「あああぁぁあっ…!」  
頂点に達したラクウェルの身体が弓なりに仰け反り、  
急速に中のアルノーのモノも締め付けられる。  
「――――くッ!」  
これ以上は快感に耐えられそうもない熱い塊を大きく突き入れ、  
アルノーは同時に遡る熱い液体をラクウェルの膣に思い切りぶちまけた。  
 
「はあ…っ…はあっ…はあ…」  
しばらくして―  
荒い息を繰り返しぐったりと動けないでいるラクウェルに気付き慌てて顔を覗き込む。  
「ラクウェルッ!?大丈夫か!?すまん…俺…つい見境なくやっちまって…!」  
「…だい…じょうぶ…だ…」  
うっすら目を開けたラクウェルが少し身じろぐ。  
「ラクウェル…」  
「…そんな顔をするな…本当に大丈夫だ…。少し…その…痛いが…」  
俯いた頬が赤らむ。  
「ごめんな…本当に…。あんなこと言ったのに無理させちまって…」  
そっと頬に張り付いた髪を梳いてやると黙ってラクウェルは首を振った。  
抱き寄せると安心したように大人しく身体を摺り寄せてくる。  
「…ラクウェル…」  
「……温かいな…。」  
「…何度だって温めてやるから。」  
「…私は…感謝している。  
こんなふうな熱は…自分とは一生無縁のものだと思っていたから…」  
胸に凭れ掛かった彼女は幸せそうに微笑んでいた。  
無性にすごく泣きそうな気分になる。  
「そんなこと言うなよ馬鹿。俺これ位じゃ全然足りてねぇからな。  
めちゃくちゃ我慢してた分これから何度だってお前の事抱かせてもらうからな!」  
その後に慌てて「お前が嫌じゃなきゃ…」と付け足した。  
「ば、馬鹿者…!お前はなんでそういう…」  
「ベッドだって毎晩一緒な!その方が身体温められるだろ?…絶対に震えさせねぇから。」  
少し腕に力を込めて勝手に宣言する。  
 
真っ赤になりながらもラクウェルは小さく頷いてそして言った。  
「ならば私にもお前を支えさせてくれ。一緒に生きるのだから。  
…頼むから…お前が震える時くらいは傍にいさせて欲しい。」  
目を見開くアルノーの唇にそっと触れるようにラクウェルの唇が重ねられた。  
 
 
互いの確かに脈打つ鼓動を聴きながら眠りに着く。  
幸せな夢を見る  
 
ずっと一緒に  
生きて生きて生きて生きて生きて  
 
繋いだ手の中  
きっとここにあるのがトルドガの苑―  
 
 

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